KANON 終わらない悪夢
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95栞と真琴の末路
このルートの天使の人形は、秋子と祐一の敵、名雪も敵である。
他の少女も生かしては来たが、あゆに生贄として捧げ、復活のエネルギー源として利用する。
それでも復活が成らず、絶望させられたルートだが、また時間を巻き戻して、何度も何度も何度でもやり直しさせられた失敗体験を、少女たちにも見せていた。
名雪は自分が生存するためのエネルギーを供給してくれる相手ではあるが、本来の肉体から事件の記憶と一緒に追い出され、生命エネルギー供給源のリンクも切断してしまった。
悪魔で鬼で化け物で魔物で悪鬼羅刹、必ず復讐して追い詰めてやらなければならない不倶戴天の敵でもあった。
祐一側から名雪に向けた愛情はあっても、天使の人形は従姉妹の少女を欠片ほども愛してはいない。
その少女達の中から、まず壊れ始めるのは、最初に命を失って消える予定だった栞と真琴。
二ヶ月前から魔物を定着させ、夜の使い魔として改造し、術者本人とは違って使い捨ての命と体は、暴走して自分の命を削ってでも破壊と破滅を生み出し、鵜飼の鵜のように他者の命を食って集めさせられている。
この場合、舞のためではなく、天使の人形があゆに捧げるために収集する。
実験体でもある二人は、精霊にもなっていない、生のままの舞の魔物が入れられて命を繋いでいた。
本当の栞と真琴は、既に心も魂も食われてしまった抜け殻である。
何の処理しなければ毎回即座に死ぬ、この二人がまず壊れ始めた。
夜の街
美坂家の周辺では飼い犬、野良猫、外飼いの猫、ハト、カラスの命が奪われ、魔物の腕、棘、角、牙によって切り裂かれ、生きる力をも奪われて喰らわれ、楽しんで狩猟されて被害が拡大していった。
一応ペット禁止の古い集合住宅で飼われていた、小型犬、猫、ウサギなども、南面の避難はしごすら無いベランダの窓側から刺されて、愛らしい愛玩動物も情け容赦無く食われた。
水瀬の家の周辺でも事件が起こり、猟奇殺人が起こる前触れのように、動物たちの命が奪われ、魔物を生かす食料として狩られていた。
ぴろと云う猫は、ここでは非常食だとか、動物園でエサになるのが決まっていたのに、何故か喰われなかったニワトリとか池の金魚のように、捕食者にも懐いてしまうような変な生き物でもあった。
生きエサとして買われて来た子ブタが、子供を死産してしまったトラに飼育されるように、天敵に飼われていた。
やがて魔物達は動物を食べ尽し、次に夜に徘徊している愚連隊、暴走族に襲い掛かり、人間の味も覚えた。
このルートでは舞の魔物は聖地である学校を守っておらず、侵入者を放置して魔物とだけ殺し合って、学校敷地内だけという限定ルールで血を流し合っていた。
校内の生徒も愚連隊や暴走族の餌食になり、夜遊びしていれば容赦なく誘拐されてレイプ、裏ビデオとして撮影された後に裸で山に放り出された。
ヤクザの下部組織である暴走族はパーティー券を売らされて、違法薬物も校内でクチコミで販売、昼間にも平然と出回って学校内も汚染された。
夜遊びを覚えた女は、パーティなどで薬物も覚えさせられ、クスリ欲しさに小遣い稼ぎに援助交際でもして、ヤクザに捕まって本格的に管理売春。
夜の街で店に連れ込まれて、ホスト遊びも覚えさせられ高校も中退、借金の形にソープランドに転職するような馬鹿な者も出ていた。
夜の街は天使の人形の資金源でもなかったので、毎日食事に訪れる魔物達と一弥に喰い減らされ、別の町に逃げ遅れた者も、新参入しようとした中国人もロシア人もゴッソリ食われて消えた。
美坂家付近の公園
夜に狩りをしている栞、だった物。そんな妹を心配して追っていた姉が、捕食の瞬間を見てしまった。
「たっ、たすけてくれえっ!」
『エ~? ダメデスヨ~、アナタ達ノ餌食ニナッタ娘達ガ、同ジ事言ッタトキ、ドウシマシタ?』
ニコニコと笑っていた栞の右腕が一度振られると、ゴミが数人払われ、口から内臓を飛び出させたり、手足を変な方向に捻じ曲げて、血反吐を吐いて転げ回って苦しんでいた。
『サア、キョウモタノシカッタ、アトハオナカイッパイ…』
後に改良されたように、命だけ吸い取って、老化した人体は残してやるような上品な食べ方では無く、死体や食べ残しの残骸が残る雑な食事法。
