『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
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片恋 -あいしている-
前書き
大剣豪が最強種と協力して強いロボットと戦うよ!!
やったね!!!
「すごいなぁ!!なんだそれ!!」
夜も更けた頃。
明日の朝食の下準備を終えた悠里とランスロットは言った通り俺たちの部屋に来た。
「伊吹童子を倒した!?アレって神様だろ?」
「僕も倒せるよ。」
「今は張り合わなくていいっての。」
なので、こうして今までの旅路を話している。
「このままではいけない。そう思ったから俺は強くなることを選んだ。」
武蔵との出会いから
「……そうして、彼らを本部まで送り届けるよう最後の任務を頼まれたわけだ。」
この前のレジスタンスの活動、そして最後に請け負った仕事まで
「そのお届け物っていうのが、そこの2人なんだな。」
「ああ。」
柏原はにこにこしたまま軽く会釈し、堂本もとりあえず頭は下げておく。
「人を届けるって、どこに?」
「エインヘリアルという、東京にある組織だ。」
「へー。」
あぐらをかいている悠理の上に、我がものと言わんばかりに座っているランスロットは、自身に注がれている視線を気にせず、興味なさげに言うのだった。
「……そんな目で見たって僕は手伝わないよ?」
「いや、この視線はそういう視線じゃないだろ…」
「じゃあどうでもいいや。まぁ僕だったらあっという間に、目にもとまらない速さで置いていくけどね」
「そういう事を、人がいる前で言うんじゃありません」
頭に軽めのチョップをかまされたランスロットは、もうと言いつつ、頬を赤らめた。
しかし、
「いや、アリだな。」
それに大和は反応を示した。
「は……え、えっ?」
「アリだと言ったんだ。目立つ事がダメならまず視認できない程のスピードで通り過ぎる。合理的かもしれない。」
彼だけじゃない。
ここにいる全員が全員大和の方へ視線をやった。
「人間二人にサーヴァント一騎。運べるか?」
「まぁね。少し頑張ってしがみついてもらえればあっという間かも。」
「す、澄まし顔の割りに随分と冗談が好きなんだなアンタ…。」
「冗談は好きだ。だが今のは本気だ。」
今の彼の眼差しは、嘘をついている目では無い。
本気の眼差しである。
1%の冗談も含まれていないと武蔵は後に語る。
「いやいや大和さん。私達の事も考えてくださいよ。身体が持ちませんよ。」
「少しの辛抱だ。なんとかならないか?」
「なりませんって。」
彼の心の中を読み、本気なのが分かったのだろう。
柏原が割と焦り気味に止めに入る。
「私は心は読めます。ですが外見は普通の人間です。特殊能力とか不思議な力もありません。本当に心が読めるだけの一般人なのです。」
「……。」
「なんですかその残念そうな顔は。」
別に早くこの仕事を済ませたい訳では無い。
この電車を降り、エインヘリアルはほぼ目と鼻の先だろう。
だが、葛城財団が何をしてくるかは分からないのだ。
下手をすれば、もう電車に乗っていることはバレていて、到着する駅で万全の準備を整えて待ち構えていたりする可能性もゼロじゃない。
最悪、線路を爆破して足止めするなんてことも…。
「大丈夫よ。」
そうして不安が胸中を行き交っていると、武蔵が肩に手を置く。
「現にこうしてバレてないのだし、それに乗組員やお客さんにも財団の人間はいないって堂本くんや柏原さんが証明済みでしょ?」
「まぁ…そうだが。」
「それに、あの執念の塊みたいな山本も死んじゃったんだし。」
「…だな。」
あいつなら、電車を止めてまで自分達を捕らえに来るだろう。
そう思い、彼は死んだのだから心配は無用かと小さくため息を吐く。
「あぁ、山本な。すごいヤバかったんだろ?」
そうして、山本については先程の旅の話でしているので悠里が反応する。
「元お勤め先のブラック上司がどこまでも付いてくるなんて、たまったもんじゃないだろ。」
「あぁ、たまったもんじゃなかった。」
過去を思い出す。
ランスロットのマスターの置鮎同様しつこく付け回してきた男、山本。
置鮎が武蔵目当てなら山本は自分目当てだった。
捕まえて矯正してやるだとかなんとか言っていたが、もう既に過ぎた事だし、何より奴は死んだ。
