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トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~

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彼女に出会えたことの意味 ⑤

 ――絢乃さんと〈U&Hリサーチ〉のお二人とで立てられた作戦決行の日は土曜日だった。
 土曜日はキックボクシングの練習がある日なのだが、僕も作戦の行方が気になっていたのでその日は練習を休んで決行場所に行くことにした。絢乃さんにはお知らせせずに。

『――桐島さん。あんたも作戦のこと気になるだろ? だったら、篠沢会長には内緒で見届けに来ればいい。今度の土曜日、新宿の駅前で決行することになってるから』

 事務所を訪ねた日の帰り、内田さんがそう声をかけて下さったのだ。作戦の内容についても、その時に説明されたのだが……。
 別れた女性には必ずリベンジポルノを仕掛けていたという小坂リョウジを絢乃さんがわざとデートに誘い、そこで彼の本性を暴いてその様子を真弥さんが乗っ取った彼の裏アカウントからライブ配信するという作戦に、僕は卒倒しそうになった。大丈夫なのか、この作戦!? 絢乃さん、まだバージンのはずだろ!? 
 彼女に何かあった時のために、武闘派刑事だった内田さんと空手の有段者だという真弥さんがボディガードも兼ねるというが、その役目は僕じゃダメだったのだろうか……。

 その日、絢乃さんは背中のパックリ開いたシースルーのミニワンピースをお召しになり、その上からレザージャケットを羽織っていた。そういえば、夏に胸元と袖の部分だけがシースルーになっているワンピースをデートに着て来られたことがあったが、もしかしたらその服と一緒に購入されたのかもしれない。どうでもいいが、遠目から見ても目のやり場に困る。

 やがて、何も知らないであろう小坂さんがのほほんとした様子で現れ、普段より大胆な格好をした絢乃さんをナンパし始めたが、絢乃さんは堂々と彼に啖呵を切った。

「わたしが貴方を誘惑するわけないじゃないですか! 彼を傷つけた相手を好きになるわけないでしょ? 貴方の頭の中、お花畑ですか? ……わたし、貴方なんか大っっっキライです!」

 彼女のおっしゃった「彼」というのは僕のことだとすぐに分かった。僕を守るためにここまでして下さっているんだと、僕の胸が熱くなった。

 やがて内田さんと真弥さんも姿を現し――二人とも、どこに隠れていたんだろうか――、この状況がSNSでライブ配信されていることを暴露したことで、作戦は無事成功したようだった。


 小坂さんが意気消沈して去っていった後、内田さんたちが絢乃さんに、僕も現場に来ていたことを伝えたようだった。
 僕は絢乃さんにどんな顔をして会えばいいのだろう? 危険な作戦が何事もなく終わったことにホッとしつつも、僕に何も言わずに危険を冒したことに怒りの感情がこみ上げてもいた。人というものは、心配が過ぎると怒りに変換されるのだろうか。

「――絢乃さん!」

 彼女を呼んだ時の自分の感情を、僕はうまく言い表せない。でも、「お、怒ってる……よね?」とオドオドと僕の顔色を窺う彼女を抱きしめて飛び出した言葉は「あなたが無事で、本当によかった……」だった。

 とりあえず、彼女には僕のクルマの後部座席に乗って頂き、僕も同じく後部座席へ移動した。 
 僕へ謝罪する彼女も、やっぱり何かあった時にはあのお二人に守ってもらうつもりでおられたらしい。僕はそれが面白くなく、「あなたが他の人に守られるなんて、僕はイヤなんです。あなたを守るのは僕じゃないとダメなんです」とダダっ子みたいなことを言ってしまった。
 だって、そのせいで(原因はそれだけではなかったのだが)せっかくキックボクシングを習ったのにその苦労がムダになってしまったのだ。
 それはともかく、僕を守るためというなら、あえて僕と距離を置いて中傷の目を遠ざけるという方法もあったはずだが。彼女はそれがイヤだったとおっしゃった。多少危険があったとしても、お金がかかっても僕の側にいて守る方がいいと思ったと。それだけ、彼女の僕への愛は深かったということだ。

