魔王卑弥呼
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悪魔新聞
最上階でエレベーターを降り角部屋に行く。
ドアはカードキーと通常鍵の二重ロックだ。
麻美が透視をする、美樹は気配を探る。
「いないわ」
「いないわね」
麻美の言葉に美樹も続く。
美樹が上を向く。
「屋上」
屋上にそいつは居た。
「妖魔ザンギ」
美樹がギロリとにらみつける。
「ようこそ魔王卑弥呼」
「前はね、今はその上よ」
「その上?」
「新しい能力も得たわ」
ズイッと前に出る。
「それは厄介ね、でも私も出世したのよ」
「どういうこと?」
「四天王になったのよ」
「へぇ、昇進おめでとうございます」
「いえいえありがとうございます」
麻美が呆れたように
「美樹!ふざけてる場合?」
「ついね」
安室絵美が、いや妖魔ザンギがポンとフェンスに乗る。
「今の魔王は誰?」
「さあ?誰かな?」
言って屋上から飛び降りた。
美樹がフェンスを飛び越え屋上から下を見る。
妖魔ザンギの姿も気配も消えて無くなっていた。
午前0時
「しんぶーんー」
「ガチャン」
男の声がして窓ガラスが割れる。
「えっ!なんだ!」
ベッドで横になりマンガを読んでいた若い男が驚いて窓を見る。
「なんだよ、どういうことだよ」
割れた窓ガラスには薄い新聞が挟まっていた。
「悪魔新聞?」
その新聞の日付は明日で悪魔新聞と印刷されていた。
「最悪だ、なんてことしやがるんだ!」
割れた窓を開けて外を見てみる、誰もいない。
男はガラス破片を片付け窓にガムテープを貼り付け養生する。
「ふぅー」
ベッドに横になりその悪魔新聞とやらを読んでみる。
「ええっと、なになに、交通事故?隣の女の子じゃないか?死ぬって?」
新聞の一面は隣の小学生の女の子が車に引かれて死ぬという記事だった。
「バカらしい」
男はポイッと新聞を投げた。
美樹がグイッとティーシャツを片手で上げてお腹を出す。
「ふむふむよろしい」
鏡には鍛え上げられた女子アスリートの縦に割れた腹筋が映る。
お臍の形はまん丸な形だ、ボコッと穴が空いている。
クネクネと腰を動かす、お臍の形はまん丸ゆえに余り変わらない。
「美樹~、ご飯だよ」
「今行くよー」
「タッタッタッ」
軽やかに下のリビングに行く。
「はい、コロッケ」
お昼ご飯はコロッケがおかずだ。
「可哀想ねぇ、まだ小学生なのに」
テレビからは小学生の女の子がトラックに引かれて亡くなったニュースが流れていた。
「悪魔のしわざだ!」
美樹がテレビのニュースを見て叫ぶ。
「はいはいお茶ですよ」
母はまたかと言ったふうにお茶を出す。
中年の男がホテルのベッドで震えている。
「このまま死ぬんじゃないだろうな」
「コンコン」
ドアがノックされる。
男が時計を見る、午前0時だ。
「コンコンコンコン!」
ドアがしつこく叩かれる。
「ホテルにまで来るのかよ!い、いやだ、もう、もう歳を取りたくない!」
「しんぶーんー」
「ドガァー」
ドアが潰れて新聞が投げ込まれた。
「ぎぁー助けてくれ!もう嫌だぁ」
投げ込まれたのは悪魔新聞、それは読んだ者の生命力を奪ってゆく、書かれている記事は明日の記事だ、そしてそこに書かれた悲劇の記事は必ず悪魔によって遂行される。
男の体が金縛りにあって動かない、そして悪魔新聞が飛んできて男の目の前で浮かびながら記事をめくって行く。
この前まで若かったその男の髪の色が見る見る白髪になっていった。
「この家?」
道路脇の家の前で麻美がなぜか自分の上向きの鼻を人差し指でさらに豚鼻にしながら聞く。
「うん、この家から力の残像を感じる」
そう言って美樹も負けじと人差し指で上向きの鼻を豚鼻にした。
その様子を近所の人がいぶかしげに見てヒソヒソと何やら話している。
「お嬢ちゃん達、その家に何かようかい?」
中年の噂好きそうな女が近付いてくる。
2人が豚鼻のままふりかえる。
「お嬢ちゃんそれ……何かのおまじない?」
2人は豚鼻をやめる。
「この家で何か変わった事無かったですか?」
逆に質問する。
女はあることないこと色々と教えてくれた。
「急激に歳を取る……」
麻美は無意識に豚鼻にして考えていた。
今度は美樹は豚鼻には付き合わずにアゴに手をやり考える。
「多分……淫魔サッキュバスね」
チャイムを鳴らしてしばらく待つとドアが開き高齢の男が出てくる。
「何か用ですか?」
老人はしわがれた声で尋ねる。
「最近なにか変わった事がないですか?私たちはその……悪霊退治のような事をしてます」
老人は涙を流しながら今までの事を話した。
話によれば悪魔新聞の記事ではもうすぐ自分が交通事故にあって死ぬという、だから今日は絶対に家から出ないのだと。
「プップププーー」
大型トラックが突っ込んでくる。
「あああ!」
麻美は固まってしまっていた。
「危ない!」
美樹は麻美を抱き上げジャンプする。
トラックの頭上を飛び越え着地する。
「ボカーーン」
けたたましい音と共にトラックが老人の家に突っ込んだ。
「プーーーー」
トラックのクラクションが鳴り続けていた。
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