空虚で無気力な青年が異世界で新生活~改訂中~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第6話 教育
窓から入って来る陽の光で、俺は目を覚ました。
目を開けて外へと視線を移すと、陽は登り始めたばかりだった。
まさに、朝日の光。
とはいえ、俺はかなり眠い。
しかし、今日からナイフの訓練をしなければ。
前回のようにミスっていては、いずれ致命的なことになりかねん。
さあ、やりましょうか。
ぐぅー……。
「練習をするんじゃなかったのか?」
「ああ。そのつもりだった」
「もう昼だぞ」
「止むを得ない事情があったんだ」
昼食を取っていると、クライン――ようやく思い出した――にそう聞かれた。
昨夜、変わり果てた姿で帰った妻と娘を前に、あの男は泣き崩れた。
俺は前世では子どもはいなかったし結婚もしていなかったから、その気持ちは理解することは出来ないし、共有することも出来ない。
俺とクラインはただ、泣き崩れる男を見るしかなかった。
必要無いとも思ったが、一応奴らを全員殺したということは伝えておく。
俺のその言葉に、男は涙ながらに礼を言った。
少しだが救われた気分だ、と。
実際は救われてなどいるはずが無い。
ただ、そんな気がしているだけだ。
だが、それも気のせいだろう。
大切な人間を2人も失って、そんな簡単に気持ちを切り替えることが出来るはずもない。
男は報酬を支払ってくれると言ってくれたが、俺は受け取らなかった。
いや、受け取ることが出来なかった。
男の家族を助けることも出来ず、あの山賊も自己満足で殺しただけだ。
お世辞にも、依頼を達成したとは言えない。
俺が受け取らなかったのを見て、俺の答えに共感したのかクラインも受け取るのを拒否した。
その時、何故かちょっと尊敬の眼差しで見られていた気がする。
そんな立派なもんじゃない。
結局、その夜はクラインの泊まる宿で過ごした。
だが、部屋は別だ。金は借りたけどな。
言い忘れていたが、クラインは胸がでかいことが判明した。
気付いた時は思わず、飲んでいた水を噴いてしまった。
漫画やアニメなどでは別として、実際にはお目にかかったことのない爆乳だったからだ。
さすがに、本人にサイズを聞くのはマズイ――聞いたら教えてくれそうだが――ので、俺の推測になる。
恐らく、100cmは間違いないだろう。
カップで表すと、Gと言ったところだろうか。
いや、それ以上か?
自慢じゃないが、俺はでかいのが好きだ。
しかし、微乳もそれはそれでアリだ。
7:3くらいで、でかいほうが好きだがな。
胸のでかさでは、相手は選ばないということだ。
……多分。
「どうした、シュトラーセ」
おっと、いかんいかん。
胸の世界に旅立っていたようだ。
「いや、何でも無い」
「そうか。それで、止むを得ない事情と言うのは?」
「眠かったんだ」
「…それだけか?」
「他に何がある。十分な理由だろう」
まったく、何を言っているんだ。
睡眠は大事だろう。
俺は睡眠のために朝食を食べないし、昼食を買う時間も惜しんだ男だぞ。
俺は昼食を朝買ってたからな。
俺の身体は、昼を食べなくても問題無いという事実が発覚したせいで、昼食はほとんど食わなかったからな。
「訓練はどうするんだ?」
「飯を食い終わって、少し休憩したらな」
「…本当か?」
おや、いつの間にか信頼を失っている?
