IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【第601話】
臨海公園へと戻った俺達三人――其処で待っていたのはイーリスだった。
「よっ、悪いな、加勢できなくて」
開口一番、そう告げるイーリスだが彼女も常駐アメリカ軍を抑えるので大変だったのだろう。
「いえ、大丈夫ですよ。 楯無さん、簪、大丈夫ですか?」
腰を抱えた二人を降ろしたヒルトは、ISを解除する。
いつまでもISを身に付けていれば、常駐アメリカ軍はイーリスが話を着けたかもしれない、だが日本の自衛隊はそういう訳にはいかないからだ。
「私は大丈夫よ、ありがとうヒルトくん」
「同じく、平気……」
ヒルトが抱えて現れた二人の女子をイーリスは訝しげに見た――更識楯無とその妹の簪だ、この二人も空母に潜入していたのだろう、そう結論つけるが、既にその空母は海の藻屑――不法侵入行為を咎めても仕方ないだろう。
「有坂ヒルト」
「え?」
「一応今回はスパイ容疑及び不法侵入行為は見逃してやる。 ……その代わり、さっきの決着はもっと大きい舞台で決着をつけようぜ」
ニッと獰猛な笑みを浮かべたイーリスに、刀奈は――。
「イーリス・コーリング、大きい舞台でって――」
「ハッ! 決まってるだろ更識楯無。 ――来年開催される大会。 【第三回モンド・グロッソ】だ」
モンド・グロッソ――そう言えば以前行われたのが中二の頃だったからその四年後となれば来年開催は確実か。
「有坂ヒルト、何処の国家代表でも構わない。 ――でもな、もし来年開催されるモンド・グロッソに選ばれなかったら容赦なくお前を拉致するからな」
またもや獰猛な笑みを浮かべたイーリス、そう言い残してイーリスはそのまま臨海公園を去っていった。
残された俺達三人――。
「……くしゅっ!」
「……そういや俺と楯無さん、ISスーツだけだったな」
保温機能はあるものの寒いものは寒い――。
「とりあえず、制服着替えましょうか?」
「ですね……。 そういや簪、学園から来たけど大丈夫なのか?」
「……大丈夫じゃない。 帰ったら始末書とパッケージ不動岩山の無断使用による始末書……」
ふらっとする簪に、刀奈は苦笑しつつ。
「あ、あはは……簪ちゃん、ご苦労様」
「……うん。 ヒルト、お姉ちゃん、私は先に戻ってるね……」
覚束ない足取りで臨海公園を後にした簪、残された俺達は脱ぎ捨てた制服へと着替えを終える。
時間はまだ七時――御開きにするにはまだ早いと感じたヒルトは。
「刀奈、良かったら何か食べにいかないか??」
「え? ……ヒルトくん、いいの?」
「良いも何も、まだデートは終わってないでしょ? それに冷えた身体、暖めないといけないですからね」
冷えた身体を暖める――そのヒルトの言葉にドキッとする刀奈。
もしかするともしかしなくても、今日このままヒルトくんと――そんな妄想をしてるとはヒルトも露知らず、首を傾げる。
「じゃあ行きましょうか」
自然と手を取るヒルト、繋がれた手を見ながらドキドキする刀奈。
そっとヒルトの横顔を見る――端正な顔立ち、青みがかった白銀の髪はショートレイヤーに整えられていて、赤い瞳に掛かりそうな前髪。
着てる服が制服だけど、私服なら何が似合うだろうか――様々な事を考えていると。
「刀奈、ここです」
「ここって……」
ヒルトに連れられてやって来たのは鍋料理専門店だった。
「鍋料理ですね。 冷えた身体には鍋が一番。 ここは〆にご飯入れて雑炊、またはうどんの玉を入れて鍋焼きうどんにすると美味しいんですよ」
「そ、そうなの?」
「ええ、でも刀奈が他の場所が良いなら――」
「うふふ、キミはお姉さんがお嬢様だからって鍋は食べないと思ってるのかしら?」
