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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第430話】

 
前書き
美春話 

 
 寮の通路を歩いて数分後、美春の部屋の前に着くなり早速ドアをノックする。

 奥から美春の声が聞こえ、パタパタと足音が聴こえてくる。

 ドアノブが回り、ドアが開くと美春はびっくりした表情を浮かべた。


「ひ、ヒルト? ……ど、どうしたの……? ひ、ヒルトがこの時間に訪ねてくるなんて初めて……」


 若干戸惑いを見せる美春だが、表情はイヤという感じはしなかった。


「ちょっと報告があってな、上がっていいか?」

「も、勿論よ。 ……ヒルトは私のマスターなんだし、断る理由……ない、よ?」


 僅かに頬に赤みが差す美春に促され、俺は部屋へと入り、奥へ。

 部屋の中は整然とされていて、ベッドにちょこんと乗ったウサギのぬいぐるみが目についた。

 他だと机にはこれ迄の歴史の本などが数冊積まれている、美春なりに人を理解しようとしてるのだろう。

 とりあえず美春が使ってるベッドに腰掛けると、美春も距離は開いてるがベッドに座った。


「……何で微妙に距離が空いてるんだ?」

「ぅ……し、仕方ないじゃん! ひ、ヒルトの近くだと、ここがキュンキュン締め付けられちゃうもん……。 ……コアの頃からそうなんだからね、責任取ってよ、バカバカ」


 言いながら開いた距離を詰め、肩をポカポカと叩く美春、だが全く痛くなく、何となく微笑ましく思う。


「はは、責任ってどうとれば良いんだよ?」

「ぅ……。 ……し、知らない……」


 顔を背ける美春に、苦笑を溢しつつ俺は自分の要件を美春に伝えた。


「美春、今度の日曜日俺と美冬、未来に一夏と篠ノ之は取材を承けることになった」

「そうなの? 取材って、ヒルト達がメディアに露出する事だよね? ……私には依頼なかったの?」

「ん、美春には無いが、無い方がいいさ。 ……美春は元ISコアだ、その事実が露呈すればどうなるか何てのは目に見えてる。 ……何で美春が人として身体を得たのかはわからないが、それで美春が不幸になって良いわけがないからな」

「ぁ……。 ……ば、バカ……でも、そういう優しい所、嫌いじゃないよ……?」


 赤みが差した頬が、一気に完熟した林檎の様に赤く染まる。

 嫌いじゃないよという言葉に、嬉しさを感じると俺は美春の頭を撫でる、さらさらの黒髪は撫でていても心地好く、美春も撫でられる感触を楽しむように瞼を閉じた。


「まあそんな訳で、美春は此処で留守番よろしくな」

「うん。 ……まあ、私も人類の歴史を調べてるからね? ……大昔から戦争ってあるんだね……」


 複雑な表情を浮かべる美春、確かに古来から人の歴史は戦争の歴史といえなくもない。

 今も地球上では紛争がある、宗教や民族間、国同士が仲違いして等様々だ。


「……そうだな。 とはいえどんな人間もその人を殺したいから戦争するって訳じゃないからな? 自分の故郷が燃やされる、それが嫌だから戦う人もいるし、嫌々徴兵される人もいる、逆にそれしか金を稼ぐ手段を思い付かない人だって昔から居たからな」

「うん、それはわかるよ。 ……なかなか難しいね、人って」


 言いながら寄り添うように身を預けてきた美春。


「ん……そうだ。 前から言ってる福音の件だけど、ヒルト……逢いたい? 多分まだ封印されてるから眠ってると思うけど」


 封印された銀の福音、今は何処かの基地の奥深くにあるらしいが、その所在はアメリカ政府がひた隠ししている。

 共同開発したイスラエルにも秘匿しているため、国が抗議をあげてるとニュースでちらっと言っていたのを覚えていた。

 ――それはさておき、俺自身は眠っていても彼女に逢いたいと思い、頷くと何故か顔を真っ赤にする美春。

 頭に疑問符を浮かべると、美春は潤んだ瞳で真っ直ぐ俺を見つめながら。


「……コアの頃は、ヒルトが意識を集中すれば大丈夫だったけど、今は私のコア内部の世界に行くには――その、粘膜の交換というか、体液が……~~~~。 は、早い話、き、き、キス……か、そ、その……じ、人類の愛の営みというか……え、えっと……。 え、えっちな事……じゃないといけないの……っ」


