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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第608話】

 買い出しも終わり、明後日に迫った京都視察――鞄に必要な物を入れた俺、替えの制服も一着用意して入れた。

 買い出しは各々で揃えた――というのもやはり明後日に迫る作戦が緊張感を高めたのだろう。

 一旦俺は部屋を出ると飲み物を買いに行った。


「あ……君か、君も飲み物を買いに?」


 自販機コーナーで出会ったのはエレンだった、いつもは下ろしたロングヘアーをリボンで一纏めにしている。


「ちょっと喉が乾いてな」

「成る程、小まめな水分補給は必要だからな」


 エレンは自分の飲み物を取る――俺も小銭を入れ、お茶を購入、音を立てて取り出し口に落ちてきた。

「君は緊張していないのかい?」

「え?」

「いやなに、私達皆、少し気持ちがピリピリしているようでな。 だが君は自然体だ、それが少し気になったのさ」


 購入した飲み物を一口飲むエレン――その隣に腰掛けると心なしか頬が赤くなった気がした。


「緊張してない訳じゃないが……。 今から緊張しても仕方ないからな」

「そうだな、今緊張して気を張っても当日空回りする事もあるだろう」

「そっか。 ……流石って所だな」

「…………そうだな」


 少し表情に影が落ちたエレン――前のアンネイムド時代を思い出させたのかと思い、咄嗟にエレンの頭を撫でてしまう。


「はわぁっ!? な、ななな!?」

「いや……前の嫌な事を思い出させたのなら悪かったなって思って」


 そんなヒルトの言葉と整った顔を見たエレン――。


『ごめんよ、エリー。 君の暗い過去に触れて……。 僕はなんてバカなんだ、愛する君のそんな暗い表情を見たい訳じゃなかったんだ。 バカな僕を許してほしい……』

『E.E、すまない……可憐な君の表情に陰りを帯びさせてしまった。 ……愛するE.E……こんな俺様を許してほしい。 ……無論、これからベッドの中で君と仲直りをしたいと思ってるんだけど……どうだい? 共に身体を重ねて愛を確かめようじゃないか』


 乙女の暴走再び、現実にヒルトがそう言った訳じゃないのはわかっているのに自身の思考が勝手に変換されてしまう。

 運動会の時にキスをしてからと云うもの、夢の中ではいつもその場面のリプレイが繰り返され、時にはそれ以上――ヒルトに抱かれる夢を見て起きれば朝が凄く大変だ。

 キリッとした表情がずっと緩み、思い出すだけで顔が赤くなる。

 今にも湯気が出そうなぐらい赤くなるエレンに、ヒルトは小さく首を傾げる。


「大丈夫か、エレン?」

「あ、あぁ……す、すまない。 色々と情報処理が追い付かなくてな」


 可能な限り平静を装うエレンは、火照った顔や全身の熱を下げるために飲み物を二口飲んだ。


「……すまない、もう大丈夫だ。 ……その、過去は過去だ、君が私に新しい未来をくれたんだ、だから気にしないでほしい」

「……そっか、ありがとな、エレン」

「あぁ……」


 ドキドキと高鳴る鼓動を抑えるエレン――心地好い沈黙が流れる。


「そ、の……だな」

「?」

「ヒルト……な、何故……運動会の時……キス……したのだ?」

「え?」


 しまった――そう思っても後の祭り、口にした言葉は取り消す事が出来ず、また乙女の思考回路が悪い方へと暴走してしまう。


『フッ……キスはただの挨拶だろ? アメリカ流に俺様がしてやっただけで他意はない』

『キスぐらいで勘違いしてもらったら困るなぁ。 君とのキスなんて、挨拶でしかないんだ、自惚れないでくれないかい?』


 悪い方へと傾く乙女の思考回路――言った事に後悔するエレンだが。


「あ……その……。 ……エレンが凄く可愛かったから。 ……あ、あの時はごめん……急にキスして……迷惑だっただろ?」


 可愛い――その言葉と赤面するヒルトを見て嫌われてないとわかっただけでエレンの思考回路が良い方向へ。


『君がとても可愛くてつい……。 迷惑だった、か……? ……僕は、君とキスが出来て良かった……って思ってる』

『E.E、俺様は好きな女の唇しか奪わねぇ。 つまりだ、俺様はお前が好きでお前の全ては俺様の物だ。 それをこれからそのエロい身体に教え込んでやるから部屋に来いよ。 今夜は俺様にメロメロになるまで寝かせねぇぜ、子猫ちゃん?』


 乙女の思考回路が再度大暴走――エレンの思考を落ち着かせようと脳内SDエレン隊が消火器を持って必至の消化作業に追われていた。


「け、決して迷惑などではないのだ。 ……ただ、びっくりしたのだ。 だ、だから……君が私に何でキスしたのかが気になって……。 そ、そうか……可愛い……か。 …………」


