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藤村士郎が征く

作者:昼猫
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第16話 東西交流戦最終夜 前篇 逆転ムードからの、まさかの本陣強襲!?

 
前書き
 基本的には原作通りです。
 少なくとも、石田と島以外のメンバーが倒されるまではですが。 

 
 東西交流戦最終夜がはじまる30分前、士郎は雫と共に舞台となる川神工場地帯の外れに来ていた。
 九鬼の中型トラックと共に。

 「どうかな?雫君。足部分だけとはいえ、パワードスーツの調子は?」

 雫は今、足底ブーツの要領で、黒い甲冑に似た機械の足を付けていた。

 「はい、問題なく動かせます」

 ひょろっとした男の質問に問題なく答える雫・・!?

 よく見れば雫は、西洋風の黒づくめの甲冑姿を付けていた。
 傍から見ても重装備であるが、まるで気にした様子も無く体を動かしている。
 如何やら、これが彼女の決選仕様らしい。
 そばには同じく、黒づくめの馬上槍(ランス)と、同じく黒づくめの西洋楯が掛けられていた。

 そして、如何見ても研究者っぽいこの男は、クッキーの開発者でもある津軽海経と言う、九鬼財閥に雇われている優秀な科学者だ。

 「問題なく動かせているなら安心さ。未だテストもしていないのだが、心配だったからね」
 「ですが、いらぬ心配になるかもしれませんよ?ですね、若」
 「ああ、天神館の西方十勇士は年齢からみれば、どいつもこいつも精鋭ぞろいだし、他も悪くない位だ。しかし、川神学園サイドは、強い奴らもそれなりに居るが、厳しいんじゃないか?」
 「更には、私の出動タイミングは『もし、西方十勇士メンバーが半分以下に成れば』ですから、難しいのと思いますよ?」
 「そうなのかい?それは安心の様な、残念の様な・・」

 しかし、全く勝算が無い訳では無い。
 なにせ、彼ら西方十勇士は、今有頂天になっているらしいのだ。

 (驕っていれば、そこを狙われて足元を掬われるだろうからな)
 (ですね。私はどうでもいいですが、助っ人など我らには不要と言ってましたからね)

 などと、目で語り合う士郎と雫。

 そんな二人は勿論の事、各々それぞれが様々な思いを胸に、東西交流戦最終夜の幕が切って落とされようとしていた。


 -Interlude-


 最終夜が始まってから、川神学園サイドはあっさりと劣勢に追い込まれていた。
 兵の練度でも劣るが、連携自体もあまりに低いため、直に撃破されていったためであるからだ。

 「流石にでかい口を叩くだけありますね。なかなかのものです天神館」

 10分後。

 川神学園サイドは、敗北を味わいたくないと言う一身により、やっといい連携力を見せ始めて、盛り返してきた。

 そして、遂に西方十勇士の一人、中国の麒麟児と言われている天下五弓の一人でもあるナルシスト。毛利元親が、京の爆矢の爆風により敗れ去った。

 (もはや今更だけど、ホントこの世界の住人は打たれ強いよなぁ。あれ、俺達のいた世界(普通なら)死んでるか、軽くても重傷だぞ)

 などと、今更かつ野暮ったい事を思った士郎だった。

 そうして次々と手練れとぶつけられて、削られていく西方十勇士のメンバーたち。

 因みに、ジャンヌが強いと知っている(真の実力を知る者は現時点では皆無)人数も少なく、自然と救護傭員に回されたのだった。
 彼女自身も、必要に迫られたら逃げる気は無いであろうが、百代の様な戦闘狂(バトルジャンキー)では無い為、ジャンヌ自身もその役割に反対しなかった。

 「なかなかの奮戦ぶりですね。もう残り二人なので行ってきます。若」
 「ああ、気を付けてな」

 その言葉を後に、雫は出撃した。

 (それにしても、如何して長宗我部と鉢屋は気を使わなかったんだ?使っていれば炎も効かなかっただろうし、あずみさんの拘束も何とか抜け出せただろうに)

 これで西方十勇士が全滅となれば、彼らの敗因は単なる油断と高慢であろう。

 終わったらそれを指摘しに行こうかと考えながら、士郎は未だ続く交流戦を眺めていた。


 -Interlude-


 九鬼英雄を大将とする川神学園サイドの本陣では、東西交流戦最終夜も佳境に入っているであろうムードに包まれていた。

 「ヒュホホホ♪最初は確かに押されはしたが、わらわたちが本気を出せば、ご覧の通りじゃのう」
 「勝負は下駄をはくまで分からないといいますが、これはもう決まりでしょうね」

