IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第530話】
前書き
ワルパ、シャルロット編
視界を覆う目映い閃光が収束、そよ風が頬を撫で、草が靡く。
一面に広がる草原地帯――周囲を見渡すと、少し歩いた所に一軒の家が見えた。
建物の作りも、周囲の風景もここが日本では無いことは明らかであり、もしかするとシャルの故郷なのではと脳裏に過る。
先ずは前に見える家を目指す、シャルへの攻撃が開始されたって美春が言ってたが……鈴音やセシリア同様に偽者の一夏に何かされてる可能性も否定は出来なかった。
気持ちに焦りが入り、自然と駆け足になる俺、さっき受けたダメージも残る中、俺は全速力で草原を駆け抜けていく。
まるで風が後押しするように背中を押していく、そして――荒い呼吸を整える事なく俺はドアを激しく蹴破ると、勢いよくドアが破られた。
「な、何!?」
ドアが破られた事で中に居た人間の声が聞こえてきた――勢いそのまま、中に入ると驚いた表情のシャルがエプロン姿のままドアを見ていて、その隣には――。
「あら、お客様かしら、シャルロット」
そんな声が聞こえてくる――全く聞いたことのない女性の声で、奥の部屋から出てくる。
背はシャルより少し高く、腰まで下ろしたブロンドのロングヘアー、シャル同様のアメジストの瞳に物腰柔らかそうな表情――。
「……ヒルト?」
「え?」
目をぱちくりさせていたシャルが俺を見てそう告げた、精神攻撃が強まってると言ってたが、俺を認識し、更に偽者の一夏がいない辺りどうなってるのかが理解できなかった。
「あら、シャルロットのボーイフレンドかしら?」
「お、お母さん! ……そ、そぅだけ、ど……」
隣に居た女性をお母さんと呼んだシャル、狼狽し、僅かに頬を赤く染めていてボーイフレンドを否定しなかった。
「……何がどうなってるんだ。 偽者の一夏が居る訳じゃなく、シャル自身の身に何か起こってる訳でもなさそうだ」
そうごちる俺に、シャルは首を傾げ――。
「ヒルト、どうかしたの?」
「……シャル、ここが何処か理解できるか?」
「え? こ、ここは私の故郷のフランスだよ? 首都から離れた田舎だけど……」
そう説明するシャルに、俺は今の情報――というより学園の名前を聞いてみた。
「……IS学園はわかるか?」
「IS学園……? それって、何処かの学校?」
わからないといった表情を見せるシャル、やはり何かしらの精神攻撃を受けているのだろう――という事は、偽者の一夏ではなく、今回はシャルの母親が偽者と見るべきか――。
僅かに視線を母親に向ける、見た目はシャルをもっと穏やかにした感じの女性だ、絶え間無く笑顔を向けている。
「それよりもさ、ヒルト。 せ、せっかく私の実家に来てくれたんだし、ね? ど、ドアを蹴破ったのは流石に驚いちゃったけどさ」
椅子を引き、そこに座るように促すシャル――座り、改めてリビングを見ると二人で暮らすには僅かに広い様な印象を受ける。
写真立てには小さい頃のシャルと、白い幅広い帽子を被った母親が仲睦まじく写っていた。
絵画なども壁に掛けられていて、リビングに彩りを与えている。
「うふふ、シャルロットのボーイフレンドさん。 お名前は?」
「え? あ、有阪ヒルト……です」
「あら、いい名前ね。 私はシャルロットの母――――――よ」
名前を言う母親だったが、何故か名前が聞き取れなかった。
名前を告げたその瞬間だけ、耳障りな不快な音が遮る――やはりこの母親が偽者の一夏の代わり?
だが、敵意が全く見えない――これまでセシリアと鈴音の二人は偽者一夏で、二人にたいしてエロい事をしようとしていたのだが。
「ヒルト、紅茶だよ」
考え事をしていた俺の目の前に差し出されたのは紅茶だった、慣れた手つきで母親の分と自分の分をテーブルに並べていく。
「ふふ、シャルロットの紅茶の腕前、何れ程上達したかしらぁ?」
「も、もう! 私だって毎日成長してるんだから!」
……私?
