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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第620話】

 夕方18時前、ホテルのシャワールームから出たレインはスコールに声をかける。


「そうカリカリしなさんな。 どうせ、オータムも直ぐに解放されるだろうさ」


 確証の無い言葉がスコールの苛立ちを募らせる。


「……口の聞き方に気を付けなさい。 レイン」


 鋭い目付きで睨むスコールに、レインはやれやれといった感じに呟く。


「おお、怖い怖い。 なあ。 フォルテ?」


 シャワーを浴び終えてゆっくりしていたフォルテはいきなり話を振られて口をぽかんと開けていた。


「は、はぁ……」


 そんなフォルテに苦笑を溢しつつ、レインは話題を変える。


「オレ等のISも制限解除したことだし、VIPフロアにある武装を見に行こうぜ」

「りょ、了解っス!」


 言うなり着いていくフォルテ、VIPフロアに並べられた数々のIS専用装備が二人を待っていた。


「おお、この銃ってあれだろ? 三八口径サブマシンガン《ジャック・デニム》じゃん。 よく最新のが手に入ったもんだぜ」


 そう言ってサブマシンガンを眺めるレインに、フォルテはそのサブマシンガンをよく見てから言った。


「いや、これ型落ちっスよ? 去年生産されたタイプっスね。 外装パーツが最新の奴とちょっと違うんでわかるっス」


 そんなフォルテの説明に頷きつつもサブマシンガンを気に入ったレインは――。


「成る程成る程。 でもまあ、こいつはオレがいただきだ」

「ええ? じゃあ、私はこっちのをもらうっス」


 そう言ってフォルテが指差したのは四二口径アサルトライフル《アルト・アサルト》だった。

 やや小振りな外見だが対IS弾を一〇〇発装填出来るライフルだった、ISの武器市場ではレベルの高いライフル――だが彼女等は――否、世界は知らなかった、装填弾数を武器に専用パススロットを組み込んで弾数を遥かに向上させた有坂ヒルトが持つ電磁投射小銃の存在を。

 暫く二人は各々が手に取った武装をISに組み込み、スコールも同様に数々の武装のチェックをしている。

 時間は19時前――ホテルの外ではアリーシャ率いるホテル組が居た。

 いくらIS学園の生徒でも流石に無断侵入は出来ず、どう作戦を始めるか悩んでいた所をアリーシャが告げた。


「ちょっと荒っぽくいくサ。 さあ、行くのサ!!」


 いきなりISを展開して飛翔――辺り一帯を封鎖してるとはいえ流石に荒いやり方に困惑したものの、下手に長引かせても不味いと思い、展開して一斉に飛び立った。

 そしてVIPフロア――レイン、フォルテ共に組み込んだ武装を眺めていた。


「……よし、此方はOKだ」

「此方も何時でもいけるっス」


 互いに頷き合い、レインはスコールの方を見る。


「それじゃ早速――」


 言うなり、いきなりサブマシンガンを発砲するレイン――スコールが立っていた一面ガラス張りの窓が割れ、破片が明かりに照らされて夜空に舞い落ちる。


「!?」


 驚いたフォルテ――一瞬二重スパイと思ったが、違っていた。

 窓の向こうに現れたアリーシャが――。


「よく気づいたのサ。 しかぁし、私の目当てはスコールなのサ!」

「出るわよ、『ゴールデン・ドーン』」


 息を吐いた瞬間、スコールはISを展開してその身に纏う。

 既に修復を終えたスコール専用IS『黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)』が姿を現す。

 新たに装着された試作パッケージ《レッド・バーン》、巨大なリングが機体を守るように包んでいた。


「フフッ……早速試させてもらうわ」


 刹那、巨大なリングから全方位に放たれる熱線がホテルのVIPフロアを焼き払い、貫通した熱線は夜空を赤く染め上げ、流れ弾がビルに被弾、燃え上がらせた。


「いきなりなのサね。 こんな狭い場所じゃなく、外でやりあおうサ!」

「あら、嫌よ。 私、オータムを迎えに行くのだから」

「残念ながら行かせないサ!」


 燃え上がるVIPフロア、飾られた調度品も燃え、用意された装備も炎の中に消えていく――そして二機はフロアをぶち破り、反対側へと出て京都の夜景が広がる空で戦いが開始された。

