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空虚で無気力な青年が異世界で新生活~改訂中~

作者:Rabbit
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第5話 断罪

飯を食った後、成り行きで仕事を受けてしまった。

受けたのは俺じゃないんだが、金も無いから丁度良いだろう。

あれ、でも金のことは言ってなかったな。

…はやまったか?

だがまあ、受けたからには仕方ない。

影で創る馬で行きたかったのだが、影が出来ていないので断念。

とはいえ、俺には魔法がある。

身体への重力を半減させると、同時に身体全体に風を纏わせる。

「行くぞ、シュトラーセ!」

フラグ女――名前を言っていたが、忘れた――は、走っていくようだ。

こいつ、脳筋だったのか。

緊急事態ということで門を素通りし、山賊のいるという森に向かう。

森には30分ほど走ると到着した。

しかし、俺はともかく、フラグ女の体力はどうなっているんだ。

多少息切れしているが、まだまだ元気のようだ。

脳筋な上に、体力バカか…。

「到着したわけだが、結構広そうだな」
「そのとおりだ。そのため、迷った結果、この森に住むモンスターに殺される冒険者が大勢いる」

広いだけで迷うか?

広いのが分かっていれば、目印くらいはやると思うが。

他に何かあるのか?

「真偽は分からんが、この森には風と森の精霊が住んでいると言われている」

なるほど。

精霊とモンスターは、ある程度は共存しているのか。

精霊が迷うことに関係してんのかな。

「まあ、その話はまた今度だ。今は、山賊だ」
「それなら心当たりがある。ここから少し行ったところに、洞窟がある」
「行ってみるか」

俺は道を知らないので、フラグ女を先頭に森へと足を踏み入れた。




森は鬱葱と木が茂り、空を見ることも出来ないほどだった。

これでは、昼でも薄暗いだろうな。

「待て、シュトラーセ。ゴブリンがいる」

10分ほど歩くと、不意にフラグ女が足を止めた。

茂みに身を隠しながらフラグ女の指差す方向を見ると、ゴブリンが2匹いた。

緑の身体に醜悪な顔。

150cmほどの身長をしたモンスターだ。

ゲームではやられ役だが、やはり実際は違う。

身長はそれほど高くは無いが、腕や脚は結構太い。

手に持つ棍棒で殴られたら、骨折はするだろう。

まあ、当たらなければいいのだが。

「奴らは私がやろう」
「任す」
「…少しは手伝おうと思わないのか?」
「いや、まったく」

フラグ女は溜め息を吐くと、腰から下げていた鞘からロングソードを抜くとゴブリンへと斬りかかった。

不意打ちで繰り出されたロングソードは、1匹のゴブリンの左肩に喰いこんだ。

フラグ女はそのまま剣を下に振り下ろすと、ゴブリンは縦に両断された。

「グギャッ!ゲギャッ!」

残ったゴブリンもようやくフラグ女に気付くが、すでに遅かった。

フラグ女は空いた左手を腰の後ろに回すと、ククリを引き抜きゴブリンに顔に突き刺した。

「グゲェーッ!!」

ゴブリンは悲鳴を上げながら後ろ向きに倒れると、数秒ほど暴れた後、動かなくなった。

ちなみに、ククリはシンガポールの警察部隊が実際に使用しているらしい。

使用しているというか、腰に差しているらしい。

…どうでもいいな。

俺は茂みから出ると、物言わぬ躯なったゴブリンから抜いたククリの血を拭うフラグ女に近づいて行く。

「強いんだな」
「私なんか、まだまだだ。上には上がいる」
「それはそうだな」
「切り替えが早すぎる。もうちょっと私を褒めろ」

ふぅ、メンドクサイ。

俺は同じくオリジナルで創った魔法を、両目に使う。

〔生命感知〕の魔法だ。

その名の通り、生物を感知する魔法だ。

アンデッドを感知できないのが難点だが、まあ使える魔法だろ。

そうじゃないと、創った意味が無いからな。

「あっちに何かいるぞ。数は…5」
「聞いてないな。…恐らく、目的の山賊だろう。行こう」

今度は俺を先頭に歩いて行く。

そこからはモンスターに運良く出会うことも無く、洞窟の前まで来た。

〔聴覚強化〕を使うと、確かに男の野太い声が聞こえてくる。

「ここだな。声も聴こえる」
「聴こえるのか?って、ああ。魔法か」

当たり前だ。

「フラ…。ここで待ってろ。俺が片付けてくる」
「お前、今何て呼ぼうとした?」
「…気にするな。終わったら呼ぶ」
「…わかった」

フラグ女が頷くと、俺は洞窟の中へと入っていく。

俺は〔夜目〕と〔サイレンス〕を使い、暗闇でも見えるようにすると同時に、足音を消す。

これでいいだろう。

俺は洞窟の中を慎重に進んでいく。

特に、角は慎重に進もう。

洞窟を1人歩いていると、あることに気付く。

フラグ女に、さっき使ったのと同じ魔法を使ったら良かったのでは?