 余裕の笑みを零す不死川心の言葉に、冬馬は同意する。

 2-Fと2-Sの手練れメンバーも相手をあらかた片付けたので集合しているし、逆転の一手を決めるため大将である英雄を狙うも、現在の本陣メンバーの皆から袋叩きになることは目に見えている。
 そんな馬鹿な事をする奴など居ないであろうと、寛ぎ切っていた。

 更には、優秀な後衛メンバー(筆頭はジャンヌ)のおかげで、負傷兵たちもかなり戦線復帰できていた。

 だが、こんなムードを破壊できるであろう切り札を、天神館側は即座に投入したのだった。

 2年生手練れその他A「敵襲!!」

 そんな言葉と共に、索敵犯である彼の周りには衝撃による煙が舞い上がらつつ、ものすごい音も響き渡った。

 「この状況で敵襲とはどんな馬鹿だよ?」
 「そうだねー。一体誰だろうねー?」

 しかし、あまりに寛ぎ過ぎて彼らは気づいていなかった。此処に来たのは、身震いするほど恐ろしい化け物が進撃してきた事に。

 その他A「がふっ」
 その他B・C・D・E・F・G「がほっ!?」

 その言葉と共に彼らは意識を手放した。
 そんな呻き声を耳に入れたからか、主力である手練れメンバーたちもようやく煙の方に目を向けた。
 そして――――。

 煙や晴れていき現れたのは、全身黒づくめの甲冑に身を包んだ黒騎士が、憮然とした態度で立っていた。
 その瞬間、本当の戦場を経験してきた《猟犬》と《女王蜂》は瞬時に身構えを取った。
 しかも、各々の主を守る様にして。

 「あずみ?」
 「マルさん?」

 二人のあまりの態度の切り替えにより、英雄とクリスは首を傾げる。

 「英雄様、お気を付けください!」
 「女王蜂の言う通りです。クリスお嬢様!恐らくは助っ人でしょう」

 事実、突如として本陣を強襲してきた黒騎士は、異様なオーラに包まれていた。
 そんな勝利ムードをぶち壊しにした黒騎士から、とある言葉が放たれる。

 『降伏しては下さらぬか?出来れば怪我人を多く出したくない故に』

 変声期でも使っているのか、くぐもったトンデモナイ爆弾発言が発せられた。
 それを聞いた上記の4名以外の手練れたちは・・。

 「なにをいっとるんじゃ?こやつは?」
 「おいおい・・。そりゃあ、こっちのセリフだぜ!」
 「俺様達を見てそんな口を吐くなんて、なかなかじゃねえかよぉ」

 他の者達も同様だった。
 戦況も、今この場もこちらが上にも拘らず、何故こちらが降伏しなければならないのかと言う、呆れにも似た雰囲気だった。しかし、黒騎士の次の言葉によりそんな意を返さぬ態度も一変する。

 黒騎士は周りを見回してから告げた。

 『私は・・、弱い者いじめをする趣味など、持ち合わせてはいないのだがね・・』

 それを聞いた手練れや武家の血を引く者達の中で、怒気が爆発した。
 そして・・。

 その他H以下『舐める(なぁああ・ないでぇええ)--!!』

 その言葉と共に一斉にかかっていく兵達。

 しかし、マルギッテやあずみは確かに見た。
 黒騎士の甲冑の中に僅かに見える瞳が笑っていたのを。
 まるで、策が成功したと言わんばかりさを。

 「「ま、待て!!?」」

 しかし、もう遅い。
 黒騎士を中心に、異様なほどに気が収束していく。
 黒騎士は、右手に持っていたランスを天に向けるようにしてから、向かってくる手練れ諸君らを迎撃する様に、ランスを引き絞りつつ技を発動させる。

 『暁流、槍術―――――――《覇国》!!!』

 その言葉と共に、気により形成された巨大なランスの切っ先が、手練れメンバーに直撃する。

 ズッォオオォン!!