悪戯っぽく笑う刀奈、普段の彼女の笑顔にヒルトは笑うと――。
「ハハッ、刀奈だったら高級なお店かもしれないけど生憎と俺はそんな店知らないですからね。 じゃあ入りましょう」
「う、うん」
本当は鍋料理専門店は初めての刀奈、だけど年上という事もあってちょっとだけ強がって見せたのだ。
店内へ入り、二人組のカップルだとわかると店員は奥の個室に二人を案内した。
障子を閉めれば完全な個室――僅かに暗めの店内だが刀奈は雰囲気は悪くないと思っていた。
ヒルトが店員へ注文――と。
「刀奈はどうする?」
「え? ……え、えっと、ヒルトくんと同じもので」
「じゃあすき焼き二人前で」
「畏まりました、それでは失礼します」
障子を閉める店員――賑わいを見せる店内だが個室の方まではあまり聞こえてこない。
落ち着かなさそうにキョロキョロと見る刀奈にヒルトは――。
「もう少し待てば来ますよ」
「え? え、ええ。 …………」
「……?」
それでも落ち着かなさそうにする刀奈、軽く首を傾げていると店員がすき焼き二人前を運んできた。
女性なら鴨鍋がベストだが――刀奈が望んだのだから多分大丈夫だろう。
二人前の鍋がコンロの上に鎮座し、コンロに火を入れればグツグツと煮だつ。
小皿を取り分け、てきぱきと割りばしも用意すると刀奈は――。
「あ、ありがとう、ヒルトくん」
「いえいえ、じゃあ食べましょうか? 身体は暖まりますよ?」
そう言ってヒルトは鍋から菜箸で野菜や肉を小皿に取り分ける。
その一連の動きを刀奈は注視して見ていた――。
「いただきまーす」
早速食べていくヒルト――刀奈も見よう見まねで小皿に取り分けると食べ始めた。
食べる一つ一つの仕草が刀奈がお嬢様なんだなと改めて思うヒルト。
慣れない手つきで装う刀奈が不意に可愛く見え、ヒルトは笑顔を溢すと。
「ど、どうしたのヒルトくん?」
「あ、いや……ふふっ、何だか今の刀奈って、慣れない事を背伸びしてやる子供に見えて」
「……ふんだっ。 どうせ慣れてませんわよーっ」
小さく舌をベーっと出した刀奈、そんな仕草も普段の彼女とは違う一面でヒルトは楽しそうに笑う。
刀奈も無意識下で緊張していたが、ヒルトとのやり取りで素の笑顔を見せた。
こんなに気を張らずに食事をしたのはいつ以来だろう――この楽しい時間がずっと続けば良いのにと願った刀奈。
鍋も食べ終わり、身体が暖まった二人、〆の雑炊も食べて満足していた。
「刀奈、このあとまだ少し時間大丈夫?」
「え? も、勿論よ。 次は何処に行くのかしら?」
「ん~、秘密」
「もう、意地悪ね」
小さく頬を膨らませた刀奈――ヒルトが精算を終え、二人で店を出ると――。
「ひ、ヒルトくん……奢ってもらっちゃったけど……良かったの?」
「ん? 刀奈が気にする事ないですよ。 デートの延長ですから、俺が出すのも当たり前だし」
「……ふふっ、でも次にデートするときはお姉さんが払うからね」
小さくウインクする刀奈、流石にヒルトも割り勘以外で払わせる気はない――それに刀奈には普段迷惑掛けてるのだからこれぐらいはとも思う。
手を繋ぎ、歩く二人――所々に見える二時間休憩三千円のネオンの看板。
いつしかホテル街を歩いていて刀奈も口数が少なくなり、顔を赤くした。
もしかするともしかしなくても――そんな自体になると知っていたらもっとヒルトくん好みの下着を……そう思っていたのだがヒルトはそのままホテル街を抜けた。
淡い期待が砕け散る音が聞こえた刀奈――静かに心で涙を流していた。
暫く歩くとIS学園と本土を繋ぐ懸垂式レール高架下へとたどり着いた二人。
「あ……うわああぁぁっ♪」
