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トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~

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抑えきれない想い ①

 ――こうして、絢乃会長と会長秘書である僕・桐島貢の多忙な毎日が始まった。
 
 会長は就任当日の午後から意欲的に取材を受けられ、その媒体(ばいたい)は新聞社・経済誌・ニュースサイトから果てはTV局まで多岐に渡った。学校が忌引きでお休みの時はほぼ一日中、それが明けてからは加奈子さんと交代された夕方から退勤までの間、受け得る限りの取材をこなしておられた。

 彼女はどんな質問にも真摯に受け答えされていたが、あまりにもプライバシーに踏み込まれるような質問が来ると、「取材はここまでです」と僕が途中で打ち切ることもあった。
 中には、「その取材はおやめになった方が……」と僕がストップをかけた取材もあったが、彼女から「お願い、受けさせて」と言われてしまったら僕もそれ以上ダメだとは言えず。
 ――それが、TVのニュース番組の取材だった。

「――会長、TVの報道番組から取材の申し込みがあったんですが、どうされますか?」

 それは絢乃さんが会長に就任された半月ほど後のことだった。その頃は放課後からの出社だった彼女に、僕は午前中に受けていた取材交渉の電話のことをお伝えした。

「報道番組? それって全国ネットの?」

「はい。夕方のニュース番組で、若手経営者の特集を組みたいとかで。絢乃会長をその第一弾に、と」

「へぇ……。でも、わたしなんかが第一弾でいいのかな? 自分の力で起業した人もいっぱいいるのに」 

 彼女は困ったようにおっしゃったが、どうも取材を受けることには前向きなようだった。そうなれば、お悩みの彼女の背中をうまく押して差し上げるのが秘書として、そして彼女を愛する一人の男としての僕の役目だと思った。

「…………会長は、お受けしたいんですね? 何か引っかかっていることがおありなんですか?」

「うん、受けたいとは思ってるよ。ただ、社内にTVカメラが入るとなると、社員のみなさんのプライバシーにどこまで配慮してもらえるかな……と思って」

「かしこまりました。それも含めて、局に僕から連絡しておきます。一度打ち合わせも兼ねて、TV局の方をお呼びしましょう」

「そうしてくれる? ありがと!」

 ――というわけで、TV局の人と実際にお話をしてから取材をお受けするかどうか決めましょう、ということになった。
 ご自身がTVに映られることにもまだ抵抗はあったと思うのだが、それよりも社員のプライバシーのことを心配されるなんて、絢乃会長は本当に優しくて社員思いな方だなぁと僕は思ったのだった。


   * * * *


 ――翌日の夕方、TV局の女性記者が時間を作って篠沢商事の会長室を訪ねて来て下さった。

「この度は取材を申し込んで下さってありがとうございます。会長の篠沢絢乃です」

「会長秘書の桐島と申します」

 自己紹介と名刺の交換を終えると(絢乃会長の名刺は、この日やっと刷り上がったものが届いたのだ)、僕はさっそく本題に入った。

「実はですね、今日ここへおいで頂きましたのは、会長から取材を受けるにあたり質問させて頂きたいことがあるからなんです」

「質問ですか?」

「ええ。桐島から取材の概要は伺いました。今回はわたしへのインタビューだけじゃなく、社内の様子も撮影したいということでしたが、当然そのカメラに一般社員の顔も映り込むこともありますよね? それで、社員たちのプライバシーにはどの程度まで配慮して頂けるんでしょうか?」

 絢乃さんの質問を隣で聞きながら、僕は考えていた。この取材、お断りした方がいいのかもしれないな、と。
 これはあくまでも僕の偏見でしかないのかもしれないが、TVの関係者は「カメラに映ってなんぼ」という考え方をする人が多い。それは芸能人でも一般人でも同じことだ。「TVに映れたならラッキー、それでいいじゃないか」ということである。
 もちろん、業界人のみんながみんなそんな考え方をしているわけではないだろう。この女性記者は報道部の人だから、そんなバラエティー番組のノリで取材をしたりはしないだろうが、局の上層部にはそういう考え方の人もいるかもしれない。それでウチの大事な社員たち――僕にしてみれば大事な同僚や先輩たちだ――のプライバシーを(ないがし)ろにされてはたまったもんじゃないと思った。

「もしそうなった場合は、映り込んでしまった社員さんのお顔にぼかしを入れるなどの加工をさせて頂きますので。あくまでも取材対象は会長お一人ですから。――桐島さんのお顔にぼかしは必要ですか?」

「いえ、この人の顔は映っちゃって大丈夫です。ね、桐島さん?」

 ……にゃろう、と僕は思ってしまった。会長相手だから口に出しては言えないが、せめて僕の意思を確かめたうえで返事してほしかったな……。

「……はぁ、まあ。会長と僕は二人1セットみたいなものなんで」

 ボスが先に返事してしまったら、僕はこう答えるしかないじゃないか。


 ――というようなやり取りがあり、絢乃会長はすっかり取材をお受けする気になっておられたのだが。

「…………会長、僕はこのTVの取材、お断りした方がいいんじゃないかと思うんですが」

「どうして?」

 僕が呈した苦言に、絢乃さんは首を傾げられた。が、それにはちゃんと理由があったのだ。
 彼女はこの頃まだSNSをやっておられなかったが、僕はバリバリやっていた。就任会見の動画はSNSでも拡散されていたようで、そこに書き込まれていたコメントは好意的なものが多かったが、中には攻撃的なコメントもいくつか書き込まれていた。


『女子高生が会長とか、お嬢さまの道楽かよww』

『どうせ「可愛い」って言われてチヤホヤされたいだけだろ』


 ――僕はこれらのコメントのことを、彼女にはお伝えしていなかった。秘書として、また彼女に想いを寄せる男として彼女の笑顔を奪うようなことはしたくなかったのだ。

「TVに出て悪目立ちするのは、会長の本望ではないでしょう? 僕は反対です。雑誌の誌面などはともかく、TVは多くの人の目に留まりやすいんですよ? それだけ悪意に晒される可能性が高いということです」

「……貴方がわたしのことを心配して言ってくれてるのは分かるよ。でも全国ネットだよ? ウチのグループのこと、全国の人に知ってもらえるチャンスでもあるんだよ? だったら、多少のリスクを抱えてもわたしは受けたい。だからお願い、受けさせて」

「……………………分かりました。 会長がそこまでおっしゃるなら、お受けしましょう」

 加奈子さんがおっしゃっていたが、絢乃さんにはお父さまに似て頑固なところがおありらしい。一度言い出したら聞かないというか、なかなか引っ込めないらしいのだと。
 わがままな上司というのは迷惑このうえない存在だし、僕ももう()()りだと思っていたが、絢乃会長の場合は可愛いからまだ許容できる。

「えっ、ホントにいいの? よかった! 桐島さん、ありがとね!」

 ――こうして彼女が笑顔を花を咲かせるたび、僕は彼女に対して抑えきれない恋心を募らせていく。ただの同僚となら何ということもないオフィスラブも、上司――それも雲の上の人が相手だと後ろめたくなる。ましてや相手はまだ未成年で、おいそれと手を出せない。
 それプラス、僕は心に〝女性不信〟という厄介な爆弾を抱えていたので、彼女が僕に想いを寄せているような素振りを見せられても果たしてそれが本物なのかと、どうしても穿(うが)った見方しかできなかった。

 ――この想いを自分の中でどう消化していけばいいのか、この頃の僕は悶々とした毎日を送っていたのだった。 
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