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俺はここにいる!

作者:月下美人
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第六話「恋人候補は媛巫女」

 
前書き

今更な報告。作者は原作を十巻までしか持っていません。作者は理解力が低レベルです、斉天大望あたりまでは何とか追いついていましたが、グィネヴィアあたりから何が何だか分からなくなってしまう次第。

ですので、原作と作者の見解に齟齬が発生してしまうかもしれません。一応この物語の中では筋が通るように構成していきますので、温かい目で見守ってやってください。
 

 


 祐理の身に危機が迫っている、と悪い予感に駈られて急いで七雄神社に向かった。


 気配を頼りに祐理の元に辿り着き、彼女の身に変化がないことに一先ず安堵する。そこで初めて、室内には俺たち以外にスーツを着た男が一人いて、しかも何故か壁に頭をぶつけて倒れていることに気がついた。


「そ、蒼蓮さん? どうされたんですか、急に」


「おう。いやな、悪い予感がしたから急いで来たんだ。そしたら何故か男は倒れているし。これ、どういう状況?」


 これまでの経緯を話す祐理。全てを聞き終わった俺は一つ頷いた。


「なるほどなるほど。草薙とその神具の鑑定に、草薙の愛人にねぇ……よしわかった。コイツ殺そう。んでもって委員会潰そう」


 バキバキと手を鳴らしながら男に近づく俺に、慌てて祐理が割り込んだ。


「いけません! 無闇に暴れるのはお止めになるように言いました!」


「でもコイツら、要は祐理を人身御供にしようとしたんだろ? そんな狼藉許せん!」


「それでも人を殺めるのはダメです! あっ、私のために怒って下さるのは嬉しいですよ? でも、だからといって――」


「いたたたた……何なんですか一体?」


 鼻を擦りながら起き上がる罪人。俺の顔を見るなり顔色を変えた。


「これはこれは、海堂蒼蓮様ではないですか。お初にお目にかかります、私は――」


「貴様の名などどうでもいい。それより今すぐ辞世の句を決めろ」


「……え? あれ? もしかしてお怒り、ですか?」


「当然だ。貴様は――いや、貴様らは俺の恋人候補を草薙の愛人にしようとしているらしいな?安心しろ。お前を殺ったら、すぐに他のお仲間も冥界(そっち)に送ってやるから」


