| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

【第633話】

 
前書き
いきなり話ぶっ飛びます

読まなくても話は繋がってるので問題はないです 

 
 暗雲埋めく空の色、稲光し、遠くに落ちる落雷。

 降り頻る雨――大地を濡らすだけではなく、冷たい亡骸をも濡らし、血で汚れた装甲は雨で流れ落ちていく。

 第三次世界大戦の真っ只中、各国にテロ行為を行っていたヒルトはその物量差に追い込まれ始めていた。

 雲海の中に隠れた機影凡そ五千機、無人機はその五倍、地上には歩兵、戦車が入り乱れて行進していた――たった一人、世界を敵に回した男を狩る為に。


「撃て撃て撃てェーッ!!」


 総大将である男の号令と共に嵐の様に降り注がれる死の弾雨、地表からの対空砲火、雲海から放たれる無数の粒子ビームが大気を焼き払う。


「無駄だ! イージス展開!!」


 不可視の障壁が広範囲に広がり、死の嵐を防ぎきる――そして第二波として無人機が襲い掛かる。

 シルバリオ・ゴスペルタイプE――嘗ての福音は世界を敵に回した男に死の福音を聞かせるために羽ばたく、量産された無数のシルバリオ・ゴスペルから放たれる光球はオリジナルの福音の威力に負けてはいない。

 だがその無数の光球は届かない――不可視の障壁がそれを阻む、爆風突き抜け、すれ違い様に大剣デュランダルによる一撃で薙ぎ払う。

 間合いに入った十機の胴を切断、続けざまに地対空ミサイルの一斉射で其処から三十機落とす。

 ヒルトの狙いは無人機を操る隊長格、迫る無人機を薙ぎ払い、雲海を突き進む。

 有人機と無人機の挟み撃ち――だが相手は一機、撃てば同士討ちになる可能性が高かった、そう判断した一瞬で両手に粒子化されたアサルトライフルでヒルトは頭部を続けざまに撃ち抜く。

 脳髄をぶちまけながら墜ちていく無数の機影。

 後方の無人機もヒルトの機体から放たれた粒子機雷《フォトン・スタンピード》に触れて粒子片となって散っていった。


「うわぁああああああああ!!」

「ぜ、絶対防御が発ど――うげっ!!」

「ば、馬鹿な!? たかが一機にここま――」


 胴を切り裂かれ、首を切り落とし、圧縮粒子砲によって消し炭にされていく有人機、数で勝るのに目の前のテロリストは鬼気として迫り、それに恐怖する。

 空から墜ちてくる無数の機影に地上班も恐怖する――たかだか単機、数の上で負ける要素はない、なのにやられていく同士の姿。


「く、来るな来るな来るなァァァッ!?!?!?」


 眼前に迫ったヒルトの姿に涙と鼻水でぐしゃぐしゃになる隊長の首を容赦なく切り落とす、この時点で無人機総数五〇〇〇は消し炭、破壊、残りは機能停止して地表に墜落。


「ひ、退け退けェーッ!!」


 総大将の後退命令で一斉に引き上げた、雨に濡れる装甲、終わることを知らない戦いの日々――。


『兄さん、生きてる!?』

『あぁ……生きてるさ。 何かあったか?』

『えぇ! 次元震動波の予兆を感知したわ。 何処に跳ばされるかわからないけど――』

『構わない、既にこの世界に未来は無い。 血で血を洗う戦争で既に地球上から二十億という人間が死んだ。 俺に立ち向かう者も含めてな……』


 通信を続けながらヒルトは地表に降下する――物言わぬ屍、四肢が無くなり、主を失った頭部が転がる地獄。

 これ等はヒルトが殺した者だけじゃない、戦争で犠牲になった者たちも含まれていた。

 全裸で打ち捨てられた女性の姿もある、面白半分に犯された女性だろう――これ等の女性は大半は捕虜となった者たちの成れの果てだった。

 嘗て女尊男卑に支配されたその世界はまた逆転――女が搾取される側に移っていた。


『予定地点は何処だ?』

『待って――予定地点はIS学園跡地よ』

『了解。 お前も合流しろ、良いな?』

『うん。 ……でも兄さん、シャルロット・デュノアはどうするの? まだ彼女のコアの破壊は――』

『……構わない、放っておけ』


 それだけを告げ、ヒルトはチャネル通信を切る。

 ヒルトにシャルロット・デュノアは殺せない――彼が唯一愛した女性だからだ、オリジナルのコアの破壊はヒルトに課せられた使命であり《ロストチルドレン計画》の生き残りとして《ロストナンバー》である機体を駆り、駆逐してきた。

