IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第433話】
廊下、一組へと戻る途中、二組の開いたドアからぬっと出てきた手によって、俺は二組教室内に無理矢理入れられてしまった。
こんなことをする犯人は勿論――。
「ふふん、待ってたわよヒルト」
「いや、待ってたじゃなく明らかに俺が来るのを待ち構えてただろ、多分ISの位置座標の割り出し機能でも使ってたんだろ?」
「ぅ……」
ギクリといった表情を見せた鈴音、あまり私的にISを使うと内申点下がるかもしれないぞとは思うが、俺もたまに使用してるのであまり突っ込まない事にした。
「ま、まあ良いじゃん! とにかく、ヒルト! 座りなさいよ!」
「ん、まあ座る方が楽だから座るが……」
そう言って椅子に座ると、自分の席から鞄をまさぐると、何やらタッパーを取り出して持ってきた。
「はい」
そう言って机に置かれたタッパー――中身は青椒肉絲だ、だが俺にはおにぎりの詰め合わせがあるのだ。
とはいえ、青椒肉絲を出された為、念のため訊いてみる。
「鈴音、青椒肉絲も作れるのか?」
「ふふん、アタシも酢豚以外も作れるって事をヒルトに証明したかったからね」
腕組みしながらそう告げる鈴音――と、鈴音のルームメイトのティナが現れた。
「何が作れる様によ。 朝早くから私も手伝わされて――」
「わぁあっ! てぃ、ティナ! それは内緒でしょ!?」
「……良いじゃん、私が手伝ったんだし。 ヒルト、味は保証するわよ? せっかくだから食べてみたら?」
言ってからタッパーを開くと、青椒肉絲の香りが鼻孔を擽る。
タッパーと共に備わった箸を器用に使いこなすと、ティナは青椒肉絲を箸で摘まみ、手で受け皿を作る。
「ふふっ、私が食べさせてあげるわね?」
言ってから口元へと運ぶ箸に、ワナワナと震える鈴音は――。
「あ、あんたねぇ! 何ヒルトにしれっと食べさせようとしてんのよ!」
「あら? 別に良いでしょ? ……ヒルトは私に食べさせてもらいたいわよね?」
言ってから豊満な乳房の谷間を見せつけるティナ、やはり彼女の胸は大きく、正直眼福であり、その谷間に顔を埋めたくなる。
「ヒルト! アタシが食べさせてあげるから、口を開けなさいよ!」
そう言って何処からともなく予備の箸を取り出すと、青椒肉絲を摘まんで口元へと運んできた。
正直、二人して俺に食べさせる必要は無い気がするのだが、一応先に作った鈴音の箸に摘ままれた青椒肉絲から食べる。
食べさせられるという行為事態は恥ずかしいのだが、断れる状況でもない為少し我慢すれば大丈夫だろうと俺は思う。
「はい、次は私のを食べてね?」
「わ、わかった」
ティナの胸元が見える、その視線に気づいたのか蠱惑的な笑みを浮かべて更に谷間を強調させながら口の中へと青椒肉絲を運んできた。
それを食べ、租借――二人の顔を見ると、食べてくれた事に満足してくれたみたいだ。
「ふふん、美味しいでしょ? 感謝しなさいよ、ヒルト? 朝早く起きて作ってあげたんだから」
「鈴、貴女だけで作った訳じゃないのよ? ヒルト、私も朝早く鈴に起こされて手伝ったんだからね?」
何だかんだで二人して作ってくれたという事だろう、それに感謝する為俺はお礼の言葉を口にした。
「あぁ、鈴音、ティナ。 二人ともありがとうな」
そう告げると、まず鈴音が口を開く。
「ま、また今度作ってあげるわよ。 期待してなさい」
僅かに頬に赤みが差す鈴音、それに対してティナはというと――。
「今度は私がキミの為に何か作ってあげるわね? それか、今度何処かで一緒に食事しない?」
変わらず蠱惑的な笑みを浮かべ、何気にデートに誘われる――と、鈴音が。
「てぃ、ティナ! 何しれっとデートに誘ってんのよ!」
「良いじゃん。 まだヒルトは特定の彼女作った訳じゃないでしょ? ね、ヒルト?」