…いや、これも訓練と前向きに考えるとしよう。

正直楽をしたいが、いつまでも楽が出来るわけじゃないだろうし、今のうちに経験しておくのは悪いことじゃないはずだ。

しかし、また俺は気分が高揚するのだろうか。

病気か、俺は。

…こんなことを今考えても仕方ないか。

今は、さっさと山賊を片付けることに集中しよう。

角を2つ曲がると、松明の灯りが見えてきた。

同時に、声が大きくなってくる。

「ボスはどこに行ったんだ」
「お楽しみ中だろ。どうしても、ボスのアレだけは理解出来ねぇがな」
「同感だな」

椅子に座って男2人が、何かを話している。

お楽しみ中、ね。

…ゴミ共が。

だが、おかしいな。

…いや、封じられているだけか。

俺は〔聴覚強化〕と〔生命感知〕を駆使し、男たちの位置の把握に努める。

11時に2人、2時の隣の部屋に2人、12時の奥の部屋に1人か。

俺はベルトに両手を伸ばし、ナイフを抜く。

多勢に無勢。確実に消していく。

俺は緊張した心を鎮めるため深呼吸する。

そして息を吐ききった瞬間、ナイフを投擲する。

「がっ……」
「ん?どうし…」

気付かれる前に、続けて投擲。

ナイフは運良く外れることは無かった。

たまたま巧くいっているが、練習が必要だな。

明日にでもやるか。

俺は腰を屈めて移動すると、ナイフを回収する。

ナイフに付着した血を拭きとり、テーブルに置いてあった布を手にする。

隣の部屋に歩いて行くと、2人がベッドで寝ていた。

俺はナイフを逆手に持ち、近くに居た男に近付いて行く。

布で口を塞ぎ、ナイフで喉を突き刺す。

男は一度目を大きく見開いた後、目を空けたまま絶命した。

もう1人の男の暗殺に行こうと振り返った瞬間、寝ていたはずの男が剣を持って立っていた。

男は曲刀を手にしていた。

シミター、カトラス?

どっちでもいい!

男が曲刀を振り上げ、一気に振り下ろしてくる。

俺は布を手放して空いていた左手で、曲刀を振り下ろしてくる手首をぶつけて止めた。

俺の手首と、男の手首がぶつかる。

俺はあまり力が無いため、徐々に押され始める。

男の口元に笑みが浮かんだのを見て、ちょっとイラッと来る。

俺は手首を外側にひねり、男の手首を掴むと手前に引っ張る。

男が曲刀を落としたのを見て、俺は右肘を顔面に思いっ切り叩きこむ。

何か嫌な音がしたな。鼻でも折れたか。

男は鼻から血を流しながら、呻き声を上げる。

おっと、お静かに願います。

俺はそれ以上呻き声を上げさせないため、馬乗りになると口を塞ぎナイフを額に突き刺した。

「おい、何かあったのか」

…遅かったか。

俺は壁に身を隠すと、再びナイフを手にする。

そのまま殺すか?

