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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第603話】

「でっきたよ~~~~~~~~ん!」


 飛び出した第一声に怪訝な顔のマドカ。

 亡国機業、スコール・ミューゼルに用意されたホテルの最上級スイートルーム――その一室をホテルに許可なく勝手に改造して開発室化していた束。

 だがホテル側も世界的に有名な篠ノ之束が宿泊してるという事もあり、それぐらいはお安いご用との事。

 そんな束はマドカを引き寄せてギュゥッ!と抱きついた。

 だがマドカは反射的にナイフを引き抜く――その刃が腹部を狙うが、指二本でそれを遮り、根本から折る。


「ああん、もう、可愛いなぁ。 マドちゃんは!」

「やめろ……。 それよりも、私の機体は仕上がったのか?」


 心底鬱陶しそうにしているマドカ、束はそんなマドカを千冬と重ねて見ている。


「もちのろんだよ! ちょーっとマドちゃんのイレギュラー行動があったから突貫工事だったけど束さんにお任せあれさ! さあさ、ご覧あれ! これぞ白を討ち、紛い物の黒をも討つ闇の担い手、その名も――」


 ISに被さるカーテンを大袈裟に取り払った束は続けた。


「『黒騎士』! マドちゃん専用機さ!」

「これが……私の」


 漆黒の装甲はスイートルームの明かりを受けて鋭く光を放ち、IS全体から誰にも負けない圧倒的なパワーを感じさせた。


「これで、私は……姉さんを超える……!」

「おっとっと。 焦っちゃダメダメなのさ~マドっち。 物事には順番、順序があるよね?」


 束はマドカの顔を覗き込み、屈託ない笑顔を見せて告げた。


「最初のターゲットは――ううん、優先順位はマドっちに任せるよ。 ……『織斑一夏(いっくん)』、『有坂ヒルト(ロスト・イレギュラー)』辺りがいいと思うな♪」


 ヒルトの事をロスト・イレギュラーと告げた束の笑顔だが、邪悪に笑う束のその表情に無意識にマドカは恐怖を感じるのだった。


「じゃあマドっち。 ちょっと束さんはお散歩に行ってくるね~~ん」


 ひらひらと手を振ってスイートルームを出た束、ルンルンとスキップしながらエレベーターへと向かった。

 一方、IS学園正門。

 機体の修復を終えたダリル・ケイシーが携帯端末に届いたメッセージを見ていた。


「そろそろ戻ってこい……か」


 メッセージの送り主はスコール・ミューゼル――ダリル・ケイシー……否、レイン・ミューゼルの叔母からの連絡だった。


「そんな所で黄昏てどうしたんッスか、先輩?」

「フォルテ……!? いつ帰国して――」

「ついさっきッスよ、ギリシャから帰国したの」

「奇遇だな、俺もさっきアメリカから帰国した」


 無造作に下ろされたフォルテの髪を撫でるダリル、くすぐったそうに目を細めるフォルテ。


「にひひ……髪の毛、編んでほしいッス、先輩」

「……仕方ねぇな。 いくぜ、フォルテ」

「な、何するんスか!? 髪がくしゃくしゃになるッスよ!!」


 別れの時が近付く――ダリルはチクリと痛む胸の痛みを誤魔化すようにわしゃわしゃとフォルテの髪を弄った。

 アラスカ、IS委員会本部では先日行われた有坂ヒルトの連戦結果の記録を見ていた。


「皆さんも御覧いただけた様に、有坂ヒルトくんは代表候補生選出に問題ない実力を兼ね備えていると思います」


 レイアート・シェフィールド自身が説明する――流石に専用機持ち、それも現教員、最新型を持つ篠ノ之箒に勝ったともなれば反対するものはいなかった。


「代表候補生選出、それは問題ないでしょうが問題はどの国の代表候補生にするか、ですな……」

「一応所属国家は日本ですが……日本には篠ノ之箒、更識簪、飯山未来に有坂美冬、有坂美春、それと織斑一夏が居る以上来年のモンド・グロッソは激戦区になりそうだが……はて」