「そういう奴はめんどくさいな…ランスロットはどうだ?」
「それ、私に聞く?僕が剣を振るう価値がある相手なの?」
「さぁな。でも、きちんと始末つけとかないと、化けて出てくるかもな?」
その返答にうげぇとばかりに顔をしかめながら立ち上がるランスロット。
「もうお話はいいや、マスター、先に行っておくね?」
「行くってどこにだよ?」
「もう、それ言わせる気?今日こそは〝私〟をオトしてみせなよ?」
そういいながら可愛らしいウインクして部屋の扉を開けたランスロット。
その背後から、悠理が座ったまま「今日はやらねぇよ!」などと叫んでいたが聞く耳を持っていなさそうだった。
●
翌朝。
俺達を起こしたのは目覚まし時計
ではなく
「起きろ大和!!」
「…!!」
かなり慌てた様子の悠里の声だった。
「何があった?」
「窓だ窓!窓見ろ!」
そう言われ、俺と同時に飛び起きた武蔵が窓に目をやる。
「嘘でしょ…。」
呆れたような脱力するような、力無いため息を吐いた。
続けて俺も確認する。
「…。」
ため息を吐いた理由がわかった。
「嫌な予感程よく当たるとは言うが…。」
窓の外に見えるのは複数台の装甲車。
それらがこの列車と並走している。
さらに上にはヘリもいる
そしてそんな乗り物達の側面にはもう二度と見たくもなかった文字、『葛城財団』の4文字があった。
「嗅ぎ付けて来たか…。」
ひとまず部屋から出ると、同乗している乗客達はみな落ち着きがなく、不安そうに窓を見ている。
悪名高い葛城財団がこの列車を包囲しているんだ。
不安にならない方がおかしい。
「大和さん!」
「堂本、柏原。それにブーディカも。」
事の事態をいち早く察知し、とっくに行動していた彼らが俺たちの方へやってくる。
「いやぁ、嫌な予感ほどよく当たるものですね。」
やや引きつった笑顔で柏原はそう呟く。
「とりあえずここの車両以外の避難は済ませてあります。」
「助かる。」
そうして柏原達は迅速に動いてくれたようで、乗客達は前の車両の方へと避難させてくれていた。
そうしてブーディカが、この車両の乗客達を避難誘導すべく動く。
「みんなこっち!荷物は必要最低限に!どうしても必要な物だけ持って行って!!」
何があるか分からないし、いざ戦うことになったら戦えない一般人がいてはこちらが動きづらくなってしまう。
それを先読みして彼らは避難誘導をしてくれていた。
まぁ最も、奴らが来たからには戦う以外の道はほぼないようなものではあるが、
「…来た!!」
次の瞬間、隊員が窓ガラスをぶち破って転がり込んでくる。
すぐさま刀を抜き、ともかく排除させてもらう。
「やはりいたな…!竜胆大和ォ!!」
この気迫は…恐らく山本の部下だった者達だろう。
「隊長が来るまで、俺達で竜胆大和の戦力を出来るだけ削ぐ!いいな!!」
「「はい!!!」」
隊員の一人がそういい、全員がマシンガンをかまえる。
隊長?新しい上司でもついたのか?
そんなことは至極どうでもいいこと。頭の隅に追いやり、俺と武蔵は駆ける。
「覚悟ォォォォ!!!」
力の限り叫び、マシンガンを乱射しながら一人が突っ込んでくる。
相変わらず己の怪我のことは考えず、まるで特攻兵のように突っ込んでくる。
奴はもういないのに、何が彼らをここまでそうさせるのか。
「死ねぇぇぇ!!!」
マシンガンを乱射する隊員達。
弾はバラけ、狙いは俺達だけでなくこのままでは避難途中の乗客が流れ弾をくらってしまう。
しかし、
「あぶないなぁもう!!」
その流れ弾を防いだのはブーディカだった。
「ブーディカ…!!」
「こっちの事は私とマスターでなんとかする!だから流れ弾は気にしないで存分に暴れて!!」
「感謝する。」
盾で流れ弾を防ぎ、俺達が捌ききれない奴らはブーディカが始末する。
ここは彼女に甘え、後方は任せるとしよう。
そして周りを考えない奴らにはキツめのお灸だ。
「弾には弾だ。」
弾を弾き返して、こちらもお返しにと散弾銃を撃つ。
密集している為その効果は十二分に発揮された。
バラけた弾の暴力を全身に浴び、防弾ベストすら貫通して奴らを吹き飛ばす。
しかしその程度で奴らは倒れない。
持ち前の根性で立ち上がり、また突撃してくる。
腕や足が折れた程度なんだと言わんばかりの気迫で、まるで親の仇のように襲いかかってくるのは恐怖すら覚える。