 レインとフォルテも見送ると先にレインがISを展開してホテルを飛び出した。

 だが其処に待っていたのは未来率いる一年生組だった。

 街への被害を出さないようにしていたのに、スコールの全方位攻撃によってホテルフロアは焼き払われ、流れ弾がビルを焼き、今繰り広げられてる空中戦でスコールは京都の街を流れ弾で焼き尽くす。

 アリーシャも何とか被害を出さないようにはしているものの元々全方位に攻撃する熱線に相手はテロリスト――被害を出さないようにといっても無理があった。

 未来は叫ぶ――京都の空で、悲痛な叫びがレイン、フォルテに届く。


「何で――何でテロリストに降るの!! ダリル・ケイシー!! フォルテ・サファイア!! 貴女達がこれからしようとするのは――こういう非道な事なの!?」

「……ッ」


 フォルテは目を伏せた、眼下に広がる燃える古都京都――突然の攻撃に一般人が悲鳴をあげ逃げ惑う姿が其処にあった。

 だがレインは――。


「ハッ! テロリストがいちいちそんな些末事を気にしてらんねぇよ! 数の上では五対二だが、ルーキーに負けるほど柔じゃねぇぜ!」


 テロリスト――世界を裏切るということはこういう事だ、目を背けていたフォルテはその光景を目に焼き付け、レインを守る意思を示すように前へと出てシールドを構えた。


「戦う前に一つ聞いておきたい! 何故裏切った! フォルテ・サファイア!!」


 篠ノ之箒の声が張り上がり、フォルテは真っ直ぐ見て告げる。


「それがわからないようなら、私らには勝てないっスよ。 篠ノ之箒」


 フォルテの低い声がそう告げる――だが、それを美冬は更に大声で張り上げた。


「分かるわけないじゃん!! 結局貴女が選んだ道は、人に導いて貰わなきゃ何も出来ない、何も考えられないバカな考えよ!! 其処に自分の意志が無く、ただただ敷かれたレールの上――それも間違ったレールの上を進む甘い考えだけで来た人間よ!!」

