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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第610話】

 席へと着くと各々京都への移動の暇潰しをしていた。

 山田先生と母さんを含めた一年生中心にトランプのババ抜きをし、二年のフォルテは耳にイヤホンを、三年ダリルはその隣でフォルテに軽くちょっかいを出していた。

 一夏、織斑先生は二人して話をしている――と、俺に気づいたフォルテが手元の缶ジュースを投げてくる。

 放物線を描く缶ジュースを片手でキャッチ――見るとキンキンに冷えたオレンジジュースだった。


「それ、飲むといいっスよ」


 ダルそうにし、言ったフォルテ――だが缶ジュースにしてはあり得ない冷たさだった。


「ちょっと冷えすぎかな。 ……なんかしましたよね、フォルテ先輩?」

「う? べ、別に何もしてないっスよ?」


 明らかに視線が泳ぐフォルテ――と、足を組んで座っていたダリルが割って入る。


「フォルテ、諦めろ。 そういやアイツはお前の機体の能力、知ってるんだしな」

「むぅ……。 織斑くんは引っ掛かったのに……っス」


 ぶすっと膨れるフォルテ、俺は対面するように座席に座り、キンキンに冷えたオレンジジュースを手摺に置く。


「あっはっはっ、アイツは引っ掛かりやすいが有坂ヒルトはそう簡単には引っ掛からないだろ? お前の負けだよ、フォルテ」

「むぅ……参ったっス。 でもいつかリベンジっス」


 何のリベンジだよと思っているとダリルは組んだ足を入れ換えた――その時にチラッと見えたショーツの色は赤色だった。

 にやっと笑うダリル――。


「今パンツ見ただろ? にひひっ」

「はははっ、そりゃもうバッチリと」

「へえ? 言い訳も弁明もないんだな?」

「見えたものはどうしようもないですからね。 ダリル先輩が慎みを持てば見られる事もなくなりますよ」


 当たり前の指摘に頷くダリル、だけどニヤニヤとした表情は変わらず――。


「エロガキ」


 そう俺にいい放つ、だが十六にもなって興味がないなんて事は無いからそのまま視線を逸らした。

 窓から見える景色で判断すると今は神奈川付近だろう――と。


「なあ、有坂」

「はい?」

「いや、そういやお前とは前に挨拶したっきり話した事ねぇなって思ってな。 フォルテもそうだろ?」

「当たり前っスよ。 専用機持ちタッグ戦の時にちょっと話しただけっス」


 隣でそういうフォルテに、ダリルは顔を向けると――。


「ははっ、そういやお前、あの時こいつに先輩呼ばわりされて感動してたよな?」

「……!! し、仕方ないじゃないスか! 背が小さいから後輩からもフォルテちゃん呼ばわりなんスから!!」


 顔を真っ赤にしたフォルテに、悪戯っぽく笑うダリル、再度わざと下着が見えるように足を組み換える辺り、狙ってやっているのだと思った。


「エロガキ」

「……自分で見せてたら意味ないですよ、てか痴女扱いされますよ」

「あっはっはっ、それはないな」


 そんな笑い声が聞こえる――とりあえず俺はこれ以上からかわれる前に退散することにした。


「はいはい、エロガキで良いですよ。 じゃあ俺は別の席に行きますんで」

「あぁ、わかったよ」

「了解っス」


 そう言って二人はまたイヤホンを耳に挿した、俺も席から立ち上がるとトランプをしてるグループを見やる。

 鈴音とラウラの一騎討ちだった、ラウラがジョーカーを持ち、鈴音がラウラの表情を伺っている。

 ジョーカーに指を当てればラウラの表情は綻び、逆に隣のカードに触れると険しい表情に変わった。


「ふふん、これね!」

「あっ!?」

「へへーん、あっがりー♪」

「な、何故ジョーカーを引き当てられてしまうんだ……」


 明らかに落ち込むラウラ――表情に出てるのだが、ラウラはそれに気づいてないのだろう。


「ふふん、じゃあもう一回勝負ね。 ヒルトはどうする? アタシたちのグループでやる? それとも向こうで?」


 因みに鈴音グループにはラウラ、シャル、未来、母さんに楯無さんだ。

 残りは美冬が取り仕切ってババ抜きしていた。


「鈴音グループで構わないさ」

「ふふん、ならカード、配る――前にシャッフルね」


 そう言って鈴音はトランプをシャッフル――それを隣のシャルに渡してシャルもシャッフル――順番にシャッフルし、母さんから俺に手渡された。


「うふふ、久しぶりにヒルトのリフル・シャッフルが見たいわねぇ~」