まぁそれも昔の話だが。
「ほんっとにもう!なんなのコイツら!!」
気迫とかガッツだとか、そういったものがどれだけあっても強さの差は埋められない。
無策に突っ込んできた隊員は武蔵が斬り捨てる。
「まだだあぁぁぁぁぁ!!!!!」
倒しても後続が控えている。
次々にやってくる隊員。
文字通り仲間の屍を越え、恐れることも無く突っ込んでくる。
斬りかからんと走る俺と武蔵。
そんな戦闘が始まるその瞬間。
「ふわぁ…。」
間の抜けた欠伸が聞こえた。
「…?」
「お前…。」
欠伸の正体はランスロット。
今まさに戦闘を開始しようとした最中、部屋から欠伸をしながら寝ぼけ眼で出てきた。
あまりの呑気さに俺や武蔵。そして隊員達も思わず止まってしまう。
「なんだか騒がしいけど…どうしたの?」
「…見ての通りだ。」
「……。」
俺達を見、隊員を見、それから窓に目をやる。
「葛城財団、だよね?今何時だと思ってるの?五時前だよ?あんまり騒がしくしないでもら」
「そういう場合じゃないっつーの!!!」
「あいた。」
まだ寝ぼけているランスロットに悠里から後頭部へのチョップ。
「なに?マスター。」
「このお馬鹿ドラゴン!!財団来てるっつったろ!?さっき起こしたよな!?何ちゃっかり二度寝決め込んでんだよ!!今ヤバいの!!二度寝していい状況じゃないの!!」
と、緊迫した空気の中2人のユルいやり取りが始まる。
「僕としてはまだぐっすり寝ていたんだ。もう少し寝かせてよ。そしたら相手してあげるから。」
「相手は待ってくれないから!!下手したら捕まんの!!いい!?分かった!?」
「そこまで言うなら…。」
と、渋々ランスロットは起きることにする。
瞬時に鎧に着替え、己の睡眠を邪魔した財団達を睨み付けた。
「昨日も夜通し交わったから十分に寝れてないんだ。そんな竜の睡眠を邪魔したんだから、タダで帰れるなんて思わないことだね。」
「それはお前の責任だろ…。」
寝起きにも関わらず、その視線は先程まで欠伸をしていた状態とは思えないほど絞られていた。
「妖精騎士ランスロット……行くよ」
そうランスロットの凛とした声が響いたとほぼ同時に、俺達の近くにいた、財団の兵士達のマシンガンが真っ二つに斬れた。その数、5丁を越えた。
「嘘だろ!?」
「ここは戦場だろう?僕に斬られるくらいに棒立ちしてる方が不味くない?」
そうして、ランスロットの乱入という、冷水を被った後の戦場は、更なる業火によって激化した。
「…では改めて、覚悟!!」
加勢に乗っかる形で戦闘を再開。
隊員達は律儀に雄叫びを上げながら突撃して来た。
「ぐあぁっ!!」
少し緩んだ空気はいつものように張り詰める。
迫り来る隊員は次々に斬り捨てる。
隣の武蔵もそうだ、
刃物のように冷たい表情で、無慈悲に斬っていく。
「…。」
横にちらりと目をやる。
そこにいるのは悠里、そしてサーヴァントのランスロット。
「こいつ、早す──」
〝凄まじい〟の一言だった。
隊員の一人が言い切る前に懐に潜り込み、その手甲で殴りつける。
小さい身体だが、その分速い。
さらにその上、攻撃も重い。
今の殴打で大の大人が吹っ飛び、列車の壁をへこませた。
「こっちのマスターはいくらか弱い!!サーヴァントを攻めるな!マスターから殺──」
「させない。」
手甲からブレードが展開し、目にも止まらぬ早さでマスターに銃を向ける隊員に襲い掛かる。
瞬間、彼らの銃は細切れに。
唖然とする隊員達。
いつの間にか背後にいるランスロットに気付き、ナイフで接近戦を挑もうとする。
だが、
「あ…れ…?」
「ぐ…がはっ!?」
気付かぬうちに切り裂かれていた腹部から血を流し、倒れた。
「僕、強いでしょ。」
と、横目で見ていた俺に気付き、自慢げにウインクする。
「ああ、強い。」
やってくる隊員を斬り捨て、そう返した。
「私も強いですけどね!!!!」
「分かっている。」
負けていられないと武蔵も次々に倒していく。
「面白いね。じゃあ僕とどっちが強いか競争してみる?」
「臨むところ!!」
ランスロットに勝負を吹っ掛けられ、可哀想なくらい隊員が何も出来ず死んでいく。
「まだまだァ!!」
ふたりが片付けてくれているとはいえ、まだ隊員はいる。
慈悲はくれてやらない。
いや、殺し切ることが慈悲とも言えるだろうか?
