IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第535話】
ぽつりぽつりと雨が荒れたアスファルトの道路を濡らしていく、夢の中でもリアルな雨――。
「夢なのに――制服が……」
徐々に濡れてまとわりつく制服に着心地の悪さが増していく――当てはなく、ひたすらアスファルトの道路を走っていく――と、雨の音と共に聞こえてくる飛行音、それが徐々に近付いてくる。
その飛行音に思わず振り向き、空を見上げるとフルスキンタイプの漆黒のISが迫ってきていた、言い様のしれない不安が過る中、空中で静止したISは真っ直ぐと私を一瞥するように見ていた。
「……彼女がロストナンバーの持ち主か……。 学園の制服を着ている様だが……少なくとも俺の記憶にはない子だ。 ……とはいえ、ロストナンバーを持つということは……【ロストチルドレン計画】の関係者の可能性が高いな」
降りてくる漆黒のIS、フルフェイスで覆われ、まるで黒夜叉の様なツインアイが淡い緑の明かりを点していた。
「……な、何……?」
「……怯える事はない。 君が俺に危害を加えようとしなければ手は出さないよ」
「……だ、だけど……貴方はその身にISを纏ってる……」
「……ならば装着を解除しよう」
そう言い、現れた漆黒の装甲を纏う男は光に包まれ、ISを解除した。
「……!? ひ、ヒルト……?」
フルフェイスで覆われたその素顔が露になり、私は驚いた。
紛れもなく私の幼なじみの有坂ヒルトだった――だけど、纏っていたISの形状がイザナギとは違いすぎている上、声質もヒルトとは違い落ち着いた感じがした。
よく見ると肌の色も僅かに白みがかった肌色だ、だがそれ以外は背格好、髪型、瞳の色もヒルトそのものだった。
「……知っていて当然だな、俺は各国からこの首に賞金が掛かっているからな」
僅かに微笑を溢すヒルト――そんな所もヒルトそっくりで僅かに胸が高まった。
「……ヒルト、なんだよね?」
「……いかにも、俺はヒルトだ。 ……だが、君の表情を察するに俺を知ってるというレベルが知人クラスになってくるのだが」
確かに目の前にいるのはヒルトだ――だけど、目の前にいるヒルトは私の事を知らないように感じた。
きゅっと唇を真一文字に、意を決して自分の名前を言ってみた私。
「未来……って言ったら、わかる?」
「未来……? ……少なくとも、俺は学園が解体されるまでに居た在校生全員記憶しているが、君は見たことがないな」
「そ、そう……」
ヒルトだけどヒルトじゃない――頭が混乱しそうになる中、目の前のヒルトが質問を始めた。
「それはさておき……君が既にISを持っているのは知っている、向こうの建物で交戦した後があった、中には気絶していた男三人も居た。 ……君はどこでそのコアを手に入れた?」
「え? ……こ、コアは……わ、私の幼なじみのお母さんが手に入れた物を……」
「ふむ」
嘘はついていない、つく意味もない私は隠さず話したのだが目の前のヒルトは腕組みしたまま考え、時折此方を見ていた。
「……機体名は天照・神……第二形態移行を果たしてるのか。 ……データベース照合――やはり該当無し……」
ザアザアと降り注ぐ雨、既にグショグショに濡れた制服、髪も濡れて肌にまとわりついていた。
一方のヒルト――周囲に不可視の防御膜が張られてるのか雨に一切濡れていなかった、そして、ずぶ濡れの私に気付いたヒルトは。
「……すまない、君だけずぶ濡れだな。 範囲を拡げよう――これで大丈夫だ、それとこれで拭くといい」
不可視の防御膜が私を雨から守るように覆う、ずぶ濡れの身体を借りたタオルで拭きながら――。
「た、タオルありがとうございます」
「いや、俺も気付くのが遅れたからな。 ずぶ濡れにさせてすまない」
小さな心遣いに、不覚にも胸が高鳴る――目の前にいるヒルトは私の知ってるヒルトじゃない、だけど――ヒルトにしか思えなかった。
「……話は変わるが、君はロストナンバー、及びロストチルドレン計画って聞いたことはあるか?」
「な、ない……です」
初めて聞く単語に首を傾げる私に、再度腕組みするヒルト――。
「……瞳孔の動き、呼吸、脈拍を見ても彼女が嘘をついてる感じはしない。 ……ロストチルドレン関連の人間ではなさそうだが……そうなると、ロストナンバーの説明がつかない……さて……」
「……??」
一人呟くヒルトに、私は更に首を傾げる――そして。
「……本来なら君のコアは俺が回収する所だが、まだ君は俺と同様【ロストチルドレン】の可能性がない訳ではない」
「……回収って、私から天照を奪うって意味?」
「……あぁ、全ての元凶であるISの根絶が俺の目的だからな」
抑揚のない冷たい言葉に、言い様のしれない不安が再度過る。
ヒルトだけど――私が知るヒルトじゃない。
夢の筈なのに、妙にリアルで、まるで私だけが別の世界に行ったような――そんな考えが過ると、不意に寂しさが込み上げてきた。
それを察したのか目の前にいるヒルトはさっきとは違った優しい笑顔を向けて言葉を紡ぐ。
