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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第622話】

 時間は二分程遡る、黒騎士と交戦状態の一夏の援護に入ったのはヒルトだった。

 燃える京都の街並みを見てヒルトは叫ぶ。


「無関係な奴まで巻き込んで……街を燃やして――いい加減にしろよ!!」

「くははははっ! 貴様らが仕掛けなければ京都は燃える事はなかった! そらぁっ!!」


 バスター・ソードの一撃を神之神霧露で受け止めるヒルト――隙を狙い、一夏も斬りに掛かる。


「うぉぉおおおッ!!」

「チッ、邪魔だ、織斑一夏!!」


 ランサー・ビットを片手近接武装に切り替え、矛先で突き飛ばすマドカの一撃。


「ふははははっ! これが黒騎士の力! 織斑マドカの力だ! 有坂ヒルト!!」

「何が黒騎士だ! 何が織斑マドカだ!? 街を燃やして今なお混乱に陥れてるお前らのそんな力なんて――」

「ハハハハハッ! なら今貴様が誇示している力はなんだ!? 言ってみるがいい、有坂ヒルト!!」


 荷電粒子剣の刃とバスター・ソードのエネルギー刃が激しくぶつかり合い、目映い紫電を放出させていた。


「これは誰かを泣かせない為の力だ!! 誰かを傷付けさせない為の力だ!! 誰かを助ける為の力だ!! そして!!」


 そんな想いと共に神之神霧露で切り払う。


「誰かを守る為の力だァァァッ!!!!」

「馬鹿な!? 黒騎士の力を上回るだと!? スペックでは圧倒しているはずだ、この力は何だ!?」


 押し負け、動揺の色が見え、目を見開くマドカ。

 そんな時だった、地上に一機の機体が降り立ち、近くのEOS部隊を壊滅させたのは。

 更に悪いことに、その機体は近くに居た一般人を狙っていた――ハイパーセンサーに映った顔に、ヒルトは目を見開く。


「成樹!? チィッ!! それにあの機体……!!」


 何合か切り結び、一瞬の隙をついてヒルトは直ぐに成樹の救援に向かう。


「行かせる訳には――」


 マドカが追おうとした時だった、一夏が再度肉薄すると同時に月穿を放つ。


「チッ! ……まあいい、先に織斑一夏を葬り、私が織斑マドカになってから全ての借りを返すぞ、有坂ヒルト!!」

「ハァァアアアッ!!」


 再び一夏とマドカの一騎討ちが始まり、外れた荷電粒子砲はビルの一角を削り取った。


 後ずさる成樹――怪しく光を放つ無人機のバイザー――刹那、上空から突如現れたヒルトが無人機にしがみついた。


「ヒルト!?」

「成樹! 今のうちに避難しろ! こいつは俺が抑える!!」

「あ、ありがとう……。 ごめん……君に迷惑をかけて」

「構わないさ! 親友が怪我したとかは嫌だからな!!」

「…………っ」


 瓦礫を飛び越え、唇を噛み締める成樹――悔しかった、いつもヒルトに助けてもらってばかりで、成樹自身が彼の力になれなかった事に。

 羨ましかった――男が乗れない筈のISを起動させたヒルトの事が。

 必死に走り、喘ぎ、空気を肺に入れて駆け抜けていく――気がつくと成樹が居た場所は【世界のラファール・リヴァイヴ展】イベント会場だった、係員等は居なく、爆発の影響からか開き戸のガラスが割れ、簡単に中に侵入出来る状態だった。