何も成せずおめおめと帰れば即死刑。
そして殺されれば無茶苦茶な上司からの解放。
なら、殺す方が優しいのではと思えてしまう。
そうして襲い来る隊員達を難なく斬り捨てていると、
「…!!」
一際大きなヘリの音。
その直後、
「!!」
天井を突き破り、何かが落下してきた。
巻き上げられた煙に顔を覆い、目を細めて正体を確認しようとする。
武蔵は、
「…なに、あれ…。」
煙の先に何かを見たらしい。
段々と晴れ、俺もソレが何か視認できるようになる。
そこにいたのは
「…機械…ロボットか?」
真っ黒な鋼の身体。
大きさは2.5メートル程、
足は短く胴体は寸胴体系。
しかし腕部は長く、武器が備え付けられている。
それはまさに、誰がどう見ても『ロボット』と呼べる代物だった。
だが、
「どんなビックリドッキリメカかは知らないが…!」
斬る。
どんな新兵器かは知らないが、お披露目する前に遠慮なく斬らせてもらう。
俺と武蔵、左右から斬りかかるも
「!!」
すさまじい反応速度で両腕が挙げられ、手の甲で受け止められる。
散る火花。
そしてロボットはその頭をゆっくりと俺の方へ向けた。
「…!」
頭部が開き、カメラのレンズのような単眼があらわになる。
レンズが絞られ、俺を凝視する謎のロボット。
そして、
「会いたかったぞ…〝大和〟」
スピーカーから発せられた声。
音質が悪く、くぐもっているが聞いたことのある声。
いや…聞きたくなかった声。もう二度と聞くことは無いと思っていた声。
「分かるか…?俺の事が。例え冷たい黒鉄の身体に身を包んだとしても、俺の温もりが分かるんだな…。」
聞き間違いではない。
コイツは…
「地獄へ帰れ…!!」
すかさず散弾銃を取り出し、撃つ。
奴は頭の装甲を瞬時に閉じ、弾丸の直撃を回避。
それから腕を振るい俺と武蔵を弾き飛ばした。
「!!」
吹っ飛び、なんとか姿勢を整えて着地。
すると俺と武蔵の間を走り抜け、ランスロットがロボットに突っ込む。
その手甲から繰り出される無数のパンチ。
奴は腕部でガードするが、
「ランスロット!!」
悠里が気付く。
ロボットの背中、そこから黒く光るガトリングの銃口が彼女に照準を合わせていることに。
「知ってる!!」
銃身が高速回転し、火を吹くガトリング。
咄嗟に横に飛びかわすと、そいつは直ぐに撃つことをやめた。
「……。」
そうして、再び頭部のフレームが展開し、カメラのレンズが俺を睨み付ける。
「久しぶりだな…会いたくて会いたくて仕方がなかったぞ…大和。」
「俺は会いたくなくて仕方がなかったが……というより…。」
奴は、山本は死んだ。
死に目には会えなかったものの、武蔵は山本は死んだと言っていた。
しかし目の前にいるロボットは、山本だ。
そして、言った本人である武蔵の方を見る
「武蔵…アレはなんだ?」
「何って言われても…確かに死んだのよ、アイツ…。」
困惑。
その二文字が顔に刻まれていた。
「おかしいじゃない…そもそも街一つ飲み込む程の自爆をしたのよ?アレで死なないって本当に化け物だとしか…。」
「ウダウダと抜かすな〝泥棒猫〟風情が。」
「どっ!?泥棒猫!?」
武蔵は食べ物や金銭に関しては卑しいが、さすがに泥棒まではしない。
しかし、泥棒猫とは…?
