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思惑の色は――紅

作者:間宮卓郎
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第2話 餌食

 使い魔たるべき己のサーヴァントから、強姦まがいの口づけを交わされた翌々日――今度は自室のベッドの上で、凛は蹂躙を受けた。
 寝込みを襲われたのである。
「あ……アーチャ――あっ!……ああ……っん!」
 気づけば、いつの間にかパジャマは脱がされていた。いや、目が醒めた時には辛うじて着ていた筈なのだが、恐るべき早業で剥かれてしまったのだ。抵抗する暇も与えられず、さらにはショーツもずり下ろされ、凛はアーチャーの首を何も身に着けぬ双脚で抱き締めているような体勢を取らされた。そして、その卑劣漢の舌によって、陰唇の形をなぞられてしまっていた。
「ん、ん……あ……やめ……やめて、アーチャー。今すぐ、ぅ……やめなさい!」
 男を悦ばせるための声ばかりが洩れる咽喉から、彼女は無理やり強い意思の籠もった声を絞り出した。だが、アーチャーはマスターである少女の下半身にしっかりと組みつき、股を広げさせ、性器を貪り続ける。全身を捩り、男のオールバックの頭を両手で股間から引き剥がそうとしても、微動だにしない。
「や、ぁ……め……ん、く……っ!」
 舐め回されているところが、割れ目が、熱く濡れてきた。同時に、手足にうまく力が入らなくなってくる。凛はシーツを両手に巻きつけるようにして引っ張り、歯を喰いしばった。心が、自分自身の気持ちが何かを求め、必死になっているのを感じたが、それが何なのかがよく分からない。
 アーチャーは女の秘められた欲情を引き出す業に長けていた。彼は女性器を舌や唇で意地悪く刺激しながら、その下半身を力強く抱き固めている。と同時に、腰回りの性感帯を肉ごと掴んで圧迫していた……それで女は、暴れれば暴れるほど昂ぶることになる。事実、掴みによる痛みで痺れていた凛の両脚や腰が、次第に心地よく蕩けるような感覚に満たされていったのである。
「あ……う……ううん……」
 アーチャーの毒牙が凛を熱く火照らせ、彼女の肉体を従順になるよう躾けてゆく。必死の抵抗を空しい藻掻きに変えてゆく。
「う……くっ……、……くううううぅっ!」
 淫核に吸いつかれた。凛の瞳に、羞恥の涙が滲む。乙女の身体の中でも、特に重要な場所、男になど触られたくもない部分を、直接に、舌で、口で、執拗に穢されてゆくことによる、苦悶。
 凛は、あのキスの夜の後も、アーチャーの淫猥な行為に悩まされていた。具体的には一晩明けた朝、つまり昨日の朝からだったが――本人の口上どおり、どうやらアーチャーはこの遠坂邸を夜通し見張っていたようだった。
 だが、凛が彼の警告を無視して学校に登校すると、たちまちマスターに対する不埒を開始したのである。
 まず、授業中の教室で、彼女の身体をいやらしく刺激し始めた。
