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KANON 終わらない悪夢

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91学校に来る災厄

 通学路
「待て~~~~!」
「待って下さ~~いっ!」
 後ろから聞こえる美坂姉妹の恐ろしい声から逃げるよう、今日も学校まで走り続ける祐一だった。

 校舎の三階
 自嘲的な笑みを洩らしながら校舎に入り、二人から隠れていた。
 もちろん自分のベッドには、ヤっちゃった後の裸のマコピーが寝ているので、見付かれば命は無い。
 ここは2年生のフロア。香里は3年、栞は1年なので、一応中立地帯である。
 マコピーが見つかっていたり、現在絶交中でも名雪証言があればジエンドで電磁エンドを食らわされる。
 そこで通学してきた美汐に見つかった。
「相沢さんじゃないですか、どうしてこんな所に?」
『まあっ、あの人よ、美坂さんだけじゃなくて、お姉さんや、従妹まで食べちゃった人っ!』
 様々な誤解が有り「奇跡の恋」の主役から、「三股最低男」「鬼畜姉妹丼男」に格下げされていた祐一。
(あれは医療行為だ…)
『あの従妹の人も被害者なんでしょ、もう信じられないっ』
『それで普通の女子には相手にされないから、今度は大人しい天野さんって訳ね、まさか「あの噂」を知らないとでも思ってるのかしら』
 もう校内での祐一は、完全に性犯罪者扱いになっていた。
「あの…、外に出ませんか」
「あ、ああ」
 周囲の雑音に耐えかね、外で話そうとする美汐。 美坂姉妹に発見される恐れはあったが、この状況では会話は出来ない、祐一は諦めて歩き出した。

 すでに祐一がもたれていた壁は、一部の有志により、便座除菌クリーナーや、抗菌ウェットティッシュなどで、男子の手を借りながら処置されていた。
(俺は病原菌か?)
「やめなさい天野さんっ、あなたとはあまり親しくないけど、その男だけはだめよっ! もっと自分を大切にしてっ!」
「いいえ、大丈夫だから、友達の話があるの」
「そんな…、でも何かあったら、すぐ大声で助けを呼ぶのよ」
「まさか、何か弱みを握られてるの? それなら警察でも、先生でも」
 そこで美汐が指を一振りすると、騒がしい連中は急に大人しくなった。
『心配しないで、話すだけだから』
「「うん…」」
(今絶対、何かしたな)
 最近のトレンドでは、大人しくて優等生の少女が、「実は悪の魔法少女」なのはお約束なので、祐一は美汐が「魔法の世界からやって来た、次の女王候補」ではないかと疑い始めた。

 祐一妄想中…
「へっへっ~~ん、次の女王は私よっ、美汐っ」
「ええ、いいわよ、好きにしなさい」
(むう、イマイチしっくり来ないな、大体あの馬鹿は、いきなり落第だ、うちに入り込む時点で魔法をかけ忘れてる)
 妙に魔法少女事情に詳しい祐一だったが、通常魔女っ子が家に来る時は、最初から家族だったと思わせる魔法をかけるのがお約束である、そして…
(はっ! まさか秋子さんは、先代の女王候補だったけど、人間と恋に落ちて、そのままこの世界に残ったんじゃないだろうなっ)
 受け入れ先としては、最高のロケーションで、設定としてもぴったりだった。
(くううっ、萌える、萌える設定だっ、そうか、もう一人はっ)
「あはは~、実は佐祐理は、魔界から来たプリンセスだったんです~」
(くううっ、これも萌えるぞっ)

「何か言いましたか?」
 いつもの妄想を始めようとしたが、今回は美汐に睨まれて断念する。
「いや… 何でもない」
『嫌っ、また新しい女の子と話してる』
『信じられないっ、最低~』
 現実から逃避しても、祐一の鬼畜の噂は消えていなかった。
「…弁解の時間をくれるか?」
「大丈夫です、私はあんな噂、信じてませんから」
「そうかっ、そう言ってくれるのはお前だけだ…」
 ここ数日の苦痛を思い、本気で泣きが入る祐一君。

 ここでエロゲーあるあるで、同じセリフが別ルートでも繰り返されてしまう。お約束の機能「次の選択肢まで飛ばす」が無いのでスクロールするしか無い。
「でも、教室の前で待ち伏せるなんて、何事です?」
「実は真琴が帰って来たから、早めに教えようと思って」
「真琴が? 帰って来たんですかっ」
 マコピー帰還だけは伝えておくが、祐一の言葉に、いつも冷静なはずの美汐も驚いていた。