加熱も調理もしないで腹を裂き、柔らかいハラワタから喰らう。後にはカラスに尻の穴から食われたハトのように、中身が空になった残骸が残る。
「ヒイッ!」
元は妹だった化け物が、口から血を滴らせながら、悲鳴に気付いてこちらを向いた。
『ミ~タ~ナ~~』
「きゃああっ!」
自分も似たような存在になっているのを知らない香里だが、悪鬼羅刹に縁を作られ魅入られた。
普通人ならこの後、蛇に睨まれた蛙になり、トキソプラズマ感染したネズミのように、天敵である猫の尿や匂いがある方向に自分から歩いて行く。
しかし、香里にも魔物が憑き、右手の魔物が憑いている妹に歯向かうこともできた。
『アラ、オネエチャンジャナイ、コンナジカンニドウシタノ?』
「なっ、何してるのっ!」
もう見れば分かる状態で、最近の動物や人間の猟奇殺人の犯人は妹だと確定した。
『エ~、オイシイヨ、オネエチャンモドウ?』
血まみれの内蔵を見せられ、普段なら嘔吐する体が反応せず、クレイモアに出てくる妖魔のように内臓系が食べたい食欲、最近の自分に欠けていたものが目の前に出されて、フラフラと近寄って行く。
「オ、オイシソウ」
自分も化け物へと変化していく香里。命を削る予知や予測、その力を行使した後に来る力の減少、それを補充するには普段の食事のような死んだエサでは無く、生き餌か、死にたての内蔵が必要なのだと知った。
「そこで何をしているっ!」
懐中電灯の光を当てられる二人。
不良どもの絶叫を聞いて市民が通報したようで、警官が数人、公園近くの狩場にやって来てしまった。
『アハッ、ミツカッチャッタ』
本来魔物の狩りなので消音の魔法が使われ、エサの悲鳴は届かないはずが、香里が魔物の力で結界を割って入り、一般市民にも愚連隊の悲鳴が届いてしまった。
ある意味香里は、グールや食人鬼になる寸前で踏みとどまれた。
「そこを動くなっ!」
明らかに複数の人が血まみれで倒れていて、腹を裂かれて内蔵をはみ出させているような怪我人は多分助からない。
警官達は腰の拳銃を抜き、佐祐理と舞の時のように少女の形をした化け物に銃を向けた。
天使の人形や一弥のように、一般人には見えない魔物達は食事を続け、警官達には栞と香里だけが見えていた。
『シャーーーー!』
食事の邪魔をされた一弥が、十本ある切り裂く腕の一つを射出し、警官を刺した。
「ぎゃああっ!」
『ノウミソクッテヤル』
一瞬で始末された同僚を見て、恐慌状態で逃げ出すが足がもつれて転ぶ、戦争経験も無い人物では、目に見えないプレデターの攻撃はかわせない。
『シャーーーーー!』
(一弥、警官は殺しちゃダメだよ、「いいひと」なんだから)
気が早い一弥は若い方の警官も刺し、食料が二人分増えた。
『マア、コンナニタベラレナイヨ』
笑ってそう言う栞だった物。脳はそのままなので記憶の継承はしているが、魂とか人間の心を形作る物は既に無い。
公園の一段上に止まっていたパトカーが無線で連絡をして応援を呼び、振るえる手で写真なども撮影してから、怪我人の同僚を見捨てて逃げていったが、天使の人形も特に気にしなかった。
栞と香里の中に入っている魔物ごと殺して生贄にするので、人間の手で狩らせるか、わざと捕まえさせて解剖されるのも見て研究したり、妖狐の一族が来れば始末させる。
(さて、おまわりさんも駒にさせてもらうよ)
「「あ、ああ、うわああああっ!」」
警官達も死にはしなかったが、天使の人形の分体が入って支配された。
秋子が持っていた妖狐の使用人のように、魂を食われたりするが、闇落ちもせず利用できる。
仮面ライダーオーズの、アンクが入っていた警官のように、死体から復活して最終回にもとに戻るような結末は無いが、死体ではない。
翌朝、秋子の家
「ミギャッ!」
その日はピロが叫ぶ声から朝が始まった、どちらかが寝返りをうった時、下敷きにでもなったのかも知れない。
「祐一っ」
それでも起きない祐一を、真琴だった物が揺すって起こしていた。
「ああ? 真琴か」
まだ昨日の事件から立ち直っていない祐一、名雪や栞の凶行は佐祐理達の工作と、学校側が体面を保つため、事件自体無かった事にして、生徒の他愛無い悪戯として処理されていた。
「昨日から元気がないから、特別にご馳走あげる」
「どうせ肉まんだろ、食べたくない」
「ほらっ、ジャジャ~ン」
しかし真琴の差し出した物は?
