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藤村士郎が征く

作者:昼猫
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第21話 川神姉妹堕つ(メンタル面が)

 
前書き
 タイトルが思いつき次第、新たに載せます。
 それか、閲覧者の方々に何かいい案が有りましたら、採用を検討したいと思います。 

 
 3-S

 あれから、1時間目の授業を(こな)してから、10分間の休憩を取っていた。
 男子のほとんどは、葉桜清楚に羨望の眼差しを向けている。
 女子のほとんどは、京極彦一と談話している藤村士郎にうっとりとしていた(それ以外は2人のツーショットを見て、妄想を膨らませている腐女子)。
 そんな空気の中に、後ろ側のドアを開けた川上百代(天災)が舞い降りてきた。

 「葉桜、せ・い・そ・ちゅわぁーーーーーん!!」
 「え!!?」

 自分の名前?を呼ぶと同時に、川上百代(空気を読まない美少女)が教室に割り込んできた事に驚きを隠せない清楚。

 因みに彼女の席は教室のほぼ真ん中で、京極の席は廊下側の席の一番後ろにあり、士郎の席は京極()の目の前だ。

 百代は3-Sの教室内に着地すると同時に、教室の真ん中に座っている清楚を視界に収めると、一瞬にして彼女の目の前に移動した。

 「葉桜清楚ちゃんだな!?私の名前は川神百代、友達に成ってくれないかぁーーー⤴」

 ハァー、ハァー、と危ない感じに呼吸を荒げ、瞳はギランギランに輝かせながら、彼女の手を握っていた。
 もしこれが夜の街角で現れれば、100%不審者である。例え、美少女であったとしてもだ。
 そんな百代に対して清楚は・・。

 「う、うん、い、いいよ。今日から友達だね。だからその、もう少し抑えてくれると嬉しいかな?」

 笑顔ではあるモノの、気圧され気味であった。

 「やたぁああーーーーーーーーー!!!」

 対して百代は、清楚の返事に歓喜した。清楚(彼女)の話を聞いているかは、甚だ疑問だが。

 「ん~~~」
 「ん?如何した?」
 「いや、ちょっとな・・」

 そんな聞き覚えのある声に、ふと後ろを気になった百代。
 一人はこのクラスの生徒で、自分にとってある意味においては天敵とも言えなくもない知り合い、言霊使いの京極彦一であることは間違いなかった。
 ただもう一人は?と考えて徐に後ろを向くとそこには・・。

 「よっ、モモ」

 ( Д ) ゜゜←これ百代。

 「ふむ?士郎は武神と知り合いだったのか?」
 「ああ、そんなところだ。というか、如何したんだ?モモ。そんな顔をして・・」

 驚愕もつかの間、士郎に疑問視された百代は何とか平静さを取り戻すように努めた。

 「い、いや・・・って!?如何したはこっちのセリフだ!如何して此処にシロが居る!!?」
 「あれ?鉄心さ―――学長に聞いてないのか?一年にも満たない間だが、3-Sに編入したんだよ。理由については1-Sの以下略にでも聞いてくれ」

 そんな事を告げられた当の百代(本人)は・・。

 (何もかにも聞いてないぞぉ!?爺ぃいい!!!)


 -Interlude-


 川神学園・学園長室。

 「むぉお!!!?」
 「如何しましタ?総代。いきなり奇声を上げ・・・コレは百代が殺気立っていル?その方向性は・・総代?」

 また何かしたのですか?と言う、冷ややかさと呆れが入り混じった目線を鉄心に送るルー師範代。

 「むぅ」

 心当たりが有り過ぎる鉄心は、唸ながらルーから送られる目線を受け流していた。


 川神学園・職員室。

 此処では数名の教師が、自身に放たれたわけではないと判断しながら気づいた。

 (これは・・川神か?)
 (面倒事を起こさないでくれよぉ~?)
 (この殺気はカワカミモモーヨですか?)
 「川神か、これは?うちのクラス内から放たれているな・・」

 上から順に小島梅子、宇佐美巨人、カラカル・ゲイル、葛木宗一郎といった川神学園の教師陣の中の手練れのみが、3-Sから放たれる百代の殺気に反応していた。

 他にも、1-C・黛由紀恵、1-S・以下略君、2-S・ジャンヌ・オーリック、暁雫、源義経、武蔵坊弁慶、那須与一、マルギッテ・エーベルバッハ、忍足あずみ、または学園内のどこかに居る九鬼従者部隊の数人ほども反応していた。


