魔王卑弥呼
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遭遇
織田美樹(おだ みき)は高校を卒業後大学へは行かずに土木現場のアルバイトをしていた、父親を早くに病気で亡くし女の細腕1つで母が育ててくれた、大学へ行く余裕は無かった。
ティーシャツとジーンズ姿で砂袋を両肩に担ぎ込む。
髪はショートカット、目はパッチリと丸い、鼻は高い方ではなく上を向いている、丸い鼻の穴が正面からもハッキリと見える。
頬の上が盛り上がっていて笑うと可愛らしいえくぼが出来る、唇は上下ともに厚い。
「よっと」
陸上部で鍛えられた体は疲れを知らない、男に負けない働きっぷりだった。
「大変だー」
砂袋を持って行く場所で現場監督が叫んでいる。
「ドンッ、ドンッ」
砂袋を落としてその場所へ向かう。
砂袋をみんなで運んでいた場所に大きな穴が出来ていた、砂袋は1つも残っていない、ぽっかりと底なしの穴が空いているだけだった。
「きゅ、急に穴が空いてみんな落っこちてしまった」
現場監督の男はへたり込んでいる。
「……はい、……お願いします」
美樹はスマホで救急車を呼ぶ、事情を説明したので警察も来るはずだ。
その穴は深く底が無いように思える、落ちた人達の声もしない。
「事前に地盤は調査してたんだ!俺は悪くないからな!」
事故に対処しようとしないその男を美樹がにらみつける。
「……ひ……」
微かに穴から声が聞こえたような気がした。
「大丈夫ですかー! 今救急車呼んでますからー」
「ひっひひ」
真っ暗な闇から声がした、そして真っ黒い手が伸びてきて美樹の髪を掴む。
「えっ?」
美樹は深い深い闇の中へ落ちて行った。
どのくらい寝てたのだろう?いや、気絶してたのか?
「うーん」
目を覚ますとそこは雪景色だった。
「寒い」
ティーシャツとジーンズ姿の体は凍えていた。
「ムシャムシャ」
振り返ると全身真っ黒の裸の大男が座り込んで「ムシャムシャ、ボリボリ」と食べている後ろ姿があった。
「すみません、ここはどこですか?」
目覚めたばかりで頭が回らない、穴から落ちてどうしてここなのかとか、どうして貴男は裸なのかとか、アメリカ人ですかとか。
恐る恐る近づく、大男は振り向かない。
「すみません」
近づくにつれ大男の体が異様に大きい事に気付く、大男が振り向いた。
「きゃっ、きゃー」
「ドタッ」
尻餅をついた。
大男は人間の手を食べていた、バラバラになった死体が辺り一面に散らばっていた。
そして大男の顔は人間ではなかった、顔の真ん中に大きな口があるだけだ、耳は付いている。
やがて手を食べ終えた大男が立ち上がる、3メートルはあるのではないだろうか。
「ひっひひ」
体に似つかわしくない甲高い声で笑う。
「ノッシノッシ」と近づいて来る。
美樹は気絶しそうになりながらも後ずさる。
「ひっひひ」
大男の大きな手が美樹の顔全体を鷲づかみにする。
美樹は意識を失った。
「人間界にちょっかい出したらだめだろ?」
大男の後ろにいつの間にか大男よりも大きな素っ裸の大女が立っていた。
髪はショートカット、目はパッチリと丸い、鼻は高い方ではなく上を向いている、丸い鼻の穴が正面からもハッキリと見える。
頬の上が盛り上がっていて唇は上下ともに厚い。
体の大きさを除けば織田美樹と瓜二つであった。
「ひっひひ」
大男がゆっくりと振り向く。
「ガスーン」
大女のパンチが大男の大きな口を殴る、その握り拳は大男の口に入る。
大男が手をそのままかじる、サメのような牙だ。
「ああっ」
大女は苦しそうに呻く、しかし空いている手で大男の首を絞める。
大男が手を嚙み切るか大女が首を折るかの勝負だ。
「ボッキィッ」
大男の首が不自然に曲がる、首が折れたのだ、しかしかじるのをやめない。
「うっく」
大女は苦しそうだ、しかし首から手を離し大きく後ろへ振りかぶる、そして空手チョップのように水平に大男の首めがけて叩きつける。
「スポン」
大男の首が千切れた、しかしそれでも大男の口はかじるのをやめない。
今度は大男の頭を握りつぶす。
「バキボキ」
大男の頭が砕け散る、中から少ない脳髄が飛び出て大女の顔に当たる、しかしそれでもその口はかじるのをやめない。
「しつこいんだよ」
今度は大男の顎を握りつぶす。
「ゴキッ」
ようやく口から手が解放された。
しかし首を失った大男の体はまだ生きていた、美樹の顔全体を鷲づかみにしたままだ。
「バキバキ」
音がして美樹の顔が潰れていく、目が飛び出る。
「ボキバキボキ」
頭ごと顔が潰された。
大女が大きく口を開ける。
「うぉぉぉーん」
大女が叫ぶ、いや、音がしない、いや、する。
「メキメキメキ」
大男の体全体が小刻みに震える、そしてガラスのように砕け散った。
「人魔クチダケ、お前の執念を見た」
「ズボッ、ズボッ」
雪の足音を立てながら美樹の死体に近づいて行く。
「可哀想な子、助けてあげるわ」
そう言って魔王卑弥呼ひみこは美樹の死体を食べ尽くした。
「うーん」
目が覚めるとそこは土木の現場だった。
「えっ?……私……」
(確か穴に落ちた……いえ、引きずり込まれたはず……)
しかしそこから先の記憶がない。
「あっ、監督!大丈夫ですか?」
現場監督が気絶をしている、遠くで救急車とパトカーのサイレンの音がしていた。
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