IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第216話】
――食堂前――
整備用の道具一式を持ったまま、食堂前までやって来ると既に理央は壁に凭れながら待っていた。
「おっす、悪いな待たせて」
「べ、別に待ってなんかない……から……。 ほ、ほら、早く飯にしようぜ!」
「あ、あぁ……。 ……?」
うーん、何処かいつもの理央と違う気がするのは気のせいじゃないかも。
とは言うものの、あまり変に突っ込むのもダメだろうし……このまま様子見かな。
そう思い、先に入った理央の後に続いて食堂へと入っていった。
中は昼時だからか、女子の一団が大きなテーブルを占拠してるのが見える。
会話内容からすると、帰省した時の話題で持ちきりの様だった。
「……そういやヒルト、今日は何を食べるんだ?」
「ん? ……たまにゃ素麺とかも良いかもな。 または冷やし中華とか」
そんな風に答えると、若干視線を逸らしつつも――。
「ふぅん……。 お、俺も素麺か冷やし中華にするかな……うん」
……という感じにいつの間にか俺が理央のメニューを決めていたようだ。
……たまには素麺とか食べたくなるよな。
蕎麦とかも悪くないが。
そんなこんなで二人して素麺を頼むと窓側の端が空いていたので、そこで食べようと言うと黙って頷き、先に受け取った理央が席に座った。
遅れて俺も、山盛りの素麺と素麺汁を持って正面に座るや――。
「……あ、相変わらずすげぇ量食べるんだな、お前……」
「ん? ……あぁ、さっきまで模擬戦してて疲れたからな。 それに素麺は消化が速いから。 ……いただきます」
言ってから素麺を汁に浸けて食べ始める。
ちゅるるんっと軽快に食べていくと、まだ食べていない理央が笑顔で――。
「そんなに美味しそうに食べてるとさ、作ったおばちゃん達も作ったかいがあるもんだな」
「んむ? ……まあいつも感謝だな。 それに、税金で食べてるんだから残すのは日本人全員に悪いし」
言って、また素麺を食べ始めると理央もゆっくりと素麺を食べ始めた。
その様は、いつもの彼女とは違い女の子らしさ溢れる食べ方だった。
……と言えば、『俺は女じゃねぇのかよ!?』と怒られるから言わないが……。
まああくまで彼女は自分の事を俺って言ってるだけで普通に年頃の女子高生だと思うが――前髪の一部赤いメッシュも似合ってるし。
そんな風に食べながら理央を見てると、その視線に気がついた理央が顔を真っ赤にしながら――。
「な、なんだよ? 俺の顔に何かついてるのか?」
「ん? ……ただ見てただけだが?」
「~~~~!? み、見んなよバカッ!!」
真っ赤な顔のまま、見られないように窓側へと顔を背ける理央。
そんな理央の声に、気になったのかちらほらと此方を見る女子一団――変な噂しなきゃいいんだが。
また素麺を食べ始めるや、見ていた女の子達も元の話に戻っていった様で一安心すると――。
「な、なあヒルト」
「ん? ……どうした?」
「あ……いや……。 その……だな。 ……いきなり何だけどさ、お前……結構頑張ってるよな?」
「ん? ……何を?」
唐突な頑張ってるよなという言葉に、疑問符を浮かべていると――。
「……ISの勉強だよ。 さっきだって模擬戦してたって言ってたじゃん」
「……あぁ。 今回の模擬戦は先輩のデータ収集の手伝いだよ。 でも、感覚忘れそうになってたからちょっと助かったりもしてるがな」
「……そっか。 ……でも普通さ、夏休みっていったら夏を満喫するだろ? 代表候補生達で専用機持ちのセシリア達は装備のテストとかあるけど。 ヒルトは代表候補生じゃないし、もっと遊んでると思ったんだけど頑張ってるからさ……」
「……言うほど頑張ったかと言われたら、まだまだだとしか言えないがな、俺は」
ちゅるっと山盛りの素麺を平らげると、コップに水を入れてゆっくり飲み――。
「……いや、頑張ってるよお前。 ……最初はさ、俺もお前が最初にセシリアに啖呵切ったときは結構馬鹿にしてたんだぜ? ……それに、案の定ISの扱いどころか歩行すらままならないお前を見て、正直あんな見栄を切ってこのザマかよって……馬鹿にしてた」
