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KANON 終わらない悪夢

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94終わりの始まりの悪夢


 秋子の家
 タッタッタッタッ! ザシュッ、ピンポーン
 また朝早くから水瀬家までダッシュで来て、インターホンのチャイムを押す香里。
「祐一ちゃ~ん」
 ピンポ~ン
「起きて~~」
 ピンポ~ン、ピンポ~ン
 今日も「ひろゆきちゃん」の家と同じ状況の水瀬家。
 タッタッタッ、ザシュッ! 
「お姉ちゃんっ!」
 タイム差にして30秒以内で栞も到着した。二人とも完全に回復したらしい。
「あら、おはようございます、祐一さんはまだ帰ってないんですよ」
「「えっ?」」
 また真琴や名雪のような、邪魔者が増えた予感がして、嫌な汗を流す香里と栞。
「昨日は真琴のお友達の、天野さんの所に行って、急に「お泊り」になったんです」
「「はあ…?」」
 そこに、「ゆうくん」と腕を組んだ美汐が水瀬家にやって来た。真琴はまだ操られたまま、二人の後ろを付いて来ている。
「祐一っ!」
「祐一さん!」
 それを見付けて、ダッシュで駆け寄る美坂姉妹。
『おはようございます、美坂さん』
 二人の鬼のような顔を見ても、以前のクラスメイトと姉に向かって平然と答えられる美汐。
 一般人にはない凄い胆力で、今まで潜った修羅場や苦痛の数、トラウマスイッチの量も桁違いだった。
「あんたは先週のっ、まだ祐一に付きまとってたのねっ」
「祐一さん、まさか天野さんともっ?」
 ここでもし美汐の支配力より美坂姉妹の怒りと暴力が優れば祐一はタヒぬ。
 ミサカでもビリビリさんの電撃は無いが、鳳凰幻魔拳とか鳳翼天翔食らって、マーマの沈没船が深い所に沈んでマーマの亡骸も崩れたる幻覚を見せられ「死んだか?地獄を見てもう指一本動かせまい」とか言われながら聖衣の胸を貫かれてタヒぬ。
 栞さんにもオーロラエクスキューション食らって、スリーピングコフィンで固められる。

『よく聞いて下さい、私も相沢さんに命を助けられたんです。いつ死んでもおかしくなかったのに、今ではこうして元気に出歩けるようになったんです。お二人ならこの意味、分かって下さいますね?』
「「え? ええ……」」
 その言葉に嘘は無かったので、美坂姉妹の心の奥底に届いた。美汐も「ゆうくん」がいなければ、死んでいるのも同然で、昨夜、二人と同じように命を吹き込まれ、蘇ったばかりである。
『では、これからは私達『お友達』ですね『学生らしい適切なお付き合い』を心がけましょう』
 括弧内をさらに強調し、二人に不純異性交遊を禁止した美汐。しかし、自分だけは不適切な関係を続けるつもりでいた。
「ええ…… そうね、貴方もそうだったのなら、私達、難病シスターズって所かしら?」
「うふふっ… お姉ちゃんったら……」
 既に虚ろな目になって、敵とも楽しく会話してしまう美坂姉妹。