 反対意見は無いがやはりどの国にするかが課題だった――だがレイアート・シェフィールドは答える。


「有坂ヒルトくんには、【IS学園代表候補生】という形で所属してもらおうと思います」

「ほう……? 学園代表候補生……なかなか面白そうな事を言いますな、会長」


 目を細めて自身の髭を触る委員会役員、レイアートは更に続ける。


「第二回モンド・グロッソは参加国二十一ヵ国、来年行われるモンド・グロッソは予定参加国は二十五ヵ国、まだ参入を決めていない国もあります。 ……其処に私は、特別枠として【IS学園代表枠】を用意したいと思っています」


 会議室にどよめきが起きる――。


「特別枠……ですか」

「反対はしませんが……どうなるやら」

「とはいえ、来年のモンド・グロッソ、欧州連合のドイツはラウラ・ボーデヴィッヒを選出する動きがありますしな……」

「後はイギリス、彼方はセシリア・オルコットが上がっては居ますが……まだわからないですね」

「今年入学したものが来年の国家代表としてモンド・グロッソに出場――中々に荒れそうですな」


 各々が様々な考察をする議員役員――。


「考察は会議が終えてからにしてください。 ……有坂ヒルトくんの代表候補生選出に反対の者は居ますか?」


 レイアートは全員を見やる――だが反対するものは居なく、安堵のため息と共に告げた。


「では、有坂ヒルトくんの代表候補生を承認します。 所属は現段階でIS学園代表候補生、支給金は本日から始めさせていただきます。 では次の議題ですが……織斑一夏くんの仮の代表候補生に関してですが――」

「会長、織斑一夏は現状のままでよろしいのでは?」

「ええ、下手に刺激するよりは現状の仮の代表候補生のまま。 有坂ヒルトとの二枚看板でいくほうが対比として悪くないと思いますが」

「そうですね。 さっきの試合内容は散々ですが他に男の操縦者がいないのであれば話題性を見てもそのままがよろしいかと」


 一試合見ただけではやはり反応が鈍い役員、レイアート自身今回の視察が有坂ヒルトの代表候補生選出の為の視察だったのだからまた機会を見て学園へ伺い、織斑一夏の資質を見ても良いだろうと結論つけた。