「…………まぁ、絢乃さんに何もなかったからもういいです。その代わり、僕に心配をかけるのはこれで最後にして下さいね? 約束ですよ?」

「うん、分かった。もう二度と、こんなことはしないって約束するから」

 僕たちは指切りをして微笑み合った。彼女はウソをつけない人なので、信じて大丈夫だ。こう思えるようになったのも、もちろん彼女のおかげだった。僕もずいぶん変わったなと思う。

 そして、僕はちゃんと言葉にして彼女からのプロポーズの返事を――プロポーズ返しをした。

「――絢乃さん、僕、覚悟を決めました。あなたのお婿さんになりたいです。僕と結婚して下さい。お父さまの一周忌が済んで、絢乃さんが無事に高校を卒業して、そうしたら。……で、どうでしょうか」

「はい。喜んでお受けします!」

 彼女は万感の思いで頷いて下さり、僕たちは晴れて婚約関係となった。指輪はクリスマスイブに改めて贈ることになった。


   * * * *


 ――そして迎えた、絢乃さんと二人きりで過ごす初めてのクリスマスイブ。
 僕たちは会社帰りにお台場のツリーを見に行き、オシャレなレストランで夕食を摂った。ちなみに絢乃さんはすでに学校が冬休みに入っていたので、朝から冬物のスーツで出社されていた。

「――絢乃さん、クリスマスプレゼントも兼ねてこれを。まだ渡せてませんでしたけど、エンゲージリングです。サイズは加奈子さんから伺ったので、多分ピッタリだと思うんですけど」

「わぁ、ありがとう! ……うん、ホントにピッタリだわ。さすがはママ」

 小さなダイヤがあしらわれたプラチナリングを左薬指にはめて差し上げると、絢乃さんはものすごく喜んで下さった。

「……絢乃さん、実は……。僕、お父さまから一年前のクリスマスイブに頼まれていたんです。『絢乃さんのことを頼む』って。それには、生涯のパートナーとしてという意味も含まれていたんです。僕はやっとお父さまとの約束を果たすことができそうです。……こういうと、お父さまの言いなりでプロポーズをしたように思われそうですが」

「でも、貴方は貴方自身の意思でわたしとの結婚を決めたんでしょ? ホントにありがとう」

「はい。それはもちろんです」

「だったらいいの。パパのことは持ち出さないで」

 結婚を決めたのはあくまでも僕たち自身だった。お父さまがお決めになったわけではなく。


   * * * *


 その夜、絢乃さんは僕の部屋に泊まって行かれることになった。それは僕たちにとってずっと待ち焦がれていた瞬間だった。――僕と彼女が初めて体の関係を持つという。

 着替えがないというので急きょ購入したモコモコのルームウェアと真新しい下着を脱がせた時は緊張した。僕自身、女性を抱くのは美咲以来のことだったから。

 丁寧に秘部を指や舌でほぐし、避妊具を着けて挿入する時、彼女は一瞬痛そうに顔をしかめておられたが、「大丈夫、続けて」と躊躇する僕を促して下さったので、僕はそのまま行為を続けた。

「……絢乃、気持ちいい?」

 行為の間は名前を呼び捨てにしてタメ語で、という彼女のお願いを聞き入れた僕が耳元でそう訊ねると、彼女は喘ぎながら「うん」と頷いた。
 彼女の声はやっぱり艶っぽくて、僕の脳までとろかしていった。僕に抱かれるまで、ずっと一人でこんな声を漏らされていたのだ。でも、他の男に聞かれていなくてよかった。この声はこれからも一生涯ずっと僕だけのものだ。

「絢乃さん……、僕はもう……っ」

「あぁ……っ、わたしも……っ」

 大事な部分を繋げ合ったまま、僕たちは幸せな気持ちで二人同時に絶頂を迎えたのだった。 
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