 彼の手は血に染まっている。

 嘗ての恩師を手にかけ、世界を混沌の渦に巻き込んだ篠ノ之束と付き人のクロエ・クロニクルを殺害、各国の代表すらコアと共に命を刈り取る死神――。

 もうヒルトを知る嘗ての専用機持ちで生き残っているのはシャルロット・デュノア、更識楯無、更識簪ぐらいしかいなかった。

 他の専用機持ち――セシリア・オルコットや凰鈴音、ラウラ・ボーデヴィッヒは戦死、開戦初期の不意討ち、暗殺、数の暴力で殺られていた。

 彼女達が駆ったISコアはその後にヒルトが破壊――織斑一夏、篠ノ之箒は姉の敵討ち、そして世界すべてを敵に回したヒルトを打ち取るべく出撃しそのまま帰って来ることはなかった。

 理由は無論ヒルトに殺害されたからだ――。

 音速による衝撃波を周囲に撒き散らせ、ヒルトは進む――IS学園跡地に。

 暫くして到着したヒルト、眼下に広がる無惨に朽ち果てたIS学園、レゾナンスを要する街並みも無く、瓦礫が散乱する荒廃した街になっていた。

 日本は占領されたのだ、アメリカに――。


「兄さん」

「来たか……次元震動波予定時刻は何時だ?」

「後十分よ」

「成る程……。 ではそれまでは彼等の相手をするとしようか」


 遥か遠方から見える空中戦艦、其処から出撃する無数の機影に――。


「兄さん……つけられてたの?」

「いや、反応は無かったから偶然見つけたのだろう」

「本当かしら……」


 懐疑的な眼差しで見る女性――流れるような銀髪が月明かりに照らされ、紅い眼差しが蒼く変化していく。

 身に纏った紅い機体《フォールス・ウッド》の全身装甲が展開、光を纏い、瞬時加速による衝撃波を生み出し、遠方から迫る機体を衝撃波で揺らした。

 遠方の無数の機影のスラスターから黒煙が上がり、速度が低下した瞬間、空間を指定して叫ぶ。


「境界解除《バーンダーリィ・リリース》! 覚醒《アラウザル》!!」


 指定した空域を飛行していた機影は突如機体を解除され、海面へと落下していく。

 ISが無理と分かれば空中戦艦から飽和攻撃、銃弾、ミサイル、粒子砲と二人を襲う――だが攻撃はイージスに阻まれ更に。


「セックヴァベック、覚醒《アラウザル》!!」


 それは更識楯無の単一仕様だった、空間拘束結界の中で沈む空中戦艦――だが、戦艦の原型は崩れて圧壊していく。


「うわ……兄さんえげつないわね、中の人、皆ぺしゃんこよ?」

「向かってくる以上は容赦する気はないのでな、俺は」

「いいけど……あれはどうする?」


 海面に浮かぶ人影、空中で解除され、運よく命を失わなかった者たちだった。


「どうするも何もない。 立ちはだかった者は皆等しく散るしかないんでな。 零落白夜、覚醒!」


 白亜の光刃が延びる――振るわれた剣の一撃は海面を割り、運よく命を失わなかった者たちも波に飲まれ海底深く沈んでいった。


「次元震動波までの時間は?」

「もう少しよ」

「分かった。 周辺を警戒する」


 そう言ってヒルトは学園周囲一〇〇キロに反応が無いかをチェックする。

 僅かに学園地下に反応があった次の瞬間、荷電粒子による熱線が空を焼いた。

 ハイパーセンサーに映し出されたその相手は――。


「地獄の底から帰って来たぜぇ、ヒルトォォォッ!!」

