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KANON 終わらない悪夢

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93マコピーと美汐のお婆さんの家

 やがて、次の日曜になり、真琴を連れて美汐の祖母に会いに来た祐一。妖狐と夫婦にまでなった人なら、何かを知っているように思えた。
「おお、よう来たね、さ、上がって上がって」
「うんっ、相沢さんも真琴も上がって」
 学校では見せた事が無いような表情で、素直に話している美汐、お婆ちゃん子らしい。
「あう~~」
 しかし、まだ人見知りして、入り口で遠慮している真琴。
「いいから来い、お前にも縁のある人だ」
「……うん」
「まあ、お茶でも入れようかね、よっこらせ」
「あっ、私がするから、お婆ちゃん座ってて」
 不自由な体を重そうに持ち上げる祖母を見て、すぐに動く美汐。
「そうかね、お茶菓子は納戸にあるから」
「うんっ」
 そして囲炉裏や掘りごたつまである居間に通され、古木から切り出した年輪の見える机の前に案内された二人。
(日本家屋だ…)
「何っアレ、漫画みたいっ」
「いちいちうるさい奴だな、あそこで料理もできるように灰が敷いてあるんだ」
「賑やかな娘さんじゃのう、その子がそうかえ?」
「はい、7年前、怪我している所を見つけて、親類の家に連れて帰ったんですけど、怪我が治った後は飼えなくて丘に返しに行ったんです。そうしたら今年の1月、恨みがましく化けて出て来まして」
「何ようっ、それじゃあまるで幽霊じゃないのよっ」
 そんな二人を微笑ましく見ていたお婆さんだったが、次第に別の事にも気付く。
(美汐から聞いたが、お前様も、わしらの同族かえ?)
(ええ、そうらしいです、それも両親とも丘から降りて来たそうで…)
『何とっ、それにその声…、外見は少々変わっておるが、まさかっ?』
「は?」
『美汐っ、来てみいっ、はようっ』
「どうしたの? おばあちゃん」
『この子を見て気付かなんだかっ? 声も、匂いもっ…… そうか、あの頃は心の声は聞こえんかったの、見かけは少々違うが、この子は7年前、お前と一緒になった妖狐の子じゃっ』
「えっ?」
 始めは疑い深げに見ていた美汐だったが、次第に雰囲気が怪しくなって来る。
『ほれ、もっと心を澄ましてよう見てみいっ』

 その後、美汐が取った行動とは……
 ガシャーンッ!
 臭い芝居でもするように、持っていたお盆と湯飲みを力無く落とす。
「ゆうくん……」
「は?」
 その瞳には、次第に大粒の涙が盛り上がって来て、視線は祐一にロックオンしたまま、信じられないと言いたげに口を押さえ、首を左右に振る。
「ゆ~~~く~~~~~んっ!!」
 祐一にはその動きが分解写真のように見えていたが、普通人なら、ほぼ瞬間移動にしか見えないスピードでダッシュして来た美汐。
 ドサァッ!
 美汐は足元も見ないで、熱いお茶や陶器の破片も気にせず、一直線に祐一の胸に飛び込んだ。
「会いたかったっ、ずっと会いたかったのっ! うわあああ~~~っ!!」
 もちろん、祖母、真琴などのギャラリーは、完全にアウトオブ眼中で泣き叫ぶ美汐。
(ゆう君って何だ? もしかして俺の事か?)
 あゆタックルどころか、舞の攻撃に匹敵するぶちかましを受けても、平然としている祐一。
「何してんのよ美汐っ、祐一はアタシのなんだからねっ、ちょっとぉ」
「うあああっ! あああ~~~~~っ!!」
 同じ7年でも、捨てられたと思って恨んで過ごした7年と、生木を裂くように引き裂かれ、相手が死んだと思い、どんどん思い出が純化されて来た7年では、天と地ほどの開きがあった。
『良かった、良かったのう美汐』
 年を取って涙もろくなっただけでなく、可愛い孫が喜ぶ姿を見て貰い泣きするお婆さん。

(中略)

 ちょっと頬を膨らませて怒る美汐。最初は「栞との約束が先で、婚姻届では香里が先」などと言い訳しようとしたが、現時点での先約と結婚歴のタイトルホルダーは美汐だった。
「すまんっ、多分、別の俺だから、記憶は無いみたいだ、それにあの頃の事は殆ど覚えてなくて」
「うん、いいよっ、昔みたいに何でも教えてあげるっ」
 ほんの20分前とは完全に別人になって、優しく微笑んでいる美汐。 もう「みーちゃんの恥ずかしい所」でも何でも教えてくれちゃうらしい。
「あう~~~~~~」
 その間、真琴がほったらかしになっていたのは、言うまでも無い。