 言ってて恥ずかしくなったのか、両手で顔を隠し、背ける美春。

 何気にキスかセックスかの二択というコア・ネットワーク世界への行き来――多分だが、これに関しては美春が擬人化した事による弊害だろう――セックスに関してだけだが、キスに関しては雅とは交わしてる為、それで帰還出来るのは知ってる。

 とりあえず両手で顔を隠す美春の頭を優しく撫でながら――。


「それだと福音に会えないよな……。 美春だって恥ずかしいだろうし、キスも、後……えっちも、さ」

「……でも、ヒルトなら構わな、いから……」


 消え入りそうなか細い声で呟く美春、顔を覆っていた両手を外すと茹で蛸以上に真っ赤になっている。


「……ヒルトの事、嫌いじゃない、し……。 ……ヒルトは……私じゃ……嫌かな……?」


 覗き込む様な上目遣いにぴったり寄り添うように預ける身体、腕に密着する美春の乳房の柔らかな感触に頭が少し真っ白になる。


「い、嫌じゃないが……。 で、でも……お前は良いのか?」

「……ぅん。 え、えっちな事はまだダメだけど……き、キスなら……。 ……しないと、福音に会えないよ? 今のヒルトの機体……打鉄のコアじゃ、福音と接触出来ないし……」


 コア・ネットワークで各コア同士が繋がってるとはいえ、封印されたらその難しいのだろう――が、美春は俺と一緒に福音のコアと出会ってるから多分まだ繋がりが残ってるのかもしれない。