軽くウィンクし、また胸元を強調して見せるティナ――。
「あ、あんたねぇ……、な、何そんなでか乳使って誘惑してんのよ! ヒルトもヒルトよ! ティナの胸ばかり見てんじゃ無いわよ!」
「うふふ、仕方ないでしょ。 男の子はどうしても大きい胸を見たくなるものよ。 そうよね、ヒルト?」
事実、否定は出来ない――俺自身はやはり大きさに拘らないのだが、目に見る分は大きいと眼福だし、未だに谷間を見せつけるティナから視線を外せなかった。
「……まあ否定は出来ないな」
「むぅ……。 小ぶりでも胸はあるのよ、アタシにもね! 触ってみなさいよ、ヒルト!」
「はぁっ!?」
半ばやけくそ気味に叫ぶと、鈴音は無い胸を必死に大きく見せようとし、挙げ句触らせようと俺の手首を掴んで誘導し始めた。
流石にそれはまずいと思い、堪えるのだが小さな身体の何処にそんな力があるのか、明らかに鈴音の方が勝っている――火事場の何とかってやつなのか。
「お、落ち着けって鈴音! ティナも笑ってないで止めてくれよ!」
「あ、うん。 ほらほら、ヒルトが困ってるから鈴、落ち着きなさい」
落ち着かせるためか、ティナは柔らかく言葉を告げる、鈴音の方も多少冷静になったのか、自分が俺にさせようとした行為を思い出したのか顔が真っ赤に染まっていた。
「……危うく猥褻罪で捕まるところだよ、ほら、俺が作ったおにぎり食べて良いから、少しは落ち着かせろって」
「ぅ、ぅん……」
言ってからおにぎりに手を伸ばし、それを小さな口で一口食べる――海苔と塩のシンプルなおにぎりだが、塩梅は悪くないはずだ。
「……美味しい」
「あぁ、おにぎりは昔から作ってるからな、手軽だし。 まあサンドイッチのが速く作れるけど、やっぱり米の方が美味しいからな、俺的には」
言いながらも俺は青椒肉絲を食べ終え、手を合わせていつものようにごちそうさまと二人に告げた。
「……あ、そうだ。 あんた、タッグマッチはもちろんアタシと組むんでしょうね?」
思い出したかの様にそう呟く鈴音、目尻がつり上がり、顔を近付けてプレッシャーをかけてくる。
「……悪いが今回は鈴音とは組めないんだよ」
「あら、ヒルトは誰か既に組む相手を決めてるのかしら?」
俺の言葉を訊いて目を見開く鈴音、そしてティナは既に組む相手が決まってる事が気になった様だ。
「ん、まあな。 今回は四組の更識さんと組もうと思ってな」
「そうなの? 確か、噂だと彼女の機体って――」
「あぁ、まだ未完成だな。 俺も何度か見てるから知ってるよ」
俺とティナ、二人で会話をしてると鈴音が――。
「な、何で四組の子と組むのよ! アタシと組んだ方が良いに決まってるじゃん、ヒルト!」
そう言ってまた顔を近付ける鈴音、鼻先が当たり、ちょっと唇を突き出せば確実にキスが出来るだけの距離だった。
そんな鈴音の様子に、ティナは僅かに微笑を溢しながら――。
「ふふ、良いじゃない? 他の専用機の子達と組まれて仲が深まるよりは」
「そ、そうだけどさぁ……。 ぬぐぐぐ……」
唇を真一文字に結ぶ鈴音、暫くすると軽く息を吐き、その吐息が俺の頬を撫でた。
「……まあセシリアや未来達と仲が深まるよりは良いけどさぁ……。 ……今回だけだからね、ヒルト。 今回は諦めるけど、その代わりアタシに何か奢りなさいよ!」
納得したのかはわからないが、ティナのお陰で荒れる事無く事態は終息したのにはありがたい。
「わ、わかったよ。 でも俺は代表候補生じゃないからな? 他の子みたいに潤濁にお金使える訳じゃないんだから」
「わかってるわよ、そんなに高いもの奢って貰おうなんて思わないからっ」
白い歯を見せて笑う鈴音、現金だがこれで鈴音は多分納得しただろう――と、今度はティナが。
「うふふ、じゃあ私もついでに何か奢って貰おうかしら? またはポテチ段ボール一箱分とか」
「ひ、一箱分?」
