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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第602話】

 夜、ヒルトと別れた刀奈は自室のベッドに横になり、指で唇をなぞっていた。

 もう何度目になるかわからない口付け――思い出す度に顔が赤くなり、唇の感触が無いことに一抹の寂しさを感じる。

 携帯を開く刀奈――メール画面を開いてヒルトにメールを送ろうとも考えるのだが――。


「あ……今シャワー中かな……?」


 シャワーを浴びるヒルトを想像――九月に見た時は全体的に引き締まっていたのを思い出す。


「……いつかは……抱かれちゃうのかな……」


 何気無く呟いた言葉――ヒルトに抱かれることを想像してしまうと思わず顔を枕で覆う。

 そして、何気無く取り出したプリクラのシール――其処にはヒルトと刀奈が口付けしている今日撮ったばかりのシールを目にする。


「……うふふ、この時のヒルトくん、凄く顔が赤かったなぁ……」


 思い出せばまた唇をなぞる刀奈、記録としても残っているのでより鮮明に思い出してしまう。

 だらしなく表情を緩める刀奈、他の人には見せられない表情だった。


「……そういえば。 ヒルトくんの言ってた皆一緒って願いは……どうしようかしら」


 やっぱりあれだけ頑張ったのだ、可能なら叶えてあげたい。

 だけど皆一緒という曖昧な内容だとふわふわしてイメージが捉えにくいのだ。

 考えた結果、刀奈は開いたメール画面を閉じ、織斑千冬へと連絡を取る。

 何度目かのコール音で電話に出た織斑千冬。


『どうした、更識』

「あっ、はい。 織斑先生、先日の運動会でヒルトくんが言った願いを――」


 電話越しに伝え、織斑千冬のため息を聞くも了承されたことに満足に頷く刀奈。

 電話を切ると意味ありげに笑う刀奈。


「うふふ、明日は驚くわよ、ヒルトくん♪」


 そんなことは露知らず、次の日の朝、何時ものように教室へと向かおうとするヒルトだが校内放送に足を止めた。


『えー、朝早くごめんなさい。 一年生全生徒はこれから多目的室に集まってください、生徒会長更識楯無でしたー』


 一年生全生徒……よくわからないが俺は多目的室に向かった。

 一年の教室からそれほど離れていない位置にある多目的室。

 ここは一学年生徒全員が座れるだけの机と椅子が揃っていて奥行きも広く、見る人によっては大学の教室にも見えなくはなかった。

 ヒルトが入ると一部生徒は既に集まっていた。


「あ、ヒルトくんおはよー」

「おはよー、ヒルトくん! 朝からカッコいいね!」

「あ……ありがとう」


 いきなりの事に面を食らうヒルトだがとりあえず手近な机に荷物を置き、椅子に座るのだが――。


「有坂くん、お菓子どう?」

「あ、ヒルトくん。 ここのお店興味ないかな?」


 等と明らかに態度の違う女子達の行動に疑問を抱いている合間に更に続々と集まり始めた。


「ヒルトくん、時間があったら一緒に勉強しよっ」

「あー! 何抜け駆けしてるのよーっ!」

「良いじゃん! 別にヒルトくん彼女居ないしさ!」


 俺を中心に群がる女子、女子、女子――一体なんなんだと思っていると――。


「よぉ、皆おはよう」


 爽やか笑顔で入ってきた一夏、一瞬静寂になるのだが直ぐにガヤガヤと煩くなる。


「……? まあいっか」


 そんな一夏の呟きも喧騒に消えていく――ほぼ全生徒が集まったその時、手を激しく叩く音が鳴り響いた。


「諸君、静粛に頼む」


 織斑千冬の言葉にサッと静かになる多目的室――続いて山田先生が入室してきた。


「山田先生、説明をお願いします」

「はい。 この度、一年生全生徒を一クラスに集めることになりました。 先日の運動会で有坂くんが叶えたい願いを考慮した結果、生徒会長である更識さんが判断した結果となります。 これから皆さんには此方で授業を受けてもらう形になるのでご了承ください」


 シーンと静まり返る多目的室、軽く咳払いすると織斑先生は続けた。


「これで事実上、クラス対抗戦は出来なくなってしまった訳だが、専用機持ちの訓練は特別メニューを組んでやる、特に織斑、お前には最上級レベルのメニューを用意してやった。 有り難く思え」