人の男を取るような真似はしていないしそんな逸話もないが。
にしても、このロボットと化して帰ってきた山本、
何やら様子がおかしい。
「待っていろ大和。すぐにそこの目障りな女を倒して、また昔のように2人で仕事をしよう。あの忘れられない幸せな毎日を、また過ごすんだ。」
「……。」
怖気が走る。
話し方も変だ。
怒鳴るような、怒りを交えたようなものではない。
優しく語りかけるような、子供でもあやしているみたいな話し方だ。
気持ちが悪い。
「俺はゴメンだ。」
「冷たいな…昔とは大違いだ。そうか、そこのアバズレ女がお前を変えたんだな…!そうだな?そうなんだろう?」
さっきから泥棒猫だのアバズレ女だの、
随分と武蔵を好き勝手言ってくれる。
「俺の大和を…返せェェェェェーーーーーッ!!!」
「!!」
その直後、奴が背中のブースターを全開にし、真っ直ぐ突っ込んで来た。
狙いは俺では無い。
「ぐっ…!!」
武蔵だ。
「俺の大和を!!よくもぉぉぉ!!!!」
「大和くんはアンタのものじゃない!!」
図体はでかいがその速さは凄まじいものだった。
山本が固執するのはいつも俺。
その事もあってか武蔵は一瞬反応が遅れ、突進してきた山本を避けることが出来ず、こうしてなんとか刀で受け止めている。
「…ッ!!」
「ほう?その程度か泥棒猫。やはり俺の〝愛〟の方が上だったなァ!!」
「さっきっから…何を訳の分からないことを…!!」
ブースターがさらに吹かし、武蔵がドンドン押されていく。
このままでは危ない。
「そこまでだ。」
刀を鞘のメイスに収め、そのままぶん殴る。
斬撃が効かないのなら打撃。
鋼の身体は斬り裂けなくともへこませる事は可能なハズだ。
下から振り上げ、腕部をかち上げる。
バランスが崩れ、胴体がお留守になったところで
「…!!」
「これは効くぞ。」
散弾銃を押し当て、そのまま何度もトリガーを引いた。
ゼロ距離でとびきりの魔力を込めた弾は装甲にダメージを与える。
まずいと思ったのか、山本はバックステップで距離を取り、ひとまず体勢を整えた。
しかしそこで
「おい…アレって…。」
「…!」
ヒビ割れた装甲の一部。
そこが崩れ内部があらわになるが、それを見た悠里とランスロットは驚愕の表情を浮かべた。
「…?」
目をこらすと、
人の頭のようなものが見えた。
「お前に見せるのは恥ずかしいが、仕方がない。見せてやろう。」
そう言うと山本は胴体の装甲を展開。
内部の様子が明らかになるが、そこにあるのは精密機器などではなく…
「これが、今の俺だ。」
培養ポッドのようなものに入れられた、手足の無い老人がいた。
表情はなく、体の至る所にはコードが突き刺さっている。
ソレはロボットのパイロットではなく、まるで〝部品〟のような扱いだった。
「今の俺…だと?」
「そうだ。そこの泥棒猫の言う通り、確かに俺はあそこで自爆した。」
どうやら、自爆したのは本当のようだ。
武蔵は嘘は付いていない。
しかし、
「俺は奇跡的に生還したのだ。しかし手足は無くなり、身体も80代の老人とさほど変わらないものへとなってしまった。」
奴は、生き残った。
「俺は、ここであることに気がついたんだ。」
「俺を殺す。そうだろう?」
俺の返答に対して、山本は首を横に振る。
「そうだが、違う。俺の真の目的はだな…大和、お前を愛する事にあるのだと気付いたんだ。」
……?
理解が追いつかない。
おそらくここにいる誰もが、その飛躍し過ぎた思考に追い付けていない。
「仕事のできないお前に対し、俺はいつも真摯に向き合っていた。気付けばお前のことばかり考えていたし、仕事の時も飲みに行く時もいつも一緒だった…。」
何か懐かしむように思い出を語るがこちらは少しも思い出したくもないし長話に付き合っている暇もない。
「そこで気付いたんだ。お前に抱く感情は〝憎しみ〟なんかじゃない。〝愛〟なんだと。」
「……。」
「叱るのも〝愛〟ゆえ。殴るのも〝愛〟ゆえ。若者言葉で言うパワハラとやらも〝愛〟ゆえ!
本気で嫌いならば、1秒たりともお前と一緒にいたくないはず。しかし、会社にいる時はほとんど一緒だ。俺は気付いたのだ。お前に対するこの大きな感情は、混じり気のない純粋な〝愛〟なのだと…!!」
言葉が出ない。
俺を愛する?どの口が言っている。
叱咤するのは愛ゆえ?
殴りつけるのも愛ゆえ?