「一夏……!? バカな、確かに息の根は止めたはずだ。 それに……あの機体……?」


 登録名称【混沌騎士】、コアナンバー不明――ロストナンバーシリーズ。


「チッ! まだ残っていたのか、亡霊が!!」

「うるせぇッ!! てめぇをぶっ殺してやるよ! 箒だけじゃねぇ、マドカも千冬姉の敵も俺が纏めて返してやるよォッ!!」


 交差する刃、白亜の光刃と白と黒が織り成す開闢の刃が学園周囲一帯の大気が激震した。


「織斑千冬に織斑マドカ、そして篠ノ之箒の敵討ちか――青いな、世界がこうなった原因を作ったのは誰だ、織斑一夏!!」

「そんなの関係ねぇッ!! てめぇが二人を殺したっていう事実が俺を蘇らせ、新たな力を手にしたんだ!! 夕凪燈夜ァーッ!!」


 右手に光が宿る――触れた機体全て初期化する禁忌の技、コア・ネットワークを介して情報を構築したのだろう。

 一夏が触れるその瞬間、ヒルトの身体は粒子片として四散、一夏の夕凪燈夜をかわすと同時に背後に像が結ばれ、ヒルトが姿を現す。

 コア・ネットワークと粒子技術の解析によって生まれた【粒子跳躍】、扱えるのはヒルトとその妹だけだった。

 白亜の光刃が混沌騎士のウイング・スラスターを切り裂く――刹那、チャネル通信が飛んでくる。


『兄さん! 次元震動波をキャッチしたわ、上空に現れるわよ!』


 次の瞬間、学園上空に光の渦が生まれる、中から紫電が放出されていた。


「行かせるかよ!? てめぇはここで俺が殺すんだ! 今日! ここでェェェッ!!!!」


 展開装甲を要した剣――《再誕する混沌の宿敵(リヴァイヴ・カオス・リヴァル)》を振るう――一閃一閃に衝撃波を纏うその一撃は学園跡を更に瓦礫へと変えていく。


「兄さん、加勢するわ!」

「俺とヒルトの邪魔するなァーッ、ヒルアァァァッ!!」


 左手を翳し、粒子弾による弾幕をはる。

 鮮やかな機動でそれらを避け、胴に一閃――だが。


「無駄無駄無駄ァァァッ! 【混沌騎士】の力はてめえらロストナンバーの機体の上を行く存在だぜェェェッ!!」


 破壊されたウイング・スラスター、胴部分の装甲が完全修復された。


「チッ……悪いが遊んでる場合じゃ無くなってきたな。 二重単一仕様(デュアル・アビリティ)で行く!」


 漆黒の機体が白銀色へと変貌を遂げ、刃は白く輝きを放つ。

 三度衝突する機影、ビリビリ震える大気は次元の穴にまで干渉し、広がっていた穴は小さくなる。


「ヒルア、先に行け」

「でも兄さ――」

「大丈夫だ、間に合わせる!!」

「……わかったわ! 仮に私が死んだら向こうで会いましょう!」


 そう言い残し、ヒルアは次元の穴に吸い込まれていった、それと同時に穴は一段と小さくなる。


「猶予はなさそうだな……!」

「何処にも行かせねぇ! ここで死ねェェェッ!」


 激しい猛攻がヒルトの機体を傷付ける、だがヒルトの攻撃を受けても混沌騎士の装甲は直ぐに修復されて手詰まりだった。


「ハハハハハッ! これが俺の新たな力だ! この力で戦争を終わらせてやるぜェェェッ!」

「無理だな、世界はこれだけ疲弊しても人は戦争を止めない! 領土拡大を狙う各国の群雄割拠、戦争で武器を売り、それで儲ける死の商人がいる限り、そして――インフィニット・ストラトスが有る限り、終わりは無い!!」

