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刻命館VS帝國華撃団 帝都妖異譚

作者:HR専
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外伝
過去編 李紅蘭
  紅蘭の大連脱出

 
前書き
【注意】この話は作者の自己満による海軍メインの話です、
興味のない方はこの話をスキップして小説サクラ大戦前夜1(電撃文庫刊)の紅蘭の章を読んでください。
【注意】史実の人物が登場しますが(故人)、この作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

というわけで、キーワードに先行して載せた、「比叡」ついに登場です 

 
1919年(太正8年)3月3日一八時〇〇分 独逸租界膠州湾内 練習戦艦「比叡」

「ナニ、大連に向かって邦人保護せよだと」中国内独逸租界膠州湾に単艦停泊中の練習戦艦「比叡」※1艦長吉川安平大佐※2は声を荒げた、
「はい、何でも非公式に陸サン(陸軍)からの要請で、軍機にも触れるような人物のようです」副官が書類鋏を手に答える。
欧州大戦後も残った独逸租界膠州湾、-といっても現時点では「休戦」に過ぎず、この膠州湾の利権も正式の講和条約でどうなるかわかったものではないが-そこに残る独逸東洋艦隊の生き残りを日英同盟に基づき監視-独逸了承のもと(ソビエト南下は列強のどの国にも不利益でありその牽制になってくれる)-のため停泊していた「比叡」だが、邦人保護が急を要する為、一般船舶より遥かに速度の早い軍艦で、当該邦人に一番近い地点※3にある巡洋艦以上のフネとして彼女にお呼びがかかったらしい。
「なんでもその重要邦人が急な治療を要するとのことです」
「で、またここに戻って独逸の病院に放り込めばいいんだな」
「いえ、内地にそのまま戻せとのことです」
「なんだと、莫迦か、どう考えても独逸の方が医療水準が高いじゃないか、ああ、つまり外国に見せられないような奴ということか、陸軍の誰だ、要請出しているのは?」
「米田中将です」副官は声を潜める「ナニ、あの米田中将か!」俄然興味をもった吉川は副官から書類鋏をひったくる、
邦人の引率者は、果たして藤枝あやめ陸軍中尉であった。
「成程、そういうことか」吉川は大体の想像がついた(対降魔絡みか)
欧州大戦における最大の山場、世に言う「ユトランド沖の惨劇」※4空前にして、言い切ってもいいが絶後の、英国グランドフリートと独逸高海艦隊による戦艦決戦、双方は信じられない程の大損害を出し、以降まともな水上作戦をとれなくなり、欧州大戦の痛み分けという結末はこれによるものという識者も多い。
 まず大戦に参加しなかった日米が先行して行った海軍の大軍縮(それほどまでに欧州列強の海上戦力は消耗していた)に加え、その条約により現役から離れるハメになった練習戦艦への配置が決まった時はお先真っ暗かと思ったがオレにも面白い出番が廻ってきたじゃないか、塞翁が馬というのは本当にあるんだな、練習戦艦だからこそ向いた任務が本当にあるなんて思いもしなかったぜ。
「英独双方には話がついているんだな」副官が声を潜める「はい、なんでもこれを口実に現役戦艦に置き換えるとか」
「けっ、狡い奴はどこにでも居るもんだぜ」(まあ俺の知ったことじゃないがな)
「よし、行くぞ」吉川は出港準備を各部署に命じると艦長席にどっかと座り込む。
「全力は18ノットだったな、18ノットで急行するぞ」

 大連港に到着した「比叡」は藤枝あやめ陸軍中尉と彼女に引率された年端もいかぬ少女、若干名の便乗希望者を乗せるとすぐさま出港準備にかかる。一応海軍の戦艦が来るというので関東軍の(一部の評判の悪い連中は借りてきた猫の様になったという噂だ)将校が挨拶に来たが適当に世間話で終わらせる。
 吉川艦長はあやめと保護対象の少女を貴賓室へ迎え入れると、最低限の敬礼を交わした後、話を切り出す「急を要するとのことですが、外からもご覧の通り本艦は練習戦艦です」あやめも第四砲塔が撤去されている事を視認している。「(ボイラー)も一部撤去されていますので他の『金剛』のような高速は期待できません、」吉川艦長はニヤリと笑みを浮かべて続ける「しかし、練習戦艦です」
黄海から日本海は現在大しけである、そして軍艦というものは一般人が想像するのとは異なり、敵からの打撃に備えるため船体のあちこちに無理がかかっている為、単純にフネとして見た場合、理想的なものではなく、悪天候には弱いのである。
しかし現在の「比叡」は「邪魔物」の装甲と砲塔を一つ撤去しているのだ。「ええ、練習戦艦ですね」艦長の意図を察したあやめは応じる。
「というわけで大船に乗った気持ちで居てください」
「まさしく、大船ですね」あやめは微笑を以って答える。
艦長は彼女たちに付けた従卒を紹介すると艦橋へと戻っていった。

