IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第628話】
朝八時過ぎ、IS学園への帰路に着くために京都駅に居るヒルト達。
織斑千冬と有坂夫妻を待つ一同、二日前の事件で観光客や修学旅行の学生などはあまり見られない。
だがそれでも変わらない光景――それは。
「キャーッ! 織斑くーん!」
「さ、サインお願いします!」
「あ! 僕はツーショット写真を!」
――等と大人気な一夏、白騎士暴走事件の張本人だがメディアが流したニュースはあくまでも亡国機業が用意した模造品という事。
下手に一夏が暴走とかでニュースになっても今居る専用機持ち全員に迷惑が掛かるのだが。
騒動が少し大きくなり、駅員が動員され急遽開かれた織斑一夏サイン会を他所にヒルト達は千冬達を待っていた。
「……何て言うか、アタシ頭が痛くなってきたわ……」
鈴音がこめかみを押さえてそう言う、原因は爽やかにサインに応じてる一夏だろう。
「鈴さん。 あまりお気にしても仕方ありませんわよ?」
「わかってるわよ。 ……でもさぁ、幾ら偏向報道のお陰っていっても……何か馬鹿らしくなってくるわよ、一夏よりもヒルトの方が頑張ってるじゃん」
鈴音の声色が少し陰りを見せた、だがヒルトは――。
「ん? 別に鈴音、俺は何も気にしてないぞ?」
「な、何で気にしてないのよ。 ちゃんと報道されたら、少なくともアンタが評価されるのよ!?」
「……別にいいよ、あんな風に囲まれるの嫌いだし。 そもそもサインとか覚えても仕方ないし」
シャイニィもといにゃん次郎と戯れていたヒルトはチラッと一夏を見る。
サインに応じ、笑顔で握手を交わしている一夏、女性は頬を染めて喜びを身体一杯に表現していた。
「そもそもさ、俺があんな風に囲まれるの見て嬉しいって人間この中に居るか?」
ヒルトの問いに一斉に首を振った一同。
「お姉さんとしても、君があんな風に囲まれるのは見たいと思わないわね」
「うん……。 ヒルトくんは、そのままがいぃ……」
更識姉妹二人がそう言うと――。
「僕もそうだね。 君は君だもん。 個人的にはあんまりちやほやされてるのは見たくないかなぁ」
「ふむ……嫁が正当に評価されないのは癪にさわるが、だからといってあんな風になられても困るしな」
シャル、ラウラとそう続く一方で時間が迫ってきている事に真耶は焦り始める。
「お、織斑先生まだでしょうか……」
「事件後ってのもあるから巡回してるかもしれないですよ、山田先生」
「!! そ、そうですね、あ、あは、あはは……」
ヒルトの顔を見た瞬間、ボシュッと顔が真っ赤になる。
理由は言わずも、露天風呂での行為だろう。
顔を赤くしたり青くしたりする真耶を不思議そうに見ている女子たち、そして入り口方面から具合悪そうな織斑千冬と有坂陽人、有坂真理亜、そして笹川成樹が現れた。
「よぉ、すげぇ人だかりだな。 お陰で直ぐにわかったぜ、わははは」
「…………く……」
流石に二日酔いらしく千冬は頭を押さえていた、足取りは大丈夫だが明らかに体調が悪そうだった。
「あらぁ……織斑先生、完全に二日酔いですねぇ?」
「……飲み過ぎた。 すみません……有坂先生」
「いえいえ……」
一瞬ヒルトを見た千冬、昨日の記憶は全部夢での出来事と思っているのだがそれでもやはりヒルトとセックスしたという妙に生々しい夢内容だったため僅かに頬に赤みが差した。
一方で成樹、人だかりを見て唖然としていた。
「あの人だかり……全部織斑くんのファンってやつなのかな?」
「……そうだよ成樹君」
「驚いた? 私は別の意味で驚いたけどね、京都があんなことになっても織斑くんにはどこ吹く風って感じ。 お兄ちゃんの爪の垢でも煎じて飲まなきゃダメなぐらいかな」
未来、美冬と言葉を続ける一方で箒が成樹を見ていた。
「……? 篠ノ之さん、僕に何か……?」
「あ……いや、すまない。 笹川がISを使ったってニュースでは見たがあの時は私達は直接見たわけではないのでな」