「蒼蓮さんっ! 何度言えば分かるのですか! それはダメだと言っているでしょう!」


 眉を吊り上げた祐理が諌める。


「しかしだな――」


「口答えしないっ!」


「――はい」


 正座を強制させられ、そのままお説教タイムへと突入する祐理さん。いかん、祐理さんの背後に夜叉が見える。こうなったら頑固なんだよな。


「あの、お二人方はどのような関係なのですか?」


「俺が告白して返事を待つ関係だ。祐理は渡さん! 仏の顔は三度までだが、俺の顔は二度までだ。よく覚えておけ」


「蒼蓮さん! 誰が口を開いて良いと言いましたか!?」


「……あい、すみません」


 愛する妻たちよ。恋人候補が怖いです……。





   †                   †                   †





 説教は三十分と比較的短く済んだ。いつもなら最低一時間は続くのだが、この場には俺たち以外にも人がいることを思い出した祐理は、顔を赤くして甘粕とやらに向き直った。


「大変お見苦しいところをお見せしました……」


「いえいえ。こちらも、まさか姫巫女が海堂様と結ばれていらっしゃるとは露とも知らず。大変失礼いたしました」


 畏まった様子で頭を下げる甘粕に祐理が慌てて面を上げるように言った。


「蒼蓮さんとはまだそのような関係では……」


「そうなのよねー、いつになったら返事をくれるんだろうねー?」


「あなたは黙っていてください!」


「……あい」


 一喝する祐理と押し黙る俺を興味深そうに見ていた甘粕は改めて姫巫女に向き直った。


「では確認しますが、草薙護堂と神具の鑑定をお願い致します。愛人の件につきましては別の者を宛がいますので」


「承りました」


 丁寧に頭を下げる祐理の隣で、ボソッと呟く。


「草薙はカンピオーネだぞ?」


「はい?」


「えっ?」


 キョトンとした目で見てくる二人。祐理が淹れてくれたお茶を飲みながら言葉を続ける。


「いやー、実は昨日ローマで草薙とやり合ってね。本人はまだ権能を掌握しきれていないようだけど、あれは間違いなくカンピオーネだ。将来が楽しみな少年だよ」


「やり合ったって……怪我は!? お体は大丈夫なのですか!?」


 心配そうに俺を見上げる祐理。


「おう、無傷さ。神殺し歴一年もしない若造に後れをとる俺じゃないさ。耄碌した覚えもないしな」


 ホッと安堵の吐息を溢す祐理の頭を撫でながらカラカラと笑った。


「そうでしたか。では神具の方は確認されましたか?」


「いんや、そっちの方は見てないな。けれどエリカが呼びつけたんだから何か知っているだろう。後で聞いてみるわ」


「王の手を煩わせて、申し訳ありません」


 低頭する甘粕。


「別にお前のためじゃないし。祐理のためだ」


 妙に気恥ずかしく感じた俺はお茶を一口飲み、祐理の方を見る。


「うっ……!」


 そこには表情は笑顔なのに目は全く笑っていない巫女さんの姿があった。


「甘粕さん。申し訳ありませんが今日のところはこれで失礼して頂けますか? 少々こちらの人とお話がございますので」


「わ、わかりました。では、私はこれで。本日はお時間を頂きありがとうございました」


 祐理の言葉にそそくさと退散する甘粕。室内には俺と巫女さんの二人だけとなった。


「ゆ、祐理さん……?」


「蒼蓮さん」


「はい!」


 静かな声なのに、自然と背筋が伸びる。そんな俺と向かい合った祐理は変わらぬ笑顔を張りつかせて口を開いた。


「エリカさんってどなたですか?」


「私の妻であります!」


「ああ、そうでしたね……。蒼蓮さんには妻子がいらしたんでしたね。あなたという方のいやらしい性根を失念していました」


 分かる。俺には分かる。声音は優しいがこれは爆発する寸前なのだと。


「魔王の力を利用して女性を意のままにし、愛人にするだなんて恥べき行為だと思いませんか?」


「いやいや、ちょっと待て。確かに俺はいやらしいし女性関係については節操なしだが脅迫紛いで近づいたことは一度もないぞ? それに愛人云々がエリカのことを指しているならそれは違う」


「でしたら、そのエリカさんが本妻なのですか? どちらにせよ女性を囲っている時点で不誠実です」


 ジトーとした目で見詰めてくる祐理。


「エリカは本妻じゃなく妾だ。それに俺が女たちに向ける愛はどれも平等だ。そこに優劣はないし、後ろめたいことなど一つもない」


 一般的には妾と愛人はイコールだが、我が家――もとい、俺は違う。愛人は恋人以上嫁以下に使う言葉。つまり嫁候補を意味する。


 むしろ誇りだ、と胸を張って言うが返ってきたのは絶対零度の視線だけだった。ため息とともに視線を切る祐理に少し傷つく。


「今日はもうお帰りください。私からの用はございませんので」


「えっ、祐理? ちょっ、祐理さーん!?」


 障子を閉める無情な音が、すべてを物語っていた。





   †                   †                   †





 その後、いくら障子越に声を掛けても返事が来ないため、仕方なくその場を後した。頑固なところがある彼女は一度こうなってしまうと梃子でも動かない。こちらから身を引くしかないのだ。


 ――明日改めて顔を出そう。そんでもってもう一度謝ろう。赦してもらえるか分からないけど……。


 すごすごと退散する自分を改めて振り返り、思わず苦笑した。


「一時期はまつろわぬ神にさえ『触らぬ海堂に祟りなし』、『死を振り撒くモノ』と言われ、『神越』の名で忌避された俺が今では一人の娘に右往左往する、か。嘗ての俺が見たらなんていうかな……」


