IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第613話】
ヒルトがシャル達と合流する少し前、今回の作戦に共同で自衛隊と亡国機業を叩くため楯無と有坂夫婦は京都駅から程近いビルの一室に居た。
自衛隊は専守防衛――憲法第九条もあり、立場としても非常に曖昧な所がある。
だが流石にテロ組織が国内に居るという事実に重い腰をあげたのが政府だった。
ドアを叩く音が聞こえ、楯無も有坂夫婦も意識をそちらに向けると敬礼と共に一人の女性が入ってきた。
年齢は凡そ二十七、身長は約一六二といった所だろう。
服装は黒のスーツ姿だった、掛けた眼鏡が似合う知的美人にも見える。
「遅れて申し訳ありません、今回の作戦に参加させていただく【原田晶】一尉であります」
敬礼を終えると今度は楯無が挨拶した。
「いえ、時間ピッタリでした。 私はIS学園生徒会長の更識楯無です。 此方は――」
「存じ上げております。 有坂教官、お久し振りでございます!」
原田晶はそう言って有坂陽人に敬礼をした。
「ははっ、もう教官じゃないんだから気にするなよ原田のお嬢ちゃん」
「ハッ! ……相変わらずですね、貴方からすれば皆お嬢ちゃん扱いなんですね」
「わはははっ、そりゃそうだ、お嬢ちゃんなんだからな!」
陽人の笑いが室内に響く――楯無は更にこの有坂陽人という人物がわからなくなった。
暗部の人間に探りを入れても経歴は朧気にしか出てこないのだ。
唯一詳細が書かれていたのが東南アジアを拠点とする海賊に人質にとられた人間を単独で壊滅、救出をこなしたという内容だけだった。
だがこれも表立ってニュースにはなってない代物、それもそうだ――人質にとられた人間は前米国大統領の一人娘という――そんな事がバレたら米国大統領に様々なメディアが行き、下手すれば娘は殺され、アメリカの権威は地の底まで落ちていくのだから。
「真理亜殿も御変わりなく――」
「うふふ、貴女もね? それよりも……昇進していたのねぇ~」
「いえ……」
控え目にそう告げる原田晶一尉、挨拶もそこそこに楯無へと振り向く。
当の楯無、考え事をしていて急に振り向き、視線が絡み合って慌てて咳払いした。
「こほん。 それで原田晶一尉、自衛隊からは戦力は如何程――」
「私を含めてISは三人、使用機体は打鉄を三機、輸送用のヘリを一機。 それとEOS部隊を六機六人での運用。 此方は主に作戦開始時のエリア封鎖を主とします」
「…………」
思った以上に数が足りない。
可能なら今回の作戦でテロに加担している幹部格を捕虜にし、組織の全容を暴きたい楯無。
後は民間人が居る事態を仮定した場合の避難場所への誘導なども迅速に行いたいのだが――。
此方が仕掛ける今回の作戦、上手くいかなければ京都での市街地戦になるかもしれない。
そうなれば民間人にも危害や被害にあう可能性が高くなる。
「これ以上の戦力は……」
「申し訳ありません、政府からの通達ではこれが限界であります。 これ以上の戦力投入は民間からの抗議の対象になるやもしれないので」
仕方ないのかもしれない、逆にこれだけの戦力を出してもらった事を感謝しないといけないと思った楯無は。
「いえ、此方こそありがとうございます」
そうお礼の言葉を言った楯無、互いに握手を交わし、早速作戦を練り始めた。
「ヒルトっ、こっちこっち~」
俺を見つけたシャルが元気に手を振っていた、美冬と美春も合わせて手を振る――のだが三人ともになんと着物姿になっていた。
「お兄ちゃん、遅いよ?」
「そうだそうだ! 遅かったから美春達、着替えたんだからね!?」
色はシャルは橙色、美冬が白で美春は青の振り袖だ、秋の紅葉柄だがシャルは枝付きのあしらい。
美冬は吹き寄せ柄の紅葉、そして美春は絽紬の小紋柄だ。
「えへへ、このお菓子屋さんで着物体験サービスやってたんだ♪ 着物に合わせて僕達も髪を下ろしてみたんだけど、どうかな?」
「へへっ、似合ってるでしょ、ヒルト♪」
「お兄ちゃん、綺麗所三人が着飾ってて似合わないって事はないよね?」
もちろん綺麗に着物を着こなしている、髪も全員下ろしていて悪くない。
「あぁ、皆似合ってて綺麗だよ。 これ以上言葉に出来ないぐらいさ」
率直な感想、着飾らない言葉を述べる俺に、シャル、美冬、美春は――。
「えへへ。 何か凄く嬉しいな……僕」
「もう、お兄ちゃんの感想率直すぎ! ……嬉しいけどね……♪」
「へへっ、ヒルトに綺麗って言われるの、私好き!」
三人共々そう言う――ここで悔やまれるのがカメラが無いことだろう、いや、ケータイでとるんだけど。
「せっかくだしこれで撮らないか? 一人で写ったのと三人で写ったのとを撮りたいが」
ケータイを取り出して見せると嬉しそうに頷いたシャル達。
「そ、そうだね。 えへへ……カメラマンさん、可愛く撮ってね?」
「勿論いいよ♪ 後でちゃんと送ってね、お兄ちゃん♪」