 技の威力により、向かっていった手練れメンバー全員が気を失った。

 『見た通り、この技は固まっている相手を殲滅するための広範囲の槍術だ。勿論、当身程度に成る様に威力をかなり低くしたが、な』

 余裕に構えながら話す黒騎士の両翼から、風間と準が挟撃する様に兜に向かって殴りかかる寸前だった。
 しかし、黒騎士は一歩後ろに下がる事で、それを躱した。

 『な、ぐっ!?』

 まさか、あの距離で躱されるとは予想だにしていなかったからか、驚くとほぼ同時にお互いに衝突しあった。

 「準、避けて!」
 「避けろ、キャップ!」

 二人を気遣いながら自分たちの見ている情報を下に、最低限かつ優先的な動作を大声で助言する。
 しかし、それも遅かった。

 黒騎士はあれを躱すだけには留まらず、空中で衝突しあった風間と準(二人)に楯を押し付けたまま、槍で突くように二人をガクトめがけて圧しついた。

 「ぐっ!?」
 「がっ!?」
 「おっと」

 あまりの衝撃により、痛みにによる声を漏らす2人。そして、それを受け止めたのは当然ガクトだ。
 それを静止したままの黒騎士は、静かに告げる。

 『この状況を踏まえて、もう一度言わせてもらう。降伏を推奨する。それにもう一度言うが、私は、弱い者いじめは趣味ではないのでな』

 しかし、誰も黒騎士の答えを返すことなく戦闘形態をとっていく。

 『仕方ない。で、あるならば。少々痛い目に遭ってもらうしかないな』

 異様なオーラを携えながらの黒騎士と、川神学園サイド残存部隊の戦いが開始された。


 -Interlude-


 「奴に引き続き、次はあの娘か。やりすぎやしないかのぅ?鍋」
 「いいじゃねえかぁ、盛り上がってよ。それより問題は、アンタの孫の川神百代ちゃんじゃねえのかよ。こっから離れてても、あの嬢ちゃんの殺気が手に取るように判るぜ」

 藤村雷画(友人)からも指摘されたことを、かつての愛弟子でもある鍋島正から、見事に当てられて唸る鉄心。
 それと同時に、頭上にクエスチョンを浮かべる鉄心。

 (昨夜は中途半端に戦闘が終わってしまい、欲求不満じゃったのに・・。更に言えば内容は知らぬが、たまに見る嫌な夢を見て気落ちして居た筈じゃ。にも拘らず、何時もより殺気の量が少ないとは如何言う事じゃ?)

 「ま、それなりに悩みが有るんだろうが、そろそろ危なくなってきたぜぇ」

 愛弟子の言葉に反応した鉄心は、先程と同じように、川神学園サイドの本陣に視線を向けていった。


 -Interlude-


 川神学園サイドの本陣残存部隊は、黒騎士に対して役割を分けて応戦していた。
 防御はマルギッテを中心に、打たれ強さやガタイに自信のあるガクトや源忠勝、井上準と言ったメンバーだ。

 「くっ!」
 「ぐぉっ!・・・くっ、まだだぁ!」
 「っ!」
 「くぉお!」

 次に黒騎士をかく乱させるために、足の速さに自信のある風間や小雪がひたすら走りながら行動制限や妨害などをしている。

 「おらおら、捕まえられるもんなら捕まえて見ろ!」
 「わっほほーーい!そんな重装備じゃ無理だと思うけどねー!!」

 そして、弓矢部隊が中距離からの援護射撃などで、黒騎士を足止めさせると言う連携を見せていた。

 そうしているうちに、陰から隙を狙っていた攻撃部隊の二刀のあずみ、柔道の心、レイピアのクリスが後方から黒騎士めがけて突っ込んでいく。

 「もらったぁ!!」
 「この距離ならいけるはずじゃぁああ!!」
 「くぅらえぇえええええ!!!」

 後方に対応するために、黒騎士は後ろを向いた。
 その隙を逃すまいと、英雄が弓矢部隊に命令する。

 「今だ!撃て(ってぇえー)!!」

 その指示の通り、弓矢が黒騎士に殺到しこれを楯で防ぐ。
 その防いだ瞬間に、攪乱中だった風間と小雪、防御にひたすらまわっていたマルギッテやガクト、忠勝に準達6人も一斉に突撃を敢行した。