「うわああああああああああ!!」
祐一の叫びは、向こう三軒両隣まで響き渡った。
「何驚いてんの? これぐらいで、子供みたい」
叫び声を上げて驚く祐一を見て、勝ち誇った表情になる真琴。
トントントントン
騒ぎを聞いた秋子も二階に上って来た。
「どうしたんですか?祐一さん」
「ま、真琴が…」
震える手で真琴を指差し、その手の中の物を秋子に見せる。
「真琴がぴろを、ぴろを食っちまったんだ~!」
泣きながら「ピロだった物」に視線を戻すと、その痛ましい姿が網膜に焼きついた。
「ほら、一番美味しい「はらわた」と「脳みそ」は、祐一にあげるから、これ食べて元気出しなさいよ」
今まで家族同然に暮らした猫の死骸を出され、元気が出る者などいる筈も無い、ましてや「食べろ」と言われて。
「秋子さんっ! やっぱりこいつも人間じゃないっ! いくら教えたって、こいつにとって猫は食い物でしかないんだっ!」
絶望して涙を流し、家族が一匹死んだのを受け入れられず、震えて嘔吐しそうになる。
「了承」
そう言って、何事も無かったように、一階に向かう秋子。
「何言ってるんですか? 秋子さんっ! こいつは、こいつはピロを殺したんですよっ、それも食い殺し…」
そこまで言って、嘔吐感に襲われ、ゴミ箱に走って行く祐一。
「あ~あ、これぐらいで吐いちゃって、やっぱりガキね~~」
空っぽの胃から胃液を吐く祐一の前に、さらにピロを押し付ける真琴。
「やっ、やめろっ! おうっ」
生臭い血の匂いが、さらに嘔吐を促す。
「もう、だめね~、あたしが食べちゃうから」
バキッ、コリコリコリ、クチャクチャクチャ
「どうしたの?」
廊下から名雪の声がしたが、これだけは見せる訳にはいかない。
「だめだっ、入るんじゃない、見るなっ!」
「あ、ねこさ~ん、おいしそ~」
また祐一が信じられない事を言う人物が一人。
「何っ?」
「へへ~ん、やっぱり祐一が一番ガキね、猫も食べられないなんてっ」
「名雪は「生」で食べちゃだめよ、せめてレンジで暖めなさい」
「秋子さんっ!」
「は~い、ね~こさん、ね~こさん、レ~ンジでチ~ン」
「あう~~~~」
意味不明な歌を歌いながら、名雪と真琴がリビングに降りて行った。
「秋子さん! 何言ってるんですか、名雪に、それもレンジで、ううっ!」
もう吐く物など何も無かったが、嘔吐感は押さえられなかった。
「ええ、名雪は猫アレルギーだから、生はちょっと無理だと思って、本当は皮を剥いで火を通すといいんだけど」
「ああっ!うわああああっ!」
絶望して泣く祐一、もうこの家には話し合える者などいなかった、そして自分にも狩猟者?の血が流れているらしい。
「しっかりして下さい、祐一さん」
床にこぼれたピロの血と、自分の胃液を秋子が片付け始めてティッシュでふき取っている間に、また逃げるために着替え始める祐一。
チーン!
