IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第624話】
三つ巴となった京都上空で繰り広げられる戦い――。
一夏の意識は無く、白式の中に眠る残留無意識によって蘇った白騎士――有坂ヒルト、織斑マドカも関係無く攻撃を続ける。
織斑マドカが駈る黒騎士――凶悦に浸り、白騎士も有坂ヒルトも、京都ですら無差別に攻撃していく。
そして有坂ヒルト――。
「墜ちろよォッ!!」
「あはははっ! そう簡単に墜ちるものか! そして――所詮は残留無意識ということか、白騎士!!」
ヒルトの一撃をバスター・ソードで払い、暴走する白騎士は何かのプログラムの様にヒルトやマドカに攻撃していた。
黒騎士のバスター・ソード《フェンリル・ブロウ》の出力が上がると鞭剣へと変貌する。
「ハハハッ! 先にバラバラにしてやるぞ、織斑一夏――否、白騎士!!」
ランサー・ビットの執拗な攻撃は白騎士の動きを鈍くさせる。
「くっ……どちらも好き勝手やりやがって! イザナギ、行くぞ!!」
『任せるのですよぉ!凸(`皿´)』
『武装管理は私に任せてくれ、主君!!』
イザナミの腕部パーツから伸びる荷電粒子剣《天之尾羽張》、その二刀が天・伊邪那岐から射出されると多角的機動を描いて黒騎士に迫る。
「邪魔だ、有坂ヒルト!」
振るわれたフェンリル・ブロウの一撃は天之尾羽張を薙ぎ払う、鞭のようにしなるバスター・ソードの一撃、勢いを失った腕部パーツは今一度天・伊邪那岐へと合体した。
その間にヒルトは白騎士へと斬り込む――構えた神之神霧露の紅い刃が、白騎士の大型プラズマブレードと干渉し、激しい火花を撒き散らせる。
「力の資格、無き者達、よ」
「……!?」
語りかけてくる一夏の声、だがその声は無機質な機械の言葉に感じた。
「二機ともバラバラになるがいい!!」
振るわれたフェンリル・ブロウが襲い掛かる、つばぜり合いを続けていたヒルトは咄嗟にクイック・ブーストでその間合いから離れるが白騎士はしなるバスター・ソードに捕らわれた。
禍々しいダークパープルのエネルギー刃が高速回転――まるでチェーンソーの様に白騎士の装甲を刻んでいった、だが――。
「何だと!?」
白騎士はフェンリル・ブロウをその手で引き裂く――禍々しいエネルギー刃はまるで邪気が払われたかの様に空間に溶けていった、そして――再度語る。
「貴方達に、力の資格は、ない」
機械音声の様に呟くその言葉がマドカの胸に突き刺さり、記憶がフラッシュバックされる。
『この個体は失敗作だ。 力が強すぎる。 だからこその失敗作なのだが』
フラッシュバックされ、まるで何度もループされる様に今の言葉が頭を駆け巡り、マドカは叫んだ。
「煩い……煩い……うるさいうるさいうるさいッ!! 私が、私が織斑なのだ! 私こそが、完成された織斑マドカだ!」
白騎士に飛び掛かると同時に白騎士の首を絞めあげるマドカだが、白騎士――否、一夏の唇の端が僅かにつり上がり、逆にマドカの首を絞め上げた。
「ぐ、うっ!?」
「……チィッ! テロリストでも命は命だ! 止めろォォォッ!!」
どんなに街を破壊しようとも、ヒルトは見捨てることが出来なかった――絞め上げた腕に狙いを定めて振るわれた神之神霧露、だが白騎士はそれを避けたと同時に京都の街へと瞬時加速で降下していく。
「なっ!? また街に……クソがァァァッ!!!!」
全可変展開装甲が開き、機動モードに可変展開される――各部イザナミのパーツが媒体となり、ヒルトは加速した。
だが白騎士の方が速く京都の街へと降下――マドカをアスファルトに押し付け、激しい火花と共にアスファルトが破片を散らせた。
「止めろォォォッ! これ以上、これ以上はァァァッ!!」
ヒルトの慟哭が街中に反響する、血ヘドを吐くマドカ、道路の一部に残る鮮血の後、止まらない白騎士の加速。
「資格のない、者に、力は、不要」
無機質な一夏の言葉は再度マドカの脳裏の奥底にあった記憶を蘇らせた。
『またD判定だ。 千冬が同じ年の頃には、A判定だったというのに』
『IS適性を強制的にあげる処置も失敗した。 《ロストチルドレン計画》二人目の失敗か、どうなってるんだ』
『きっと……《あの子》と同様に愛されていないのよ、世界に愛されていないのよ、誰にも愛されていないのよ』
『終わりのない憎しみしかないのよ、約束された未来などないのよ、希望などないのよ、絶望しかないのよ。 だから――』
リフレインするその言葉に目を見開き、マドカは叫ぶ。
「強く、あるのだ、私はッ!!」
破砕するアスファルト、白騎士の手を振りほどいたマドカは膝蹴りで何度も腹部装甲に一撃を加え続けた。
それでもなお加速する白騎士――そして、コンクリート壁に叩きつけるのだがマドカは無我夢中で膝蹴りを繰り出す。
「……!!」
白騎士は拘束を解いたその時だった、マドカはランサー・ビットをまた片手近接武装に切り替え、矛先を白騎士の額に向けて突き出す。
「死ねええぇぇぇぇえええッ!!」
呪詛の言葉を吐いたマドカは、だがその矛先は無情にも切り上げられた。
「…………」