「わかりました、現状維持でしばらく様子を見ます。 後、最近各国から上がり始めているIS男子操縦者との一夫多妻制に関しての――」


 アラスカでの議題は続いていく、そして――イルミナーティ本部。


『……マスター、近くに次元振動波を感知』

『次元振動波……。 誰かが来るのか、トゥルース?』

『わかりません、ただ巻き込まれただけの人か或いは……』

『場所は何処だ』

『場所は――この地点です』

『……わかった』


 ウィステリア・ミストは仮面を外す――ここ十年間、一度も反応がなかった次元振動波、誰が現れたのかを確かめる為にISを展開――窓を空け、大空へと飛翔していった。


「ボス? デュノア社からきた資料――って、何処に行ったのよ、兄さん……」


 開いた窓から空を見るシルバー――果てしなく抜ける青空が広がっているだけだった。

 イルミナーティ本部から約二〇キロの地点、次元振動波の余波を感知したウィステリアは地上に降り、周囲一帯に生体反応がないかを調べた。

 範囲を広げる――周囲は鬱蒼とした木々が茂り、遊具も見える公園だが動物や虫以外の生体反応が見えなかった。

 ただの次元振動波――そう結論つけようとしたウィステリアだったが僅かに人の反応があり、駆け出す。

 其処から僅か三〇メートル――。


「……君は!!」


 ウィステリアは驚きで目を見開く――金髪のロングヘアーにアメジストの瞳、着ている服装は所々破れてはいたが見間違える筈はなかった。


「あ……。 ……会いたかった、ずっと……会いたかった!!」


 そう言って彼女はウィステリアに抱き着く――ウィステリアもまた、力強く抱き締めた。


「……どうして……」

「……キミがいない世界何て、僕には何の意味もないから……」

「だが……俺は……」

「僕を【殺そう】とした……?」

「……そうだ」

「……でも、僕を殺してない……でしょ?」

「……ああ、俺には出来なかった……」

「だから……僕はキミを探したんだよ。 ……キミのその手が血で染まろうと、それはキミが【あの世界】をどうにかしようとして出した結論でしょ? ……世界の全てを敵に回し、嘗ての仲間も手にかけなければいけない修羅の道……」


 ウィステリアは答えなかった、ただ――腕に抱いた彼女を離したくなかった。


「……キミがいない世界に、僕の居場所はないよ。 ……例え僕の手が血に染まっても――僕はキミの側に居たい……」

「……そう、か……。 ……ありがとう」

「ううん……。 ……所で、ここはどの辺りになるの? っていうか、日本っぽいけど」

「ああ、ここは日本だが事情は移動しながら説明するさ。 ……ISはあるか?」

「勿論。 ……ていうか、ISコアがなかったら来れなかったもん。 キミが僕のISを――コアを破壊しなかったお陰だよ」


 そう言ってふわりと舞う彼女――、首もとのネックレスから光が放たれ、長い金髪が風に靡き、白と橙を基調としたISを纏った。


「……では案内しよう。 ……それとだ、ここでは私の事はウィステリア・ミストと呼んでほしいのだが」

「……ウィステリア・ミスト? 私? ……フフッ、何だかキミが【私】って言うの、似合わないなぁ」

「そう言うな。 俺だってわかってはいるさ、これがな」

「フフッ、わかったよ。 ウィステリア・ミスト――ううん、ウィステリア」

「すまないな、その辺りの説明も道中行おう」

「うん、お願いね……? えへへ……君と無事に会えて良かった♪」


 そう告げると二人はその場から飛翔していく。

 静寂に包まれた公園、ぼろぼろになった一枚の証明書から僅かに文字が書かれていたが、ほとんどが何かの影響で黒ずんで読めなかった。

 だが名前の欄に書かれた名前【シャ―ロッ―・――ノ―】の文字が見えたが、風に舞ってボロボロと紙は風化して消えていった。

 そして夜、イルミナーティ本部会議室に集まっていたのはシルバー、カーマイン、スレートだった。

 だがカーマインとスレートはウィステリア・ミストの隣に居た女性が気になった――。


「ボス、その女は誰だ?」

「……彼女は私の同士となった者だよ。 ……コードネームは【シャルトルーズ】」

「…………」


 シャルトルーズと呼ばれた女性はチラッとウィステリアを見る――最初に会った時とは違い、今は仮面を着けていた、事情があるのだろう――シャルトルーズは敢えて訊かなかった。


