魔王卑弥呼
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人魔パラドクス
その空き家は幽霊屋敷と呼ばれていた、1ヶ月前までは何十年とその家に5人の家族が住んでいたのだが丁度1ヶ月前に皆死んだ。
死因は首を絞めての窒息死だった、警察の発表では4人がお互いの首を絞めて同時に死んで残り1人は自分の首を自分で絞めての自殺と言うことだった。
「あり得ないのよそんな事、ふざけてるのよ」
佐々麻美(さっさ まみ)は1人で怒っている。
その家の前をウロウロウロウロしながらブツブツブツブツ愚痴を言っている。
年の頃は20前後、黒のブラウスに黒のパンツ、靴も黒い、センスが良くないかもしれないが素材でカバーする。
顔は目が大きくて鼻は決して高くはなく上を向いている、かなりの美人だ。
麻美は警察が発表した事件で納得が行かない事案があれば独自で調査するのだ、ボランティアと言うよりも趣味か自己満足か正義感か。
麻美は門を飛び越える、軽やかな身のこなしだ。
針金をドアノブに差し込み「カチャカチャ」とする、手慣れているようだ。
「カチッ」
ドアを開け中に入って行った。
中は暗かったのでブレーカーを探す。
「あったあった」
言ってブレーカーを入れる。
玄関の明かりがつく、あらかじめ照明のスイッチが入っていたようだ。
「この家は……普通じゃないわね」
照明を入れたのに目を閉じる、まだ玄関から上には上がっていない。
(見える……違う……警察発表と違うわ……)
麻美はこの家で起こった過去を透視する、眉間にシワを寄せ目を閉じ精神を集中する。
家族5人が1階の階段前で抱き合いながら怯えている姿がうっすらと浮かぶ、そして2階からロングヘアの裸の女が這いずりながら降りてくる。
ハッと我に帰る。
「化け物……妖怪?幽霊?」
アゴに手をやる。
「化け物に首を絞められた?」
靴を脱ぎ上にあがる、奥のキッチンに行く。
「特に何もないわね」
「コトン」
2階で音がした。
「何かがいる……行くか行かないか……」
「ギシッギシッギシッ」
2階へ上がっていく。
(何かがいる……私を待っている)
1つ目のフスマを開ける。
「いない……」
次の部屋へ移動する、廊下の床が「ギシッ、ギシッ」と鳴る。
次の部屋に入る。
「ここ……」
周りを見渡す。
「ふぅ、ふぅ」
緊張で息が切れる。
(気配がする……どこだ)
誰も何もいない。
「ギ、ギ、ギ、ギ、ギ」
音がする。
(どこ?)
麻美は全身から汗が吹き出る。
「ギ、ギ、ギ、ギ」
天井から黒くて長いものが滝のように降りてくる。
「あっ、あっ、あっ」
叫ぶでも呻くでもなく麻美は声を出す、体は蛇ににらまれた蛙のように動けない。
天井から降りてくる物は大量の長い長い髪の毛だった。
「あっ、あっ」
大量の髪の毛が麻美の手足に絡まる、そしてうつむきで大の字に宙吊りにされる。
「ギ、ギ、ギ」
きしむような呻くような声がどこからともなく聞こえている。
やがて髪の毛がゆっくりゆっくりと麻美の首にまとわりついてくる。
(これだ……これで一家が……)
「あっ、あっ」
大の字で宙吊りのまま首を絞められる。
「ギ、ギ、ギ、ギ」
「うっ、うっ」
意識が朦朧としてくる、体から力が抜ける。
「ジョジョー」
麻美は意識を失い失禁した。
「そこまでよ」
いつの間にか織田美樹が、いや魔王卑弥呼が廊下に立っていた。
「ギ、ギ、ギ!」
「人魔パラドクスその子を離しなさい」
「ギ、ギ、ギ、ギ」
「それしか言えないの?」
「ギ、ギ、ギ」
卑弥呼は麻美の首にまとわりつく髪の毛を掴む。
「むんーー」
「パツンッ」
両側から絡み付く片方の髪の毛を腕力で千切った。
「ギ、ギ、ギ」
「むんーー」
もう片方の髪の毛も千切りにかかる。
天井から新たに髪の毛が降りてきて卑弥呼の首に絡み付く。
「うっ、くっ」
卑弥呼が自分の首に絡みついている髪の毛を腕力で千切った。
「パツンッ」
「ギ、ギ」
そして麻美の首を絞めている残りの髪の毛も千切る。
「ギ、ギ、ギ、ギ」
天井から滝のように次から次から髪の毛が降りてくる。
麻美は首こそ絞められていないが大の字で宙吊りのままだ。
「キリがないな」
卑弥呼は天井に向けて大きく口を開ける。
「うぉぉーん」
天井が卑弥呼の超音波により小刻みに揺れる、そしてそれとは別に天井自らの意志で苦しそうに大きくクネクネと揺れる。
天井から大量のホコリが舞い落ちる。
「ギ、ギ、ギ」
髪の毛が麻美を離す。
「ドタッ」
麻美がうつぶせのまま落ちるがピクリとも動かない。
「今日のところは引き返すか」
麻美を抱き上げ廊下に出る、先ほどの部屋から
「ドサッ」という音がする。
麻美を抱きながら階段を降りる。
「うん?」
確かに今階段を降りた、しかしそこは2階だった。
部屋から裸の女、人魔パラドクスが這いずりながら出てくる。
「ギシギシギシ」
麻美を抱えながら階段を降りる。
しかしまたもや2階だ。
全身の間接を奇妙に折りまげ這いずりながら近づくそれが立ち上がる、まるでクライマックスとでも言うように。
「ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、」
(逃げられないか、この子が邪魔だが戦うしかないな)
それは逆さに目を吊り上げてゆっくりゆっくりとこちらに向かってくる。
「ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギィ、ギ、ギ、ギ、ギ、」
卑弥呼が大きく口を開ける。
「うぉぉーん」
「ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギィ、ギィ、ギィーー」
卑弥呼の体が金縛りでもあったように動かない、しかしパラドクスの体も小刻みに震えている。
「うぉぉーん」
「ギ、ギ、ギ、ギ、ギィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
断末魔の声を上げ人魔パラドクスは砕け散った。
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