シバルリー 〜若騎士戦記〜
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第1話 シュッツハルトの野にて
前書き
書くの苦手なので、至らない点があればどんどん指摘お願いします。
523年、9月12日、午前7時20分
アガサ王国領シュッツハルト平野
「前方800メートル先に、敵の第1陣を確認!推定兵力、凡そ3千!」
伝令の早馬が帰ってきた。その報で、陣中の空気がぴんと張り詰まる。
晴天のシュッツハルトの野に、風がどっと吹き荒れ、青地に金獅子をあしらった旗を豪快にたなびかせた。
縦横に整然と並んだ騎兵達の列の間を縫うように、一人の騎士が前に現れた。
西方戦線騎兵隊長、ネルソン・ドレイヤー。
「–––各自、抜剣し前へ」
ネルソンは静かに命じた。
騎兵達が、一斉に鞘から抜剣する。シュイイン、と金属の擦れる音が鳴った。
ルーカスは馬をゆっくりと前へ歩かせ、兜のバイザーを押し下げた。
「…来た」
どこからともなく発せられたその言葉は、震えていた。
3千の蹄が、遠くから大地を揺らしている。
ネルソンは、騎兵達を振り返った。
「俺からは、ただ一つ。–––勝つぞ」
それに呼応するように、騎兵達が鋭い気勢の声を上げた。
馬を駆けさせ、間も無く敵軍と相対した。
どんどん距離が縮まっていく。200、150、100–––
「臆するな!アガサの為に––––!」
刹那、ネルソンの声は轟音に消えた。
馬同士が勢い良くぶつかり合い、敵味方共に彼方に吹っ飛んだ。
敵と相対し、考えるより体が先に動いた。
馬の勢いに乗せ、ルーカスは仰け反らせた体ごと腕を左へ振り抜いた。
剣身を介し、ズシリと重く鈍い感触が手に伝ってきた。
敵は断末魔すら上げず、血を飛び散らせながら落馬していった。更に勢いをつけ、右に腕を振り抜く。
「ああああああッ!」
敵の短槍の穂先が、顔を目掛けて飛んできた。咄嗟に柄を掴み、剣を振り抜く。
槍を握り締めたままの腕が、目の前を横切った。
「持ち堪えろ!直に第2陣が来る!」
ネルソンが檄を飛ばす。
背後を振り向くと、歩兵隊の旗が薄らと視認出来た。
「–––ルーカスッ!」
誰かに呼ばれて視線を前に戻すと、メイスの打撃部が眼前に迫った。
避けなければ、と思う間も無く、そのままメイスの餌食になった。
兜を飛ばされ視界が開ける。天地がひっくり返り、束の間空を見た後、硬い地面に頭から叩きつけられた。
「–––クソ野郎がッ–––!」
ネルソンが先刻の敵兵の首を刎ねる場面を最後に、意識を失った––––。
「–––…う」
薄らと瞼を開く。
そこは、陣中の天幕の中で、ネルソンとパトリックの姿があった。
天井を見上げているので、寝かされているようだった。
目を覚ました事に気付き、一斉に駆け寄ってきた。
「ルーカス、大丈夫か」
「あ…ああ」
上体を起こそうとすると、頭痛が走った。
慌てて、パトリックが制止する。
「落ち着け。まだ治ってないんだ」
「…何が、あった」
頭を抑えながら、ルーカスは問うた。
「脳震盪だ。…君、メイスの打撃をもろに食らっただろう」
ああ、と、思い出したように呟いた。
ネルソンが無言で、兜を放り投げてきた。変に、重く感じられた。
「…アーメットで良かった、本当に」
–––アーメットとは、バイザーの付いた開閉式の兜である–––
前面は、ほぼ原型を留めていなかった。メイスの打撃によってバイザーが砕かれ、機能しなくなっている。
小さく溜息をついた。
「それで…戦闘はどうなった?」
「…勝ったよ。取り敢えず、な」
ネルソンが答え、静かに語り始めた。
「ルーカス、パトリック、お前らはまだ訓練兵で、若い」
束の間、沈黙が流れた。
「––アガサが今、困窮しているのは分かっている。現に、兵士も足りていない。だが、それをお前らのような若い訓練兵で穴埋めしたくはないんだ」
ルーカスは、兜を見つめた。
「無理を押し切って戦場に出した俺にも責任がある。…だから、暫くは戦闘に参加させられない」
悔しさを噛み殺した様な響きだった。
語り終えた後、誰も、何も言わなかった。
しかしルーカスは、平静の表情の下に、怒りと悔しさを燃やしていた。
砕かれた兜に誓って–––。
526年、9月12日、午前4時
アガサ王国領シュッツハルト平野
涼やかな朝風の戦ぐ平野に、二人の若者が黄昏ていた。
耳に掛かる程度の薄い茶髪の若者と、肩に掛かる長さの金髪の若者。
「やっと、だな。…やっと」
「ああ…もう、手は煩わせないよ」
二人は顔を見合わせ、拳を合わせた。
「当たり前だ。3年を、無駄にはしないぞ」
後書き
過去の回想(?)から入る感じで始めてみました。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
追記、6月29日
グロテスク・マスクから、アーメットに変更しました。
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