魔王卑弥呼
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悪魔の力
「すみません、何も覚えてないんです」
警察での取り調べだった。
「2人だけなんだよね、残ってたのは、それに2人とも穴が空いてたって言うけどそんなの何処にも空いてないよ?」
事情聴取をしつこく受けてようやく解放された。
「もう、知らないものは知らないのよ!」
面と向かって言えなかった事を1人になって言う。
「あっ、あの子!」
道路にボールを追いかけて少年が飛び出る、大型トラックが迫る。
「ププー」
「あああっ」
運転手がクラクションをならしながら叫ぶ、ブレーキが間に合わない。
「ギギギッー」
少年を引いてしばらく行ってからようやく止まる。
「プップップーー」
「やっちまった、なんなんだよー」
クラクションを鳴らしながら運転手が叫ぶ。
しかし少年の死体は道路に無かった。
「危ないでしょ?ボールなんかどうでも良いんだから、分かった?」
小学校の低学年と思われる少年に言い聞かす。
「ありがとう」
そう言って少年は元気よく走って行った。
「カチャ」
青ざめた運転手がトラックから降りてきた、少年を引いたと思っているのだ。
美樹は気付いていないが距離的に走っても間に合うはずのない距離だった、しかし現実は悠々とトラックよりも速く少年に追い付き抱きしめて歩道へ上がったのだ。
大勢の野次馬の中、ギロリと赤い目で見る男がいる、黒い中折れの帽子を深くかぶり夏なのに黒い厚手のコートを着ている。
「見つけた見つけた」
「コツコツ」と革靴の音をさせて美樹の後をつける。
狭い迷路のような裏路地を行く、やがて袋小路になる。
美樹はゆっくりと振り返る、目がすわっていた。
「見つけた見つけた」
「それしか言えないのかい?お前は」
少年を助けた現場で男が言った台詞を遠くにいながら美樹は聞いていたのだ。
警察にいたときの美樹とは別人格であった、いや“人格“ではない。
「すぅぅーーーーーうぅーーーーーーーーすすすすすぅぅうーーーーーーうぅーー」
意気を吸い込み男の体が膨らんで行く、風船のように膨らみ帽子が落ちコートが破れる、コートの下は何も着ていない。
男はもはや人間ではない、風船のように大きく膨らんだ体にチョコンと顔が乗っている、手足も大きさが変わっていない。
「小さいぃぃー小さいぃぃー」
その風船はフワッと宙に浮かぶ。
「人魔バルーン、何しに来た?」
「魔王卑弥呼ぉおー、小さくなったぁなぁぁー」
体が膨らみ言葉も膨らむ。
「言うことはそれだけか?なぜ人間界にいる?」
「それはこっちのセリフだぁーあぁー」
「今なら見逃してやるぞ」
「それもこっちのセリフだぁーあぁー」
フワフワと浮かびながら円を描き回っている。
「もう一度言う、なぜ人間界にいる!」
「だああぁまれぇぇえーーうーらーぎりーものーー」
言いながらフワフワと美樹に近づいて来る、いや、今は魔王卑弥呼だ。
ダッとジャンプをして人魔バルーンに跳び蹴りをする。
「プーーン」とバルーンの体にめり込む。
「ポーン」と卑弥呼がはじけ飛んだ。
壁に激突する。
「うっ……」
「よおぉわぁーいぃーよぉおわぁぁぃいーーいいーーいー」
バルーンは満面の笑みだ。
卑弥呼は空手チョップの構えを見せる。
(打撃ではだめだ)
手を戻す。
「しぃいねぇえぇーーええぇええーー」
上空から卑弥呼めがけて落下してくる。
卑弥呼は上を向き大きく口を開ける。
「うぉぉぉーん」
バルーンの体が小刻みに震える。
「むうぅだぁむだむぅだあぁぁーー」
バルーンには聞かない。
上から乗っかられた。
「ううっ」
とてつもなく重い、圧殺されそうだ。
卑弥呼は仰向けになりながらベンチプレスのように腕でバルーンの体を押す、しかし腕がめり込むだけだった。
体全体がバルーンに包まれそのまま圧殺されそうになる。
バルーンの体を噛む、しかしゴムのような体には意味が無かった。
卑弥呼は体をバタバタとさせる、やがて動かなくなる。
「しぃぃんだぁあーーしんんんだあよぉぉおっー」
バルーンが再び宙に浮く、卑弥呼は動かない。
「ふうぅうぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっしゅしゅしゅぽしゅぽしゅしゅしゅしゅしゅーーーーーーーーーーっ」
口から空気を出し続ける、やがてバルーンが萎んで男に戻った。
「ガバッ」と卑弥呼が立ち上がる、そして「ダッ」と男に近づき
「ボガッー」
正拳突きを顔面に食らわす、男の顔がへこむ。
「だ、騙した騙した」
男が抗議をする、しかし構わず。
卑弥呼は空手チョップを男の首に食らわす。
「スパッ」と首がちょん切れる。
「シューーーーーーーーーーーーーー」
首から悪魔の青い血と空気が飛び出る。
やがて男の体が小さく小さくなってナメクジになってしまった。
「クチュ」
靴で踏んでグリグリとした。
残った首に向かって
「小さい小さい」。
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