IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第631話】
修学旅行前の買い出し、専用機持ちは視察旅行の際も買い出したのだが女の子には色々必要な物がいっぱいらしい。
場所はレゾナンス、一学年全員ここで買い出しをするらしく皆思い思いの私服でレゾナンスに集合していた。
冬が近付く11月、肌成分も少なくなるかと思いきや一組女子のスカート率の高さは異常だった。
勿論ロング丈のスカートの娘も居る、控え目なスリットを入れた娘もいれば大胆極まりないロング丈スカートにきわどいスリットで美脚を露にしている娘も――。
「お兄ちゃん、美冬も見てよ」
そう言って腕に抱き着いてきた美冬、今日はフェイクファーファッションだ。
肌触りのいいフェイクファーのコートに身を包む美冬、ボトムやインナーもシックな色で統一していた。
「ヒルトさぁん、買い物何を買うか決まりましたかぁ?」
美冬をよく見る間もなく、ソフィーがヒルトに声をかけた。
彼女はロング丈藍色のファー付きコートに赤のチェック柄のフレアミニ、下も白のブラウス、背中には可愛らしい小さなリュックサックを背負っていた。
「いや、特にはないかな。 今回は気晴らし気分で来たから」
「そうですかぁ……。 私達皆グループ組んでレゾナンスで買い物しようと思ってるので、良かったらヒルトさんや美冬さん達もどおかなって」
「悪くはないな。 ……まあでも今日はごめん。 美冬も、悪いけど今日はちょい一人で見て回りたいから……」
そう言ってヒルトは一人エスカレーターに乗って二階へ――残された美冬とソフィー。
「……お兄ちゃん、やっぱり元気無い気がする」
「そう、ですね。 ……京都から帰ってきてから、ヒルトさん何処か無理してる気がして……」
悲しそうな表情をするソフィー、二階へ行ったヒルトの背中を見えなくなるまで見ていた。
「……二人、裏切ったからかも」
「二人って……ケイシー先輩とフォルテちゃんですよねぇ?」
「うん……二人、亡国機業に行っちゃったからかも。 ……後、犠牲者出ちゃったから……」
美冬の表情も暗くなる――ソフィーも悲しそうな表情だったが一変、美冬の手を取る。
いきなりの事に美冬は驚きに目を見開く、ソフィーは満面の笑みで――。
「犠牲者出たのは私も悲しいです……でも、二人の事は大丈夫ですよ! 裏切られたのは悲しいですけど……説得して、連れ戻せばいいんです! ほら、IS学園の楽しい思い出とかを語るんですよぉ!」
笑顔でそう言うソフィーに、美冬は思わず吹き出した。
きょとんとするソフィー、変な事を言ったかなと少し考えてしまう。
「ご、ごめんねソフィー、いきなり笑っちゃって。 ……そうだよね、説得したら戻ってくるかもだし」
「そうですよぉ! それに、テロなんて似合わないですよ、絶対に!」
そんなソフィーの天真爛漫な所に美冬は救われた気がした。
その後各グループ毎に必要な物を買い出しに出る、因にだが一夏もレゾナンスに来ていた。
単独行動しているヒルト、ウィンドウショッピングしていた。
行き交うカップルや家族連れを見たヒルト――京都同様ここでも当たり前の日常、当たり前のやり取り、当たり前の一日が繰り返されていた。
だけど――あの日京都に来ていた人達皆その『当たり前の日常』が無くなった、失った人も居る。
誰のせいだとか言い出せばキリがない、無論ヒルトは誰が見ても暴走事件を解決させた人間で誰も責めない、寧ろ英雄と呼ばれてメディアに取り上げられてもおかしくないぐらいだ。
だがメディアは事件解決に貢献した学園の事や自衛隊の事は報道しない。
見えない圧力によって抑制された報道もそうだが、IS委員会会長レイアート・シェフィールドが下した判断でもあった。
未だに燻るヒルトへの偏向報道、解決した中心人物がヒルトだとわかったら京都市街の被害の責任がヒルトに向かう可能性もある。
そうなれば幾ら委員会が認めてもまた世論は傾く、人々の意思はそうなのだ――特に日本は人の顔色を伺い、あの人がこうしたから私もこうするといった具合に。
焦燥感に襲われるヒルト、視線を落としてレゾナンスを歩いていく。
そして――ふと視界に映った流れるブロンドヘアー、相手も気付き、ヒルトも気付く。
「あら、ごきげんよう。 有坂ヒルトくん」
「お前……スコール・ミューゼル……!」
亡国機業『モノクローム・アバター』のスコールとヒルトが出会う、一瞬にして周囲にピリピリと空気が張り詰めた。
「ここで何をしている……!?」
可能な限り声を落ち着かせ、そう告げるヒルトだが声色に宿る怒気は隠せなかった。
「あら、随分警戒されているようね?」
「当たり前だ……! テロリストがこんな所に居るんだ……!」
険しい表情のヒルト、行き交う人々は一触即発の雰囲気を出していた二人に視線を向けるが大して気にせず歩いていく。
「あら……テロリストである私が買い物に来るのはおかしいかしら?」
「ああ、おかしいな。 ただの偶然でここに居る訳じゃないだろうし……何よりテロリストだ、信用出来ない」
「あら、信用されてないなんて残念ね」
蠱惑的な笑みを浮かべて腕組みし、豊満な乳房をわざと持ち上げて見せたスコール。
だがヒルトはそれに気をとられる程心を許してはいない、それよりも更に警戒心が高まる。
IS展開も視野に入れる――だがヒルトは躊躇した、ここで展開すれば今此処に居る人達の『日常』を奪ってしまう。