 凛が自分の席で座ってなければならないことにつけこみ、その乳房や太腿、股間を、アーチャーは霊体化で姿を消したまま指先で触り、撫で、擦る。ちょっとした弾みで実体化しかねない状況だった。アーチャーは当然、慎重に、かつ静かに振る舞っていたが、凛もまた下手に動けない。魔術の粋を凝らした産物であるサーヴァントの存在が周囲に知れることで、まずい立場に追い込まれるのはむしろ彼女のほうだからだ。
 そして、アーチャーもそれを分かっているからこそ、しつこく、冷静に凛をいたぶり続けた。抑えがたい劣情を擦りつけるように。3時間目の教師が、顔を真っ赤にして苦しげな凛を見兼ねて保健室に行くことを勧めたが、彼女は席を立たなかった。こんな時にベッドの上で寝たりしたなら、それこそ何をされるか分からないと思ったのだ。
 休憩時間、昼休み……アーチャーは纏わりつくのをやめなかった。あまつさえ、トイレの中にまで侵入し、実体化してきた。
 それからの数分間は、まさに地獄だった。想起するだけで脳が灼けそうになる。
 まず、驚いて洋式便座から立ち上がろうとする凛を、アーチャーは強引に座り直させた。小用直前、ストッキングもショーツもずり下げ、陰部を丸出しにしていた時にである。さらに、ぎりぎりで失禁を抑えている陰部に触ろうとしてきたため、凛は咄嗟に両手でそこを隠した。
 容赦なく、アーチャーは胸元へと攻め手を変えた。漏らしかけ、思うように動けないでいる少女の身体を便座へ抑えつけたまま、小器用に襟首のリボンを外し、ブラウスのボタンを上から1つ、また1つと外していった。息荒く上下する乳房が露になってゆく。
 慌てて、凛は片手を上げ自分の胸を守ろうとする。そこに、右内腿から激痛が生じたのだった。アーチャーの左手の親指が、右脚の付け根あたりに強く喰い込んでいた。
 その痛みが引き金だった。我慢していた尿意が、猛烈にもよおしてくる。なんとか踏みとどまろうとした……が、堪えきれず、凛はだらしなく始めざるをえなかった。
 人前で、放尿を。
 アーチャーは彼女の左脚の付け根にも右手の親指を突き立て、閉じようとする両脚を無理に開かせた。力で敵うはずもなく、そうなっては、じっくりと見られ続けるしかない。
 便器の中に、熱い液体を垂れ流す音も聞かれた。
 為す術もなく、はしたない姿を曝し、凛は「ぅあああ……」と、か細い悲鳴をあげたのだった。泣きながらアーチャーの手首を掴んだまま、股間も胸元も隠せず。瑞々しい両脚の腿を突く親指の爪の痛みが、少女の心にまで深く刺さっていった。
 ……己のマスターの、女としての誇りを踏みにじり、羞恥と屈辱に塗れさせる為の視姦。
 これにはさすがに凛も激昂するしかなかった。そして、これ以上おかしな真似を続けるなら、あと2つしかない令呪による強制命令を発動させるとアーチャーを恫喝、通告する。
 それで、やっと大人しくなったと思っていた。
 これで、聖杯戦争の勝利に向け、他のマスターを倒していけると。
 だが、アーチャーは彼女への凌辱を諦めてはいなかったのである。
「あ、ふ…………ふあぁ……ぁ」
 凛は甘く深い息を吐き出した。ベッドの上、嬲りは続いている。魔術師の少女は全裸にされて、英霊の男は上半身だけを肌蹴ていた。慄える少女の股間に男の頭が埋まり、汚らしい音を立てて性器を舐め啜っている。