ふざけるな。いつの時代の教師だ。
「笑えるね。そんな愛。」
と、半ば引いているとランスロットが前に出た。
「痛みをもたらすことが愛?人に不快な思いをさせることが愛している証明?だいぶ自己中心的な愛し方。聞いてるだけで反吐が出るよ。」
「なんだ貴様。女は黙っていろ!!俺と大和の男の領域に入るんじゃ」
「いいや黙らないね!!!」
ぴしゃりと黙らせる。
「彼から聞いたよ。昔も今も、死ぬほど迷惑かけてるんだってね。そんな一方通行な愛し方、僕が否定してあげるよ!!」
と、啖呵をきったランスロット。
それに対し山本も黙ってはいられず
「まだケツの青いガキが!!大人の恋愛に口出しするんじゃ、ねぇぇぇぇーーーーーーッ!!!」
本体を収納し、その剛腕を彼女めがけ叩き下ろした。
「!!」
咄嗟に横へ跳ねるランスロット。
拳を握りしめ、すぐさま手甲の殴打によるカウンターを打ち込んだ。
「はは!!効かん!!効かんなぁガキのお遊戯なんぞ!!」
ランスロットは顔をしかめる。
攻撃は内部までに届いてはおらず、さらにその装甲は並大抵のものでは無いらしい。
「武蔵、ランスロットを援護するぞ。1秒でも早くあいつを片付けたい。」
「同意見!!」
目に入れたくない、耳にもしたくない。
こんなやつは即刻この電車から降りてもらう。
そう思い地を蹴って、俺と武蔵はロボットと化した山本に斬りかかった。
「俺に近付いてきたな!!好きだぞ!!大和!!」
「近付かないと、お前を殺せない。」
「成程!!殺したいほどに愛しているというヤツだな!!相変わらず可愛いやつめ!!全力で愛してやる!!」
背中のガトリングがこちらを向く。
放たれる弾丸の嵐。
避けはしない。全て斬る。
「ッ!!」
「何故だ!!どうしてだ大和!!上司からの弾丸を、何故身体で受け止めようとしない!!マナーがなっとらんぞ。」
言葉は返さない。
返すだけ気持ちの悪い答えが帰ってくるだけだから。
それにこの程度、避けようと思えば避けられる。
あえて攻撃を受け流したのは、俺自身を目立たせるため。
「恋は盲目、なんてよく言ったものね!!」
案の定、俺に夢中になるあまりヤツは後ろへ回り込んだ武蔵に気付かない。
「はぁッ!!」
背後から斬りつける。
装甲はあるものの、全面に比べれば薄い。
それに武蔵はバックパックを斬った。
「!!」
斬り裂かれたバックパック、もといブースターはショートし爆発。
これで高速移動の手段は奪えた。
だが、
「フンッ!!」
胸部の一部と膝の装甲が展開。
そこから出てきたブースターが火を吹き、後ろへと急速に下がっていく。
それはつまり、
「!!」
背後にいる武蔵を巻き込んで下がっていくことになる。
「が…ぐぅ…っ!!」
そうして突撃され、武蔵は奴の背中と壁に挟まれる形となってしまった。
「この…っ!!」
「フハハハハ!!!このまま押し潰してやる!!死ねぇ泥棒猫!!俺から大和を取ったことを後悔しながらなァ!!」
山本がさらにバーニアを吹かす。
このままでは危ない。武蔵が潰されてしまう。
「武蔵!!」
「助けになぞ行かせんぞ!!」
援護に向かおうとするが、山本は背中のガトリングと両腕を前へ突き出す。
両腕の装甲の一部がせり上がり、出てきたのは機関砲。
背中のガトリング、そして両腕の機関砲からの一斉射撃により、接近は困難となった。
「これは…参ったな!!」
ガトリングだけなら捌き切れた。
だが機関砲が2つも追加されるとかなり厳しい。
しかし
「させないよ。」
その高速で迫り来る弾丸の嵐。
それらの隙間をさらに高速で走り抜けていくのはランスロット。
「この…ガキめ…!!」
「ごめんね。ガキはガキでも、キミより恋愛達者なんだよ、ねッ!!」
嵐をくぐりぬけ、ランスロットはそのまま真正面から激突する。
「相変わらず…硬いね。」
「当然だ。大和への愛で出来たこの鋼の身体、ナメてもらっちゃ困る!!」
「ふぅん…そう。」
拮抗する両者。
サーヴァントの突進を受けてもなお留まった山本のパワーも大したもの
さて、ここからどうするべきか。
俺も動いて加勢するべきかと考えたその時、
「…じゃあここはどうかな?」
「…!」
瞬間、ランスロットが消えた。
いや、消えたわけじゃない。
消えたと錯覚するほどのスピードで攻撃に転じ、距離を取ったのだ。
「ぐおぉっ!?」
直後、山本が片膝を付いた。
よく見れば膝のブースターが損傷し、バチバチとショートしている。
そうか…脚を…!