 -Interlude-


 再び、3-S

 「ん~~~それにしても・・」
 「如何かしたか?士郎」
 「いや、あの噂はホントだったんだなと実感している処なのさ」
 「どの噂だ?」

 士郎は、百代に真っすぐ向いて喋っていた。
 それにツラれるように京極も、士郎と同じく百代に視線を向ける。

 「武神は美少女を視界内に収めると、中年オヤジ化するって噂を聞いたんだよ・・」
 「んなぁ!?」 「「「「「ブフッ!」」」」」

 そんな発言のせいか、教室内であちらこちらから吹く者出た。ひどいものに至っては、口を開けて大笑いしない様に必死に耐えながら、笑いをかみ殺している者もちらほら見受けられていた。

 そんな周りの雑音を全く気にせずに、百代は先の爆弾発言を聞いた直後の驚愕の表情から一転し、士郎を睨み付けていた。

 「シロ、誰からそんな噂を聞いたんだ・・・!」
 「誰からと言われてもな~、俺が聞いた人達も噂で知ったらしいし、そもそも実際に葉桜に対して興奮していたじゃないか?」
 「う゛・・・だって仕方ないじゃないか!清楚ちゃんてば、こんなにエロ可愛いんだから!!」
 「エロ可愛い!?」

 事実を突かれて、苦虫を噛み潰したような表情になるが、自身を正当化する様に言い訳をする百代。
 しかし、それは藪蛇だ。

 「・・・・・・・・」
 「な、なんだよ?言いたい事が有るなら言えばいいだろっ!!」

 自分を観察するような士郎の視線に耐えかねた百代は、発言を促した。

 「・・・なら、お言葉に甘えて。モモって自分の事をよく美少女美少女って言うけどさ、いや勿論見た目は如何見ても美少女だろうさ。けどなんて言うか・・・」
 「何で言葉を濁すんだよ!?」
 「いやぁ、美少女は美少女でも、残念な美少女だなっと思ってさ・・」
 「な・・んだ・・と!?」

 そんな士郎の心もとない?発言に、膝が折れ手を床に付ける百代。

 (残念な美少女・・残念な美少女・・残念な美少女・・残念な美少女・・残念な美少――――)

 更には追い打ちをかける様に先の言葉が耳に残り、百代のみにエコーが聞こえる始末だ。

 「む?」

 そんな状態の彼女をよそに京極はふと時計を見上げると、そろそろ小休憩時間が終わりそうだった。

 「そろそろ休憩時間も終わるが、自分の教室に戻らなくていいのか?武神」

 気分が駄々下がり状態の百代に、あまり気にした様子も無く告げる京極。
 それに対して一応、耳に入っていたのか、食料を求めて下山してきた熊のような姿勢で教室を出ていく百代。
 意気揚々と3-Sに来た時とは真逆に、とぼとぼと帰って往った。
 因みに、元々彼女は自称《戦う美少女》だからと言う理由で頭はいいが勉強嫌いだった故、いつも以上に放課後まで気の抜けた顔をして授業を受けたそうだ。

 そして、何故百代はあんなにまで気分が落ち込んでいるのか解らずに、士郎はあの発言から始業のベルが鳴るまで首をひねり頭上にクエスチョンマークを浮かべていたのだった。


 -Interlude-


 3-S

 時刻は昼休みになり、昼食を用意していないものは食堂まで我先にと急いで行く。
 事前に自炊或いは早買い(用意)した者は屋上や校内の本館外で食べるものも出て来ていた。
 しかし、3-S生徒の大半は良いトコの子供ゆえ、人格はどうあれ基本的には教室内で食べる者達がほとんどだった。

 そして、それは士郎も同じだった。
 鞄から弁当を取り出し、誰とも言葉を交わすことなく中身のサラダから手を付け始めた。
 それを向かい合って食べていた京極は、士郎の弁当を見て興味を覚えた。

 「ふむ?それが士郎の弁当か・・」
 「ん?ああ、それがどうかしたか?」

 ここ3-Sは先にも記したように、大半の生徒が良いトコの子供である。それ故に毎食毎食が豪勢な内容になっているのだ。京極の弁当も豪勢と言う訳では無いが、少なくとも普通の弁当よりは上位に位置するおせちの様な彩具合だった。