 この急造とは言え、見事な連携と包囲により勝負を決められると思った瞬間、黒騎士が賛辞を送ってきた。未だ後方から3人が向かってきているにも拘らずにだ。

 『急ごしらえの連携で、ここまでの練度は見事。しかし、それだけだ・・』

 言い終えた直後に黒騎士は、ブーメラン効果を利用して、楯を投げた。

 「ぐはっ!」
 「きゃっう!」

 その楯は、回転しながら小雪と風間に当たり、その勢いを止めずに弓矢部隊を薙ぎ払った。

 「「「うわぁあああ!?」」」

 そして、ランスを横薙ぎ風に投げていき、マルギッテたちに直撃させた。

 「ぐぅう!」
 「おふ!」
 「がっ!」
 「げふ!」

 まさか得物を投げつけるなど思ってもみなかった故に、マルギッテすらも喰らってしまったのだ。
 そうして、目の前の脅威を迎撃し終わり後ろへ向く黒騎士。

 しかし、彼らの犠牲も無駄だった訳では無かった。

 黒騎士が後ろへ向き終わった時には、あずみ&心&クリス(3人)共、もはや1メートルも無い距離まで迫っており、黒騎士自身は無手の状態だった。

 この状況に、3人は勝利を確信していただろう。

 しかし、その3人の目の前で信じられない光景が映った。
 何と黒騎士が目の前で突然消失したのだった。
 この事態にあずみだけが理解した。

 (これは、空蝉!と、いう事は!!?)

 咄嗟にあずみのみが後ろへ向いたら案の定、黒騎士が構えていた。

 『ここまでの策は見事。しかし、この重装備を見て、動きが鈍いと踏んでいたのだろうが、あてが外れたな。暁流徒手術―――――《乱れ咲き》!』

 暁流徒手術、乱れ咲き。
 単なる乱れ突きのように見えるが、一度一度の正拳突きが、相手の急所などに抉りこむようにしているので、効果は抜群だ。

 「がっ!!?」
 「う゛っ」
 「ぐはっ!!」

 堪らず倒れ込む3人。
 そして、ブーメランのように戻ってきたランスと楯を掴みとり、気を収束させながら構える。
 しかも、作戦上で仕方なかったとはいえ、今の川神残存部隊の陣形は、離れている距離の長さが長短あれど、全員が黒騎士の最初に使った技の範囲内である射線上に固まっていた。

 『手加減していたとはいえ、それなりに楽しめた。だがこれで幕引きにしようぞ』

 未だ動けないものも多くいる中で、あずみは一番奥に居る英雄に向かい叫んだ。

 「お逃げ・・下さ・・い、英雄様!先・・程のがま・・・た来ま・・す」
 「何を言う!お前たちだけ残して逃げられるわけなかろうが!!」
 『人の上に立つものとしては見事ではあるが、今この状況では如何かな?―――暁流槍術――――《覇国》!!!』

 一度目と同じく威力自体は手を抜いている様だが、効果範囲の影響で近くに居たモノから次々と薙ぎ払われ、一直線に英雄に向かっていく。
 だが、動けなかったにも拘らず、最後の力を振り絞ってあずみは駆け抜けた。
 守るべき英雄の下へ。
 そうして、覇国の盾に成る様に跳躍しつつ、技の威力と英雄の間に無理矢理体を入れきった。

 ズッォオオォン!!

 巨大な技により、ほこりが舞っていく。
 煙が晴れた時には、そこは死屍累々だった。

 普通の手練れや武家の血を引く者達は全員、意識を手放し倒れていた。
 手練れメンバーでは心と、己が主の盾となったあずみとマルギッテ、そして家族を守った準の4人は完全に気絶していた。

 「準、準!」
 「ッ!・・マルさん、マルさん!」
 「あずみよ、大事ないか!?」
 『威力は弱めにしているから、そこまで痛めつけてはおらぬよ』
 「!?お、お前は・・!」

 3人とも自分を庇ってくれた者達を抱える様にしていたが、いつの間にか英雄のほぼ目の前に黒騎士が来ていた。
 そうして、黒騎士は英雄にランスの切っ先を突き付ける。

 『これでチェックメイト(チェック)だが、今降伏してくれれば貴殿を傷つけずに済む』
 「たわけ!確かにこの現状、如何見ても我らの敗北となるであろうが、わが身可愛さで降伏するほどこの九鬼英雄は姑息では無いわ!!」

 黒騎士に見下ろされる形とは成っているが、英雄は威風堂々と言い返す。

 『・・・・残念だ・・』

 その言葉と共に、突き付けていたランスを一度ゆっくりと引きながら、突き下ろした。
 これで川神学園サイドの敗北、と思われはしたが、ランスの付いた先には英雄は勿論の事、あずみの姿も消えていた。

 『・・・・・・・』

 そうして、確信をもって気配を感じる方へ向き直ると、英雄と気絶中のあずみがいた。
 そして――――。
 
 

 
後書き
 大和の予想以上に石田が隠れる場所が上手で、本隊で暴れていたクリスやマルギッテたちも、本陣に戻ってきているという設定です。

 何時もより、少々長くなってしまいました。
 というか解っていましたが、戦闘描写って難しいですね。

 感想、お待ちしています。 
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