「おはようございます」
 そこに、朝も早くから、家の前で心の声全開で命令している美汐を止めるため、秋子ちゃんが歩いて来た。
「あっ、おはよう御座います、秋子様。以前、何度かお目に掛かった事があると思いますが、私は天野の家の3世代目です。以後、お見知りおき下さい」
「ええ、貴方の事はよく知ってますよ。7年前は祐一さんがご迷惑を掛けてしまいましたね」
 事件の顛末も、その後の美汐も知っていた秋子。しかし、力が弱っていたので、天使の人形が行使する力には逆らえず、全てを見守る事しかできなかった。
 それは今も変わらず、祐一から力を分けて貰おうとしたのも、いざと言う時、祐一の魔物達を止めるためでもある。
「いえ、迷惑だなんて、とんでも有りません。 また巡り会えただけでも… それに、もう一度こうやって……」
 また涙声になって、言葉に詰まり、祐一にしがみ付く美汐。
「私達も祐一さんの消息を探すのに、時間が掛かってしまいました。貴方と縁が出来てしまった祐一さんの分身は自分の体に帰ろうとせず、他の祐一さんに吸収されてしまいました。それからも姉さんが余りにも上手く逃げていたので、倉田の家が探し出した時には、もうこんな事に…」
「はい」
 多分、国外に逃亡する前に拉致されて、秋子に『命令』を受け、祐一に穏当な理由を話して送り出した秋子の姉と夫。
 現実は出張ではなく、外国で軟禁され、傭兵にでも守られているらしい。
 ちなみに「こんな事」とは、天使の人形こと、祐一の魔物が大きな災厄を起こしかけている状態で、祐一の両親が地球の裏側にいるのは、もし何かが起こっても生き残れる可能性が高い場所に送られたためである。
「でも、女同士の戦いは公平にお願いします、術を使って命令してはいけませんよ」
「はい、ですが、学校での相沢さんの悪評を断つのはお許し下さい」
「ええ、その程度なら構いません。祐一さんに女性が近付かないようにするには良い噂だったんですけどね」
 その笑顔を見て、祐一が「知ってたのかコノヤロー」と思ったかどうか、定かではない…
 しかし、その夜、秋子が復讐され、泣いて許しを請うまで指で何時間も男子高校生の体力で掻き回され、娘が寝ている床下でドーブツのような喘ぎ声を出し、風呂場で何もかも垂れ流すまでヤられたかどうかも定かでは無い。

 学校でも、腕を組んだまま祐一を連れ歩く美汐。その姿は先週、美汐を止めようとしたクラスメートにも目撃された。
『天野さんまで、あんな男の言いなりに』
『やっぱり、あの時に止めておけば』
 もう甘々のベタベタで、うっとりした表情のまま歩いている美汐。
 それを見たクラスメートは、美汐が祐一に「変なお注射」をされて、美坂姉妹のように「体が離れられない不潔な関係」にされたのだと後悔していた。
「天野さん、その男から離れてっ、でないと」
 そこで、汚染物質である祐一に近付き、美汐に声を掛ける勇気ある少女がいた。
『おはよう、みんな聞いて。相沢さんにヒーリングの力があるのは聞いてるでしょ? 実は私も不治の病を患っていたの、でも、美坂さん達と同じように、私も助けて貰ったのよ』
「「「ええっ?」」」
 こうしてあちこちで術を使い「三又最低男」と呼ばれていた祐一を、三たび「奇跡の恋」の主役に変えて行った美汐。
 ちょっとやりすぎて祐一の信者を作ってしまい、体の弱い女生徒が、祐一の「お注射」をせがんで来たが、それも術を使って解散させた。

 それから、学生の噂でも聞き付けたのか、病人の家族がいる人達が祐一の居場所を探し出して学校まで来ていた。
 まだ学生以外の人物でも入場できた時代だが、教室のあるフロアまで登ろうとして見咎められ、学校関係者と揉めていた。
「一度お話だけでもさせて下さいっ、うちの子の命も救ってやって下さいっ!」
「うちの生徒にそのような者はおりません、お気持ちは分かりますが、そんな迷信をお信じになられない方が良いと思います」
「そこを曲げてどうかお願いしますっ」
「「「「お願いしますっ」」」」
「せめて連絡先だけでもっ」
「それもお教えできません、どうしてもと言われるなら、学校の外で本人にご相談下さい、その時も本人やご家族に迷惑が掛からないようにお願いします」
「「「「はいっ」」」」
 自分の子供の命が掛かっている時、他人の迷惑など考えている余裕など無い。
 例え深夜でも早朝でも押しかけて、話ができなければ家の前で何日でも待つ者が現れるのが普通で、こうして水瀬家は、新たな混乱に巻き込まれて行った。