「……!? せめて何かヒルトが使えるものがあれば……!」


 この成樹の決断の一つが、また世界の変化を投じる一石になることは、ウィステリア・ミスト以外知るものはいなかった。

 イベント会場内は暗く、フレームだけのラファール・リヴァイヴも静かに鎮座していた。


「ッ……な、何か……何か無いのかッ!?」


 焦りだけが募る、助けてもらってばかりで返すことが出来ない自分が悔しかった――ヒルトの力になりたかった。


「……そうだ! この何れかのラファール・リヴァイヴが使えないか調べれば!」


 男にISは使えない――それが世界の常識であり、定められた運命。

 だが、この時の成樹の頭からはそれが抜けていた。


「クッ……反応がない! ……何れでもいいんだ! 僕は!! 僕はッ!!」


 世界で初めて、男子のIS操縦者が現れたのは今年の二月の出来事だった。

 それは、笹川成樹の親友である有坂ヒルト――。


「応えてくれ! お願いだッ!」


 そのニュースは瞬く間に全世界へと発信され、成樹が知ったのはヒルトと連絡が取れないと困っていた時の事だった。


「お願いだ! 僕に友を救う力を!! もう……助けられるばかりじゃ……嫌なんだッ!!」


 子供の頃からISのイベントが好きだった成樹、喫茶店の手伝いをする中、欠かさずに成樹はIS関連書籍を集めていた。


「……ッ……僕じゃ……僕じゃやっぱり……」


 男がISに乗れない――それは変わらない現実。

 だが――既に運命の輪は回り始めていた。

 イベント会場の真ん中に鎮座している漆黒のラファール・リヴァイヴ、その装甲が僅かに鈍く光る。


「……っ。 お願いだ……僕に、僕に友を守る力を! 応えてくれェェェッ!!」


 祈るように漆黒のラファール・リヴァイヴに触れた成樹――運命の輪はもう回っていた。


「クソッ! 市街地に無人機何て!!」


 ヒルトは成樹が離れてから直ぐ様戦いを始めていた――相手の射撃には身体を張って市街地を守り、攻撃はなるべく被害を出さないように北落師門だけで戦っている。

 イザナミも合流し合体、だが様々な制限を受けてるヒルトは苦戦を強いられていた。


「かわされた!?」

『――――――!!』


 高周波音が鳴り響く――背後を取られたヒルトの無防備な背中に狙いを定めた無人機。

 その時だった、煌めく漆黒の流星が大空を飛び立ったのは。

 場所はラファール・リヴァイヴ展イベント会場。


「ッ……何だ、アンノウンか!?」


 突然市街地から新たに現れたIS反応に驚くマドカ、味方の信号を出していない完全な身元不明の機体。


「隙だらけだぜ!?」

「チィッ、調子に乗るな織斑一夏ァッ!!」


 白と黒が交差する戦場――突如京都上空に現れた漆黒の流星は真っ直ぐ無人機とヒルトの元へ駆け抜ける、尋常じゃないその機動力と運動性を用いて迫る。


「ヒルト! 屈むんだ!!」

「!?」


 上空から聞こえた聞きなれた声――刹那、流星は無人機に激しく当たり散らせ、ヒルトに向けられた粒子熱線は夜空の彼方へと消えていく。

 加速のついたその体当たりに体勢を崩す無人機――だがパワー負けせず、ぶつかった漆黒の流星を抑え込もうとしていた。

 ヒルトは突如現れた漆黒の流星を見る――其処には見慣れた親友である笹川成樹の姿があった。


「大丈夫かい、ヒルト!?」

「な、成樹!? それは――」

「説明は後だ! 今は――こいつを!!」


 加速が増す成樹の機体――所々カスタマイズされているがそれはラファール・リヴァイヴだった。


「ハァァアアアッ!!」

『――――!?』


 スラスターが唸りを上げ、徐々に押し始めた成樹。


「今だ! 僕が抑えている間に!!」

「ああッ! 食らえよォォォッ!!」


 背後から零距離に迫り、パイルバンカー《ジャガーノート》を呼び出し、無人機の装甲に当て、撃ち貫く。

 激しく撒き散らせた装甲――、膝をつく無人機、点っていたバイザーから光が失われた。

 その直後、部位のブロック単位で粉々に破砕、自滅プログラムを組み込まれていたのかコアもろとも消滅した。


「ハァッ! ハァッ! ハァッ……。 な、何とか……手助け出来たね……」

「成樹……」

「……ヒルト、行って。 僕が……僕が、君の代わりに、避難が遅れた皆の手助けするから……」


 呼吸の荒い成樹は額の汗を拭い、いつものような笑顔を見せた。


「……わかった、頼んだよ成樹。 ……俺は、あの機体を抑える!!」


 ヒルトはそう告げ、また白と黒が戦う空域へと飛んでいく――残された成樹は呟く。


「……少しでも、君の力になれたなら……良かったよ」


 小さく微笑を溢すと成樹は道路を塞ぐ瓦礫の撤去を始める、それは奇しくもISが初めて行う救助活動だった。

 瓦礫の撤去が終われば、火の手に阻まれた人間を救いに奔走――。


「大丈夫ですか!?」

「た、たっくん! 救助来たぞ――って、成樹!?」

「うぉいっ!? 何で成樹がIS乗ってるんだよ!?」

「二人とも説明は後でするよ! もう回りは火の手が回ってるから! 舌、噛まないでよ……佐々木くん、成河くん!!」

「うぉ、ちょ――どひゃー!?」

「わ、わあっ!? いきなり飛ぶなー!?!?」


 成樹の行動がなければ、様々な人間がその命を散らせていたかもしれなかった。

 一方でヒルト、直ぐに戦闘空域へ戻るのだが一夏もマドカも既にその場にいなかった。


「ッ……反応は何処だ、黒騎士!!」