(中略)

「相沢さん? 今まで自分の願い事が、異常なほど叶った覚えはありませんか?」
 確かにこちらに来てからというもの、女に不自由した覚えも無く、香里と栞と真琴に至っては奇跡の生還を果たしていた。
「……ある」
「そうですか、じゃあ、お願いがあります」
「何だ? どうしたんだ?」
「一度、祖母に会って頂けませんか? 真琴も一緒に連れて来て下さい、お願いします」
「ああ、会うぐらいならいつでも」
 もちろん、「病気の祖母と契って元気にして欲しい」と頼まれれば断るつもりではいた。
「ありがとう、ございます、きっと祖母も喜んでくれます」
 いつもと違い、涙声で話しながら嬉しそうにする美汐。
「おい、泣くほどの事じゃないだろ、どうしたんだ今日は?」
「はい、こんな時勢ですから、話しても馬鹿にされるだけです、それに、また真琴に会えるなんて……」
 もしかすると、自分もまた、あの子に会えるかも知れない、そう考えただけで本格的に泣き始めてしまう美汐。

 頭を撫でて落ち着かせる祐一、美汐もそれを避けず、されるがままになっていたが、これを普通の人間に換算すると、「他の生徒が見ている前で、抱き合っている」ぐらいのチャレンジだった。
「酷いっ、もう天野さんにまであんな事をっ、誰か先生を呼んで来てっ」
 階段の下に隠れていた生徒が小声で話していたが、まるで美汐が犯される寸前のような表現をしていた。
(俺は強姦魔か…)
 そこで始業の鐘がなって美汐を置いて逃げるように教室に戻る。今なら香里にも名雪にも殺されないと思いながら。
「ま、また後でな、もう泣くんじゃないぞ」
「はい…」

  祐一の教室
「なあ、いいかげん機嫌直せよ」
 祐一とも香里とも視線も合わさず、向こうを向いている名雪。
「うそつき」
「昨日あいつが忍び込んだのは聞いただろ」
 また視線を合わさず、ドスが効いた声で答える。
「結婚したって言ってたじゃないっ」
「あれはあいつの好きな少女漫画の真似でさ、もう会えないって思ったから、サービスしてやっただけだ」
「でも、「昨日はしてない」って言ったもん」
(うっ!)
 さすがの祐一も、ここで言葉に詰まった、早速出掛ける寸前にもして来たので、さらに問題は深まったが、確かに昨日はしていない。
「あいつはガキだから、愛しあうって意味が分かってないんだよ」
「何の話? 私にも聞かせてくれない」
 声に出して話していると、後ろから「元恋人の姉」で、現在のタイトルホルダーが来てしまった。
「はうっ!」
 キーンコ-ンカーンコーン…
 そこで始業ベルが鳴って、救われたような気がした祐一。
「覚えてなさい」
 その後、口をきかないはずの香里と名雪の間でメモが回され、次第に右後方の気配がドス黒くなっていった。
(あいつら、絶交してるくせに)
 それは自分が原因で、栞、名雪、香里に続き、真琴までヤってしまったのが原因、と言う自覚が無かった祐一。
(香里の場合は立派な「医療行為」だったし、名雪は落ち込んだ時に「慰めて貰った」だけだし、真琴とは今生の別れに一発…)
 でも再会を祝し、今朝もまた一発ヤってしまっていた、回数で言えば、名雪、香里、、真琴、栞の順だった。

 授業中、祐一の所にもメモがやって来た。
「命が惜しかったら素直に吐きなさい by香里」
(逃げちゃだめだ、逃げた方が、逃げないと、逃げる時、逃げれば、逃げよう)
 哀れな祐一君は、ものみの丘から降りて来た狐さんの話を書き、名雪が検閲してから香里の手に渡った。
「こんな戯言で私が騙されるとでも思ってるの? 純真な名雪は騙せても、私は納得しないからね!」
 そこで言い訳を考える祐一の所に、またメモが回って来た。
「死にたくなかったら残りも吐きなさい by香里 ちゃんと教えて 名雪」
 激しい内容の香里のメモに、名雪の署名が追加されていた。
(…チャイムと同時に逃げよう)
「起立~~っ、礼」
 祐一はその言葉を合図に暗示を発動させ、神速のダッシュで遁走した。
『神移!!』
「待ちなさいっ!」
 ブウンッ! ブウウンッ!
 祐一の直後を、魔物より強烈な旋風が薙いでいった、それも二本。
(やっぱり逃げてなかったら死んでたな)
 
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