 翻って士郎の弁当の中身は、至って普通だった。少なくとも見た目は。

 「いや、別段どうもしないのだが、藤村組の重要人物の1人と言われている君の弁当の内容に興味を覚えてしまってな」
 「成程、それがこんな地味で落胆しているって事か」
 「落胆など微塵もない。ただ、予想外だったと言うだけさ」

 士郎からの視点では、京極の今の言葉には嘘偽りは一切なかった。

 「何なら一つ摘まんでみるか?」

 この士郎の提案に京極は、断ろうとしたが気まぐれに「では、失礼して」と士郎の弁当箱から磯部揚げを一つ拝借して、口に放り込んだ。

 「――――こ、これは!?この磯部揚げは素晴らしいな!ふんわりとした食感が癖になりそうだ!!」

 京極はあまりの感動ぶりに、普段の冷静過ぎる表情とは真逆の満面の笑みを浮かべながら、咀嚼していた。

 「ほぉ、藤村殿の具はそれほどの一品でござるか?」

 先程の京極の絶賛ぶりを、横目で見ていたクラスメイトの1人。後藤劾以。

 「うむ、これほどの磯部揚げを食べたのは初めてだ」
 「興味が有るなら劾以も一つ、取ってくれていいぞ?ちょっと理由があって、見た通り沢山あるからな」
 「そ、それでは、遠慮なく・・・」

 後藤が取ったのは、3枚ある鰆の塩焼きの一枚だった。そして、自身の白米の上に載せてから一部を口に放り込む。

 「・・・・!こ、この鰆!?身が引き締まっている上、丁度いい焼き加減でござる!しかも、僅かな塩の濃さが鰆のさっぱりとした旨みをより引き立てている!!素晴らしいの一言でござるな!」

 後藤の最後の言に、一言以上言ったろっと誰かが心の中でツッコみを入れた。

 それはさておき、2人の絶賛する感想により、周りの良いトコの生徒達も流石に興味を覚えていた。

 「これほどの味を出せるとは・・さぞかし藤村組の料理人は腕が高いのだな!」

 あまりの美味しさに、更に絶賛する京極。
 だが・・。

 「違うぞ?これを作ったのは俺の婚約者だぞ?」
 「ほぉ??」 「「「「「な!?」」」」」

 あれほどの品を調理したのが、専属の料理人ではなく自分の婚約者だという言葉に、興味を覚えた京極彦一。
 そんな京極とは別に、周りの生徒は驚いていた。

 そして、女子生徒達は「そりゃ、やっぱりいるわよね~」と言う諦めや悲嘆の声と「な、なんですって~」と言うまだ見ぬ士郎の婚約者に対する嫉妬と、逆恨みにもならない憤怒だった。
 続いて、男子生徒(魍魎組)は「あんなカッコイイ癖に既に彼女―――婚約者持ちだとぉおお!?」と此方もまた逆上していた。

 それはともかく。

 「これほどの調理の腕を持つ婚約者がいたとすれば、士郎もさぞ鼻が高いのだろうな?」
 「まぁ、それはそうだけど。これでも俺はアイツの料理の師でもある。まだまだ弟子に後れを取るつもりは無いぞ?」
 「何!?」「なんと!?」

 近くに居た京極と後藤は、驚きを隠せずにいた。先ほど食べた品々は、プロ中のプロたちにも引けを取らないんではないかと思えるほどの仕上がりだった。にも拘らず自称とは言え、士郎は更にその上を行くと宣言したのだ。この事にますます興味を覚える京極。

 そんな主役たちをよそに周りの生徒たち(清楚だけは祝福しているが)は、未だ士郎の婚約者発言から抜け出せずにいた。

 そこでふと、京極は士郎の婚約者とはどのような人物か?と思い浮かべる。
 その時に、そう言えば2-Sに藤村の人間と、そんな彼女からお嬢様と呼ばれている異国人がいたなと、思い出す。だがそこで思考の歯車通しが噛みあった。
 否、噛みあってしまった。これから口に出す京極の質問により、士郎はこの川神学園の大勢の男子生徒及び一部の女子生徒をも敵に回す事態に成る事と知らずに。