 表情をヒルトに見られないように逸らすエレン――俺は怒らせたのかなと不安に駆られた。

 一方でエレンの表情は緩みきっている、今の表情をヒルトに見られるわけにはいかなかったエレンは――。


「わ、私はそろそろ戻るとしよう」

「え? ……ちょ、ちょっと待――」


 脱兎の如くその場から逃げ出したエレンに、俺はなすすべなくその後ろ姿を見送った。

 残された俺は飲み物を持ってとりあえず戻ろうとする――と。


「あっ、ヒルトくんみっけ♪」

「ん? エミリア?」


 昨日勢いで関係を持ってしまったエミリアが居た、いつもツーサイドアップの髪は今日はポニーテールになっている。


「んふふ~、飲み物買いに来たんだ?」

「まあな」

「ヒルトくん、エミリアに一口ちょうだい?」

「え? ああ、良いぞ?」


 そう言って手渡そうとするのだがエミリアは首を振り――。


「ちーがーうーっ! ……もう、一口って言ったら口移しじゃん」

「え……」


 そう言って昨日同様に唇を突き出したエミリア――そのまま置いていこうとすると――。


「昨日の事、ばらしちゃうよ? ヒルトくんがエミリアを傷物にしたーって言い触らしちゃうよ?」

「え……」


 女尊男卑の昨今、そんな事を言い触らされては村八分――それどころか美冬や未来に何されるかと思うと恐怖した。

 いや、俺がそもそも肉体関係を持たなければ良かったのだが後の祭りだ。

 観念し、飲み物を一口含むと俺はエミリアと唇を重ねて口移しで飲ませる。

 互いの舌が絡み合い、エミリアの口内に一口含んだ飲み物を移すと喉を鳴らせて飲んでいった。

 しばらく舌を絡ませたが足音が聞こえてきたので咄嗟に離すとエミリアは少し頬を膨らませていた。


「あれ? ヒルトさんとエミリアさん? どうしたんですか、自販機コーナーで?」


 今度はソフィーが現れた、邪魔された事で膨れるエミリアだが。


「ううん、何でもないよ? じゃあエミリア、部屋に戻るね♪」


 手をヒラヒラさせてそのまま去るエミリアを、ソフィーは笑顔で見送った。

「ヒルトさんも飲み物買いに来たんですかぁ?」

「ああ、それでここでエミリアと会ってな」

「そうなんですかぁ。 あ、ヒルトさん。 良かったら私が作ったクッキー、食べませんか?」

「クッキー?」

「はい♪ えーっと……これですっ」


 そう言って小さなバックから取り出した小袋――ついでだが今のソフィーの服装は上は袖のない胸元までのブラウスにふわふわのフリルがついた短めの赤いフレアスカート、結構な短さだが彼女自身の脚線美が眩しい。

 運動会の時はブルマ姿だったが、スタイルは良い方だ。

 以前行った身体測定の記録では確か上から84、56、86だった筈――。


「ヒルトさん、食べてみてください♪」

「え? あ、あぁ……」


 笑顔を見せたソフィー――その笑顔は何処か色気があるものの、イヤラシイものではない、無自覚な儚さと色気が混じった感じだった。

 小袋から一枚クッキーを取り出し、食べる――程好い甘味が口内に広がり、サクサク食感の歯応えは癖になりそうだった。


「どうですかぁ、クッキーの味は?」

「めちゃくちゃ美味いな。 これ」

「わあっ♪ ありがとうございます♪」


 胸の前で両手を合わせて笑顔を見せたソフィー、その笑顔にドキッとさせられて頬を指で掻いて誤魔化す。

 地味とか言っていたが――特に地味な要素はない気がする、茶髪のミディアムカットに赤い瞳、笑えば見える八重歯がチャームポイントで更にいえば以前のポーズ合戦、中々に可愛くポーズを取れていた。


「……? ヒルトさん、私を見てどうしたんですか?」

「ん、何でもないさ」

「ふふっ、変なヒルトさん♪」


 クスクスと笑うソフィー――こうして見るとやはり地味な要素は何処にもなかった。


「あ、そうだった。 まだ私、クッキー配らなきゃいけなかったんだぁ」

「そっか、なら俺の事は気にせずに行ってきなよ」

「はい♪ じゃあこれで失礼しますね、ヒルトさん♪」


 ぺこりとお辞儀をし、笑顔で駆けていくソフィー。


「じゃーんぷっ♪」


 ピョンっと跳ぶソフィー――ふわりと小さくスカートが舞う。

 なんていうか、天真爛漫って感じ、美春とは別ベクトルの。

 そんな彼女を見送ると手渡されたクッキーの小袋と飲み物を持って部屋に戻った。

 部屋に戻った俺は机に備え付けられた投影ディスプレイを開く――ちょうど京都で開催されるイベントの告知が行われていた。


『今回開催されるのは、世界各国に配備されているラファール・リヴァイヴのカスタマイズ機の数々です。 なお、このイベントに関してデュノア社社長のアルベール・デュノア氏のコメントが――』


 アルベール・デュノア……?

 シャルの親父の名前だろう、デュノア社の社長とアナウンサーが言っていたのだから。


『――とのコメントが入っています。 高岡さん、世界のラファール・リヴァイヴ展、楽しみですね♪ では次のニュースです。 アイドルとの熱愛報道が取り沙汰されてる――』


 芸能ニュースに切り替わり、俺はチャンネルをかえる――スポーツ番組、クイズ、旅番組と特に代わり映えのない内容だった。

 大したことのないテレビの内容、IS専門チャンネルに切り替えると各会社の新製品の銃や刀剣類の告知コマーシャルが流れている。

 各企業の最新モデル、それを扱う各IS又はEOS――見ても仕方ないと思い、ディスプレイを閉じてクッキーを食べる。


「……もう寝るかな」


 ぐっと腕を伸ばし、小さく欠伸をして俺はベッドに身を預け、そのまま眠りについた。


 場所は変わり三年生寮、ダリル・ケイシーは届いていたメッセージ内容を確認していた。


「暗殺対象は――有坂ヒルト? ……織斑一夏じゃねぇのか? ……まあいい、場所は……京都に着き次第だな」


 メッセージを読み終われば自動的に消去され、端末も小さく爆発して破片を散らせた。


「……炎の家系の呪われた宿命……か」


 自嘲的に笑みを溢し、一人ごちるダリル・ケイシー。

 京都視察に置いて狙撃可能な高い建物の検索に取り掛かるのだった。 
 

 
後書き
最近話題のエレン、エミリア、ソフィーの出番( ´艸`)

次回は京都移動編 
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