 無様の一言で終わりそうだなと結論付け、今し方踏破した長い階段を振り返る。


「……祐理と出会って、もう四年経つのか。存外時が経つのは早いものだな」


 彼女――万里野祐理と出会ったのは、とある国で起きた事件の渦中だった。


 カンピオーネ歴三百年少々の小僧がまつろわぬ神を招くという事件だ。その神を降臨するための儀式として全国から選りすぐりの巫女を集めるという暴挙に出た。


 当時、偶然その国に家族で旅行に来ていた俺たちは突然膨れ上がった呪力を感知。


 まつろわぬ神が降臨しようとしているため天変地異が起こるは魔術結社の雑魚どもが騒ぐわでデートどころの騒ぎではなくなった。


 大切なデートに水を差された俺は腹いせに主犯の小僧を軽くぬっ殺したのだが、図らずともそれが事件に終止符を打つ破目となる。その時に偶然助ける形で知り合ったのが、たぐい稀な霊視力を持つため日本から拉致された祐理だった。


 ――実は祐理の他にもう一人、知り合った人物がいるのだが、それはまたの機会に紹介しよう。今は日本に居ないしな。


 当時はそれ以降、祐理と会うこともないだろうと踏んでいたのだが、何の因果かその後もちょくちょく顔を合わせることになった。


 元々、向こうはこちらに好感を持っていたらしく親身に話し掛けてくるようになり、俺も段々彼女の淑やかでいて芯のある内面や大和撫子を体現したような容姿に惹かれた。


「そして、彼女に告白したのが先月のことです、と」


 まだ返事は貰っていないが反応は上々だと思う。告白した当初は驚きのあまりパニックになる寸前だったため、返事は自分の気持ちに整理がついてからでいいと告げている。こちらは始めから長期戦の姿勢で臨んでいるんだ。気を長くして待つさ。


 ちなみに、祐理の家族との関係も良好である。祐理の妹は俺を『兄様』と呼び、実の兄のように懐いてくれている。両親も当初は相手がカンピオーネであり、しかも【海堂蒼蓮】であることを知って失神寸前だったが、今では幾分か緩和している。まだ態度が硬い印象を受けるが、そこは仕方ないと思って諦めているけど。


 祐理は巫女として素晴らしい資質を持っている。彼女ほどの霊視力を持つ者は俺の人生の中でも片手で数えるくらいしか記憶にない。しかも祐理はただの巫女ではない。【媛巫女】だ。


 主に関東一帯を霊的に守護する呪術師、その中でも高位の女呪術師に対し【媛】の称号が与えられる。【媛巫女】は巫女の中でも高位に位置する存在だ。


 日本には幾人もの媛巫女が存在するが、祐理は群を抜いており、彼女の霊視力は真名を見破ったり、神々の歴史を覗き視る力を有する。


 そのため、祐理の霊視力を利用しようと多くの馬鹿どもが彼女を虎視眈々と狙っている。四年前のあの小僧のように……。


「――いや、狙っていたというべきだな。今は俺がついてるし」


 もし祐理を狙うような愚者がいたら、殺して生き返らして殺しての無限地獄を味わしてやる。


 肩を震わせてクツクツと嗤っていると、傍を通り掛かった猫が毛を逆立てて来た道をUターンしてしまった。……悪いことしちゃったな。


「ふぅ……、今はそれよりも、祐理のお怒りをどう鎮めるべきかだな」


 深呼吸して心を静め、改めて今の問題について考える。時間が解決してくれ……ないよなぁ。


「やっぱり誠心誠意、謝るしかないか」


 明日になったらちょっとはお怒りが静まっていてくれますように、と明後日の方向を向きながら知り得る限りの神々に向けて柏手を打つ。


 ――今の心境は、昨日の敵は今日の友。

 
 

 
後書き

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