「ハッ! やりもしねぇ奴が! てめえがやったのは無意味に俺の家族や仲間たちを殺しただけだ! 俺が変えてやるよ、この世界をな!!」


 つばぜり合いと同時に腹部、脚部と拳と蹴りの一撃を浴びせ出来た一瞬の隙をつき、フラッシュ・バンによる瞬間的な閃光が一夏の視界を奪う。

 その一瞬をつき、ヒルトは次元の穴に飛び込むと同時に穴が閉じた。


「くっ……ヒルト、逃げやがったな!! 絶対俺が殺す、何処までも追い掛けてやるからなァァァッ!!」


 一夏の咆哮が学園跡地に木霊する一方、フランスの片田舎、母のお墓に墓前参りに来たシャルロット・デュノアは何かを感じ取っていた。


「……ヒルト?」


 風に靡く金髪、かつての面影を残しつつ成長したシャルロット・デュノアは無意識に遠くの空を眺めた。

 一方次元空間に入ったヒルト、上も下も存在せず、雷雲立ち込め稲光する中を落ちていく感覚に襲われていた。


「これが……世界各地で起きている行方不明事件の要因だろうな」


 古来から世界各地で人間が行方不明になる現象があるのは有名だ、誘拐事件の時もあるにはある。

 だが大半はそのまま蒸発、行方不明になる――原因は偶発的に生じた次元の穴に落ちたことだろう。

 一説には平行世界の入り口、一説には過去への扉等とも言われている。

 コア・ネットワークに反応があった――少し上を見ると先に入っていたヒルアが其処に居た。


「兄さん、無事だったのね!」

「まあな、一夏に後れをとるほど弱くはないさ、俺はな」

「それもそうね。 ……でも、何で生きてたのかしら?」

「さあな。 白式のコアとなっていた白騎士のコアは俺の機体が共鳴融合を果たして吸収したから生体再生機能は無いはずだが……。 やはり何か施されていたのか、あいつも《ロストチルドレン計画》の被験体だったからな」


 上も下もない空間、時間がどれだけ過ぎただろうか。

 人によっては一分かもしれないし一年かもしれない、時間の感覚がわからなくなり、ISのセンサーも誤作動を起こしている。

 時折見える世界の断片、一瞬だが様々な世界が垣間見えた。

 パワードスーツ同士の戦争、宇宙から飛来した生物と戦うパワードスーツ、巨大なロボットが宇宙で戦う宇宙戦争――パワードスーツもロボットも無く、平穏な世界等が見える。

 そして――ヒルトとヒルアの視界を奪う強烈な閃光が二人を飲み込んでいった。


 鳥の囀ずる声が聞こえる、ガンガン響く頭を押さえながら立ち上がるヒルト。


「……っ、頭が割れそうだ……。 ここは、何処だ?」


 手付かずの森林、小波の音が聞こえる辺り何処かの海岸線に近い場所だろうか。


「ヒルア、起きろ」

「んんっ……何よ兄さん……。 っ……頭が痛いわ……」

「多分次元震動波の影響かもしれないな、次元酔いとでも呼べばいいか」


 いまだにふらつくヒルアを他所に、ヒルトはISを纏って飛翔する――すぐ近くに大きめの街があり、駅ビルが建設されていた。

 そして自分達がいる場所は大きめの手付かずの島、無人島だろう――そんな場所に居た。


「ふむ……座標チェック――これは……そうか、ここは……」

「兄さん、どうしたの?」

「いや、この座標……俺達が立ってる所はIS学園があるところだ」

「……? でも、森だけよ?」

「手付かずになってるのだろう。 まだ憶測の範囲内だが過去の世界かもしれないな」

「過去の……じゃあ、跳ぶことには成功したのね?」

「さあな。 だが先ずは情報収集だ――そういえば、俺達日本円持っていたか?」


 ヒルトの言葉に首を振るヒルア、小さくため息を吐く。


「まあ当面の食料はISにあるから問題ないだろう。 ヒルア、今は情報収集を優先する」

「わかったわ、兄さん。 じゃあ二時間後、この場所でね?」


 言うが早く、ステルス機能で其処から消えたヒルアに続いてヒルトもステルスで消える。

 それは白騎士事件が起きる一月前、誰にも知られず起きた出来事だった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