魔王卑弥呼
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
パラドックス
ユーノスロードスター、一世を風靡した世界に誇る日本の名車である。
古い車だが現在でもたまに見かける。
「淫魔サッキュバス、絶対に許さない!」
麻美が怒り心頭と言った風に話す。
「サッキュバスじゃないわ、もっと厄介な相手よ」
美樹が神妙な面持ちで答える。
赤いユーノスロードスターを運転するのが麻美、隣が美樹。
シフトレバーはドライブに入っている。
麻美はこの車が可愛いと思ったので高校時代にアルバイトでお金を貯めて免許を取った。
勿論マニュアル免許で取るつもりだったのだが3日目で挫折、オートマ免許に切り替えていた。
真っ赤なユーノスロードスターが山道を下る、後から軽自動車が煽っていた。
「プーー」
軽自動車がクラクションを鳴らす。
「なによ、なんなのよ」
「もっとスピード出したらどう?」
「出してるわよ、あの軽絶対に改造してるわ」
「そうなの?」
麻美はフンッと言った感じで
「それにドラテクが半端じゃないわ、コーナースピードが普通じゃないもの」
美樹に言い聞かせる。
「そうかなぁ」
興味なさそうに返事をする。
後ろの家族連れのワゴンRの運転手は苛立っていた。
「勘弁してくれよ、なんでこんなにノロノロ運転なんだよ」
夫らしき若い男が愚痴る。
「ほんとね、カーブのたびに徐行しながら曲がるものね」
妻らしき女がため息を吐くように相槌を打つ。
「うわーん、あーん」
後ろで子供が泣き出した。
「あれ?軽が消えたよ?」
麻美がキョトンとしている。
「横道に行ったんじゃ……」
美樹は言いかけて気付く。
(1本道だったよね)
そしてやがてふたりで食べた山頂に近いそば屋に戻った。
「どういうこと?」
麻美がキョトンとしている。
「後ろの車が消えたんじゃなくて私達が消えたのよ」
車を駐車して2人とも降りる。
「私もう食べられないわよ」
麻美が抗議するのを無視して美樹は考えていた。
(この現象は人魔パラドクスと戦ったあの家と同じ、あの時も2階から1階へ降りたと思ったら知らぬ間に2階へ戻っていた、でも……)
「ねぇ聞いてるの美樹!」
「うん、もうちょっと待ってね」
麻美を制して再び考える。
(あのトラックもそうだ、初めからあのトラックが突っ込むのが決まっていた訳じゃないわ、私達が訪ねてあの人が出て来たからとっさに操ったのよ)
「麻美……」
「なによ」
「覚悟を決めてね」
そば屋からお客が出てくる、老夫婦と思われる2人と息子と思われる中年の男性だ、こちらに気付きやってくる。
「何十年ぶりだろう……もしかして……やっと……やっと帰れるのか……」
高齢の男が震えながらしゃべる。
「どうかしましたか?」
麻美が心配そうに尋ねる。
高齢の男の代わりに中年の男が答える。
「あなた達……どうやって……ここに来たんだい?」
麻美が今起きた出来事を話す。
中年の男が子供のように泣き崩れる、女は下を向きながら呪いのように何やらブツブツと独り言を言っている。
「あんたらに話しておく事がある」
高齢の男が語り始めた。
男の話では家族3人でドライブに来たという、帰りの一本道でまるで自分達を邪魔するするようにノロノロ運転の赤いスポーツカーが前を走っていたという。
「今考えれば……あの車が……悪魔の使いだったのかも……」
美樹はひょっとしてと思ったのでそのまま口に出す。
「ひょっとしてその車ってこの車ですか?」
「ああ、同じ車種だよ」
美樹がさらに質問する。
「さっき私達の後ろを走っていませんでしたか?」
高齢の男は首を振ったあと遠くを見つめながら
「ドライブに来たのはもう40年以上も前だよ」
男は今までの事を2人に語った。
車内でCDの音楽を聴きながら男の話を分析する。
「つまり40年もこの山から出られていないってことでしょ?」
麻美が軽い感じで話す。
「そうなるわね」
「でも……」
麻美から軽い感じが消える、そして自分の鼻を下から指で上に持ち上げ豚鼻にして美樹を見ながら話す。
「ユーノスロードスターは40年前はまだ発売されていないわ!」
「えっ?」
美樹は驚く、そしてすべて分かったような気がした、美樹も指で自分の鼻を下から持ち上げ豚鼻にして麻美を見ながら話し始めた。
「40年前にあの人達の前を走っていたノロノロ運転のどうしようもない車はこの車なのよ」
麻美はやや苛立ったように
「だからまだこの車は発売されてないって言ってるでしょ?」
そば屋の前で老夫婦と息子はしばらく地べたに座っていたがやがて飽きたのか何処かへ立ち去って言った。
「つまりここは歪んだ空間なのよ、時間がずれているというか……」
美樹はどう説明使用かと迷う。
「ええっと、2台の車が消えたのは同時だけどここに現れたのがあの人達と私達で40年ズレた……そんな感じかな……」
軽自動車が先に消えたが40年の月日を考えればほとんど同時だと思った、ただ美樹も自分の説明が合っているかどうかの自身がなかった。
ページ上へ戻る