 やはり、多少乱暴に責められるのが好みのようだな。

 マスターとサーヴァントは言葉を介さず意思を疎通させることが出来る。凛の脳裡にアーチャーの思念が走り抜ける。膣口を存分に潤ませながらの、野卑で粗暴な決めつけ……語りかけた感じですらない、聞こえよがしな独白。
「な、ぜ……こんなこと、するの……」
 凛は、声に出して訊き返す。心と心が文字通り繋がっているという、実感を避けたのだ。

 君の魔力を回復させるためだ。

 まただ、決まり文句となっている、その科白。確かに、昨日は休む間もないほど、緊張の連続だった。夜の校内でのランサーとの遭遇、そしてセイバーのマスターである衛宮士郎と共闘し、バーサーカー陣営との死闘。魔力も激しく消耗し、夜間一睡もしなかったことで体力も限界に達していた。にも拘らず、この仕打ち……疲れ果てているというのに。
「は……っ、あ……っ、私の、なか、に、突っ込みたいの、アーチャー?」
 敢えて、凛は下品に、直接的に問うた。

 そうだ。

 アーチャーからの答えは、予想以上に手短だった。淡々として、率直過ぎる回答。微塵も動じない。
 加速度的に危機感が増大し、凛の内蔵に締めつけられるような痛みが走った。同時に、子宮が激しく疼きだす。それは、快楽ではなかった。止められない、自分ではどうしようもない衝動だった。これまで一度たりとも体験したことがなく、故に言葉にできない、気が狂いそうになる興奮に駆られる。
「あ!……んっ……はう……あっ……あ、あ……!」
 淫声が、止まらなくなった。恥ずかしさと屈辱感が胸の中で荒れ狂い、理性を削り、刻み砕いてゆく。
「感じたか」
 アーチャーは凛から舌を離し、独りごちた。しかし、すぐさま、彼女の股間の開ききった穴へと窄めた舌先を挿し込む――奥へと。
「んうううううぅっ!」
 女陰に閃いたヌルりとした感覚は、恥骨の上あたりに悪寒を生じさせた。反射的に凛の膣壁が引き締まり、その侵入者を挟み込もうとする。しかし、アーチャーはやすやすとその舌を抜き出し、また淫核に軽い刺激を加えていった。
 微かに、つつくように。間隔もまばらで、緩やか。
 満たされないどころか、気持ちが飢える。
 明らかに、挑発を意図する、焦らし。
「や……あ、あ……やん……くぅ……アーチャー! 何してるの!?」
 甲高い、喘ぎのような吐息を繰り返しながら、凛は堪らず、アーチャーを急かした。少女の大事な、淫核への性虐が、弱すぎるのだ。このままでは苦しさのあまり、本当に悶え死にしてしまう。
 その凛の心にひしめく、怒りにも似た気持ちを知ってか、アーチャーは何食わぬ様子で彼女に心で語りかけた。

 このまま、私に責められ続ければ、君は興奮のあまり、イくことになる……イくのは辛いぞ。頭の中が、意識が完全に吹き飛んでしまうのでな。

「あん……う……ああ……く、あ……はぁ……」
 まともに呂律が回らなくなり、凛は声を出さずに言葉を返す。

 イったことぐらい、何度もあるわ。

 すると、今度はアーチャーのほうが舌での責めを中断し、声を発して答えたのだった。
「自慰では得られない絶頂感だ。処女の君には分からんだろう。味わえば、二度と元の自分には戻れなくなる。だが――」
「あっ、あ……んぅ……あぁーーーーーーっ!」
 不意に、責めは再開された。凛の想像を絶した形で。
 アーチャーの、有り得ない速度の舌技が淫核を刮ぎ、捏ね、翻弄する。ただし傷つけることなく、容赦なく少女の一点を犯し、欲情を際限なく高めてゆく。
「やぁ……ああ……あうっ……う……イ、イく! あ……あぁちゃあっ! イく……イくぅっ……こ、怖……ああ……んっ!」
 暑さと昂ぶりは、すでに凛の許容を超えていた。身も世もなく泣き叫ぶ彼女の裡に、アーチャーの落ち着き払った心の『声』が染み渡る。