 「・・・もしかすれば、士郎の婚約者と言うのは2-Sのジャンヌ・オーリック君ではないか?」
 「え?ああ、そうだぞ」

 この二人の言葉に、清楚以外の生徒全員が固まった。

 そんな空気の中、清楚は今も祝福の笑みを浮かべ、京極は「やはりか」と言う風に納得していた。
 ある意味では空気を読めない二人であった。

 そして、殊自分に対する好意には非常に疎く、空気を読めない言葉を連発し得る士郎が、この時ばかりは自身の失態に気付いてしまった。
 何故なら、弟分妹分の冬馬達や本人であるジャンヌ自身の話で、この学園に転入してからいかに人気を博しているかを知っていたからだ。
 にも拘らず、その事については黙っていようと心に決めていた矢先に、編入1日目にも拘らず質疑の形で自分からバラしてしまったのだから。

 不幸とは畳み掛けてくるものとはよく言ったものだ、無情にも固まっていた生徒たちの思考が回復する。そして、遂に――――。

 「えぇえええええええ~~~~!??」(←単に驚いている男女混交生徒達)
 「ぬぁんどぅつぉおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!」(←魍魎組&ジャンヌファン会員)

 情けなく、無慈悲に、響く――――、響く――――、響く――――。


 -Interlude-


 同時刻、2-S

 生徒たちはてきぱきと、昼食の準備を進めていく。
 但し、そこには一人だけ異様な光景を映し出す者がいた。
 その名は、ジャンヌ・オーリック。
 彼女の机の上には10段積みの弁当が置いてあった。転入して来て2週間ほどたった今、2-S生徒たちはその光景に漸く見慣れてきたが、源氏の3人組にとっては衝撃度が高いようだ。

 「な、何これ?」
 「どうかしましたか?弁慶」
 「いや、それは何?」
 「弁当ですが・・?」

 見て分かりませんか?と顔を傾げて、不思議そうな顔をするジャンヌ。

 「イヤイヤ、オカシイダロ?その量は・・!」

 先程まで一人で食べようとしていた与一が、あまりの光景にすかさずツッコみを入れる。

 「午後の授業で集中力を低めない様に、これでも腹八文目の量なのですが・・」
 「これで・・!?」

 そこで弁慶は、ジャンヌの横で一人黙々と昼食をとっている雫に目線を向ける。
 その視線に直に気づいた雫は、一旦箸を置く。

 「お嬢様は大変な健啖家の上、育ち盛りなのですよ。弁慶殿」
 「いや、私はそんな事を聞きたかったんじゃないんだが・・・。あと、呼び捨てで構わないけど?」
 「了解しました。ではお言葉に甘えまして、それでは何が聞きたかったのでしょうか?弁慶」
 「あー、それは・・・って!!」

 弁慶が目にしたのはジャンヌが既に1段目を食べつくしたのか、2段目を上品に食べている処だ。

 「ジャンヌさんは速いな!もう1段目を食べつくすなんて、それが昨夜の時魅せた実力に繋がるモノなのだろうか?」

 ジャンヌの怒涛の食事の速さと量に、何故か思わず興奮している義経。
 それに対しジャンヌは、一旦箸を置く。

 「さぁ、判りませんが・・・如何してその様な事を?」
 「昨夜の雫さんとの戦いが九鬼では撮影されていたんだ。それを見て義経は、まだまだだと自覚させられた」
 「だから、私の何かを参考にすればさらに強く成れるのではないかと?」

 その通りだ!と満面の笑顔で答える義経。

 「ですが、九鬼財閥には強い人もたくさんいるのでしょう?それこそ、紋白さんと共に編入してきたヘルシング伯爵の様な方も」

 寧ろそちらを参考にすればいいのでは?と言う風に頭を傾げるジャンヌ。
 それを義経は困った風の表情を作る。

 「それはそうなのだが・・・義経が求めているのは同い年かつ格上の存在なんだ」
 「とはいわれましても、私は特別な事は何もしていませんよ」

 その答えを予想――――いや、事前に雫に言われていたので「う゛」と言う声を漏らすだけだった義経。
 そんな彼女らをよそに、冬馬と英雄は彼女たちを見ながら話し合っていた。

 「如何やら義経さんは、ジャンヌさんの強さに魅せられたようですね」
 「まぁ、魅せられても仕方あるまい。ジャンヌがサバットの使い手であった事は知り得ていたが、あれほどの戦闘力を持ちえた上で普段は凛としているのだからな」
 「これでは、ジャンヌさんのファンたちが躍起になるのも解りますね。ただ・・」
 「うむ、お前の言いたいことは分かっている。これで士郎の事がばれたら学園中が殺気立つことはもはや必然だろうな」
 「九鬼英雄、その士郎とは一体誰の事ですか?」