まあいっか。
「訓練の必要性は自覚している。ちゃんとやる」
「ならいいが」
「というか、いつまで俺に付きまとう」
「いや、まあ、そうだな……」
俺は食後のコーヒーを飲みながら、クラインに聞いてみた。
というか、この世界にもコーヒーはあるんだな。
どうでもいいことを考えていると、クラインが付いてくる理由に思い当たる。
「宿代とこの飯代を取り返すまで、付きまとうつもりか?」
「いや、それは構わない」
「じゃあ、何でだ」
「いや、お前に興味が湧いたんだ」
恐らく、今の俺はかなり嫌な顔をしているだろう。
「すごい嫌そうな顔だな」
「嫌そうではなく、嫌なんだがな」
美少女から興味を持たれるのは嬉しいんだが、その興味が別方向に向いてるからな。
「自分で言うのもあれだが、私の容姿は良いほうだと自負しているのだが」
悔しいが、その通りだ。
「それに、胸もかなり大きいぞ。同年代でも1番だった程だ」
「そう言われてもな」
「男はみんな、胸が好きだと思っていたのだが。違うのか?」
「俺は好きだ」
俺は表情を引き締め、キリッとした顔で答える。
クラインはやや呆れたような顔をしながらも、表情を綻ばせる。
「私と旅をすれば、この胸を好きにできるぞ?」
「(何!?)」
くっ……!
何て卑怯な手を使うんだ!
それは非常に魅力的な提案だ。
「まあ、冗談だがな」
「……」
…こいつ、どうしてくれようか。
だが、すべては心の中での葛藤。
俺のポーカーフェイスは見破れまい。
俺はコーヒーを飲み終わると、カップを置くと立ち上がった。
「では、訓練に行って来る」
「どこにだ?」
「街だ」
「ちょっと待てぇー!!」
「冗談だ。街の外に行って来る」
「…ならいいが」
まったく、俺のお茶目な冗談だというのに大袈裟な奴だ。
さすがに一般人を的にするようなことはしないぞ。
「シュトラーセ。私はギルドにいる。何かあったら来てくれ」
「ああ」
俺は城門を簡単に抜けると、街道から外れた道に入っていく。
草原と言うより、林といったところだ。
創造魔法で4つの的を創ると、木に貼り付けていく。
では、始めますか。
俺は両手にナイフを手にすると右、左と投擲する。
的に命中したのを確認することも無く、すぐにナイフを抜き的に投げる。
投げるまでの速さはいいかもしれん。
だが、まだまだ。もっと速く出来るだろう。
ナイフの方は……。
真ん中に当たったのは1本だけか。
うーむ、ひどいな。的を増やすか。
的を倍に増やすと同時に、ベルトを大きくする。
ナイフを15本差し込めるようにして、部分的に重力魔法を使い重力を軽減させる。
出来るかどうか不安だったが、出来たな。
重さを軽減することに成功。
大抵のことは、魔法が解決してくれそうだ。
さて、では訓練の続きだ。
訓練開始から早2時間。
最初よりはまともになって来た。
8本投げれば、半分ぐらいは真ん中に当たるようになってきた。
それでもまだ半分だが、マシになった方だろう。
小腹が空いたな。
そろそろ戻るか。
俺は的とナイフをすべて回収すると、的は空間魔法で創った空間に放り込んでおく。
次の機会にまた使うとしよう。
立ち去ろうとした時、背後の茂みがガサガサっと動いた。
モンスターか?
それとも、小動物か?
俺は2つの可能性を考えながら、ナイフを構える。
茂みがガサガサと動き続け、ふと止まった。
来るか!
身構えた瞬間、陰から何かが飛び出してきた。
「ニャー!!」
………。
予想外すぎる生物に、俺の頭はフリーズ。
だが、何とか突撃を避けると、首根っこを掴んだ。
「ニャー!放すニャー!」
語尾にニャーを付ける子どもを拾った。
だが、不思議なことに頭には猫耳。
尻尾もついている。
…プレイの最中だったのか?
1人で?
…かわいそうに。
「止めるニャー!そのかわいそうな物を見る目、止めるニャー」
「お前、何だ?」
「ノイは猫人族だニャー!」
名前はノイか。だが、種族に関しては欠片もひねりが無い。つまらん。
だがまあ、プレイではなかったようだ。
「ノイは迷子か?」
「お前も名前を教えるニャ。失礼ニャ」
ふむ、道理だな。
だがその前に、口の利き方について教育をするとしよう。
ページ上へ戻る