 その日は、美汐のお婆さんの家で泊まる事になった二人。美坂姉妹の襲撃から逃げられたのは助かったが、もちろん夕食は美汐の手料理で、その上。
「はい、ゆうくん、あ~~ん」
「いや、自分で食べられるから」
 祐一は箸も持たせて貰えず、全部美汐に食べさせて貰っていた。さすがに飲み物の口移しは辞退したが。
「ひどい、ゆうくんっ、昔はずっとこうだったじゃない、私にも口移しで飲ませて」
「ゆ~う~い~ち~~!」
 今まで、美汐の余りの取り乱しようと、感動の再会を邪魔しないよう我慢していた真琴だが、「口移し」の言葉を聞いてキレたらしい。
 キューーン
 そこでまた美汐が指を一振りすると、純血の妖狐であるはずの真琴の動きが止まった。
『そのまま大人しく、ご飯を食べていて、真琴。眠くなったら寝てもいいのよ』
「うん……」
「それも何かの術なのか?」
「うん、普通はこれで動物を操るんだけど、この前みたいに人間の心も変えられるの。真琴はまだ幼いから掛かっちゃうのね」
「俺には?」
「ううん、ゆうくんには効かないの、私が「恋の魔法」にかかっちゃったから(ポッ)」
「…………」
 もう完全にヤバイ領域に入っている美汐の目付き。香里のように「策略と民衆の声」以外の武力を持たないのと違い、美汐は人知を超えた「何か」を持っていた。
「はい、あ~~ん」
「あ~ん」
 
 食後、美汐の人形と化した真琴は、皿洗いから風呂の支度まで命じられ、テキパキと仕事をこなしていた。
「嘘だ、あの真琴が皿も割らないで、片付けするなんて、それに薪で風呂を沸かすなんて知ってるはずが無い」
「今、真琴は私の分身なの、だからこうして「しつけて」行けば、普段も炊事や洗濯もできるようになるわ」
「ほう」
 無職、無能力で体だけの真琴が、人並みの生活を送れるようになるまで、美汐に預けて訓練して貰おうと本気で考える祐一。しかしその報酬が、「ゆうくんも一緒に暮らしてね」なのは考えないでも分かった。
「祐一、美汐、お風呂沸いたよ…」
 操られて、虚ろな目をした真琴に呼ばれた二人。
「じゃあ、一緒に入りましょうね、ゆうくん」
 もちろん、その時の美汐の表情は、香里と同じく、断れるような生易しい物では無かった。あえて言えば、7年の情念が上乗せされた分、さらに恐ろしい物と化し、妖狐だけに狐火や、怪しいオーラが背後に見えていた。 そこで祐一が言えたのは一言。
「はい…」
 今回は、それ以外の選択肢は無かった。