「クソガキがぁぁ…!何をしたァ!!」
「そんな鉄臭い身体になっても、弱点は人体と変わらないね。関節は愛じゃどうにもならなかったみたいだ。」
ランスロットが引き際に斬り裂いたのは脚部。正確には膝。つまりは関節を斬ったのだ。
いくら鎧が堅牢だとしても、関節部分は可動域の都合上守ることができない。
なら、刃でも十分なダメージは通る。
「いい加減…どけぇッ!!」
「ぐあぁっ!?」
脚部の関節を破壊され、ブースターも停止。
そこで武蔵も反撃に出る。
フレームの隙間から首元に刀を突き立て、深刻なダメージを与えた。
さらに
「それも邪魔!!」
「!?」
山本を蹴飛ばして抜け出せる隙間を作り、上へと跳ぶ。
そうしてすれ違いざまに背中とガトリングを繋ぐサブアームを叩き斬った。
「あ、ああ!あああああ!!!」
刺された首元からは何やらオイルのようなものが漏れ、慌てて抑えて止めようとしている。
「この…泥棒猫がァァァァァ!!!!」
空いている右手を振り上げる。
拳を握り締めると肘部分から杭が伸張。
成程、ロマン溢れるパイルバンカーまで備えているらしい。
「死にやがれぇぇぇーーーーーっ!!!」
しかし、そんなウスノロな攻撃を食らってあげるほど武蔵も呑気では無い。
「!!」
目にも止まらぬ斬撃。
その一瞬で奴の腕を、その脆い関節を斬り捨てた。
「あ…ぐあぁぁぁぁっ!?」
肘から先が消失し、慌てふためく山本。
「何が〝愛している〟だ!何が〝抱きしめてやる〟だ!」
続けざまに、無防備になった胴体に二刀が叩きつけられる。
「さんざん苦しめておいてそれが〝愛〟!?聞いて笑わせる!!お前程度に愛を語る資格なし!!よって斬る!!」
斬る、斬る、斬る、斬る。
火花を散らしながら弾かれるも、武蔵はそれでも斬る。
装甲は、へこみつつある。
段々と限界を迎えつつある。
「僕も混ぜてよ。」
さらに追い打ちをかけるかのごとく、ランスロットも加わる。
斬撃と殴打の嵐。
何もすることが出来ない山本は、ただ己の耐久性に祈るのみ。
だが神は残酷だ。
そんな彼の儚い願いを嘲笑うかのように、
「あ、あぁっ!!」
装甲はひしゃげ、剥がれ、ついに本体の入っている培養ポッドがあらわになった。
「やめろ!見るな!見ないでくれ大和!!こんな恥ずかしい姿!お前に見せたくはなかった…!!」
割れないあたり一応は強化ガラスなのだろう。
しかし、サーヴァント二騎の攻撃を受け続けられるほど頑丈ではないらしい。
やがてヒビが入り、中に満たされた液体が零れ出ていく。
「ランスロット!!」
そうしていると、背後から悠里の声。
「最後尾までヤツを押し出せ!!」
「…?」
「保管庫だ!!そこに米粉があったろ!!」
「……あぁ。そういうこと。」
マスターの声に、瞬時に何かを理解したランスロット。
そうして彼女は、
「それじゃあ、あとは僕の仕事。」
ブレードを展開し、山本に突き刺すと。
「!!」
そのまま最後尾の車両まで突き進んで行った。
「あの巨体を…!?」
「あの馬鹿力…小さな身体のどこから出ているんだろうな…。」
マスターの声を聞き、ランスロットは何をするつもりなのか。
彼女の身体能力の高さに感心しつつも、俺と武蔵は彼女の行動の真意を確かめるべく、後を追うことにした。
「ぐ、ぐおおおおおおおおおお!?」
辺りのものを破壊しながら、ランスロットと山本は次々と車両を通り過ぎていく。
そうして最後尾の車両に辿り着くと、ランスロットはブレードを収納し、山本を強引に投げ出した。
「あっ、がぁっ!!」
乱暴に放り投げられ、そこに積まれていた何十もの袋が巻き込まれて破けてしまう。
「ま、前が…クソっ!!目くらましか!!」
中身の粉が舞い上がり、周囲が見えなくなる。
その正体は米粉。
新人のコックが誤発注して大量にあった米粉である。
「くそ!!どこだ!!どこにいるクソガキィ!!!」
カメラアイはアテにならない。
なので山本は残った片腕をがむしゃらに振り回し、どこかにいるだろうランスロットを捕まえようとする。
そうしている際にも、また袋を破り、中身の米粉が次々に舞い上がりさらに視界は悪くなる始末。
それになにより、
「ここだよ。」
ランスロットはそこにはいない。
「!!」