「初めまして、ぼ――私は【シャルトルーズ】です」

「いきなり幹部格のコードネームですか……。 初めまして、僕はスレートと申します」

「あぎゃぎゃ、俺様はカーマインだ。 いい女は歓迎するぜ?」

「あ、あはは……よ、よろしく」


 困ったように笑うシャルトルーズ――シルバーはクスッと僅かに笑みを溢した。


「初めまして、シルバーよ」

「あ……。 ぼ――私、シャルトルーズ――」

「ええ、わかってるわ。 ボスには本部を案内してもらったかしら?」

「あ……ううん、まだだけど――」

「なら私が案内します。 良いわよね、ボス?」

「ああ、そうしてくれると助かるよシルバー」


 ウィステリアはそう告げる――カーマインは気だるげに欠伸をすると。


「あぎゃ……わりぃがボス、そろそろ俺様は寝るぜ」

「ウィステリア様、僕は機体の整備をしていますので何かあれば御呼びください」


 そう言って二人はその場を出る――そしてシルバーはウィステリアに一枚の資料を渡した。


「ボス、デュノア社から報告が上がりました。 どうやら第三世代の開発に成功したとの事です」


 デュノア社――その言葉に僅かに反応したシャルトルーズ、その表情に少し陰りが落ちていた。

 ウィステリアは資料を受け取り――。


「機体名はコスモス――だな」

「ええ、あくまでも開発に成功した段階ですから名称はまだでしょう。 ですがその名前で間違いはないはずです」

「ああ。 ……テストパイロットは決まっているのか?」

「まだ報告にはありませんが――デュノア社専属テストパイロットである『ショコラデ・ショコラータ』、或いは『シャルリーヌ・デュノア』がパイロットになるかと」

「ふむ……。 ……ご苦労、ではシルバー、彼女を案内してあげてくれ」

「うふふ……わかってるわよ、兄さん」

「……ウィステリアだ」

「……ふーん、何か僕が居ない間に随分仲良くなったんだね、二人は」


 シャルトルーズが頬を膨らませ、そう告げる。


「ええ、兄さんとの蟠りはもう無いし」

「……シルバー、早く案内しに行くんだ」

「はぁい。 ……じゃあ行きましょうか、シャルトルーズ」

「うん。 ……ヒ――ウィステリア、また、ね?」


 二人も共に会議室を後にする――。

 残されたウィステリア・ミストは椅子に腰掛け、月を眺めた。


「……もうすぐ京都……か」


 そんな呟きが夜空へと消えていく。


「……ッ! 有坂ヒルト……あやつのせいで私の立場が……!!」


 憤りを見せていたのはオーランド・カーン、日本の病院に入院してる間に不祥事を暴かれ、役員を解任されてしまった哀れな男。


「それもこれもあの織斑一夏が不甲斐ないからだ! 何がブリュンヒルデの弟だ! それに――忌々しいブリュンヒルデめ!!」


 病院の屋上で一人激昂するオーランド――その背後にいる女性には気付かなかった。


「あはは、何だか楽しそうな話をしてるねぇ☆」

「む? 何だね君は! 私が誰だかわかって話しかけているのかね!?」


 影に隠れた女性――月明かりが一瞬彼女を照らすと、オーランドは驚きに目を大きく見開いた。


「何だかちーちゃんやいっくんの話が聞こえてきたから来てみたんだけど……。 あはっ☆ 忌々しいブリュンヒルデって誰の事かにゃ?」

「あ、あわわわわ……」


 腰を抜かし、あまりの事態に失禁してしまうオーランド――それを見た女性は――。


「きったないなぁ……。 まあいいや、とりあえずさぁ……ちーちゃんやいっくんの事を言っても良いのは私だけなんだよね~☆ ……お前が口汚く言う権利はないのだよ」

「く、来るな、来るなァァァッ!」

「アハハッ☆ くーちゃん、悪いんだけど……壊しちゃって☆」

「わかりました、束様」

「来るなぁぁあああッ!!」


 何処からともなく現れたクロエ・クロニクル――そして、オーランドにワールド・パージを掛ける。

 その瞬間、虚ろな瞳で虚空を見るように視線が定まらず、オーランドはぶつぶつと呟き始めた。


「ち、ち、ちん! ちんちんちん! ふりっふりっ♪ あえっあえっ♪」


 心が壊れたのか意味のわからないことを叫んだオーランド。


「ご苦労様くーちゃん♪ さて、帰ろ帰ろ~蛙が鳴くから帰りましょ~」

「はい、束様」


 月明かりに照らされた二人は屋上から姿を消す――。

 翌朝、屋上で発見されたオーランドは心身喪失と判断され、精神病院へと送られる事となった。 
 

 
後書き
ここで第九巻終わりっす( ・ω・)b

オーランド死んでないよ、死ぬよりキツい罰だよ

次回から十巻ザマス 
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