IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第606話】
放課後、場所は生徒会室。
各学年専用機持ちが全員揃っていて、各々が椅子やソファーに座って楯無の説明を待った。
「では、今回の視察旅行の本当の目的を話します」
その言葉に各々が顔を見やり、少しざわめくが楯無が言葉を続けるとそれに耳を傾けた。
「今回は本国でのIS修復を終えたフォルテとダリル、そして自衛隊も参加する総力戦となる作戦を行います」
『自衛隊も参加する総力戦』の言葉に、専用機持ち全員がざわつき、ダリルは一瞬舌打ちをした。
だがその舌打ち楯無の扇子を閉じる音で遮り、ざわつく室内を止めた。
仕切り方の上手さは流石は生徒会長だといえる。
「あー、やっぱりやるんスかぁ、『亡国機業』掃討作戦……だるいなぁ」
気だるげにそう言ったのはフォルテだった、それに反応したのは楯無。
「あら、それは何処から得た情報?」
「本国っスよ。 この前、ちらっと耳にしたっス」
特徴的な口調のフォルテは、ソファーにだらりと凭れていた。
整っていない長い髪を三つ編みにして首に巻いていた、見る人が見ればそれで首を絞めるのかと思ってしまう。
体躯も平均より小さく、更に猫背がそのシルエットを更に小さく見せていた。
「……いよいよって訳か、生徒会長」
壁に背中を預け、片膝を立てていたのはダリル。
うなじで束ねた金髪に身長は今集まっている女性でダントツに高い。
猫背のフォルテとは対照的に背筋も延びていて一段と大きく見えていた。
スタイルも悪くなく、腕組の上に乗っかる乳房が主張している。
「んまァ、オレの専用機『ヘル・ハウンド』もバージョン2・8に上がったしなー。 そんな予感はしてたけど?」
言葉ではそう告げるダリルだが、新たに学園に増えていた専用機持ち一人と自衛隊の参加は予想外だった。
「という訳で、皆には嘘偽りなく国際的テロ組織への攻撃を行ってもらうわ。 情報収集は私が担当します。 皆には亡国機業のISを自衛隊と協力して抑えてちょうだい」
楯無の真剣な言葉、それが場に緊張感をもたらせる。
「それでは各自、視察旅行に備えて解散、寝不足は無いように確り睡眠をとりなさい」
「はい!」
勢いよく返事したのは一夏だった、専用機持ち全員投入ゆえ、遊ばせていても仕方ないのだろう。
だけど……此方から仕掛けるのは初めてだ、学生だが代表候補生の力だけではなく専守防衛の自衛隊も動員する作戦――とはいえ、大人も参加するのだからこれまでとは違うのだろう。
「総力戦か……民間人に被害が及ばないようにしないと」
「うん。 ……どうしよう、織斑くんが凄く不安要素だけど……大丈夫かな?」
「今回は引率者も居るし、自衛隊も来るなら大丈夫っぽいかな」
未来と美冬の二人は少し不安げな表情を浮かべながら生徒会室を出ていく。
他のメンバーも解散の言葉を聞き、各々が生徒会室を後にする――出来ることはしておかないといけない。
それに視察旅行は三日後、どれだけ準備が出来るかわからない俺だが、とりあえず一度母さんの元に向かうことにした。
学園整備室、イザナミも黒夜叉の整備も終えた整備室の中はがらんどうになっていた。
中に入ると母さんが現れる。
「あらぁ、ヒルト、いらっしゃい」
「ああ、てかえらくスッキリしたな」
「うふふ、イザナミも完成したからねぇ」
少し寂しげに整備室を見る母さん――。
「母さん、視察旅行に向けて準備したいんだが……」
「うふふ、今さら機体に何かしても意味はないわよぉ」
「……そっか」
「残念そうにしなくていいわよ? ……ヒルト、第二形態移行した天・伊邪那岐ならやれるわ。 ……今回はお父さんは来れないから、貴方達と自衛隊で頑張るしかないけど……」
「親父が来れない?」
「ええ、この学園の専用機全て出払うから突出した機体がなくなるでしょ? だからあの人と残った教員で無防備な学園を守らないといけないのよぉ」
それもそうかと納得、それに親父は先日の空母で危ない目にあったとか言ってたからな。
「じゃあどうするかな……」
「うふふ、なら準備期間中は視察旅行の準備って事で色々準備しなさいな。 気を張って当日まで緊張するよりも、気晴らしする方がいいわよぉ」
「……それもそうだな。 母さん、ありがとう」
「いいわよぉ♪ いつでも甘えに来なさいねぇ♪」
手を振る母さんに見送られ、俺は一旦自室に戻ることにした。