段ボール一箱分って、結構ある気がするのだが――と、クスッと笑みを溢すとティナは。
「冗談よ♪ でも、私だけ何も無いのは不公平だし、今日の夜、ヒルトの部屋にお邪魔しても良いかしら? まだ入った事無いからね、日本の男の子の部屋って。 良いでしょ、鈴?」
何故か鈴音に了解を得ようとするティナ、鈴音はというとそれぐらいなら良いかと思ったのか、頷いた。
「うふふ、じゃあ今日の夜八時に伺うわね? あ、あまり長居はしないから安心してね?」
「な、何でアタシに言うのよ、ティナ」
「ふふ……♪」
悪戯っぽくウィンクし、鈴音に微笑むティナ、一方の鈴音はというと、微妙な表情と共に僅かに頬を膨らませていた。
「さて、まあ大会ではライバル同士だが……お互い頑張ろう」
「……アタシと組んでおけば良かったって、後悔するかもね、ヒルト」
そう言うが、ニシシっと八重歯を見せて拳を軽く突き出した鈴音、それに重ねる様に俺も軽く拳を当てる。
「んじゃ、そろそろ戻るよ」
「うん。 まだアタシは誰と組むかわかんないけどさ、アタシ達に当たる前に負けないでよね、ヒルト」
「ん、可能な限り善処するさ。 ……ティナ、八時に来るのか?」
鈴音にそう応え、次にティナに訊くと頷き――。
「勿論よ、せっかくだもん。 たまには“キミと二人っきりで”話もしたいしね」
何故か二人っきりを強調するティナ、僅かにムスッとする鈴音、それに気づいた俺は乾いた笑いしか出なかった。
「じゃあそろそろ戻るよ。 二人とも、ありがとな」
「うん。 じゃあまたね」
「ふふっ。 それじゃあねまた夜にね、ヒルト?」
二人に見送られ、俺は二組教室を後にして、直ぐ一組教室に――だが、入った瞬間に何処かの少女漫画の様な出会い頭のぶつかり方をしてしまう。
俺もぶつかった相手も、尻餅すらつかなかった、そしてぶつかった相手を見る。
流れるような銀髪と左目に着けた眼帯に幼い顔立ち、そして小さな背丈――先日、色々とえっちな事をしてしまったラウラ・ボーデヴィッヒがそこに立っていた。
「ヒルト、待っていたぞ。 先ほどは美冬に阻まれたが……ヒルト、タッグマッチの件だが、無論私と組むのだろうな?」
「ラウラ……」
名前を呟く……そうすると、僅かに頬が赤くなるが、今はそれ所ではないと思ったのか、いつの間にか貰ってきたであろう申込書を俺の眼前へと突き出した。
「これが申込書だ、さっき教官から貰ってきた物だ。 後はここにヒルトのフルネームを記入するだけでいい」
何とも手際の良いことだと感心するも、俺はとりあえずラウラを廊下へと連れ出す。
疑問符を浮かべたラウラだったが、手を握られた事が嬉しかったのか僅かにはにかんでいた、そして、階段の踊り場まで辿り着くと俺は――。
「ラウラ、ごめん。 今回のタッグマッチ大会、もう組む相手を決めてるんだ」
「な、何……?」
手からはらりと落ちる申込書、俺は慌てて拾い上げると、それを手渡そうとラウラを見るのだがそこには幼い顔には似あわない、というか出逢った当初のラウラの様な表情を浮かべていた。
「ヒルト、誰と組むのだ? 言ってみろ」
「……四組の更識さんだ」
「……成る程、ならば少しここで待っていろ。 私が四組の更識――……更識とは、もしかしてあの女と血縁関係のある者なのか?」
「え? あぁ、楯無さんの妹だな」
「ほぅ……」
とりあえず更識さんと組むことを告げたのだが、明らかにラウラはそれを辞退させようとする勢いだ。
「……ヒルト、あの女から頼まれたのか?」
「……頼まれはしたが、組むって決めたのは自分の意思だ、だから今回はラウラ、諦めてくれないか? ……ダメ……か?」
「む……ぅ……」
僅かに揺らぐラウラ、ラウラの気持ちを考えたら俺も酷いことをしてるという罪悪感が心を少しずつ蝕んでいくのがわかる。
「……ヒルト、私は……お前と組みたいのだ」