クスッと笑みを浮かべるスコール――。
「賢明な判断よ、君が展開すれば私も自衛の為に守らざるを得なくなる。 そうなれば私はこのレゾナンスを焼き払い、混乱に生じて逃げざるを得なくなる」
「ッ……」
「テロリストの私にとって誰かが死ぬなんて事は些末でしかないのよ」
怒りを堪えるヒルト――不意に近付くスコール。
「良いことを教えてあげるわ。 織斑千冬に気を付ける事、そして君の機体には関係無くはないけど倉持技研にも気を付ける事ね」
「何を言っている……?」
「信じる信じないは貴方次第よ、さっき織斑一夏くんにもそう告げたわ。 ……さて、じゃあ買い物の続きに行くわね? 勿論見逃してくれるなら……だけど」
そんな囁きにヒルトは握りこぶしを作り、奥歯を噛み締めて小さく頷いた。
勝ち誇った様に微笑みを残し、スコール・ミューゼルはその場を去っていく。
残されたヒルトはテロリストを野放しにせざるを得ない状況と自身の無力に更に心が磨り潰されそうになっていた。
一方スコール・ミューゼル――ヒルトの事はもう気にも止めずにレゾナンス内を歩いていた。
だがそこで出会う――イルミナーティ総帥であるウィステリア・ミストに。
「あら? 何か用かしら、ウィステリア様?」
皮肉を込めてそう呼ぶスコールにウィステリアは一瞥。
「いや、君が此処に居る理由が気になってね。 このあと控えるIS学園の本格的な修学旅行の後に襲撃でも企んでいるのではと思ってね」
「…………!」
一瞬表情が変わるスコール、ウィステリアはその変化を見逃さなかった。
だがスコールは気取られる訳にはいかず「あら、何の事かしら?」と誤魔化す。
「フッ……降ったフォルテ・サファイアとレイン・ミューゼル辺りに聞いたのだろう? 一年の本格的な修学旅行は来週――明後日からだとね」
「…………」
スコールは答えなかった、ただ険しい視線をウィステリアに送るだけだった。
「この時期に学園を強襲すれば学園が保有するIS、そして秘匿されてはいるが度々ある学園への襲撃で回収されたコアなども纏めて奪え、亡国機業の戦力も充実するだろうしな」
世間一般の認識はIS一機で国防を賄えるほど――無論そんな訳ないのだが個の兵士が戦闘機、戦車、軍艦と単機で落とせるその力は戦場の理を崩す概念になりうる。
対IS戦術が構築されてもそれは事前に練らなければならない戦術――テロリストが個でISを手にするという事は本当に世界を揺るがす事態になる。
その保有数が三〇越えればどの国もテロリストに屈服する羽目になるだろう。
「……あまり余計な事を考えない方がいい。 我々もむやみやたらに力を持とうとする者は好ましくないのでね……。 必要であれば君を殺すことも可能なのだよ、我々には」
「……!?」
ゴールデン・ドーンのコアが周囲にコア反応を検知した、完全不可視の二機――スレート、シャルトルーズの二人だった。
「……ともあれ、余計な事はしないことだ。 我々の傘下にある亡国機業が何かすれば我々も君達の壊滅を検討にいれなければならないのでね」
「わかったわ、ウィステリア様」
悔しそうにそう告げてスコールは去っていく、ウィステリアは後を追うことはしなかった。
「ウィステリア様、宜しかったのですか? あの場で始末すれば後顧の憂いも無くなると僕は思うのですが?」
不可視状態のまま告げるスレート、身に纏うISヴァリアントは完全なステルス機能で周囲に気付かせる者はいなかった。
シャルトルーズも不可視だが、少し目を凝らせば其処に違和感を感じるレベルでは視認が可能だった。
「確かにな。 ……だがやはり街中での戦闘は避けたいのだよ、私は」
「無論そうです。 我々は裏社会の人間、テロも行いますが一般人を被害に巻き込みたくないですからね」
要人を暗殺もすれば軍基地を秘密理に襲撃するイルミナーティ、世界各地の過剰戦力を抑止するその動きは未来を見据えた動きだ、スレート自身それが世界の為になると盲目的にそう感じている。
「ともあれ、スレート――修学旅行中のIS学園に注視をしておいてくれ」
「わかりました、ウィステリア様」
告げられた命令を不服にも感じないスレート、彼はウィステリアの為なら命すら投げ出す程忠誠を誓っている。
スレートの反応が消えたのを確認したウィステリアはシャルトルーズに告げた。
「シャルトルーズ、君は少し休むといい。 連日私の付き添いで大変だろう」
「そうだよ、君の秘書役にされてから大変だったんだからね?」
言ってから姿を現すシャルトルーズ、何もない空間から人が現れるというのは皆が驚くのだが今はウィステリアとシャルトルーズの二人だけだった、予めこの通りを人払いした結果とも云える。
それが合図になったのか疎らながらも人が行き交い始めた。
「すまないね、一応役職に着かせなければならないのでね」
「まあいいけど……。 せっかくだし、久々にレゾナンス、楽しんでくるね? ウィステリアはどうするの?」
「私は地下で君を待つとしよう、明日また京都に発たねばならないしね」
「了解、じゃあ楽しんでくるね?」
そう言ってシャルトルーズはレゾナンスへと消えていき、ウィステリアは地下駐車場の自分の車で暫く休むことを決め、その足で地下駐車場へと向かった。
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