いや、まずは人質の無事を確認するか。

それ次第では、処理方法を考えよう。

俺がそう決断した瞬間、奥の扉が開いた。

「何で誰もいねぇんだ。ん?おい、どうした!」

死体に気付いたか。

俺は陰から身を出すと、ナイフを投擲する。

狙いは、アキレス腱。

…のはずだったんだが、狙いは大きく外れて背中に刺さった。

…練習だな。

「ぐっ!誰だ!」

俺はすぐに飛び出すと、一瞬で男の懐に入り込む。

重力半減を使ってるから、結構速くなっている。

男の懐に入った瞬間、重力を戻す。

同時に、俺の肘鉄が男の鳩尾に突き刺さる。

「あがっ……」

男は口から涎を垂らしながら地面に倒れた。

脈を確認すると、一応ある。

俺は声を出してフラグ女を呼ぶと、その間に奥の部屋へと向かう。

壁に掛けられた松明の灯りを頼りに歩いていると、牢屋が見えてくる。

牢屋の中を覗くと、予想通りの惨状が広がっていた。

全裸の状態で横たわり、秘所から白い液体が流れていた2人の躯。

母親は30代半ば、娘に至ってはまだ10代前半と言ったところだろう。

2人の目元には涙が溜まっていた。

俺は牢屋を壊し中に入ると、その衝撃で溜まっていた涙が流れた。

俺は彼女たちの身体に触れると、まだ少し暖かいが徐々に冷たくなっているようだった。

まさか……。

俺は2人の瞳を閉じると、踵を返した。

あのクズ野郎、簡単には死なせねぇ。

苦痛を味合わせてから殺してやる。

先程の部屋に戻ると、フラグ女はすでに来ていた。

「どこに行っていたんだ。攫われた親子は?」
「手遅れだ」
「……そうか」

俺はフラグ女の問いに短く答えると、テーブルに置いてあった酒を取ると男へと近付いて行く。

俺は背中に刺さっていたナイフを抜くと、男の両足の腱を切った。

これで、こいつは逃げられない。

逃がすつもりもないが。

さて、じゃあ起きてもらうか。

俺は男を足蹴にして仰向けにすると、酒を顔にぶっかける。

「……ごほっ、ごほっ。おえっ……」

男はえずきながら目を覚ますと、若干の吐瀉物を吐きだした。

「質問に答えろ」
「ごほっ……。てめぇ、俺にこんなことしてタダですむと」

俺は〔創造魔法〕で2本目の日本刀を創りだすと、男の足に突き刺した。

「ぐあーっ!!」
「余計なことは言わなくていい。質問に答えろ」
「わかった、わかったから!抜いてくれ!」

痛みで喋れなくても困るな。

俺は刀を引き抜くと、男の呼吸が整ったを見計らい問いかけた。

「貴様、あの親子を犯したな」
「あ、ああ。そのために攫ったんだからな。攫った後は、俺たち全員で楽しませて貰ったぜ。へへっ、中々良い具合だったぜ」
「貴様、死姦したな?」

あまりこんな言葉を言いたくないが、事実確認のために問いかける。

俺の言葉に、フラグ女も言葉を失っている。

「分かるか?俺はどっちかと言うと、そっちの方が好きなんだ。だから」
「もう喋るな」

俺は日本刀を斬りあげ、男の右腕を斬りおとした。

「ぎゃぁあああああ!!腕が!俺の腕がぁッ!!」

女性の声がしなかったからおかしいと思ったんだ。

口を塞がれているだけかとも思ったが。

クズ野郎が。

簡単に死ねると思うなよ。

あの親子の味わった億分の1でも、屈辱と恥辱を味わえ。

「次は左だな」
「やめてくれ!!謝る、謝るから!!」

男の言葉は無視し、宣言通り左腕を斬りおとす。

「シュトラーセ。もうその辺でいいだろう」
「そ、そうだ!もういいだろう!」
「貴様が言うな」

俺は再び脚に刀を突き刺すと、傷口をえぐるように刀を動かす。

男の絶叫が木霊する。

俺は無表情で、フラグ女は顔を歪めている。

「シュトラーセ、もういいだろう!」
「お前、何言ってんの」
「何?」
「あの男の妻と娘は無残に殺され、死してなお穢される。そんなことをした男を生かせと?」
「それは……」

そんなものは不条理だ。

世の中には、すべてにおいて優先順位が存在する。

クソみたいなことをした犯人と、クソみたいなことをやられた被害者。

どちらを優先するかは分かりきったことだろう。

「お前のその言葉は、自分が見てられないから言っているだけだ。被害者の怒りを考えろ」
「……」
「もっとも、俺はそんなことのためにやっているわけではない」
「じゃあ、何故だ」
「簡単だ。俺が、許せないからだ」

俺はナイフを引き抜くと、男の右目に突き刺した。

「ぐあああああああ!!!」

俺はナイフを刺したままにすると、刀を引き抜き松明の灯りによって出来ていた影に血を数滴垂らす。

「【影操(えいそう)】。形状、ManEater」

俺の呟きと同時に、男が座っていた床に巨大な2つの目が現れる。

「ひっ!!な、何だよ、これ!」
「恐怖して、死ね」
「た、助けてくれぇっ!頼む、頼むよぉーっ!!」
「食事の時間だ、ManEater」

俺の言葉で、巨大な2つの目が喜びを露わすかのように歪む。

男の真下に、今度は巨大な口が現れる。

人1人は簡単に飲み込めるほど大きく、口の中には鋭く尖った歯も見える。

「助けてくれぇーーーーっ!!!」

マンイーターの両目が喜悦に歪みつつ、口の中に入った男をゆっくり咀嚼する。

骨の砕ける音が響き渡り、肉を咀嚼する音。

フラグ女は手で口を抑えると、背を向けた。

確かに、それが普通の反応だろう。

だが、今の俺はどうだ。

気分の高揚こそしていないが、冷水を被ったかのように冷たくなっている。

頭の中もクリアで、かなり冷静だ。

犯罪者とはいえ、これほどまでに残酷な殺し方をするとは。

マンイーターは最後にゴクン、という飲み込んだ音を響かせるとその姿は消えた。

俺はマンイーターが消えたのを見届けると、再び奥の部屋へと向かう。

俺は水魔法で親子の身体を濡らすと、創造魔法で創りだした布でキレイに拭いていく。

身体を拭き終えると、創造魔法で簡単なワンピースを創り着せる。

いつの間にか後ろに居たフラグ女に奥さんを任せると、俺は娘さんの方を背負った。

お互いに言葉を交わすことも無く、洞窟を出て森を抜ける。

森を抜けると、慰めるかのように月が俺たちを明るく照らしていた。
 
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