1919年(太正8年)3月10日一五時三〇分 神戸港 練習戦艦「比叡」
 「比叡」艦長吉川安平大佐は、藤枝あやめ陸軍中尉の敬礼に対し色気のある敬礼を返す、
「本当に感謝いたします、艦長、あの嵐の中を本当に全力発揮されるとは」
「いえ、礼には及びません、国家の大事ですから」意味深に吉川は答える。
藤枝中尉を送り出した後、吉川はひとりごちた、「全く見事な ピラミッド(ムネ)だったぜ、しかし米田中将って奴は一体何なんだ、おっとこれがバレたら KA(かかあ)にブチ殺されるぜ」

 すでに米田の手により京都帝国大学病院より神戸の陸軍とつながりのある病院に一流の産婦人科医が派遣されており、あやめと紅蘭は陸軍の差し回した車に乗り極秘裏に入院した。
 一方の艦長吉川安平大佐以下乗員はというと、大急ぎで戦艦が内地に戻って来たことへの海軍側からの報道各社への工作は済んでおり、、というよりも既に民間人にも意図的なリーク含め目立つ戦艦が嵐の中緊急帰国したこと自体隠しようがなく、「嵐の中不完全な状態で重病の邦人のために全力航行した『比叡』と乗組員はすごい」と既に民間で勝手に賞賛されており(実は「不完全」だからこそ荒天に対して有効だったのだが)、艦長吉川安平大佐は報道陣に取り囲まれるハメになった。報道各社も空気を読んで「装甲とか取っ払ったから実は荒天に向いた状態」などと野暮なことは書かず、邦人保護と荒天下の航行という客観的事実のみを褒め称えた。単なる軍艦好きは一般にも多かったが、一部のそれが高じた者などは「あれ?第四砲塔外して撤去跡にバラスト積んだから重心が低くなるんじゃね」などと気付いた者もいたが、井戸端会議の域を出ることはなかった。 
 

 
後書き
※1
第二次大戦にも参加の戦艦「比叡」は史実で軍縮条約により練習艦になっていますがこれは史実では戦艦保有比が英:米:日が5:5:3で有名なワシントン条約ではなく、その後の1930年のロンドン軍縮条約によるもの。練習艦化時の詳細は史実準拠。
 筆者思うにこの太正世界はゲーム2本編において「雪の2・26」が前倒しされたもの(ゲーム本編でも兵隊が行進している場面で雪が降っている、制作側は意図的に「雪の2・26」とかぶせたいと筆者は愚考する)で、ゲーム内容通り、あろうことか陸軍大将自身が魔と結んで決起するも失敗、軍人が威張って歩きまわるようなことはなくなったと容易に推測される(もっと言えば、史実昭和への可能性を「意図的に潰した」)。広井王子自身も繰り返し「史実の昭和の方向には向かわない」旨明言している。
 で、前倒ししていいなら世界的軍縮も前倒しして「比叡」が練習艦になるのも前倒ししていいやというワケ。
※2
よしかわ やすひら 実在の人物。
小説「サクラ大戦前夜」であやめが紅蘭を日本に連れてきた時期にに史実で「比叡」(勿論まだ※1の通り現役です念のため)艦長に就いていたのでご登場頂いた。名前以外は実在の人物となんら関わりのないものであります。
※3
港にフネが浮かんでるのに「地点」?と思われる方も多いと思われるが、海軍では海面上も「地点」と言う。
※4
史実のユトランド沖海戦よりも遥かに大きな被害が双方に出たということ。

2014/11/25 22時
日付の誤り修正及び海軍用語へのルビ振り
 
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