「不思議だ、何故か君の寂しげな表情を見ると……慰めたくなる。 ……まあ、頭を撫でるぐらいしか俺には出来ないがな、これが」
雨で濡れた私の髪を優しく撫でるヒルト――だが、次の瞬間には険しい表情へと変化する。
「……ISの反応、それと複数の戦車と歩兵の数――ふむ」
「え?」
「……今は君のコアを狙わない。 直にここは戦場になる、直ぐに離れた方が賢明だ」
そう告げ、漆黒の装甲を身に纏うヒルト――フルフェイスは外したままで青みがかった銀髪は風で僅かに靡く。
その次の瞬間、轟音が轟く――。
「チッ! 君ごと俺を殺る気か――だが!」
正面に手を翳す――無数の砲弾が空を切る音が聞こえてきた次の瞬間、正面上空に出来た不可視の障壁によって阻まれ、空には爆光が輝いた。
「次はスナイパー辺り……だな!」
ライフルを粒子展開するヒルト、そのライフルはセシリアの機体、ブルー・ティアーズが持つスターライトmkⅢに近い原型を持っていた――否、細かな細部が違えど、スターライトmkⅢそのものにも見える。
刹那、遠方から粒子砲が迫る――尾を引くように突き進むそれは真っ直ぐヒルトの機体を捉えていた――だが。
「無駄だ、そう易々とイージスは抜けんさ!」
その言葉の通り、粒子砲の一撃は不可視の障壁に阻まれて四散、そして今度はヒルトがライフルのトリガーを引く。
鮮やかな色の粒子が放たれ、真っ直ぐ突き進むと着弾、大地が爆ぜ、そこに居た無数の兵士が空を舞い、地表へと落ちていく。
「な、に……これ……」
言葉にならない私、夢なのにリアルすぎる人の死に、ただただ頭が真っ白になるばかりだった。
そんな私を後目に、ヒルトは戦う。
「……次は無人機、そこで抑え込み歩兵と戦車による一斉射――フッ、教科書通りの戦いだな」
飛来してくる複数の無人機――その姿は何処と無く【銀の福音《シルバリオ・ゴスペル》】に似ていた。
「……墜ちろ!」
トリガーを引き続け、無数のビームが尾を引き残光を残す。
散開して避ける複数の無人機――だが、ヒルトは――。
「読み通りだな」
刹那、真っ直ぐ突き進んでいた無数の粒子ビームは弧を描き、散開した無人機二機がそのビームのシャワーに包まれ、装甲が白熱、次の瞬間にはその形が崩れて光芒の中へと消えていき、鮮やかな爆光が空を彩る。
残った機体は瞬時加速で肉薄、構えたブレードによる複数の剣撃が襲う。
だが、その一閃も見えない障壁によって阻まれた。
「……空間の中で沈め!」
動きを固定された無人機――見えない力で拘束されたようにピタリととまるそれはまるでラウラのAICの様に感じた。
そして――ライフルを上空へと投げ、新たに粒子展開したのは幅広い片刃の大剣――だが、峰の部分がスライド稼働する機構が組み込まれている、まるで《展開装甲》が組まれているような――。
「デュアル・アビリティー……セレクト、このまま鉄屑にしてやる……!!」
刹那、峰の機構がスライドされ、そこから白亜の光刃が形成――両刃の大剣へと変貌を遂げた。
この機構――まるで、織斑君の雪片みたい……。
そこからはあっという間に無人機は両断され、宣言通りに鉄屑へと変わっていた。
その後の事は殆ど私の記憶になかった、気付いた時には戦闘は終わり、周囲は黒煙がもうもうと立ち込め、破壊された戦車は炎に包まれていた。
周囲に匂う硝煙と血の匂い、僅かに聞こえてくる呻き声に涙が溢れてくる。
膝から崩れ落ち、両手で顔を隠す様に泣く私に、ヒルトは告げた。
「……こんなことは日常茶飯事だ、世界は第三次世界大戦――つまり、戦争の真っ最中だからな」
「戦……争……?」
その言葉だけがひたすら脳内を駆け巡る――少なくとも学園の襲撃はあれど、戦争みたいなことは日本では無かった筈なのに。
そう思った次の瞬間、私の視界に一気に拡がる目映い閃光――そのまま私は意識を失ってしまった。
「……消えた? ……どういう事だ、少なくとも今目の前に居たはずだ」
残されたヒルトはそう呟く、今さっきまで居た学園の制服を着た謎の少女が忽然と居なくなってしまったのだから。
「……最近報告にある【次元転移】……か? ――ふむ、次元震の波がある、やはり転移したという事か。 ……これを解析すれば……。 ……合流する時が来たようだな」
そう呟き納得したヒルト――直ぐ様その場を去っていく。
そして、その場には無数の屍と破壊された戦車、無人ISだけが取り残され、杜撰な光景だけがいつまでも残り続けた。
後書き
モッピー知ってるよ。
第五巻発売中って事。
_/⌒⌒ヽ_
/ヘ>―<ヘヽ
((/ ̄ ̄ ̄\))
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/ | | //ヽ ヘ
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レ |/ レ| N\|||
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