「え? ……了解」


 座席テーブルにトランプを置き、俺はリフル・シャッフルを行う。

 ある程度シャッフルさせ、テーブルからトランプを整えると今度は手の中でリフル・シャッフルを行った。


「わあっ、ヒルトって器用だね?」

「ふーん、やるじゃん」

「むぅ……一体どうなってるのだ?」


 そしてリフル・シャッフルを終えてトランプを整え、最後に片手リフル・シャッフルを行った。


「うふふ……、いつ見てもヒルトのシャッフルは鮮やかよねぇ♪ 皆、惚れ直したでしょぉ?」

「いや、母さん……ちょっと練習すれば誰にでも出来るから、これ」

「そうかしらぁ?」


 ふわふわと間延びした声、楯無にトランプを渡すと普通にシャッフルし始めた。


「……何よ、ヒルトくん?」

「いや、楯無さんなら対抗意識燃やしてやるのかなーって思って」

「……私、リフル・シャッフル出来ないのよ。 ヒルトくんの意地悪」


 ぷくっと膨れた楯無さんはシャッフルを終えて未来に渡す。


「リフル・シャッフルは私もテーブルじゃなきゃ出来ないですよ?」


 最後に未来がテーブルにトランプを半分ずつ置いてリフル・シャッフル――終わると鈴音に渡り、ラウラを除いた六人でババ抜きを開始。

 というのも俺が入ったら奇数になるのとラウラがあまりにもジョーカー持ちすぎて落ち込みぎみという事だろう。

 ペアが出来、それらを出してゲームは始まる。

 順調にペアを揃える面々――誰がジョーカーを持ってるかわからなかった。


「うふふ、取って良いわよぉ?」


 そう言って母さんはわざとらしく一枚だけ飛び出すように見せていた。

 ジョーカーかどうかは引くまでわからず、とりあえず引いてみるとハートの8だった。

 ペアが出来、残り三枚――楯無さんがカードを引き、未来、鈴音、シャルと回って母さん。

 さっき同様に飛び出す一枚――母さんの表情はニコニコしていた。

 また飛び出したのを引く――今度はジョーカーだった、持ち前のポーカーフェイスで俺は楯無さんにカードを選ばせる。


「うーん、これかしら?」


 そう言ってジョーカーを引く楯無さん、引いてジト目で見てくるが気にせず順番を待つ。

 窓から富士山が見える――と、先にシャルが一抜けし、母さんも同じ様に二抜けした。

 ペアが出来、それをテーブルに――俺は残り二枚、楯無さんが引けば残り一枚だけ。

 楯無さんが引き、ペアが完成――残り一枚、三抜け確定で未来が引くと同様にペアが完成――四抜けだ。

 そして鈴音が悔しそうに一枚引く――多分ジョーカーだろう、未来で停滞してた様だ。


「ふふん、一騎討ちねヒルト」


 何度もシャッフルする鈴音、右と左に別れたトランプのカード。

 迷うことなく俺は右のカードを取ると鈴音の表情が悔しそうに変化した。


「ああもうっ! もうちょっと葛藤してからとりなさいよ!」

「フフッ、電光石火のが良いからな。 って訳で上がりだ」


 ペアが完成――鈴音がジョーカーを残して負け確定。

 そうこうしている内に気付けば静岡を過ぎていた。

 同時刻――京都。


「んー。 少し早く着きすぎたかネぇ……シャイニィ」


 キセルを片手に京都駅前に着いた外国の女、人目につくその容貌に奇異の視線が向けられる。

 右目には異形の眼帯、気崩した着物から露出して見える肩から胸元――だがそれよりも欠損した右腕が人々の好奇の目に晒されていた。

 左手に持つキセルをふかせ、肩に乗る白猫に優しい眼差しを送る。


「……そうさネ。 少し観光旅行といこうかネ、シャイニィ」


 小さく返事をする白猫――奇異の視線など気にせず、女性はピンヒールを鳴らして京都の街を歩いていく。

 女性の名は『アリーシャ・ジョセスターフ』――第二回モンド・グロッソ優勝者にして二代目ブリュンヒルデ。

 だが周りの人々は気付かなかった、以前の彼女は右腕はあり、隻眼ではなかったからだ。

 それ以上に……初代ブリュンヒルデである織斑千冬の方が印象に残ってるのが大きな原因だろう。

 アリーシャ・ジョセスターフにとっては些末事に過ぎなかった――いつか、初代ブリュンヒルデと真の決着を着ければ良いのだから。

 回り始める歯車――だけど気付かない、人々にとってそれは当たり前の日常、当たり前の生活、当たり前の一日。

 だがその当たり前の一日、誰が想像しただろうか?

 古都京都が燃える――その光景を。 
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