空虚で無気力な青年が異世界で新生活~改訂中~
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プロローグ
退屈な毎日、退屈な日常、退屈な生活。
現代日本に対して、俺は希望を見出すことが出来ない。
自分たちの都合でしか動かない政治家。
自分たちの理想や体裁を押しつける両親。
この世界に、希望は無い。
携帯のアラームとして設定しておいたマナー音で、俺はゆっくりと目を覚ます。
俺は携帯を開きマナーを止めると、時間を確認する。
現在の時間は8時15分。
あと少し寝れるが、まあ妥当な時間だ。
俺は布団から出ると、冷蔵庫から野菜ジュースのペットボトルを取り出し口にする。
俺は九条 焔(くじょう ほむら)。
名前を付けたのは母方の祖父で、響きで決めたそうだ。
この話を聞いた時、豪快な祖父らしいと納得してしまった。
俺は今、専門学校に通うため一人暮らしをしている。
一人暮らしだと何かと栄養素が不足するため、少しでも補うための野菜ジュースだ。
俺自身、野菜ジュースは嫌いではないため丁度良い。
俺はペットボトルを冷蔵庫に戻すと、朝食を食べることもなく顔を洗い歯を磨く。
それが終わると、Tシャツにジャージを脱ぎ捨て、着替えていく。
黒のTシャツを着てデニムを穿くと、薄い上着を着る。
今の季節は春。
間もなく、初夏に入ろうという時期だ。
とは言っても、俺の住んでいる県は初夏でも結構暑くなる。
これぐらいが丁度良いのだ。
俺は携帯と財布をポケットに突っ込むと、鍵を手にして部屋を出る。
駐輪場に停めていたマウンテンバイクに跨ると、ペダルを踏み込んだ。
ここから俺の通う専門学校まで、15分程だ。
急げば、10分もかからない距離だ。
だが、時間に余裕があるのにそんなに急ぐのもバカバカしいので、ゆっくりと漕いで行く。
俺の通う専門学校は、俺の住んでいるK県ではわりと有名だ。
当然、様々なコースがあるが、俺はIT関係を主に学んでいる。
この学校に進学したのも、人に言うほどの理由があるわけでもない。
ただ単に、あんな父親のいる家を早く出たかった、というのが最大の理由だ。
俺は父親を蔑視している。
傲慢で自分勝手で、自分で出来ることも人にやらせる。
人にやらせるくせに、それで失敗したらバカみたいに激怒する。
なら、最初から自分でしろよと何度思ったことか。
昭和時代には恐らく多かった、一家の大黒柱、亭主関白の姿なのだろう。
だが、今の時代にそんなものは通用しなくなってきている。
時代の変化と共に、人の考え方も変わってきているのだ。
時代の流れに対応できない、旧い存在。
だが、そもそも亭主関白というのは、あれこれと人に指示だけをして自分はふんぞり返っていることを指しているわけではない。
亭主関白の本来の意味は、妻を補佐する夫のことを指し示す言葉らしい。
俺もテレビで言っているのを聞いただけだが、恐らく本当なのだろう。
……止めよう。
朝からあんな奴のことを考えていては、テンションが下がりっぱなしだ。
俺は奴のことを意識から除外すると、今日の授業について考え始めるのだった。
今日の授業を終え、俺は同じ学科の友人たちとまた明日と言いながら、教室を後にする。
専門学校での友達は、面白い奴ばかりだ。
彼らと話すことは、俺としても楽しいことだ。
だが、それでも俺の心には穴が空いている。
時々、不意に空虚な気持ちになるのだ。
俺はただ毎日やって来る今日という日を、惰性で過ごしているだけなのだ。
惰性で過ごす日常に、充実は無い。
そんな時、俺はふと今の現実から逃げ出し、旅をしてみたいという気持ちになる。
俺はまだ、何も知らない。
この世界のことを、万分の1も知らないだろう。
自分の知らないところを旅すれば、この心の空虚さは埋まるんじゃないかと。
だが、その後のことを考えれば、そんなことが出来るはずもない。
そして次に浮かんでくるのは、自分が生きていることに意味があるのか、ということだ。
俺は、今すぐにでもこの答えが知りたい。
同時に、答えを知るのが恐ろしい。
意味が無いのであれば、俺の存在は無意味。
ただいるだけという、無意味な存在になってしまう。
そして俺は、死を考えてしまう。
ゲームや漫画の中で描かれる、勇者などの必要とされる存在。
俺もそういう世界に行って必要とされれば、この空虚さは埋まるのだろうか。
家までの帰り道。
俺の頭は答えの出ない、迷宮を彷徨い続けている。
俺はバカバカしいと思い頭を切り替えると、今日の夕食について考える。
俺は料理が出来ない。
いや、出来るのかもしれないが、面倒なのでやらない。
家事なども嫌いではない。
ただ面倒なだけである。
それを小学校からの友人に言ったら、ダメだろ、と言われてしまった。
まったくその通りだ。
俺は信号が赤になったのを確認し、ブレーキを使い止まる。
料理が面倒なため、結局は惣菜になってしまう。
まぁ、美味いから良いんだが。
その瞬間、俺の身体は浮遊感に見舞われる。
そして、次に襲って来るのは固いコンクリートに落下した衝撃。
痛みで身体が動かないので、視線だけを動かすとトラックが電柱を二つ折りにしているのが見えた。
なるほど、撥ねられたか。
痙攣する手で身体を触ってみると、手にはべっとりと血が付いている。
あぁ……。
これは助からないな。
すぐには死ななくても、じきに失血死といったところか。
死への恐怖は無い。
あるのはただ、あの空虚さを味合うことはないという、喜びだけだった。
20年そこそこしか生きてないが、俺は酷く疲れた。
もう眠ろう……。
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