確かシャルは僕って矯正させられたと聞いていたが……もしかしたら、この世界はシャルの母親が死ななかったら送っていたであろうシャルの別の世界を――。
「シャル」
「ふえ? どうかしたの、ヒルト?」
「シャルは俺がわかるんだよな?」
「う、うん」
「俺のフルネームは?」
「えと……有阪ヒルト、だよね?」
突然の事にシャルは驚きつつも答える、シャルの母親はきょとんとした表情で俺達を窺っていた。
「OK、なら……俺が何処から来たのかはわかるか?」
「うん。 あい、え……す――――ううっ……!!」
突然両手で頭を抱える様に踞るシャル、そこに響き渡る声――。
『ワールド・パージ、強制介入開始』
「あぅっ……!!」
苦痛の表情を浮かべたシャル――周囲の空間に僅かな揺らぎを感じるなか、シャルロットの母親は――。
「……ヒルトくん。 敵意が来るわよ」
「え?」
その言葉に俺は思わず振り向く、シャルロットの母親の表情は真剣そのもので踞った彼女をあやすように頭を撫でていた。
刹那、室内に轟く声。
「シャルロット! 無事か!?」
「一夏……の偽者か」
双眼が黒と金、出で立ちがまるで怪盗と怪しすぎる――明らかな偽者の一夏が現れた事によって、シャルロットの母親の存在が更にあやふやなものに――彼女が何者なのかが不明な中、偽者一夏は叫ぶ。
「シャルロットに……何してんだよお前は!!」
そう言い襲い掛かってくる一夏、一瞬で間合いを詰め、腹部に三連撃叩き込むも、それを腕で何とかガードする――じんじんと痛みが走るなか、一夏の追撃は止まない。
明らかに本人よりも遥かに強い偽者一夏の一撃――間合いを見極め、大振りの技の隙に此方も拳を叩き込む。
双方の戦いは明らかに俺が圧される形になっていく。
先のセシリアの時のダメージが残ってる中、更にダメージが蓄積されていき、一撃の重さがミシミシと骨が軋みを上げた。
「こ、んのぉぉぉッ! 偽者にやられてたまるかよ!!」
「シャルロット、今俺が助けるからな!」
「う、く…………ひ、ると……! お、かあ……さん……!」
室内は俺と一夏の争いでぐちゃぐちゃになり、シャルは苦しそうに俺の名と母親を呟く――そして。
「……これ以上、娘を傷つけられるのを黙って見ていられないわね。 ……シャルロット、貴女の成長した姿を見られて、お母さん嬉しかった」
そう言い、立ち上がるとシャルロットの母親の身体が光を放つ――その時、俺の脳裏に響き渡る声。
『ワールド・パージ内に異物が二つ――これは――』
目映い光が室内を包む――怪盗姿の偽者一夏はその光を浴びると身体を構築していた光の粒子が四散、弾けて消し飛んだ。
その光が収まる――部屋の中心に居るのは身体から光を放ったままのシャルの母親の姿だった。
その身体からは光の粒子が溢れていて、徐々に足下から崩れていく。
「どうやら、今ので力を使い果たしたみたいね」
「……貴女は」
「……うふふ、この子の母親よ。 ……勿論信じるかどうかは貴方次第――今回の事を、利用させてもらったって意味では君の敵になるのかな?」
「え?」
敵という言葉に僅かに身構える俺だが、彼女はクスクスと口元を手で覆って笑った。
「うふふ、身構えなくてもいいわよ? ……志半ばで、シャルロットを一人残して私は死んじゃったからね、今回の出来事……シャルロットが見る夢を守ると共に、私自身の欲も出ちゃったって感じかな」
虚空を見上げる母親――既に膝辺りまで消えかけていた、そんな中シャルが目を覚ます。
「あ、あれ……ぼ、く……」
「あらあら、お寝坊さんね、シャルロット」
「……え? ――――お、母さん……?」
さっきまでの記憶がないのか、シャルは驚きの表情を浮かべていた。
「ふふっ、久しぶりね、シャルロット」
「お、母さん……お母さん、お母さん!!」
瞳に浮かべた涙を拭うことなく、シャルは泣きじゃくりながら徐々に崩壊していく彼女に抱きついた。
「あらあら、ボーイフレンドの前なのにそんなに泣いちゃって……」
よしよしと頭を撫でる母親に、シャルは――。