同時刻、場所はイルミナーティ本部第三整備場。
投影キーボードを叩き、空中に浮かぶディスプレイを見ながら一つのコアを調整していたウィステリア・ミスト。
ブラックボックス化されたコア内部を解析したデータがディスプレイに表示されていた。
「何やってるの? ウィステリア?」
「……コアの調整だよ、シャルトルーズ」
第三整備場に現れたのはシャルトルーズだった、目を細め、露出したコアとそれを格納するIS――漆黒を基調に蒼のラインが入ったラファール・リヴァイヴだが明らかに形状が違っていた。
「……ラファール・リヴァイヴだけど、極端なカスタマイズがされてるね?」
「フフッ、これは私が【十歳の頃に】乗っていた機体だからね。 当時から愛用していた機動、運動性、旋回性能重視のカスタマイズだ」
装甲各種は空力を流す流線型となっていて背部、サイドスカート、肩部内臓スラスターで出力を強化していた。
その分装甲が犠牲になり、火力方面も犠牲に、空いたパススロットも残り僅かになっている。
「その機体のコアを調整してるのは何で?」
「単純だ、イベントに出展するのだよ。 我がイルミナーティが主催するイベントで展示用としてな」
「……展示用なのにコアのフォーマットして、設定するんだ?」
怪訝な表情を浮かべたシャルトルーズ――そんな彼女に柔らかな笑みを浮かべたウィステリア。
「全ては……最悪の未来を防ぐためだよ、シャルトルーズ」
「……そっか。 ……わかったよ、でも……あまり僕に隠し事は無しだからね?」
「ああ……」
ふわりと笑みを浮かべたシャルトルーズ、触れるような口づけをウィステリアと交わした。
「……ウィステリア、京都に行くんだよね?」
「ああ、白と黒の騎士は互いに相容れる事なく戦い、古都は炎に焼かれる……。 この運命は変わらないだろう。 ……篠ノ之束を殺せば変わるが、【既にその結末は試した】のでな……」
「……何だか、ウィステリアって知らない間に詩を謳うようになったよね?」
「……フフッ」
僅かに微笑を溢したウィステリア、設定を終えたコアは胸部装甲に格納されていく。
そして機体を粒子化させる――その場に落ちる黒と蒼のチェーンネックレスを拾い上げたウィステリアはシャルトルーズを連れてその場を後にした。
時間は過ぎ、夜の学生寮。
京都視察用の荷物を纏めていたヒルト、着替えと歯磨きセット、後は携帯の充電器を鞄に詰め込む。
「……後は明日か明後日買い足せばいいかな」
ある程度纏めた鞄を机に置き、ヒルトはベッドに寝転がる――そして不意にムラムラと来る性欲、食欲を満たしたからだろう――無駄に元気になっていく欲望の塊に苦笑を溢した。
「そういや、ラウラとしてからずっと抜いてなかったな」
時間も時間で今から誰かを呼ぶという事も出来ないし、性欲発散の為だけに呼んでいては好意を無下にするのと同じだった。
だからといって妄りに関係を持つのも悪いのだが――。
「……とりあえずシャワー室で抜くかな」
そんな独り言を呟き、シャワールームへ移動しようとしたその時、控えめなノック音が響いた。
誰だろう――とはいえ今の状態は不味いのでバレないように壁に凭れ、片膝つくようにしてドアを開けた。
「ヒルトくん♪ こんばんは! エミリアだよ♪」
金髪のツーサイドアップで学園指定のジャージを着ていたエミリアがドアの前に居た。
「あ……スカーレットさ――」
「エミリアでいいよ! だってヒルトくんはエミリアの素敵な彼氏候補だもん」
「え?」
彼氏候補――いつの間にそうなっていたのだろうか。
「……まあいいけど、どうしたんだ?」
「あ、ううん。 特に用事とかって訳じゃなく、おやすみなさいって言おうと思って」
「あ……そうなのか」
片膝をついていた俺だが、普通に立って挨拶しようとするのだが――。
「……え? ヒルトくん、そこ……どうしたの?」
「え? ――――!?」
構築された欲望の塊が見事なテントを形成していて、慌てて俺は隠す。
「な、何でもないって!」
「え……で、でも凄く腫れてるよ!? エミリアが消毒してあげるから!」
「ちょ、ちょっ――」
問答無用と謂わんばかりに室内に入るエミリアは俺の手を掴んでベッドに座らされた。
「えっと、救急箱救急箱!」
バタバタと俺の部屋を漁る彼女――一体どうなるやら……。
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