感嘆の声をあげる刀奈、ライトアップされた懸垂式レールと学園島を一望出来る隠れスポット、満天の夜空との組み合わせは風景画として売りに出されていたら迷わず買うだろうと刀奈は思った。
「ハハッ、綺麗でしょ?」
「うん! ……うふふ、ヒルトくんってば、良く知ってたわね?」
「以前其処の遊覧船に乗った時に見えたんですよ。 もしかしたら夜、ここから眺める景色って綺麗じゃないかなって」
「あら? ……うふふ、もしかして、ここを案内したのはお姉さんが初めてかな?」
「当たりですよ」
ヒルトのそんな笑顔と言葉に嬉しくなる刀奈、暫く景色を堪能するとくるりとヒルトの方へ身体を向けた。
「ヒルトくん、今日一日ありがとう。 お姉さんに付き合って空母にも潜入してくれたし」
「はは……親父が居たり亡国機業居たりで大変でしたけど――そういえば、目的は達成しました?」
「え? うん、今回のでちょっと線が繋がった感じかな」
「なら良かったです。 刀奈を一人で行かせたら、今頃どうなってたか」
「もう! 私は学園最強の――」
「生徒会長でしょ? ……でも刀奈は一人だと詰が甘くなるからな」
「むぅ……」
当たっているだけに反論出来ない刀奈は上目遣いでヒルトを睨むのが精一杯だった。
そんな刀奈の頬に触れたヒルト――いきなりの行為に刀奈は全身の熱が上がる思いだった。
むに――頬を引っ張られる――間抜けな声が漏れ出た刀奈。
「な、なな――」
「膨れるよりも笑顔の方が良いですよ」
むにむにとヒルトに弄ばれる刀奈の頬、複雑な表情で抗議の眼差しを送るのだが――ふと、頬を弄るのを止めたヒルト。
波と風の音、近くを走る車のクラクション以外喧騒は聞こえず、二人っきりだという事実に改めて気付かされ、胸がドキドキと高鳴る。
「ヒルト、くん……」
「何です?」
「……今日は、おねえさんいっぱい頑張ったから……ご褒美がほしいなぁ」
甘える声――好きだからこそ甘えたかった、ヒルトが居なかったらアメリカ特殊部隊の慰みものになっていたかもしれなかった。
一昨日、本当に頑張ったのはヒルトだ――専用機持ちとの連戦は幾らなんでも無謀だと思った。
だけど――ヒルトは勝ち取った――そんなヒルトからご褒美欲しいなんて言うのは我が儘かもしれない、だけど……目の前のヒルトは――。
「何が……欲しいんです?」
こうして甘えさせてくれる――身をヒルトに預け、上顎を上げて真っ直ぐ見つめる。
それだけでヒルトは理解した――顔が赤くなり、ゆっくりと近づく唇。
二人の唇が重なった時、刀奈は時間が止まれば良いのにと再度願った。
何度も啄む様なキス――どちらからともなく舌を絡ませ、刀奈もヒルトの舌を咥わえて吸い、歯列をなぞるように舌を入れ、絡ませた。
外だというのに濃厚な口付けに刀奈は酔いしれる――離れた唇の端を繋ぐ唾液の糸が刀奈を更に紅潮させた。
「……えへへ、ヒルトくん。 ありがとう、このご褒美……嬉しかった」
「う、うん……」
ヒルトの胸板に顔を埋めた刀奈――今だけは更識の名も学園最強も全てを捨ててヒルトに甘えた。
五分後、刀奈は顔をあげるとニコッといつもの笑顔を見せて言った。
「ヒルトくん、帰りましょうか」
「ん……そうですね」
どちらからともなく手を繋ぎ、二人は一路学園へと戻る駅へと向かった。
「うふふ」
「どうしたんですか?」
「ううん、何でもないわよ?」
ヒルトの隣に居た刀奈はそう言い、そのまま腕に抱き着いて終始笑顔でモノレールを待つのだった。
後書き
刀奈デート編終わり
ラーメン編はあれ原作だし、そもそもヒルトは屋台ラーメン屋のおっさん知らんし
てか客のいない屋台ラーメン屋って
俺の地元の屋台ラーメン屋はいつも人だかりでいっぱい何だが……まあユミィ・ズールィ・ズールの屋台イメージがそうなんだろうと解釈
ページ上へ戻る