そして――そのままランサー・ビットを掴み、黒騎士の装甲を縦に切り裂いた。
「あっ……!」
避けた装甲からペンダントが空を舞う、開いたペンダントには千冬の写真が納められていた。
手放したくない、失いたくない――必死に白騎士の手を伸ばし、マドカはペンダントを掌に掴む。
だが、不用意に見せた隙を白騎士は見逃さなかった。
プラズマブレードを構えた白騎士――そして呟く。
「資格無き者、力は永遠に、不要」
出力が上がるプラズマの刃が振るわれたその時だった、白騎士と黒騎士の間に割って入った機体――月明かりに鮮やかに輝く銀髪、寸での所でヒルトがその刃を防いだ。
「……何故助け――」
「助ける訳じゃねぇッ!! お前には罪を償ってもらわなきゃならんからな、これが!!」
助ける義理なんてヒルトにはない、だけど――テロリストとして罪の償い、例えそれが極刑しか無くてもヒルトにはその命を奪わせる訳にはいかなかった。
「力無き者、資格無き者――」
「チッ! 同じことしかいえないのかよ!? 何が力無き者だ! 資格無き者だ!! 傲慢な上から目線で、人を納得させることが出来るほど言葉に力があるのかよ、お前は!?」
拮抗する二機。
そして上空から新たにゴールデン・ドーンが現れてヒルトと白騎士を一瞥し、マドカに告げる――「潮時よ、エム」――と。
白騎士もヒルトもその存在には気付いていたが、放たれた熱波で遠距離から近付けさせる事はなかった、そしてその余波がまた市街地を赤く染め上げる。
「中々良いわね、このパッケージ。 気に入ったわ」
「くっ……どれだけ街を燃やせば気がすむんだ! スコール・ミューゼル!!」
「……さあね。 でも……まだ満足してないとだけは言っておくわ、有坂ヒルトくん」
「……!!」
右腕に抱き抱えたオータムをいとおしそうに頭を撫で、ペンダントを胸に抱くマドカの腕を掴んだ。
「さようなら織斑一夏くん、それと有坂ヒルトくん。 君にはこのまま彼の相手をしてもらうわ」
そう告げるスコール、一方マドカは暴れていた。
「離せ、スコール! 私は、私はッ!!」
「聞き分けのない子は嫌いよ。 お仕置きはいやでしょう?」
「……ッ」
そのまま瞬時加速で上昇、パッケージのスラスターを全開にしたオーバー・ブーストで戦線を離脱していった。
京都を火の海に包んだ亡国機業は撤退した、だが未だに暴走を続ける白騎士はヒルトと交戦に入る。
「力を、誇示したいのなら、私に、挑め……」
「力の誇示!? 力が無きゃただの無力だが、お前が振るう力はただの暴力だ!!」
「笑止、力無き者の、戯言」
「何が戯言だ! 上から目線で……何が私に挑めだ!? 挑むのは――お前だよ、織斑一夏――否、白騎士!!」
空中へと躍り出たヒルトと白騎士は切り結ぶ、何合と続く接近戦。
「私が、挑む? 笑止、力無き者、その傲慢、自らの身を、滅ぼすだろう……」
間合いをとった白騎士――左腕を横に振り抜く。
「良いだろう。 己が無力に絶望し、私の力を、とくと味わえ」
白騎士の装甲が粒子化と共に再構築されていく――織斑千冬の残留無意識が、コア・ネットワークを通じて《白式》の情報をフィードバック。
全体的に白騎士の意図を残しながらも何処か白式の様な造型――まるで二機を融合させた様な姿は西洋画に描かれる聖天使の様にも見られた。
理由は簡単だ、白騎士のウイング・スラスターと白式のウイングスラスターの計四基が天使の四枚羽に見えるからだ。
登録名称《ドレッシィ・ホワイトナイト》――第二形態移行を果たした白騎士の新たな姿だった。
「では、始めよう。 力無き者、資格無き者、私に、抗え」
「……まだ上から目線かよ。 ……行くぞ――――イザナギィィィッ!!」
『やっちゃうのですよぉ!凸(`o´#)』
『ああ! 我が力は主君の為に!! イザナミ、コアを同調させる!!』
天・伊邪那岐、そしてイザナミのコアがリンク同調を果たし、緑の余剰粒子が周囲に放出され、天へと昇っていく。
それが合図となり、全てのISの始祖である白騎士と落ちこぼれと呼ばれた有坂ヒルトの戦いが新たに開始された。
一方、旅館の外では楯無がある物を運んできた運び屋と接触をしていた。
「遅れて申し訳ありません、先日の空母沈没の件の処理が思った以上に――」
「いえ、ありがとうございます。 カレン・カレリア――いえ、アンネイムドの隊長さんと呼べば良いかしら?」
そんな楯無の皮肉、だがカレンは表情を崩すことなく告げる。
「いえ、貴女方の呼びやすい呼び方で私は構わないので」
「……そう、じゃあカレンさん。 物は受理しました、ありがとう――でも、脱け出しても平気だったのかしら?」
「それに関しては問題ありません。 私はあの方がお呼びになれば……」
そう話すカレンの頬は僅かに紅潮していた、楯無は頬を指で掻く。
受け取った物資を粒子化させた――庭園に現れたのは巨大な狙撃粒子砲《サモセク》及び《アルマッス》、街を破壊する力ではなく、誰かを守る、生徒を守る為の新たな剣だった。
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