「……わかってる、さっき鈴音にも組みたいって言われたが、断ったからな。 ……傷付けてるのはわかってる、でも……更識さんと面識があるのは俺達兄妹――俺と美冬だけなんだ。 知らない相手と組むよりかは、俺との方がまだ彼女も気が楽になるだろうと思うし、今回はだけは諦めてくれないか……? 都合の良いことを言ってるのはわかってる、だけど……」
言葉が詰まり、暫し俺とラウラの間に沈黙が続く。
廊下では女子の話し声が聞こえてくるのだが、俺とラウラの間ではそんな楽しそうな声も雑音の一つに過ぎなかった。
――と、ラウラが口を開く。
「……むぅ……。 ……わかっ……た。 だが、今回だけだぞ。 次回はちゃんと選んでもらうからな、ヒルト」
しぶしぶといった感じで許してもらえた感じだ、次回あるなら私を選べという事だが――それもまだ俺には決める事が出来ない。
「さ、流石にそれはまだ約束出来ないな。 ……ごめん」
「……なら代わりの代案、いいかヒルト?」
「あ、うん。 俺に出来ることなら構わないぞ?」
謝ると直ぐにラウラは代案が思い付いたのか、そう告げた、そして耳打ちしたいのかラウラは屈むようにジェスチャーするので屈むと――。
「……今日の深夜……ヒルトの部屋に行く」
「……!?」
耳打ちが終わり、ラウラを見ると顔が真っ赤に染まっていた。
ラウラの言っていた意味を理解するには十分で、俺はドキドキと加速する心臓の鼓動がラウラに聴かれるのではないのかと思うぐらいだった。
「ではヒルト、部屋の鍵は開けておくのだ。 ……いいな?」
「わ、わかった。 ……悪いな、ラウラ、組みたいって気持ちはわかるが叶えてやれなくて」
そう俺が言うと、首を横に振りラウラは――。
「組めない事は残念だが、大丈夫だ。 ……ではヒルト、そろそろ教室に戻るとしよう。 深夜、起こすからな……」
白い肌が赤く染まる、いつもの事だがラウラ自身も恥ずかしいのだろう――いや、まあ俺も恥ずかしいが。
先に教室へと戻るラウラの後に続き、教室に入ると同時に昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
既に他の専用機持ちや生徒は自身の席に着席していたのだが、一夏と篠ノ之だけが見えなかった。
そう思いながら席に着くと同時に織斑先生が教室にやってくる。
「さて、五時限目の授業だが――」
早速授業開始と言わんばかりに、持ってきたIS関連の教科書を開く織斑先生だが、鷹月さんが手をあげる。
「織斑先生、まだ織斑くんと篠ノ之さんが戻って来てませんが……」
その指摘に、織斑先生は溜め息交じりに答えた。
「……あの二人には五時限目終了するまでグラウンドを走ってろと命じた。 篠ノ之に関してはISの部分展開を行い、尚且つ専用機持ちとしての自覚も無かったのでな。 無論罰は連帯責任という形で今はあの二人だけだが、あまりに目立つようであれば一組クラス全員、私が良いと言うまでグラウンドを走らせる結果になるがな」
その言葉に、戦々恐々とする女子一同、下手すると体育会系の様になるかもしれない。
「それと、後は二人には反省文の提出、先日出したばかりだがまだ反省が足りないようだからな。 まだ二回だから軽いが、三回目になればいくら篠ノ之が束の妹であろうと、専用機の使用を暫く禁止にする。 諸君も代表候補生を目指す身だろう、責任と自覚のある行動をとってもらいたい。 ……では授業を始める」
それだけを告げると五時限目の授業が開始された、まあ篠ノ之には専用機を持つ者としての自覚が足りないのは明白だからな……。
鈴音も一度六月にやってるが、それ以降は全くそんな素振りが無いから彼女もそこはわかってるのだろう。
とりあえず篠ノ之と一夏の事はそこに置いておき、俺は授業の準備を始めた……。
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