 ……かいつまんで説明を理解すると、一年生全生徒は一クラスに、それも場所はこの多目的室。

 んでIS関連授業は専用機は特別メニュー、一夏は更に上の最上級レベルのメニューという事だ。

 訓練は構わないのだが席順はどうなるのだろうと思っていると――。


「因みに席順だが……座った者勝ちだ」


 ニヤリと笑う織斑千冬――その言葉に一斉に騒ぎ出す女子一同。


「チャンスよ! ヒルトくんの隣はアタシがもらったぁぁぁ!!」

「させないよ! 有坂くんは私が――」

「ええいっ! やらせないわ、やらせはしないわ!!」


 騒然とする多目的室もとい一組教室――ヒルトの周りは集まる女子生徒で物凄い事になっていた。


「ちょっと待ったー!! お兄ちゃん困ってんじゃん!」


 多目的――一組に響き渡る美冬の声、腰に手を当て目尻をつり上げていた。


「このままじゃ埒があかないでしょ? ここは公平にアミダくじで決着着けよう!」


 ざわめきが落ち着き、一同頷くと簡易的なアミダくじを作った美冬。

 そして何故か俺は一組真ん中の席へと強制的に移動させられた――こうすれば斜めを入れると最大八人までは隣り合わせという結果らしい。

 騒動を大きくした張本人である織斑先生は一旦退出、山田先生も後に続いた。


「じゃあ皆、名前書いた?」

「美冬、俺は書いてないぜ?」

「織斑くんは余った席に座ればいいよ」

「……ひでぇ」


 一夏にそんな事を言われてもどこ吹く風、そしてアミダくじの結果が反映される。


「わあっ、ヒルトさん、よろしくお願いしますね♪」

「ひーくん~、私が隣だよー」


 右がソフィー・ヴォルナートで左はのほほんさん。


「ヒルトさんの前ですか……いえ、よしとしましょう」

「ひ、ヒルトくん、よろしくね?」


 前がセシリアで後ろは静寐。


「ハァイ、ヒルト♪。 少し離れてるけど。 私とヒルトの日米同盟に支障はないわ」

「ま、まあ一応結果オーライだな」


 左ののほほんさんの前がティナ、のほほんさんの後ろが理央。


「うーん、ねぇソフィー、エミリアと席替わろう?」

「ヒルトと近くだし……僕は良いかな?」


 ソフィーの前がエミリア・スカーレット、その後ろがシャル――とはいえ実際専用機持ちはわりと近くの席だ、それほど困ることはないだろう。

 一部不服そうな子も居るが、アミダくじで決まった以上どうしようもなかった。

 暫くして織斑先生と山田先生が小型の投影ディスプレイを一人一人の机に設置していく。


「諸君、これからの授業はそれを使う、それは最新型の投影ディスプレイだ。 多目的室の大型ディスプレイとリンクしている。 有坂、ディスプレイを起動してみろ」


 言われるがまま投影ディスプレイを起動させると、従来とは違って複数の投影ディスプレイが展開された。

 目線にあるディスプレイが多目的室の大型ディスプレイにリンクしているらしく、山田先生が大型投影ディスプレイに指を滑らせると目線のディスプレイにも文字が描かれた。

 因みに内容は『真ん中の席はどうですか?』とのこと。


「有坂、その目線にあるディスプレイはリンクしていると言っただろ? 其処に文字を書いてみろ」

「了解っす」


 とりあえず返事を書く――『真ん中はちょい目立ちすぎです(>_<)』――顔文字まで反映されてしまった。


「……とまあこの様に使える。 今後IS学園以外でも取り入れられるらしいが……今は我が学園にしかない。 授業ではそのウィンドウに挙手の手のひらマークが現れる。 授業の問題が分かればそれに触れて問題の答えをディスプレイに書き込め、そうすれば授業遅延、教科書を忘れることも無ければ電話帳として捨てるバカもいなくなるだろう」


 ――ちょっとしたSNSみたいな物だろうか、何かよく見たらアバターみたいなキャラも下のディスプレイに映ってるし。

 全員興味を持ったのか一斉にディスプレイが開かれ、早速といわんばかりに触れていた。


「やれやれ……やっと落ち着いたのは良いが……歴代最強にして最大の問題クラスになったな」

「あ、あはははは……」


 苦笑する山田先生にため息を吐く織斑先生――こうして一年生全生徒は一組に合併するという結果になった。

 因みに一夏の席は一番前の真ん中になった。 
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