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君に出逢えた奇跡

作者:うみつき
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六月三十日、はんぶんこの日、居なかった時間、不思議な時間。なぁ、出逢いたいから、ほら早く────。

月の綺麗な、三日月が蜜色に光る夜だった。あ、及川が月を指差して、その声に岩泉が頭を上げる。
「みて、凄い綺麗」
二人が並んで歩く夏の近づく六月の終わり。梅雨の合間、路上に溜まる水溜りが電灯にピカピカ光って二人の足元を映し出す。
「あぁ、ほんとだな」
ほろ酔いの二人が、昼間は太陽が眩しいくらいなのに夜になると風の影響で涼しくなる夜風に当たりながら上機嫌で歩く。
今日は久しぶりに松川と花巻と飲んできた。いつも、この時期になるとわざわざ二人揃ってこっちに新幹線に乗ってやってきて、二人の真ん中バースデーを祝ってくれるのだ。
駅前の二人のお気に入りのダーツバーで四人、飲みながら懐かしい話やら最近の話を永遠としながら笑いあった時間はあっという間に過ぎていって、明日も仕事だととっとと折り返していった親友達を月を見ながら思う。
変わりはなかった、二人とも元気そうで何よりだった。潰れかけた花巻を松川が抱くようにして乗り込んだ新幹線を見送って、二人はアパートを目指す。
ねぇ、岩ちゃんと及川が岩泉の顔を覗き込んでふわり、笑う。
「月が綺麗ですね」
瞳を細めた岩泉は電光に照らされた及川の頭に手を伸ばして撫でてやりながらそうだな、と返す。
「もー、情緒無いよ」
ぷうっと頬を膨らませた及川が岩泉の前に立って、振り返って通せんぼ。くつくつ笑った岩泉は酔っ払ってんのかよ、まだ、と云い放つとするっ、横を通り抜ける。あー、もー可愛く無い!及川が人通りの無いことをいい事に、酔いに任せて大きな声で叫ぶものだから眉を寄せた岩泉が振り返り、うっせぇと一喝。辺りを見回すと手を伸ばし、ん、っと差し出して、その手を取った及川が嬉しそうに指を絡める。
「でもさ、ほんとに、好きも、愛してるも足り無いくらいなんだよ」
ふふっとそれだけで機嫌良く、軽く手を振った及川が隣に並ぶと足元に広がる水溜りに目をやる。月が綺麗に映っていた。
「足りねえからそれになったのかよ」
馬鹿にしたように笑った岩泉に及川がまーねと唄うように呟いて鼻唄まで歌い出す始末。近頃お気に入りのメロディーは愛の歌だ。及川の声が風に乗って気持ちいい。
ご機嫌な様子に岩泉もどこか満足げに頬に触れる風に身を任せてゆっくり歩く。
例年通りの真ん中バースデーは幸せでいっぱいで、岩泉の反対の手には貰ったプレゼントでいっぱいだった。それは後輩だったり、同期だったり。花巻達が預かってきてくれたもの達で、ちらりと踏切待ちの電車の光に淡く照らされた袋を見つめると自然と頬が緩む。
大人になって気づいた事がある。何気無い幸せのこと。隣で笑う恋人が当たり前のように居てくれること。大事にしてくれる友人がいる事。そんなちっさな事が幸せだということ。
胸いっぱいに六月の、夏に近いむわりとした空気を肺に取り込むと息を大きく吐き出す。
機嫌良く唄っていた及川が岩泉と繋いだ手をちょい、ちょい、と引くものだから岩泉は視線を及川に向ける。
「ん?」
柔く浸ったままに首を傾けた岩泉に及川が蕩けそうに笑って、家に着いたらお祝いしよーね。そう呟いた。
踏切が開く。デコボコしたレールの上を進んで超えて、岩泉が頷く。
「まだ、飲むのかよ」
「飲むよー、今日は岩ちゃん独り占めにしてないし」
その言葉にふは、岩泉が吹き出して。
「いつも独り占めじゃねぇか」
柔らかい及川の髪がふわり、風にそよぐと岩泉と同じ香りが漂う。二人の家の匂いが夜風に混ざる。
「でも、真ん中バースデーだからお祝いしないとでしょ?」
さも当然とばかりに云う及川にけらけら楽しげに声立てた岩泉がわーったよ、と絡む指をきゅっと握り直して古びたアパートの中に入っていく。 
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