「美春も撮っていいよ! 普段着れないもん、結構窮屈だし、こんな時じゃないとね」
許可も得たことで先ずはシャルから――ケータイのカメラ機能を起動させて向けるとはにかむような笑顔を見せた。
「じゃあ撮るぞシャル? はい、チーズ!」
連写機能で十枚撮る――ここでシャルは何故か不思議そうな表情を浮かべていた。
「チーズ?」
「ん、どうした?」
「あ、えとね。 何で写真を撮るときってチーズって言うの?」
「ん? そういや何でだっけ、美冬?」
「え? わ、私知らないよ……? 何かずっとチーズって言ってたからそういうものだって思ってたけど」
確かに何故写真を撮るときにチーズって言うのか謎だった――と、ここで美春が答えた。
「私知ってる! 何か昔のテレビのコマーシャルでチーズを宣伝するときとカメラの需要が重なった時だって載ってた!」
「そうなのか、美春?」
「うん! 後は確か英語圏の人が写真を撮るときにかける言葉がcheeseって言うらしいよ!」
「そうなんだ? てっきり私、チーズって言うぐらいだからフランス発祥だと思ってたよ」
美冬が美春に対してそう言うと、シャルは納得したのか頷き――。
「そっか、何でかなって疑問解けたよ♪ 確かにフロマージュ作りはフランスが大国だよね。 僕が住んでた所でもフロマージュ作りは盛んだったから」
会話の流れで聞くとフロマージュは多分フランス語でチーズなのだろう。
「そ、それよりもヒルト! フロマージュよりも今度は美冬達を撮らなきゃダメだよ? 僕ばかり撮ってたら怒られちゃうからね?」
「あ、私もすっかり忘れてた。 お兄ちゃん、可愛く撮ってくれないとここのお団子お兄ちゃんの奢りになっちゃうからね?」
そう言って美冬は後ろを向いて振り向く――振り返り美人みたいな感じで撮ってという事だろう。
「じゃあ行くぞ? ……チーズはあれだし、1+1は?」
「ニッ!」
にっこり笑顔の振り返り美人――連写機能で十枚撮り終え、美春の番が来た。
「美春はどうしようかなー……。 あっ! 美春、団子食べるからそれを撮って!」
美春は皿に乗ったみたらし団子の串を手に取り、一口咥わえる。
幸せそうな表情を浮かべた美春――ケータイカメラを向けてありのままの美春を撮る。
「……ん、悪くないな。 じゃあ後は三人揃って撮るか」
「ヘヘッ、じゃあシャルを真ん中に美春達が挟んじゃえ♪」
「え? ええっ!?」
「良いね良いね! シャル、両手に華だよ♪」
困惑した表情のシャルを真ん中に美冬と美春はシャルの腕に抱き着く。
「ははっ、モテモテだなシャル」
「もう……他人事だと思って……」
「言うなって、ほら、笑顔になって?」
美冬と美春の二人は既に笑顔を向けていて、シャルも観念したように笑顔を見せた。
そしてまた連写――仲の良い姿が写し出されていて俺も満足そうに頷く。
「じゃあ――後はお兄ちゃんを交えての四人で写真だね♪ すみませーん」
俺の同意はなく、美冬はお菓子屋さんの店員である奥方様を呼んで説明した。
「あら、良いわよ。 色男さん、ケータイ♪」
「はは……色男って……」
「あらあら? こんなに可愛らしい女の子三人に囲まれてるのだから色男さんでしょ? ――というか、貴方何処かで見たことあるわね。 もしかしたら有名人かしら?」
「え? いや、別に有名人とかじゃないですし――」
ケータイを渡しながらそう言う俺に、一人の店員が近付いてくる。
「お母さん、この子達IS学園の制服着てるから学園の子達よ? それに彼は確か……有坂ヒルト君よ、世界で初めての男のIS操縦者。 織斑一夏君ばかりニュースでやってるけど、本来なら彼が一番ニュースになってなきゃダメなのに」
「あら、そうなの? ごめんなさいね、おばさんISの事はわからなくて、ただ……見たことあるなぁって思ったのよ」
「そ、そうですか……」
何か変な感じだ、こうやって俺を知る人間に会うのは。
「お母さん、私が代わりに撮るから向こうの谷口様のお相手してください」
「あら、谷口様が? わかりました、任せますよ綾さん」
俺の携帯が綾さんと呼ばれた女性に手渡された。
その間に美冬と美春は俺の腕に抱き着き、シャルは俺の前に立つと身体を預けるように凭れ掛かる。
「ふふっ、お母さんの言う通り色男さんね、可愛い子達に囲まれて♪」
「は、ははは……」
「じゃあ撮るわね? はい、チーズ♪」
何とか撮り終えると綾さんは俺の携帯を返して接客に戻っていった。
「じゃあヒルト、後でちゃんと送ってね?」
「そうだよ? 振り袖何てレアだし、お兄ちゃんも目の保養になったでしょ♪」
「美春にも送ってね? んじゃ、美春はお団子食べまーす♪」
言うが早く、美春はみたらし団子を頬張る。
俺も一串だけ食べると連絡が来た未来達の元へと向かった。
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