「だって、だってぇ! 僕、ずっと寂しくて……お母さんが死んじゃって――ぐすっ……」
「……ごめんなさいね、シャルロット」
事態があやふやだが、恐らく……彼女は本当に母親なのだろう――何かで読んだが、魂という存在になっても、その存在を示す為に今回の出来事を利用したのだろう。
詳しい原理はわからない――いや、知らなくて良いことだろう。
今は死に別れた二人の再会に水を差すだけだから。
既に母親の身体は腰から下が消えていて、残り時間も僅かとなったのを悟ったのか母親は呟く。
「話したい事は山ほどあるのに……時間って残酷ね」
「お母さん、やだよ! 消えちゃヤダ! 僕と一緒に、暮らそうよ! 僕を置いて逝かないでよ! 一人にしないでよ!!」
シャルの想いが言葉に乗っていく――勿論、どれも今では無理な願いだが、彼女自身若い内に育ててもらった実の母親が今目の前にいるんだから無理もないだろう。
困ったような表情を浮かべた母親だが――。
「シャルロット。 ……本当に貴女は一人なの?」
「……ぇ?」
困ったような表情だった母親は、まるで聖母の様な笑みを向けて俺を見つめてくる、その視線を追うシャルは俺を見て――。
「……一人、じゃないよぉ。 ひ、ヒルトや未来、み、美冬……ラウラ……皆が、皆が……居るよぉ……」
止めどなく流れ出る涙、何度も拭うシャル、それを見つめる母親の身体は既に胸部から下が消えていた。
「ヒルトくん、娘の事……よろしくお願いしますね」
「……はい」
短く返事を返すと、笑顔を返す母親――そして。
「シャルロット、お母さんは側で見守ってるからね?」
「……ぅん。 ……僕、お母さんに会えたの、凄く嬉しかった」
「うふふ、お母さんもよ。 ……ヒルトくん、他の子たちも助けてあげてね。 皆が君の助けを待ってるんだから――――」
その言葉を残し、粒子となって天へと昇る――と見せかけ、シャルの周囲にまるでくっつく様に粒子が発光していた。
まるで彼女を守護するかのように――そして、世界が崩壊し、光が俺達を包み込んだ。
「……本当に一秒程ですわ、今しがた見送ったばかりですのに」
「うん。 向こうじゃどれだけ時間を過ごしても此方じゃ一秒程だから、ある意味厄介よね」
そんな二人の言葉が聞こえ、見ると見送った時と同様セシリアと鈴音が居た、一秒を確認するにしても早い気がするが今は些末な問題だろう。
「シャル、大丈夫か?」
「……うん、大丈夫だけど……」
そう告げるシャル、だが指差す先にある発光体が意思を持つかのようにシャルの周囲をふわふわと浮いていた。
「な、何よあの光……」
「発光体……ですわよね?」
「………………」
とりあえず事態がややこしくなりそうなので黙っておく。
「美春、状況は?」
『シャルへの攻撃はもう大丈夫、でも次はラウラへの攻撃を開始したみたい』
「篠ノ之や未来、美冬の様子は?」
『今は安定してる、攻撃も一人一極集中って感じかな』
一人一極ならその子の救助を優先すれば大丈夫――俺はそう思うとダメージが残る身体を押して黒いドアノブに手をかける。
「ま、まって、ヒルト!」
「……シャル?」
「……気をつけて、ね?」
シャルの言葉に、俺は笑顔で応えるとそれをみた鈴音達が――。
「シャルロット! あたしたちだってヒルトの事が心配なんだから!」
「そ、そうですわよ! 見送るなら、三人でですわよ!」
「そ、そうだね。 ……じゃあ、改めて――」
三人呼吸を合わせて言葉を口にした。
「「「気をつけてね、無理は禁物!」」」
その言葉を受け、俺はドアノブを回し、扉の向こうへと消えていった。
光が視界を覆うその瞬間に少女の囁き声が聞こえた。
『貴方が誰かを守る事によって、他の子を傷付ける結果になる。 ……責任は取れるの?』
そんな言葉が聞こえるも、俺の中では今はラウラの救出の事で頭がいっぱいだった。
後書き
原作から話をめちゃくちゃ変えてみた
多分残った原形って一夏の怪盗姿だけかも
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