 37話後半と同じなので割愛。


、翌朝、目覚ましが鳴ると、祐一の上に乗っていた柔らかい物が動き出し、アラームをすぐに止めた。
「ゆうくん、おはよう」
 柔らかい物は、目を擦りながら祐一の上に覆い被さり、昨日の出来事が夢では無かった事を確かめるように、おはようのキスをした。
「お、おはよう」
 この時点で、寝起きの良さ、健康状態、炊事、洗濯、家事、知識、礼儀作法、忠誠度などの全てで、秋子ちゃんを除く他の女を圧倒している美汐。
 幸せと喜び以外にも、また祐一を失う怖れから、小刻みに身を震わせる。その不安を打ち消すように、祐一の両手は美汐を抱きしめ、背中と頭を撫でて行く。
(美汐の背中ってサラサラしてるな)
 昨夜は余り堪能できなかった少女の体に触れ、「つい」他の女と比べてしまった祐一。
「あっ、ゆうくん、私の背中、毛深いって思ったでしょっ」
「いや、そうじゃなくて」
 残念ながら、祐一の上に乗っている少女には、読心術どころか、そのまま心の声が伝わってしまう特殊技能があったため、浮気どころか、浮気心も持てなかった。
「それにチラっと「香里さんの方がウェストが細くて、お尻も小さかった」とか、「足も細くて長かった」とか、「フェロモン系で髪の毛から凄く良い香りがした」とか思ったでしょっ」
「お、思ってないぞ」
 あの香里でさえ、祐一と繋がりができた途端、声が聞こえたので、元から縁のあった美汐には、祐一の深い部分まで読み取る事ができた。
「そっ、それに「真琴の足首の細さって私の手首ぐらいで、私のふくらはぎより、真琴の太ももの方が細い」って思ったでしょっ、悔しい~~っ!」
「うぐぅっ」
 昨日まで死んだような目をしていた少女は、今は祐一の首に手を回してグイグイ締め上げるような、元気はつらつ?な少女に変身していた。
「これっ、何をしとるかっ!」
 嫉妬に狂い、丘から降りてきた狐様の首を締めている孫の気配を感じ、部屋に飛び込んで来たお婆さん。
「あ、お婆ちゃん」
「あ、でねぇっ! お種が頂けただけでも有難いと言うに、秋子様や真琴様にまで嫉妬するとは、ええかげんにせいっ」
「ごめんなさい」
 お婆さんから見ると、あの真琴でさえ「様」が付くらしいが、美汐が謝っているのはお婆さんに対してだけで、「ゆうくん」には謝っていなかった。
「はあっ、はあっ」
 まだ常人に近い祐一は、お婆さんのお陰で窮地から脱し、呼吸を再開できた。現時点では、力を発揮した美汐や舞、特に秋子ちゃんには「ベッドの中」では適わず、能力値では真琴や名雪と大差無かった。
「あう~~~」
 起きてきた真琴は、当然ほったらかしにされていた。

「申し訳ありませぬ、昨晩は粗相が無かったようで安心しておりましたが、お種を頂戴した途端、女房面をしよりまして。きつく言い聞かせておきますよって、ふつつか者ですが、今後とも宜しくお願い申し上げます」
「は、はい」
 裸で一つの布団の中で抱き合って?いるのを見られても、怒られもせず、また頭を下げられてしまった祐一。もちろん避妊などした覚えは無い。
「息子も美汐も、残念ながら、わしに似てしまいましてのぉ、あの人に似ておれば、真琴様のような獣の如き綺麗な体になっておった物を、申し訳ありませぬ」
「いえ、そんな」
 起き上がって挨拶しようにも、「美汐式、ゆうくん脱衣法」で浴衣も下着も全部脱がされていて、さらに朝なので、別の場所はしっかり起き上がって、上に乗っている「みーちゃん」の下腹部と擦れ合ってさらに巨大化し布団から出られない祐一。
 ちなみに昨夜の出来事は、お婆さんの遠見の術で一部始終を観察されていて、余りにも拙い美汐の腰使いに、「もっと腰を入れんかっ」とか、「こうっ、こね回すように腰を回してっ」など、思わず教育的指導に出て行く所だったらしい。
「あの美坂の家の娘達も、魔性の血を継いでいるだけあって、見た目は美しゅうございますが、中身は狐ならぬ狸と見ましたが、如何ですかな?」
「た、確かに」
「美汐、祐一様は美坂の娘達に追われて困っておられる、これからはお前がちゃんとお守りするようにな」
「うん、お婆ちゃん」
 そう言う狐社会の裏事情まで詳しいなら、もう少し早く救いの手を差し伸べて欲しかった祐一。
 多分、秋子ちゃんから指示があって「面白いですから成り行きに任せて下さいね」な方針だったらしい。
「でも、あいつらは怖いぞ、腕力… は互角でも、香里の方は裏工作と芝居だけで、テレビに出演する程の奴だ。それに二人とも「余命何ヶ月」とか、死ぬ寸前まで行ったから、もう怖い物無しだ」
「うん、でもこの前も、香里さんには私の術、効いたでしょ?」
「ああ」
『じゃあ、今度はもっと凄い術かけてあげる。一生消えないぐらい強いの、うふふっ』
「…………」
 祐一クンには、あの姉妹より強力な妖怪が取り憑いてしまった。それも秋子ちゃん絡みの、妖狐の力を使える魔物が。

 その後、朝の支度をしている間に、「香里が来るので学校を休めない」のと「見付かればここが襲撃される」のを説明すると、祖母の指示もあって、早急に美坂姉妹を支配して、祐一を救うと決意して、美汐も登校の準備をした。
 
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