IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第623話】
同時刻、場所は白騎士、黒騎士、ヒルトの三つ巴戦が繰り広げられていた場所から離れた市街地。
「チィッ! 幾ら数が多いからってオレ達がおされているだと!?」
一年生組と戦うレインはごちる、街中への無差別攻撃を身体を張って守る美冬や未来、その隙をつかれる様に箒、鈴音、セシリアは確実に二人を追い込んでいた。
被害は無いもののやはり突然の事態に人々は逃げ惑い、叫びが木霊した。
「もらったわよ、ダリル・ケイシー!!」
「ちっ! オレはレイン・ミューゼルだ!」
何度目になるかわからない接近戦――衝撃砲が使えない現状の中、鈴音は疲労の色を見せるレインを追い込んでいく。
一方でフォルテも箒に追い込まれていた。
「ハアアァァアアアアッ!!」
「くっ、不味いっス不味いっス!!」
氷の壁を配置して防ぐも、ダメージを恐れずに突き進む箒に追い込んでいくフォルテ、氷壁が破壊され、その破片が紅椿に襲っても止まることなく攻撃を続けていた。
絢爛舞踏があるからではなかった、ただひたすら無我夢中にフォルテを戦闘不能にさせる確固たる意志が箒を突き進ませていく。
形振り構わず街への攻撃をしても美冬と未来が身体を張り、合流しようにもセシリアがそれを阻む。
ダメージを恐れずに戦う箒、鈴音、美冬、未来の姿に言い様の知れない恐怖を感じ始めたその時だった。
『レイン、フォルテ。 今すぐ織斑一夏と有坂ヒルトの戦闘領域に向かってちょうだい。 面白い物が見られるわよ』
突然交戦する全機に割って入ったチャネル通信はスコールのものだった、バイザーで素顔を隠しているため、未来達にはその顔がわからなかった。
『お兄ちゃんに何をしたのよ!』
『あら、君のお兄さんなら何も無いわよ。 織斑一夏君が勝手にどうにかなっただけよ』
その言葉に美冬は安堵するが、逆に織斑一夏に何かあったというのが気にかかる。
『織斑くんに何があったの、テロリストさん?』
未来の抑揚の無い言葉に、クスッと唇を吊り上げるスコール。
『さあね、彼に何があったのかは貴女が見てみるといいわ。 ……フフッ、嵐が近づいてきたわね。 残念だけど、通信はここまでよ。 ではごきげんよう』
通信を一方的に切ったスコール――その隙をつき、レインは火球を大空に打ち上げ、目映い閃光を上げさせた。
その一瞬でレイン、フォルテの二人は離脱する。
「あっ!? コラー! 逃げるなぁッ!!」
そんな美冬の叫びが虚しく響く繁華街――最小限に抑えたとはいえやはり街に少し被害が出ていた。
そして美冬の瞳に宿した紅色が元に戻っていく――自身の変化に美冬は気付くことはなかった。
一方で遠く離れた京都の市街地には夜空を交差する三機の機影とその眼下の市街地は炎で赤く染まっていた。
「……被害が……」
未来は小さく呟く、その肩を鈴音は叩き、首を振った。
「未来……被害もそうだけど、今はヒルトや一夏の元へ行こう?」
「……ですわね。 此処等一帯は被害は少ないですけど、彼方の被害は甚大ですもの」
「そう、だな……」
遥か先に燃える街並みを見て箒は唇を噛み締める、これまで意識はしていなかったが改めて自分が振るう力の意味を知った気がした。
ただ一夏と並びたかったそんな力が、間違えれば街を燃やす――少し前まで完全に力に飲み込まれていた箒は今の惨状を目に焼き付けるように見つめる。
「行こう……皆。 お兄ちゃんに何もなくても織斑くんがどうにかなったってあのオバサン言ってたし」
美冬の言葉に頷いた一同は空域を後にした。
一方で旅館庭園、スコールの援護をしたシルバーは山田真耶を無力化したところを更識楯無に発見されていた。
「待ちなさい! 貴女……先日もスコールを助けていたわね」
「…………」
シルバーは答えない、月明かりに照らされた銀髪が艶やかな輝きを放つだけだった。
「黙っていても無駄よ、貴女は亡国機業の人間ね……?」
楯無にとってはカマかけだった――そして思惑通りシルバーは否定した。
「フフッ。 外れよ」
振り向いたシルバー――蒼く透き通った眼差し、人を殺すことに躊躇が無い気迫、そして何より……楯無は直感した。
勝てないと、単一仕様があるから勝てないではなく、明らかにブリュンヒルデが纏う気迫みたいなものを敏感に感じていた。
「あの女を助けたのはうちのボスの命令に従っただけよ。 そうじゃなければ、手助けする気もないし何なら逆に捕まえる手助けしても良かったぐらい。 ……だけどそれは出来ないし、やってはいけない理でもあるし、因果率にどう影響を与えるか……」
まるで遠くを視る様な眼差し――因果率、理、いきなり何の話かわからず楯無もただ黙っていた。
「……一応訊くけど、逃がしてくれるかしら?」
「……本来なら犯罪行為幇助の疑いで拘束したいところよ。 ……だけど、私じゃ今の貴女には勝てないわ」
「あら、やってみないとわからないんじゃない? 単一仕様は使わないわよ、その気があるなら被害が及ばない上空で相手をするけど?」