 あくまでも俺の推測だが――とはいえ、手段としてキス、或いはセックスじゃないと美春のネットワーク世界にいけないのは少々不便かもしれない。

 ――後はそれを手段としてキスを迫ったり、セックスしたりとかはしたくない。

 ……まあ既に色んな子とキスをした俺がこんな事を考えても説得力は皆無なのだが。

 ともあれ、やはり一度ちゃんと福音を見ておきたいので今回だけと思うと俺は――。


「わかった。 ……様子だけでも見たいし……。 美春、でもこれを手段としてキスを迫ったりはしないからな……?」

「……ぅん。 ……やっぱりヒルトは優しいよ。 ……だから皆、惹かれるのかも……」


 そんな呟きが耳に届く、だが……俺自身は優しいかはわからない。

 皆が俺を好きな理由も様々だろう、直感の子も居るだろうし、昔からとか、何かのきっかけだとか――。

 美春の肩に手を置く――小さく身震いするも、キュッと瞼を閉じてキスを受け入れる様に上顎を上げる美春。

 やっぱりキスをするとなると、いつもだが心臓の鼓動が加速する――。

 ゆっくり顔を近付け、美春とキスを交わすと柔らかな感触が唇いっぱいに伝わってくる。

 ――と、唐突に視界に真っ白な閃光が覆う、気付くといつか来たときと同様の空間に佇んでいた。


「ヒルト、こ、此方だよ」


 声のする方へと振り向くと、真っ赤な表情の美春がドアの前に立っていた――やはり美春自身もキスは恥ずかしいのだろう、帰りは前みたいにドアを出してもらえばいいか。

 そう思いながら側へと近付くと、もじもじと指を弄びながら美春は口を開いた。


「こ、ここから直通で福音の居る所に行くことが出来るから。 わ、私も同行するけどね、しないとヒルト、帰れなくなるし」

「ん、そうか。 ……じゃあ頼むよ、美春」

「ぅ、ぅん」


 短い返事の後、ドアノブを回すとドアが開かれる。

 その先の空間は、かつて見た遊具などが置いていて、その中心にはベッドが一基備わり、そこに一人の少女が寝息をたてて眠っていた。

 中へと入ると、俺に続いて美春も中へと入る。

 前に見た時と変わらず、出迎えたのは福音のコアが遊んでいたであろう遊具たちだ――だがその主であるコアは、深い眠りについている。

 側まで近付くと、あどけない寝顔を無防備に晒す福音――だが、ロリコンでは無いので可愛いとは思っても、それはあくまで歳の離れた妹を見るようなものだ。

 ……その妹と関係を持った俺が言っても説得力は皆無だが。


「……やっぱり封印されてるから眠ってるね」

「……だな、だけど……寝顔は可愛いぞ」

「……ロリコン」


 ムスッとした膨れっ面になる美春、だがロリコンとは心外だなと思う。


「何で俺がロリコンになるんだよ。 これが小さな男の子なら美春は何て言うんだよ?」

「……ショタコン」

「……言っとくが、どっちの趣味もないからな、俺は。 あくまで兄みたいな気持ちしか無いって」

「本当かな……」


 何故かジト目で見つめる美春、そんな美春に苦笑しつつも福音の頬を指でつつくと擽ったそうに身を捩った。


「ヒルト、封印されてる福音起こしたら大変な事になるよ。 だからお触り禁止っ」


 ぺちっと手の甲を叩く美春に再度苦笑を溢す、触れるのを止めると俺は福音のあどけない寝顔見ながらそろそろ戻ろうという思いが強くなった。


「福音、また時間出来たら見に来るからな」


 眠り姫にそう告げると、何故か美春が赤くなる――というか、来るということはまた美春にキスをするか、或いはそれ以上の事をしないといけないという事実だな。

 ――よくよく考えたら、キスでいけるならセックスまでいかなくてもって思うが……この辺りは野暮といった所だろう。

 ベッドで眠る福音をその場に残し、俺と美春は元の空間へと戻る。


「ん、それじゃあそろそろ現実に帰るか。 美春、前みたいにドアを出してくれるか?」

「あ、ぅ、ぅん。 ……キスじゃないんだ……」


 残念そうにそう呟く美春の言葉が耳に届く、だが――行き帰り共にキスはもう、本当にそれを口実にキスがしたいってなりそうな気がして……主に俺が。

 最初こそキスする度に色々思い悩んだが、回数が増えるに連れ、段々と普通に何も思わなくなってくる。

 ……人って、慣れると怖いなと思う。

 ドアが空間から現れ、美春がそのドアノブを回すと前に見たときと同様、意識へと繋ぐ奔流が見える。

 相変わらずだが、荒れ狂う海はこんな模様なのかなと思うとゾッとする。


「……じゃあ美春、向こうでな」

「うん。 ヒルト、また向こうで」


 ひらひらと手を振る美春を見ながら、背中からその奔流に身を預ける様に落ちていく――次第にドアが遠ざかり、ゴマ粒ぐらいの小ささになると目映い閃光が視界を覆い、そのままふっと意識が無くなった。


「――きなさい。 ヒル――」


 耳に美春の言葉が届く――深い眠りの底から蘇る様に意識を取り戻し、目を開くと。


「あ、やっと起きた。 ……ヒルト、早く戻らないと怒られるよ?」


 顔を覗き込む美春、後頭部に何か柔らかいものがある。

 ……が、覗き込む美春を見て直ぐに膝枕されてる事に気がついた。

 とりあえず身体を起こし、部屋に備わった時計を見ると夜の九時少し回った所だ。


「っと、確かにこれ以上居たら懲罰室だな。 ……じゃあ美春、また明日な」

「う、うん。 ……じゃあね、ヒルト。 おやすみなさい」


 さっきと同様、笑顔で手を振る美春、それに応える様に俺は美春の部屋を後にすると早足で自室へと戻っていった。

 一方、自分の部屋で美春は指で唇をなぞりながら――。


「……ヒルトとキス……しちゃった……」


 福音の居る所に案内するとはいえ、初めてのキスに全身の熱が上がる思いになる美春、ベッドに転がると、抱き枕を抱えてごろんごろんと何度も往復するのだった。 
 

 
後書き
前々から書いてた福音の奴ですな、とはいえ寝顔見ただけのあっさりですが

次はどうするかな…… 
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