 そこに、盗み聞きを立てていた訳では無いものの、たまたま耳に入れたマルギッテが興味を覚えて、2人の前に立つ。

 「うんむ?マルギッテよ聞いていたのか?」
 「聞こえてしまっただけです。それで、士郎とは誰なのですか?」
 「まぁいい。士郎は我が第二の友にして、我の肩の古傷を直してくれた恩人でもある」
 「恩というのであれば、それは私たちも同じですよ英雄。それに加え、私とユキ・・・それに準は何故か最近近づこうしないようですが、私たち三人にとっては頼りになるお兄さん分の様な方ですよ」
 「成程、そのような事情であるならば2人が気に掛ける人物と言う事も理解できます。ですが、それとジャンヌ・オーリックは結び付かないのですが、どの様な関係なのだ?」

 マルギッテの疑問も尤もだった。今の説明だけでは到底士郎と言う名の人物とジャンヌ・オーリック(2人)には結びつかないのだから。

 「話しても構わんが、あまりいい広めるなよ?」
 「話が広まってしまうと、士郎さんの敵を無用に作りかねませんので」
 「そのような下らん趣向は持ち合せて等いないと、理解しなさい」
 「そこは信用しているが、一応な」

 マルギッテはこの2人がここまで念を押した上で、慕い庇う士郎なる人物に更に興味が湧いた。

 「話自体は非常にシンプルです。士郎さんとジャンヌさんの関係は婚約者と言う事なんですよ」
 「婚約者・・・ですか。ですが、その男はジャンヌ・オーリックに釣りあうのですか?もしも、そうでなければジャンヌファン会員(有象無象)が騒ぎ立てるのも無理からぬことですよ?」

 マルギッテは自身の戦闘能力に相当な自信を持っていたが、昨夜の交流戦にてその考えを一変させられてしまった。故にクリスティアーネ・フリードリヒ(クリスお嬢様)の護衛やフランク中将から届けられる任務の合間に、基礎からやり直す訓練メニューを作成中であった。
 そんな自分を圧倒した者と実力が拮抗或いは上回っている、ジャンヌ・オーリックを高評価しているからこその疑問だった。

 しかしながら、マルギッテの言葉に余程の事が無い限り自分を見失わず声を荒げる事のない冬馬と英雄(2人)がムッとする。

 「釣り合いならとれていますよ。士郎さんはあの“藤村”なのですから」
 「それに九鬼帝(我が父上)を始め、九鬼従者部隊の最上位に位置する者達にも認められているのだぞ?」
 「更には、イギリスの世界的にも有名な某総合大学に15歳の若さで留学して、3年間で卒業しつつ歴代第3位の成績で首席卒業したほどの秀才なんですよ!」
 「その上、戦闘力で言えばマスタークラスであり、壁越え達の中でもベスト5――――いや、ベスト3に確実に入っている程の傑物なのだぞ!!?これで釣り合いが取れていないだと?馬鹿を言うな!!」

 マルギッテに対して、異論の余地を挟む隙を僅かでも許さぬほ程の怒涛の解説で、攻め立てる2人。
 本当にこんな2人の姿はレアだった。

 マルギッテとしては純粋な疑問をぶつけただけだったのだが、結果的には挑発行為になってしまった言葉に反省しながらも、2人のこれほど慕われている“藤村士郎”なる人物にますます興味が湧き上がっていた。

 「挑発するつもりでは無かったのですが2人とも、失礼しました」
 「む、いや、我もいささか興奮しすぎた様だ」
 「私も柄にもなく声を荒げてしまい、すいませんでした。マルギッテさん」
 「ですが、これほど2人に慕われているとなると、藤村士郎と言う人物への興味が掻き立てられてしまいますね」
 「ほぉ?と言う事は士郎に挑戦しにでも行くのか?」
 「いえ、それはいずれまたの機会とさせていただきます。昨夜の交流戦と朝のHRで作った借りを清算しない限り、先には進めないでしょうから」

 その言葉と共に、丁度一緒に居た雫と弁慶に鋭い眼光を向けるマルギッテ。
 ドイツの麒麟児《猟犬》とまで呼ばれた彼女に、ここまで睨まれれば大抵の人間は戦慄するであろうが、雫と弁慶(彼女たち)はマルギッテの瞳が自分たちをロックしていることに気付いているが、知らぬ存ぜぬのポーズでそよ風のように受け流していた。