舞い上がる粉の中、かろうじて見えたのはちょうど列車の連結部に立つランスロット。
「じゃあね!!迷惑客はここで降りてもらう!!」
手を伸ばす山本。
しかしそれよりも先にランスロットは真下、連結部を思い切り殴りつけた。
「!!」
ガチャンという連結部が破壊された音。
離れていく車両。
切り離されてしまった。
列車が、ランスロットが、愛する大和がどんどん離れていく。
「貴様ァァァァァァァァ!!!!!」
俺と大和の仲を引き裂く、ムカつくクソガキ。
そんなクソガキに一矢報いるべく、車両へ戻ろうと壊れている背中のバックパックを点火。
バチバチと火花が散りつつも、なんとか機能は生きていた。
しかし、それがいけなかった。
前述したが、山本が暴れたせいでその車両には粉が舞い上がっている。
これの目的は、視界を遮るためのものでは無い。
「なっ…!?」
ヤツを倒すためのもの。火器を用いた際の罠である。
瞬間、山本の視界は強烈な光に包まれ、切り離された車両ごと大爆発を起こした。
「…。」
「あれは…!!」
遅れてやってきた2人、
黒煙立ち上る車両を見て唖然としていた。
「粉塵爆発だよ。」
「…!」
そうして最後にやってきた悠里が説明を始める。
「後ろの方に大量に米粉が積んであるのを思い出してな。あのロボットを倒しきるにはそれが一番かと思ったんだ。」
「なるほど…。」
大量にまかれた米粉。
それらはブースター点火の際引火し、爆発したのだ。
「ふふん。あの一瞬でマスターの意図を読み取ったんだ。これはもう相思相愛の仲だからできる事だよね。」
「あーはいはい。」
そうして、ランスロットは誇らしげに胸を張り、悠里も満更でもなさそうに頭を撫でる。
しかし、
「戦いが終わってこういうことを聞くのもなんだが…。」
「?」
「足りるのか?飯は。」
「……。」
悠里のランスロットを撫でる手が止まる。
「朝食は…平気だ。もう昨日の晩に仕込んだから、リクエスト通りうどんは食べられる。食べられるとも。」
「昼は?」
「……。」
ランスロットの頭に置かれていた手が、己の頭に移動する。
難しい顔。これは完全に〝やっちまった〟という顔だ。
「ど、どっかで止まって補給とかあるんじゃないか?」
「ないらしい。」
「…本当に?」
「本当だ。」
腕を組み、悩む悠里。
「…ランスロット。」
「なに?」
「何か、あったかな…?」
「この前拾った種火くらいしかないよ。銀色の。」
「種火かぁ…。」
そうして朝の騒動はなんとか幕を閉じた。
気が付けば並走していた装甲車も姿を消している。
山本を回収しに行ったのだろうか?
しかし驚いた。
まさか山本が、ロボットになってまで俺を追ってくるとは。
さらにどう拗れればああなるのか、俺を愛していると告白までしてきた。
当然お断りだ。
「とりあえず戻ろう。できる範囲で手伝うさ。」
「サンキュ……。」
そうして黒煙を上げる車両が見えなくなるのを確認し、俺達は戻って朝食の仕込みを手伝う事にする。
山本は退けた。
そう、あくまで退けただけ。
自爆しても生き残ってきたとんでもないヤツだ。
絶対アイツはまた、地獄の淵から必ず戻ってくる。
嫌な予感がしつつも、とりあえずは束の間の安心に身を委ねるのだった。
後書き
かいせつ
●試作型自律英霊兵『Y-02A』
葛城財団の技術を結集して作られたロボット。
英霊を胴体部に収納する予定だったが実験として隊長の山本を使うことに。
武装は背中のガトリングガン、両腕部のシールドと機関砲にパイルバンカー。
短足で寸胴体型なため鈍重そうに見えるが各所に配置されたブースターのおかげで俊敏かつ小回りの効く動きが可能となっている。
●山本が何故おかしくなったか。
スパルタクスの霊基を移植されたため。
レジスタンス跡地で戦った時から様子がおかしく、愛だのなんだのと叫んでいたが自爆後さらにそれが変にこじれてしまった。
憎さ余って可愛さ百倍という言葉があるが、その逆も有り得るのかもしれない。
大和を憎む気持ちがそのスパルタクスの愛と結び付き、竜胆大和=愛すべき存在となってしまったのかもしれないと研究員は推測している。
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