 その騒ぎを聞いて、病人の家族の中に歩いて行こうとしたた祐一の肩を掴み、止める人物がいた。
「…待って」
「どうした? 舞」
「…やめておいた方がいい、多分、10人も治せば手足に力が入らなくなって倒れる。 …その後で治らなかった奴は必ずこう言う「嘘つき」「詐欺師」って」
「え?」
 まるで同じ経験があったかのように忠告する舞を見て、疑問符を浮かべる祐一。
「その次も決まってるっ「化け物」「悪魔の子」って言われて、奇跡が起こらなかった奴らの家族に、子供や親の敵みたいに追い回されて訴えられるっ、命が惜しかったらやめてっ」
 いつもよりずっと饒舌で、激しい口調で言う舞に押され足は止まったが、なぜそこまで感情的になるのかわからなかった。
「何で、そんな事言うんだ?」
「…私も昔、同じだったから」
 目をそらしながら、ついに自分の過去を教えた舞。 祐一にだけは同じ思いをさせたく無かったらしい。

 昼休み
 暖かくなった中庭で、祐一を待っていた栞と香理。
「おう、待たせたな」
「祐一さん?」
 春の校庭では、何故か木枯らしが吹き抜けて行った。
「先週、一時間目の休み時間、二年の女の子から告白されたって本当ですか?」
 栞は明らかに、美汐と祐一のやり取りを勘違いしていた。
「え?」
 ガシャッ!
 栞は弁当を詰めた鞄を、その場に力無く落とした。
「人前で体を撫で回して、その子が真っ赤になったり、契るとか、契らないとか妊娠させられたとか、身に覚えがあるかどうか聞かれたり、最後に跪いてお願いされて、家族に会うのをOKしたら、その子が泣き出したって本当ですか!」
 やたら具体的な内容を並べ、祐一を責め立てる栞、きっと女の噂と数人の証言から、会話の内容をできるだけスキャンダラスに捻じ曲げて、奇跡の濃いのヒロイン達に通達したに違いない。
「違うっ」
 ここでようやく、真琴が帰って来たのを早く知らせたくて、ニ年のフロアまで行ったのが間違いだったと気付いた。
 美坂姉妹から逃げるためとは言え、手紙、後から電話など、肉体的接触を避け、会話内容を聞かれないようにして、契るの契らないの、生きるの死ぬの言って泣かせたり、家族に面会するのを応諾したのは非常ょ~~うに問題があった。
 噂では新しいメスを毒牙にかけた三叉最低男が妊娠もさせ、セキニンを取るように言いに来て、家族に挨拶に行くか、ショットガンマリッジでもさせられるのが学校中の話題になってしまった。

「もう一年の女子で、この話を知らない子の方が少ないんですよ、それと告白された相手が祐一さんで、長期病欠していた子とも付き合っていて、中庭でお弁当食べてるのを知らないのは、一人だっていません」
 この世で光より早い物、それは女の噂話… 祐一の頭の中で、下らない例えが渦巻いていた。
「それに、次の休み時間、その子と友達が遊びに来て、一緒に肉まんを食べたって本当ですかっ?」
 情報源は隣にいる姉。
「今でも昼休みに一緒にいる人が、お姉ちゃんの友達だって説明するのが大変なのに、私これからどんな顔して学校へ来たらいいんですか?」
 もうダラダラと涙を流し、体を震わせている栞。
「いやあれは家の真琴と仲のいい子に、真琴が帰って来たって話してただけなんだっ」
「真琴さんって誰ですか?」
 さらに墓穴を掘り下げる祐一。
 ヒュ~~~~~~~
 雪… 雪が降っていた、暖かい春の日差しの中で、少年は雪の結晶を見た。
「いや、昔、家で飼ってた狐だ」
「へえ?確か15,6歳で、スレンダーで栗色の髪の可愛い子でしょ、記憶喪失だったのを祐一が拾って来た。好物は肉まん、それと口癖は「あう~~」だったかしら。
 名雪情報と、直接対面して全てを知っていらっしゃる香理さん。
「そんなっ、嘘って、嘘だって言って下さいっ!」