「あ、あはははは。 君達が居た場所とは違う場所で活動していたからね? ビルに消火剤を撒いて鎮火してたかな、その時は」
「ふぅん、そうだったんだ。 見た目はヒョロそうなのにやるじゃん、笹川!」
鈴音も感心したように頷く――ある程度疎らになってきたサイン会、千冬が強制的にそれを終わらせるとヒルト達は東京行きの新幹線に乗り込んだ。
発車する新幹線の窓から京都の街並みを見るヒルト――一部が焼け焦げたビル、欠けた一角が無惨に晒されたビルが視界に映る。
たらればを言えば言うだけ後悔する――だけど、もしヒルト達が亡国機業に仕掛けなければ京都が燃える事はなかったのではとつい思ってしまう。
そんなヒルトを見た美春は不意討ちとばかりにヒルトの頬を指でつついた。
「ヒルト、顔が暗くなってるよ! とりあえず、買った駅弁、どれが良い?」
そう言って差し出した駅弁、気付けばワゴン販売のカートが来ていた。
「……幕の内でいいかな」
「うん。 じゃあヒルトは幕の内弁当ね!」
美春はテーブルの上に幕の内弁当を置いていくとまだ買うのかワゴン販売で様々な御摘まみを物色していた。
その向こう――空いた二つの席はダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアの席だ。
二人の裏切り――無論ギリシャ本国にもすぐ知らされるが、やはりISが搭乗者ごと寝返った事実は隠しておきたいらしく、特に大きな話題にはなっていなかった。
だが――やはり二人の裏切りに各人ショックは隠せないようだ、表情には出さないがテロリストに寝返った事実は大きい。
もちろん全員交遊があったわけではない、だけど専用機持ちの先輩として聞きたいこと等あったのも事実だろう。
既に名古屋に入っていた新幹線、一同早めの昼食を摂り始める中でヒルトは未だに幕の内弁当に手をつけていなかった。
そんなヒルトの様子に心配になる女子一同、ヒルトの両親である有坂陽人、有坂真理亜も後ろの席から心配そうに覗き込んでいた。
「……いや、皆して何で見てくるんだ?」
「だって……お兄ちゃんお弁当食べないんだもん……」
「そうだよ? ヒルトが食べないのを気にしてないのって織斑くんぐらいだし」
言われて一夏を見たヒルト。
「ん~、この駅弁美味いなぁ。 家で何とか作れないかなぁ」
等と呑気に弁当の品評しながら食べている、というかいつも通り過ぎてもう白騎士暴走事件も忘却の彼方だろう。
一夏はいつもの日常を取り戻している、だがそんな日常を奪われた人達が居るのも事実。
だがあまり皆を心配させても悪いので、ヒルトは幕の内弁当を食べ始めたのだった。
一方、場所は日本海、海上を移動するのは篠ノ之束の移動型研究施設。
浮力を得て進む異形の乗り物に、物珍しさからか一羽の鸚鵡が羽休めしていた。
「オーレタチャカーイゾーク! ターノシーイカーイゾーク♪」
気分よく歌う鸚鵡を他所に内部では――。
「束様、紅茶が入りました」
クロエ・クロニクルが束のカップに紅茶を注ぐ、その注ぐ音を聞いて束は飛び上がった。
「やったあ、くーちゃんのお紅茶だぁ! お茶漬けは金平糖がいいなー」
「はい。 仰せのままに」
金平糖を受け皿に広げたクロエ、そんなクロエを見ながら紅茶を一口飲むと。
「ん~、紅茶はいいねえ。 落ち着くなあ。 そういえばさ、すこーりゅんが持ってきた生チョコ八つ橋があったような?」
「束様、あれには毒物反応がありましたので此方の方で処分しました」
「そっかあ、残念♪」
残念という割には嬉しそうな束に、クロエも小さく笑みを溢した。
「嬉しそうですね、束様」
「ん~、嬉しいのかなぁ? でも、白式という失敗作が悉く私の予想を裏切っていくのには困惑しつつも嬉しいのかもにゃん♪」
そう言ってディスプレイを開く束、白騎士化した白式のデータと第二形態であるドレッシィ・ホワイトナイトのデータが映し出されていた。
「でも……ちーちゃんが暮桜を使わなかったのは残念にゃ……。 ……そういや、京都上空で他にも戦ってたけどくーちゃんデータあるかにゃ?」