「わ~い!ねこさ~ん」
生臭い死臭と、猫の肉が焼ける匂いにむせ返りながら、祐一は家を飛び出した。
真琴、秋子、名雪、そして昨日の栞、祐一の周りで何かの歯車が狂い始めていた。
祐一は逃げるように学校に向かい、真琴関連と妖狐関連で相談のできる美汐に、縋り付くようにして話した。
「みっ、美汐っ、聞いてくれ…」
祐一は泣きながら話した、もう真琴は飼い猫をエサか非常食程度にしか認識していないこと、もう名雪も秋子も心まで汚染されたのか、本性を発揮して妖狐になり、人間もネコも所詮捕食するためのエサだと思っていると伝えた。
「もう… 災厄が起こってるんですね。昔から伝えられています、長く人の世に暮らした妖狐は、いつか人の血の味を覚え、愛した者も子も、その餌食とすると」
真琴が存在できる時間は一ヶ月、それを超えると幸福に揺り戻しが来て、破滅と災厄が降りかかる。
「何だって?」
その理屈なら自分も同類で、両親も同様、人を喰い始める。
「ゆうくんは大丈夫よ、力(天使の人形)が抜けているんだから。元から力を失ったままのご両親も多分無事、秋子様も力を失ったはずなんだけど?」
「エ?」
祐一くんが自前のコーキングガンを秋子ちゃんに突っ込んで、力とか白いコーキング剤で充填して補強しちゃっていた。
その心の声は、もちろんみ~ちゃんにも伝わった。
「ゆ、ゆうくん、ヤッパリ秋子様とも生で… に、妊娠させるつもりで? 悔しい~~~~!」
「カヒューーン」
ゆうくんは別の捕食者に倒された。逃げた先で人に話しかけると「もしかすると、そいつはこんな顔してなかったかえ~?」とか「お前の後ろだ~~!」みたいな感じで首を絞められた。
勿論、美汐の中にも魔物が入れられ、反抗も虚しく魂まで食われ、元の状態を保っているが、潜伏期間が1か月を過ぎれば全身を汚染、支配され尽くして栞や真琴のようになる。
相談した二人は、学校が終われば真琴の後を追い、何をしているか見極める。
レベルは低いが相手は妖狐なので、不敬を行えば美汐に災厄が降りかかる。しかし祐一なら単に同族殺しで済む。
教室、香里と祐一
「あ、相沢君」
両親にも誰にも相談できず、名雪とは絶交したまま、相談相手に困った香里は、妹の恋人でもあり、自分の充電器で恋人でもある祐一に相談してみた。
もう妹は人間ではなくなっている事、その周囲にも人間ではない何かが蠢き、家や公園の周りにいる動物を食べ尽し、ついに人間を捕食してしまう鬼で悪魔になってしまっていると告げた。
もちろん妹から男を取り上げるのもあるが、あの状態の妹を救えるのは祐一しか存在しないと本能でも感じていた。
「何だって? 栞があの犯人?」
そろそろ香里や美汐、佐祐理も夜遊びと狩りのデビューをさせられるが、まだ人間の心が残っていた少女達には狩りはできなかった。
「そうなの、警察の人まで… もう私、どうしたら良いのか?」
もし香里から母親、里の旧家、倉田の分家へと相談が届いていたら、軍勢を率いてでも名誉殺人をして事件は解決に近づいた。
魔物に食われて夜に狩りをするような者が出れば、術者ともども狩られる。
舞も妖狐の一族に狩られてしまうが、天使の人形は色々と実験をしている最中でもあったので、失敗すれば巻き戻しをする。
「栞は今どこに?」
「昨日から姿を消したの、両親も変になってて、栞がいなくなっても気にしてなかった。本当にもう、何が起こってるのか?」
せめて美汐を交えて話し合っていれば、もう栞は助ける方法が無く、魔物に食われてしまっている事や、香里にも同じような魔物が入っていて、今も食われている最中、そして元クラスメイトと姉の惨状を見れば、真琴と美汐自身にも何が起こったか判明するはずだった。
情報のやり取りが不正確だったため、このときも悲劇が起こった。
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