 更に災厄が降りかかり、従姉妹の少女まで参戦した。
「香理が言ってるのは本当だよ、栞ちゃん」
 そこに、どこから来たのか、思い詰めた表情の名雪まで現れた。
「ねえ、祐一? 真琴とはどうするつもりなの、今日もベッドで裸で寝てたって事は、そう言う事だよね、えへへっ」
 俯いて無理に笑う名雪の瞼からも、涙の筋が伝っていた。
「ゆっ、祐一さんっ!」
 単に後輩に告白されたとか、思わせぶりな会話程度なら、誰かの作り話とも思えたが、同居している姉の親友の話なら確実である。
「あゆちゃんとか先輩二人とはどうなってるの、それに… わたしのお母さんとまで関係があるなんてひどいっ! ひど過ぎるよぉおおっ!!」
 顔面蒼白でその話を聞いている美坂姉妹。
「祐一さん…」
「あなたやっぱり名雪とも… その上、秋子さんとまで」
「私を「抱いた」のも、ただの遊びだったの? 私も香里も、栞ちゃんも、真琴も、あゆちゃんも、お母さんも、後輩も、先輩達も、沢山いる女の一人だったの?」
「イヤァアアアアアアッ!!」
 先にキレたのは栞だった。
 チキチキチキチキッ!
 四次元ポケットから素早くカッターナイフ(業務用特大)を出すと、左手の袖をめくり、刃を全部出して手首に押し当てようとする。
「やめなさいっ!!」
 香理と揉み合って、髪を振り乱して暴れる栞。
「嫌ぁああっ! 死なせてっ! もう死なせて~~~~~!!」
 半狂乱で泣き叫び、何とか手首を切ろうとする栞、だが祐一はそれを止める事ができなかった…
 名雪が包丁を構えて、自分に向かっていたから。
「ゆういち、いつまでも側にいてくれるんでしょう?だったら一緒に死んでよっ!」
「待て、早まるなっ!」
「ゆういちを殺して私も死ぬ~~~っ!!」
 陸上部と通学で鍛えた俊足が、ついに役立つ時が来た。両手で包丁を握って一気に間合いを詰め、逃げる隙すら与えず突き進む。
「待てっ! 名雪っ!」
「うわああああああああ!!」
 祐一君、絶対絶命(笑)
 ザシュウウウッ!!
(終った……)
 名雪が自分に体当たりして倒れる時、全てが終った爽快感が身を包み、不思議と痛みは無かった。
「うわあああっ!ああああ~~~~~!!」
 祐一の上で泣いている名雪。

「嫌ぁああっ!ああああ~~~~~~~!!」
 向こうでは香理に抱かれている、栞の泣き声が聞こえていた。
(栞は大丈夫なのか?)
 しかし、目の前が真っ暗になり、何も見えなくなって行く。
「…祐一」
「?」
「起きろ」
 ポカッ!
 誰かに木刀で殴られ目を開く。
「舞…」
 木刀を持った舞は、柄の無い包丁と、根元から折れたカッターの刃を見せた。
「…問題無い」
 どこかの国連機関の司令官のようなセリフを残し、去って行く舞。
『は~い、撮影終わりです~、ふぇ~、皆さん名演技でしたね~』
 後にはビデオカメラを持った佐祐理が現れ、ギャラリーを解散させていた、きっと舞の活躍をカメラに収め、後で「素晴らしいですわぁ」とか言っているに違いない。
「え? お芝居?」
 全然芝居じゃなくて、マジ殺人用の包丁とか、手首ごと落とせるようなカッターがあったので撮影じゃないが、佐祐理が手持ちのカメラで機転を聞かせて周囲のギャラリーを解散させた。
 
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