 ヒルトが空域へ戻る少し前に遡る、白式の燃費の悪さがここに来て致命的な隙を生んだ。


「もらったぞ、織斑一夏!!」


 ランサー・ビットの刺突攻撃をかろうじて避けた所をバスター・ソードの横に薙ぎ払う一閃、雪片弐型で何とか受けきるが、そのまま雪片ごと切り伏せられる。


「くそおおおおッ!!」

「ははははっ! 無様だな、織斑一夏!!」


 京都上空、吸い込まれるように一夏は京都市街地へと墜ちていく。


「このまま焼き払ってやろう!!」


 ランサー・ビットの放出射撃が市街地を焼き払う。


「うわあああっ!? た、助けてくれーッ!!」

「Oh my God! Help me! Help me!」


 紅蓮に燃え上がる市街地――怪我をしても必死にその業火から逃げ出す一般人、それらを見下ろすマドカの瞳は凶悦に浸っている。

 ゆっくり降下するマドカ、市街地の交差点、乗り捨てられた車が黒煙を噴く真っ只中に居た一夏は起き上がれずにいた。

 そして――「がはっ!」――と、マドカは急降下の勢いそのまま一夏の胸を踏みつけ、苦悶の表情を浮かべる一夏とは対照的に愉悦の表情を浮かべていた。

 絶対防御を貫通するダメージ――苦痛に歪む一夏を見てマドカは何度も何度も繰り返すように蹴りつけた。


「がはっ!? ぐ……は!! ゴホッ――ぅああああっ!?!?」

「クククッ……クハハハハッ! 良いぞ、もっと私に、私に聞かせろ!! お前が苦しむ声を!!」


 装甲が歪み、破壊され、執拗な攻撃が生身にまでダメージを刻み付けていった。


「う…………」


 容赦無い追撃は、一夏が意識を失ってなおも続く。


「所詮こんなものか……。 ククッ、それではその首を頂くと――」


 そう言ってバスター・ソードの出力を上げた時だった、上空から割って入ってくるヒルト。


「貴様か、有坂ヒルト。 ……もう少しで私は織斑マドカになれる所なのだ。 ……邪魔をしないでもらおうか!!」


 出力を上げたバスター・ソードをヒルトごと切り伏せようとするマドカ――その刃は届かない、構えた大神之神霧露の青白い粒子刃が防いだからだ。


「……何を言ってるか今一わからん――だけど、わかってることがある。 ……お前は無関係な人間にまで手を掛けるテロリストであり、無慈悲に命を奪う死神……」

「…………フッ」


 愉悦な表情を浮かべたままエネルギー出力を上げていき、禍々しいダークパープルの粒子エネルギーが迸る。


「……これ以上、これ以上誰であろうと傷付けさせるかよォッ!!」


 ヒルトの強い意志が天・伊邪那岐、イザナミを通じて大神之神霧露にまるで力を与えるようにその刃が出力を増したその時だった。


「………………」


 ゆらりとゆっくり立ち上がる一夏。

 まるでマリオネットの様に手足はだらりと垂れている――そして、ゆっくりと開かれた一夏の瞳、その双眸は金色に輝きを放つ。


「一夏!? ……違う、なんだこの感覚……っ!」

「貴様、いったい……!?」


 ヒルトやマドカに襲うプレッシャー――問いに答えない一夏、だらりと垂れた左腕が無意識に前へと翳された。


「………………」


 その時だった、傷付いた白式の装甲の下から新たな別の装甲が押し上げていく。

 外殻が砕け散り破片となり四散――白式の姿は変貌されていき、新たに現したその姿はIS始祖にして【第零世代唯一の機体】。


「『白騎士』だと……!?」


 マドカは叫ぶ――白騎士の姿を見たヒルト、嫌な予感は拭えないままだった。

 刹那、白騎士が動く――瞬時加速以上の速さで繰り出された蹴りの一撃はヒルトとマドカ二人をまとめて吹き飛ばし、放置されたトラックのコンテナに衝突した。


「……!? 無差別攻撃!? 確りしろ、一夏ァッ!!」


 ヒルトの叫びがまた木霊する――だが届かない、聞こえない、響かない。

 刹那、ヒルトもマドカも纏めて攻撃――閃光が走り、エネルギーの爆発がトラックを飲み込みガソリンに引火して大爆発を起こし、連鎖するように周囲の黒煙を上げていた車も炎に飲まれて爆発した。

 爆発から飛び抜けたマドカ――。


「ISの暴走だとでもいうのか!? それとも、これが織斑千冬の残留無意識だと――」


 困惑するマドカに、白騎士は攻撃を再開する。

 見境無い荷電粒子砲の一撃はまたも市街地を焼き払う――その攻撃は白騎士からのものだった。


「チィッ!? 何をやってるんだ、織斑一夏ァァァッ!!」


 喉が張り裂ける程の悲痛な叫び――空へと浮かび上がる白騎士に明確な意思は見えない。


「クククッ……私は引かぬぞ! 貴様を倒し! 黒騎士こそが最強だと見せつけてやろう!! クハハハハッ!!」


 三度交戦を開始する白と黒の機影――互いに暴走する白騎士と黒騎士、畏怖する様に空で戦う二機を見上げ悲痛に叫ぶ人々、泣き叫ぶ人々を見たヒルトは叫んだ。


「もう――止めろォォォッッ!!」


 紅い瞳から溢れ出る涙、傷付いた人々――誰かを守るために振るう力が誰かを傷付ける力となるその現状。

 選ばれた代表候補生としての責務。

 戦いでしか止められない自身の不甲斐なさに涙し、街や人々を傷付け、今なお戦う二機に対してこの選択肢しか無いことにも涙した。

 紅蓮に燃え上がる市街地から飛び出したヒルトは白騎士、黒騎士を相手に立ち回る決意をしたのだった。 
 

 
後書き
成樹ISなう

まあそれよりも京都大惨事っす

 
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