楯無は首を振る――負けたくないから戦わない訳じゃない。
クスッと微笑むシルバー――くるりと踵を返すと呟く。
「ありがとう、見逃してくれて。 戦えば……兄さんに怒られていたもの……」
「え?」
楯無が聞き返した頃にはシルバーの姿は其処にはなかった、ただ――月に昇るようにキラキラと輝く粒子片だけが其処に舞っていただけだった。
時を同じく、上空で戦う黒夜叉とユーバーファレン・フリューゲル。
「あぎゃぎゃぎゃっ!! 良いぜぇ……やっぱ、本気の死合いは血がたぎるぜ!! お前もそうだろ、ハルトッ!!」
「何が血がたぎるだ!!」
「つれないじゃないかハルト! そらァッ!」
ハイキックを捌き、ハルトは腕部装甲から飛び出したナイフで切りつけるとシールド・バリアーに干渉して閃光を放つ。
回転する刃が唸りをあげる、神すら葬ふるその刃が黒夜叉の装甲に干渉――。
一向に傷がつかない装甲、徐々にじり貧になるカーマイン。
以前対峙したときより遥かに強固になり、出力が増したその黒夜叉が欲しいとさえ思うカーマイン。
劣勢の最中、カーマインはシルバーからの通信が届いた。
『カーマイン、足止めはもういいわ』
『あぎゃ? けっ、せっかく調子が上がってきた所なのに』
『嘘ばっかり。 かなりの劣勢じゃない。 わざわざ私達の真似をしてシールド・エネルギーを《学園仕様》じゃなく《制限解除》すれば良いじゃない』
『あぎゃ、俺様は可能な限りフェアに行くのが俺様流だ。 圧倒的に俺様が有利な状況なんざ楽しくもねぇ。 ……まあ、基地潜入で軍人皆殺しにする場合は違うがな、あぎゃぎゃぎゃっ!』
『とにかく退きなさい。 白騎士も暴走しているわ、上に居るボスとシャルトルーズに合流するわよ』
『けっ、スレートの奴はどうした?』
『スレートは今も避難誘導しているわ、メディアへの牽制もね』
『……あぎゃ、了解した』
もっと戦いたい――だがシルバーが戻るのなら役目はここまでだ。
持っていたチェーンソードをかなぐり捨てたカーマイン、そして告げる。
「あぎゃ、わりぃがそろそろ撤退する時間だ」
「だからと言ってはいそうですかって言うやつが居ると思うか?」
「あぎゃっ、まあ居ねぇな。 ……でもな、そんなに離れてててめえの嫁さんが一人になってること、忘れてねぇか?」
「……!?」
そうだった、真理亜の側から離れないために来ているのに――陽人はカーマインをその場に残し、先に戦線を離脱した。
「あぎゃ……。 けっ、とはいえ……有坂真理亜か。 子供を生んだにしては中々の容姿だな」
ハイパーセンサーに映し出された有坂真理亜の顔写真を見たカーマイン、舌で唇を舐める。
そしてそのまま上空へと飛翔した。
京都の遥か上空、既に無人機群を壊滅していたウィステリア・ミストとシャルトルーズの二人。
眼下に燃える京都の街並みを見ながらシャルトルーズは呟いた。
「……結局、京都は燃えてるね」
「仕方ない……と言いたい所だが、京都の街全てが焼け野原になるよりはましだ」
「そう、だけど……」
唇を噛み締めるシャルトルーズ――そして。
「ウィステリア、一夏――ううん、白騎士は止めないの? 君なら……今の君なら直ぐに鎮圧出来るんじゃない……?」
「……可能だが、出来る限りは私は彼に任せたいのだよシャルトルーズ」
「彼って――有坂ヒルトの事?」
見上げるシャルトルーズ――ウィステリア・ミストは頷くと言葉を続けた。
「今回の出来事は彼自身が乗り越えなければいけない。 嘗ての私の様にな……」
「…………」
仮面を徐に外すウィステリア・ミスト――双眸が紅く輝き、眼下の街並みを見下ろしていた。
こんな時に思うのは不謹慎だけど――シャルトルーズは彼の真っ赤な瞳が好きだ、端整に整った顔も、優しく撫でてくれる手も、人を思いやれる彼が大好きだ。
だからこそ見とれてしまう。
彼の素顔に、仮面に隠された真実の顔を――彼の機体の名前はトゥルース――和名で《真実》。
そんな時だった、ウィステリア・ミストの隣に粒子が集まり像を形成――それが形となって現れたのはシルバーだった。
「ボス、あの女の援護、完了したわ」
「……すまないな、不服だっただろ今回の命令は」
「今回『も』よ。 可能なら今回で終わりにしてほしいものよ」
「フッ……それはまだわからないな」
「ぶぅ……。 兄さんは意地悪だ」
膨れっ面のシルバーに、ウィステリアは困ったように眉根を下げた。
「……私はウィステリア・ミストだ、この世界に来たときから私は名前を捨てたのだよシルバー」
「……わかってます、ボス」
仮面を着け直すウィステリア・ミスト――仮面を着け様とも着けなくとも、彼はイルミナーティ総帥のウィステリア・ミストだ。
月明かりに照らされた三人の眼下には今なお燃える京都と、交差する三機の機影が何度もぶつかり合っていた。
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