「えぇ、一部空域は強力なジャミング波で撮れませんでしたが……上空で束様の開発した機体を破壊したのは……」
そう言って映し出されたディスプレイにはイルミナーティ総帥であるウィステリア・ミストが映し出されていた、シャルトルーズはウィステリアの機体でその姿が隠されている。
「……やっぱうぃっちーが妨害したのにゃ~。 くーちゃん、うぃっちーのデータあるかにゃ?」
「それが……束様。 彼の生い立ちや何故ISが扱えるのかという情報は全く無いのです」
「……どういう事かな、くーちゃん?」
「登録されていないのです。 世界各地、何処のデータバンクにもありませんでした」
「……ふぅん。 ……まあでもあの銀髪に《ロストチルドレン計画》を知っていたって事は多分関係者の筈――月の落とし子《ローレライ》……。 そういやさ、あのイレギュラーも銀髪だったのにゃ」
新たに映し出されたのは有坂ヒルトだった、白騎士と戦った時の映像だった。
「ん~。 こいつも銀髪、うぃっちーも銀髪……。 ……まあいっか」
深く考えても仕方ないと思ったのかディスプレイの映像を消した束、ふとクロエは疑問に思った事を聞く。
「話は変わりますが束様。 どうしてISをお作りになられたのですか?」
紅茶を一口のみ、静かに口を開いた束。
「……女の子を羽ばたかせたかったんだよ」
力なき弱者に力を与え、翼のない人に飛ばせる力を、言葉なき者には、力強く話せる言葉を――だが実際の話、束はそこまで考えてはいなかった。
「束様、次はどうしますか?」
「ん~。 今回の騒動、妨害にあったからにゃ~。 本来なら混沌渦巻く世界にしてからだったけど、前倒しで次のステージに進めないとねぇ」
紅茶を飲み干し、束は笑顔になり――。
「次はアメリカ、もらっちゃうよ♪ でも……先にやっぱ、ロストイレギュラーの排除と、いっくんの抹殺かにゃ~♪」
屈託なく笑う篠ノ之束、静かにクロエは頷いた。
学園へと戻った一同、だが有坂夫妻と笹川成樹の姿はなかった。
正式に転入するにしてもまだ暫くは時間が掛かるという事でこれからの学園生活に必要な物を用意するため、一旦自宅に戻った。
有坂夫妻は学園関係者としての付き添いだ、三人目の男の操縦者――各機関が何らかの行動を起こす可能性も否定できなかった。
それはさておき、IS学園の正門ゲートで待っていた布仏本音が大きく手を振って出迎えた。
「ひーくん~~~~~~、おかえりんりん元気百倍ぱんまん~♪ そして皆もおかえりんりん♪ りんりんもおかえりんりん~~~~♪」
ヒルトを先に出迎えるのは彼女ならではの好意の表れだろう、りんりんと呼ばれた鈴音は――。
「だーかーらーっ! りんりんって言うなー!!」
「わー、ひーくん助けてー♪」
追い掛け回された本音、咄嗟にヒルトを盾にして逃れる。
「はは……ただいま、のほほんさん。 鈴音もほら、気にするなって」
「う~~!」
上目遣いで睨む鈴音にヒルトは頬を掻いていると姉である布仏虚が現れた。
「お疲れ様、有坂君。 ニュース、見たわ。 大変だったわね……」
「はは……俺なんかよりも皆を労ってください、俺は大した事はしてないんで」
「そうかしら?」
虚はヒルトの後ろに居た女子を見ると一様に首を振る。
クスッと微笑む虚、だが直ぐに表情を戻すと楯無に――。
「会長、来週の修学旅行ですが此方の方で行程スケジュールの変更を済ませておきました」
「えぇ、ありがとう。 直ぐにチェックするわ」
楯無がそういうと未来が――。
「え? 修学旅行って中止にならないんですか?」
「えぇ。 事件があったとはいえ修学旅行は学業の一つでもあり、生徒が楽しみにしてるイベントの一つでもあるからね」
ウインクする楯無――そして虚が告げる。
「一応これも報告します。 バナナはおやつに含まれませんので悪しからず♪」
表情を崩し、茶目っ気たっぷりにそう言った虚に心の中で皆がバナナはおやつネタを突っ込んだ。
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