 そんな2人の内、雫が弁当を食べ終わり片付けてから席を立つ。

 「お嬢様。先の休み時間の時に言っていた様に、2-Fにこれから行ってきます」
 「ええ。此方は大丈夫ですから、いってらっしゃい」

 ジャンヌに了解を取った上で雫は、2-Sを後にした。
 因みに、雫が2-Fに行ってから10分後にジャンヌは、10段積みの弁当を完全完食せしめたのである。


 -Interlude-


 同時刻2-F

 昼休みのチャイムが鳴った瞬間に、食堂目当ての者達は一斉に全力疾走で教室を出ていった。
 それ故、今は必然的に自炊或いは事前に用意した者達だけだった。

 「ん~♪今日もまゆっちが作ってくれた稲荷寿司は最高だー!」
 「クリスのそれって、そんなにおいしいのぉ~?」
 「ん~?気になるのなら食べて構わんぞ?その代り、千花の具も分けてくれ!自分も委員長の作った弁当には興味が有ったんだ」
 「そんな大層なモノでは無いのですが、美味しく召し上がってもらえれば幸いですぅ!」

 と言った感じに、小笠原千花、甘粕真与と共にクリスは和気藹々としながら昼食をとっていた。
 しかし、如何やら彼女だけは浮かない顔をしていた。その彼女とは・・。

 「ん、今日の激辛麻婆カレーライス(士郎作のレシピ)も絶品!・・・それにしても如何かしたの?わんこ」
 「へ、え?べ、別に如何もしてないわよ?」
 「そう?その割には箸が進んでないけど・・・まさかと思うけど風邪?」
 「ち、違うわよ。って、まさかって如何いう意味!?」
 「え?説明してほしいの?」
 「ごめんなさい、やめて下さい」

 などと言った応酬をしている2人。
 そう、浮かない顔をしているのは一子の事だった。何故なら・・。

 (な、何とか誤魔化せたわ。けどホントに如何しよう?このままじゃいずれ・・・)

 しかし、世界とは時には優しいが基本的には非情にできている。

 ガラガラッ。

 教室の扉が開かれ一人の女子生徒が入って来た。それこそが―――。

 「失礼します」
 (え・・?し、雫!?)

 そう、暁雫が2-Fを訪ねて来たのだ。

 「あれって昨日、一騎当千系した無敵系の奴ジャン!」
 「ホントですね、一体如何したのでしょう?」

 そんな声にも目もくれずに、雫が歩く先には京と一子の席だった。

 「お久し振りですね、京」
 「うん、久しぶり」

 これで2人の会話は終了した。
 この2人とも、決して仲が悪い訳では無いのだが、とんでもなく親しい人間でもない限り基本的には必要以上に喋らないのだった。
 故に、雫がすぐに一子へ向き直るのは必然であった。

 「こんにちわ一子」
 「え!?えっと、あの、その、ど、どちら様ですか?(←恐怖に慄きながら引き攣った笑顔を作っている)」
 「・・・・ふむ、やはりですか?」

 自分と知らないふりをして何とか誤魔化そうとする一子に、とある確信を持つ雫。

 「一子、貴方は川神院の皆さんやご友人に私たちの下で、時折修行に来ている事を説明していませんね?」

 語尾は疑問形にも拘らず、確信をもって告げる雫。

 「な、何の事?あたしは貴方とは初対面のはずだけ・・ど?」
 「ふむ、はぐらかし続けるのは貴方の自由ですが、3-Sの編入生は“若”ですから誤魔化しても無駄ですよ?」

 雫の告げた内容に、固まる一子。意思が停止する一子。呼吸を忘れる一子。
 無慈悲に告げられて、意識と無意識のはざまでゆっくりと絶望していく一子。

 「ふむ、大丈夫ですか?一子」
 「あれ、大丈夫?ワン子。っというか、朝から様子がおかしかったけど、何かしらの理由があったんだね?」
 「ええ、恐らく一子は密に強くなって皆さんを驚かせようと言う想いから、黙っていたのでしょう。そこには悪意などないでしょうから許してあげてくれませんか?京」
 「別に怒ってなんていないけど・・・そろそろ戻ってきた方が良いよ、ワン子」