「……まあ確かに歩行すら出来ずに転けてばっかりだったからな、当初は」
四月の美冬との特訓を思い出すと、今でも少し恥ずかしくなる。
……結構惨めだったからな……歩く事すら出来ずに、転けては打鉄に小さな傷が出来てたし。
……それで怒られたのも今になって思えばいい思い出だが。
そんな風に考えてる中、更に言葉を続ける理央は――。
「その次の日さ、アリーナに見学に来た子は誰も居なかったけど……俺は見てたんだぜ? ……まあ興味本意なだけだったんだけどな」
「そうなのか? ……ははっ、見られてたってなると恥ずかしくなるな、やっぱり」
頬に熱を帯びるのを感じた俺は、視線を窓側に移して指で頬をかいた。
窓から見える景色は一面海で、さっきまで雨が降っていたせいもあり、波が少し荒いように感じた。
そんな俺には構わずに、更に言葉を続ける理央。
「……正直さ、俺も歩行なんてって馬鹿にしてたけど……。 実際やってみたら大変だったんだよな。 ほら、俺や皆は最初は飛行訓練から入っての基礎復習で六月に何度かやっただろ? ……飛行はPIC制御で訓練無しでも飛べる子が全員だけどさ、歩行は皆よたよた歩きになってるし……俺もサブオート操作で何とかって感じだったから……」
「……ん? サブオート?」
ふとそんな単語が出たので思わず聞き返した。
「……? ヒルトも使ってるだろ? 操作方法にオート機能使って――」
「いや? 俺はIS使ってからずっとマニュアル操作だが?」
「なっ……!?」
そんな俺の言葉に、驚きの表情と共に持っていた箸を落とした。
「……? 驚く事か? 皆だってマニュアル操作だろ? ……いや、一夏はオート操作って言ってたかな」
からんからんと、コップの中の氷が中で転がる。
既に飲み干したそれをテーブルに置くと――。
「……う、嘘だろヒルト? ははっ、幾らなんでもそれは……現にまだ専用機の無い代表候補生だって一部をサブオート機能で使ってるって――」
「……あぁ。 一部訂正だな。 第三世代兵装の八式・天乃御柱だけはオートにしてるかな? あれをマニュアルでやってみたが……オートの方が迎撃率100%だったからな」
「……そ、そっか……。 ……やっぱりすげぇよ……頑張ってるよ、ヒルト」
本当に感心したのか、真っ直ぐと見つめるその視線と言葉に、自然と顔に熱を帯びるのを感じると――。
「お、俺なんかまだまだだって。 ……ん、もう食べ終えたしそろそろこいつを返してくるかな。 昼飯を優先したからな、俺」
言って、横に置いていた道具箱を理央に見せると――。
「そ、そういやお前ずっとそれ持ってたな。 ……なあ、後でメールしてもいいか?」
「ん? もちろん、いつでもメールいいぞ?」
「う、うん。 ……ヒルト、俺はお前を応援してるからな? 織斑よりも……俺はお前の方が努力してて――す、好きだしな」
好きという言葉に、一瞬心臓が跳ね上がるがよくよく考えると、好きにも色々な意味の好きがあるから都合よく取るのはダメだな……。
「……ありがとな、理央。 ……今度、また何か食べようぜ」
「お、おぅ。 ……俺はまだ素麺食べてるから。 ……箸、取り替えなきゃいけないな」
「……面倒なら俺の予備に貰った箸を使うか?」
そう言って横に置いていた予備の箸を見せると――。
「そ、そうだな。 ――あ、ヒルト? 皿は俺が片付けておくからお前はそれを返してこいよ」
「……良いのか?」
「……うん。 ほ、ほら早く行けって!」
そう言って急かすように促す理央に苦笑しつつも――。
「わ、わかったって。 ……ありがとな。 じゃあまたな」
そう言って手を振ると、理央も慌てたように手を振り替えした。
それを見て、俺はそのまま寮の食堂を出た――。
一方、残された理央は――。
「……ヒルトの使ってた箸……」
そう呟き、ヒルトが使っていた箸を手に取る。
「……っ、な、何考えてるんだよ俺は……」
顔を真っ赤にし、呟く理央の独り言は、食堂の賑わう声にかき消されていった――。
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