「……ッ! 煩い五月蝿いうるさいっス!!」


 構えたアサルトライフルを発砲したフォルテ――それは決別するには決定的な出来事だった。

 放たれた弾丸は未来の九式・禍乃白矛によって迎撃され、鈴音が叫ぶ。


「世界を裏切る代償ってやつを教えてあげるわよ! フォルテ・サファイア!! ダリル・ケイシー!!」


 戦いの火蓋は切って落とされた、構えた双天牙月と共に鈴音は瞬時加速で肉薄、そしてセシリアはその援護にビットを展開した。


「未来さん、美冬さん、こうなっては仕方ありませんわ。 捕虜にして学園に連れ戻す――そうすれば!!」

「……わかった。 行って! 禍乃白矛ッ!!」


 展開したブルー・ティアーズ及び禍乃白矛による物理包囲攻撃が二機を襲う。

 射撃を封じられてる一年生達は接近戦か或いはこういった物理攻撃しか手がなかった。

 フォルテに斬りに掛かる鈴音、一方ダリルは美冬と箒の二人を相手にしていた。


「チィッ! こいつら……!?」

「はぁぁあああッ!!」

「やらせないから!!」


 二刀一閃――箒の攻撃に合わせて美冬の一閃が決まり、シールド・エネルギーを削られたダリル。


「……ッ! やらせないっス!!」


 シールドで双天牙月の一撃を防ぎ、レインに援護の氷の槍を放ち、美冬と箒を分断させた。


「隙ありよ!!」


 双天牙月の多段攻撃、連結を解いた二刀流の一撃は確実にフォルテにダメージを負わせ、更にはブルー・ティアーズ、禍乃白矛による物理攻撃によって機体にダメージを受けた。

 不味い――レインは悟る、連携が上手い、特に未来と美冬の二人が軸になっている。

 だが逆にいえば片方を、上手くやれば両方封じれば崩せる――レインは直ぐ様チャネル通信を飛ばし、フォルテに告げた。

 迷ってる暇はなかった――選んだ道は茨の道。

 レイン、フォルテ二人は距離を放した一瞬で京都の繁華街に向けて無数の火球、氷塊を飛ばした。


「やめてェェェェッ!!!!」


 美冬は絶叫した――そして、繁華街を守るためにその身を射線軸に投げ出し、まともに火球、氷塊の直撃を受ける。


「キャアアアアアッ!!」

「美冬ちゃ――」

「余所見してる暇があるのかよ!?」

「そうっス……私らはテロリストっス! 勝てるためなら何でも……!!」


 狙いを未来に定めた二人――特大の火と氷の力を均等に相転移したエネルギーの塊が現れる。

 奇しくもそれは有坂ヒルトが行った攻撃がヒントになっていた――無人機襲撃時に行った唯一の三人連携攻撃――。


「「『消滅する炎氷《イレイズ・フレスト》』!!」」

 光球が未来を襲う――前面に展開した九式・禍乃白矛による多段エネルギーシールド、そして左腕のエネルギーシールド――更にシールドバリアー全てで受け止める。

 完全に光球に抑え込まれた未来。

 美冬も墜落は避けたものの熱と氷で熱し冷やされ、分子結合殻の装甲がボロボロになっていた。


「不味いわよ! セシリア!?」

「わかってますわよ! クッ……美冬さん、未来さん……!」

「このままでは……!!」


 数は勝っているのに一気に形勢を逆転された様な雰囲気に陥る三人に未来は叫ぶ。


「諦めちゃダメ!! 絶対――絶対、捕虜にして学園に連れ戻すんだから!!」

「そ、そうだよ! ……連れ帰って……お兄ちゃんの説教、受けさせなきゃ!!」


 半壊の村雲を纏った美冬、誰がどう見ても戦える状況じゃないのがわかる、だが――美冬の瞳は諦めていなかった。

 そして――その瞳がまるでヒルトの様に紅く染まっていく。


「……負けないから、絶対――連れ戻してお兄ちゃんに説教させるんだから!! 呼応して、村雲!!」


 その言葉に呼応するかの様に村雲のコアが輝きを放った、そして粒子を放出させる。

 意思の強さを感じる蒼い光、やがてそれは収束すると半壊した装甲が復元していく。

 否、一度装甲が粒子化すると同時に再構築されていった。

 やがて機体を包むように粒子が蒼いクリスタル状へと変化――一連の現象を目の当たりにした未来が呟く。


「第二形態移行《セカンド・シフト》……」


 その言葉に、レインは目を見開き、持っていたサブマシンガンを発砲――だが不可視の障壁に守られていて傷は付けられなかった。

 機体周囲を包容するクリスタルが四散、まるで花びらの様に散っていく――中から現れたのは機体が再構築された《村雲・月華》の姿だった。


「チィッ……一年のルーキーがセカンド・シフトだと!?」


 姿を現した美冬――ゆっくりと開いたその瞳は紅蓮に染まっていた、そして――レインは火球と合わせて一斉に射撃、それは街すら焼き払う攻撃だった。


「――させないからッ!!」


 村雲の装甲全てが開く、中から現れたのは天・伊邪那岐の様な迎撃システム――無差別に放たれた凶弾全てを撃ち落としていく、エネルギー体である火球ですらも。

 迎撃システム《月華繚乱》――コア・ネットワークを通じて天・伊邪那岐から得た情報が村雲へと渡り、機体を再構築すると共に世代を昇華させた。

 第三世代村雲・月華――世代を越えて、新たに誕生した瞬間だった。


「……絶対、絶対連れ戻すんだから!!」


 そんな美冬の強い意志が、燃え上がる古都京都の空に響いた。 
 

 
後書き
イレイズ・フレストは造語っすね

フレストはフレイムとフロストを掛け合わせただけ

イレイズはそのまんまですな 
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