 体をゆすりながら一子の意識を呼び戻そうとする京。
 その行動に対して「はっ!ここはどこ!?」などとお決まりのセリフを呟きながら期間を果たす一子。されど、帰還直後に視界に最初に居た人物は京では無く雫であった。

 「え?雫、如何して此処に居るの?」

 如何やら先程までの事は勿論、全校集会時での雫の挨拶すらも忘れて仕舞ったようだ。
 まぁ、現実逃避が重なり合った末に一時的の記憶の忘却であろうが。

 「忘れて仕舞ったのであれば、僭越ながらある程度簡略しつつ説明させていただきます。まずはですね、・・・・・と言う事なんですよ、一子。おや?大丈夫ですか?一子。顔色悪いようですが・・・」

 悪いのは顔色だけでは無かった、何だか体全体を小刻みに震わせる一子。

 「じゃ、じゃあ、し、士郎さ、さんも、す、既に知、っててるのの?」
 「勿論です。一子は考えていることが顔に出やすいですからね。若も承知済みですよ」

 その言葉に一子は「あわわわわわッわわわわわ―――――」と口元を震わせている。

 「ですが大丈夫ですよ、一子」
 「なっ、な、ななな何が?」
 「先ほど告げたように若も承知済みではありますが、一子に悪意が有って嘘をついていた訳では無い事も、一子のひた向きな努力の姿勢も承知していますから、嘘をついていた事についてちょっと説教されるだけで済みますよ」

 その雫の言葉に、一子は満面の笑顔の後に安堵の息を吐いた。

 「よ、よかったぁああ~」
 「ですが・・!」
 「え!で、です、が・・!?」
 「放課後でも構いませんので、ちゃんと川神院の皆様には報告してくださいね♡」

 普段はあまり感情を表に出さない雫から、満面の笑みで一子に対して言葉を紡いだ。
 ただし、瞳は全く笑っていなかったが。

 「イッ、イエッサ―――!!!」

 故に一子の反応は、とても大げさとは呼びにくいモノであっただろう。
 どこかのテレビからでも知識を掘り出したのか、実に綺麗な敬礼だった。
 しかし、雫の告げる無慈悲(現実)はもう一つ残されていた。

 「あー、あと最後にもう一つあります」
 「へ?」
 「一子は勘違いされている様なので言っておきますが、私たち雫とジャンヌと士郎(3人)の中で怒る度一番恐ろしいのは、私は勿論の事若でもありません」
 「・・・・・え?」

 一子は耳を疑った。以前一度だけ士郎に怒られた事が有ったが、あれ以上は無いのではないかと思えるほどの恐怖を一子は体験しているのだ。
 それが、目の前の雫は“否”と口にしていた。

 「えっと・・その・・ジャン・・・ヌ?」
 「ええ、お嬢様です。私は本気の絶対零度の微笑みをしているお嬢様を一度確かに目にしていますが、あれ以上はあり得ないと思いますよ?」
 「えっと・・その事と、今回の事はどう関係しているの?」

 何か嫌な予感を感じつつも、恐る恐る尋ねる一子。

 「お嬢様に至っては、一子は嘘をついているとは思っていません。そして、お嬢様は嘘があまりお嫌いです。ここまで言えばわかると思いますが・・って、一子!!?」

 瞼を閉じながら一子にとんでもない現実を告げていた雫は、言い切る直前で瞼を開けたところに今迄の日ではない以上なほど顔を青ざめて、体を震わせていた。
 しかも立てなくなっているのか、床にへたり込みながら。

 「だ、大丈夫ですか?一子!すいません、ここまで怖がらせるつもりは無かったのですが・・」
 「ワン子、大丈夫?」
 「&%$#@?!$%>!?」

 言葉に成らないほど震え上がっている一子を、今その場に残っていた女子達全員でチャイムが鳴るまで一子を慰める事で昼休みを終了させることに至った。
 雫としてはまだ一子に告げる言葉や、それ以外の用事もあったのだが、それらを忘れる程一子の恐怖に慄く姿は絶大であったとか。
 上から発せられる複数の殺気にも気づかないほどに。
 
 

 
後書き
 後藤劾以はオリキャラではありませんよ。Fate/stay nightに出て来ますが、ほとんどあまり出てこないので、名前のあるモブキャラみたいのものですね。今回のUBWにも既に出たはずです。

 感想、お待ちしています。 
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