 安心しろ、私も一緒にイってやる。

 どうやって、とは凛も思った。だが、女にとって、この優しさは猛毒……
「や……そん……あぁ、は……ぐ…………んんあああああああああああああああああっ!」
 凄まじい嬉しさが肉体の奥から噴き上げてきて、抗うことも出来ずに、凛は達した。力尽くで絶頂を迎えさせられてしまったのだった。
 だが同時に、その瞬間、頭に殴られたような痛みが襲う。頭骨がひび割れたかのように軋み、耳鳴りもひどい。けして、心地の良い感じはなかった。
「はあ……はあ……はあ……」
 興奮が冷めてくるとともに、身体の痺れも取れ、正常な感覚が回復してきた。ただ、腰のあたりにだけはまだ、熱くねっとりとした余韻がしつこくわだかまっている。
 その腰を、凛はうごめかせてみた。背を逸らし、捻りを加えながら蛇のようにくねらせる。すると少し、気分が楽になった。
「ふう……あうっ!?」
 そんな凛の乳房を、アーチャーが直に揉みしだく。荒々しい手つきだった。握り締めたり、下から上向きに搾ったり……だが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。痛みが無いわけではない。それでも、身体の裡から嬉しいという気分が生じてしまう。乳肉に爪を立てられても、固くなった乳首を抓られても、「優しい」と感じてしまう。
 まずい、と凛は思った。彼女の深い部分がアーチャーを気持ち良い存在と認識してしまっている。理性の上では抵抗できても、身体が、男を悦ばせる女肉としての凛が拒みきれていない。
「ふ……あぁ……ん……ん……」
 出したくもない声が自然に、あまりにも自然に凛の口からこぼれていった。凌辱者を昂ぶらせるためだけに発せられる、甘え声……
 アーチャーはぐったりとした凛の上に圧し掛かり、彼女の首筋などを舐めてゆく。両乳房は、すでに揉みしごかれ真っ赤になっていた。さらに、その小ぶりながら形の良い2つの柔丘をいじめ抜きながら、彼は凛の髪を片手間に揃え流し、行為で傷まないよう配慮した。
 小憎らしいことに、やはりアーチャーから性的絶頂の匂いは感じ取れなかった。よって、これで終わりのはずもなく、凛はただ時を待った――諦めの境地で。
「はぁ……あ……は……ぁは……は……」
 もう、このまま大切にしてきたものを何もかも奪われるのは時間の問題に思われたのである。再び気分が高まっていき、全身が甘い熱で浸されてゆく。心の芯までも痺れ、抵抗する気すら正気とともに消えてゆく……
 しかし、アーチャーは動かなかった。
「アーチャー?」
 堪らず、凛が呼びかけると、アーチャーは彼女の双乳から自分の胸板を静かに引き剥がした。
「ふん、やっと消えたか……」
「え?」
 ベッドの縁に腰掛けるアーチャーに、凛も上半身を起こし、その意図することの説明を促す。
「キャスターの魔術の気配だ。気づかなかったのか?」
「キャスター……」
 凛は、アーチャーの言わんとすることを即座には理解できなかった。
「ああ。あの魔女……一昨晩から私たちをずっと監視していたのでな。この際だ、存分に見せつけてやろうと思ったのだ」
 アーチャーは、そう言葉を続けたが、凛は俄かには信じられなかった。魔術で監視していたというが、弓兵であるアーチャーがそれに気づいて、生粋の魔術師たる凛自身が気配すら感じないなどということが有り得るだろうか。それに、この遠坂邸の結界をすり抜けるためには、一流の魔術師であってもかなり入念な下準備等が必要になるはずなのに。
 と、そこまで考え、凛はもっと卑近で重大な事実に、はたと気づいた。
「監視……見せつけるって……ひょっとして今のを、さっきまでの私たちの事をキャスターが見てたっていうんじゃないでしょうね!?」
 極度の緊張を伴った羞恥で、凛の顔は一瞬で、これ以上なく赤く、遠坂の紅――ワインレッドに近い色に染まった。
「どうした、凛。君らしくもない」
 その彼女の顔を見ても、アーチャーはいつもの如く、飄然としている。
「違うんでしょ……?」
 祈る気持ちで、凛は確認を取った。それに対して、アーチャーの返答はまた、手短だった……信じがたいほどに。
「いや?」
「…………!!!」
「あの女狐め、君と私の仲睦まじいところを見せつけられて、今頃、きっと悔し涙で泣き濡れてい――」
「アーーチャァーーーっ!」
 凛は、アーチャーが言い終わるのを待たなかった。そして、その銀髪オールバックの脳天に枕の一撃をお見舞いする。さらに一撃、もう一撃、そして果てには……枕のさらなるもう一撃を続けざまに喰らわせていった。
 アーチャーが気障な表情を浮かべて平然としているのを良いことに、凛は枕撃を止めなかった。殴れば殴るほど、愉しくなってきていた。彼女の胸の裡で、感じたこともない情動が蠢きをはじめている。
 ちなみに、魔力は一応、回復していた。 
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