魔王卑弥呼
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使い魔ハムスター
そば屋に入ると客が3人と店主がいた。
「さっき来たときはおじさんだったよね」
麻美が店主を見た後美樹に振り向きながら話す。
初めに来たときは50前後の店主だったのだが今は若い男だ。
「何しろ40年だからね」
美樹がつぶやく。
若い店主が近付いてきてお茶を2人に出す。
2人ともお腹が空いていなかったので2人で1杯のかけそばを注文する。
店の窓際ではケージに入れられたハムスターがいた、回し車に乗り一生懸命走っている、走っても走っても前には進まない。
麻美は指さしながら
「可愛い-、でもさっきはいなかったよね」
「何しろ40年だからね」
同じセリフをつぶやく。
ドアに近いカウンターにはハリウッドスターのような白人の男性が、奥のカウンターには黒人の大男が座っている。
奥のテーブルにはスラッとした女優のような女が座る。
「この人達もこの山から出られないのかな?」
麻美が当然のような疑問を美樹に投げかける。
「40年かどうかは分からないけどそうじゃないかな、少なくともさっきの私達を見た3人の驚きようからしてこの人達はこの山の常連よ」
言い終えてお茶を飲む。
「この店の材料の調達とかどうしてるんだろうね40年も」
質問をして麻美も負けじとお茶を飲む。
「この山には工場とか色々あるからこの店の規模なら何とかなるのかもね、と言うことは他にも結構な人達がこの山から出られないのかもね」
「お待ちどおさま」
店主がかけそばを持ってくる。
「ありがとう」
2人同時に礼を言う。
分けて食べられるように小さな器を2つ用意してくれていたが2人はそのまま分けずに1杯のかけそばに一緒に箸を突っ込んで食べる。
「ズルズルズルー」
2人は熱いかけそばを競うように食べていた。
「ふぅー疲れた」
美樹の後方で誰かのこえがする、男のような女のような子供のような声だ。
美樹の左斜め前の白人男性ではない、後方の黒人か女か店主だ、恐らく店主だろう。
「もううんざりだ」
また声がする。
「美樹、あ……あれ」
麻美が美樹の後方を指差していた。
「えっ?なになに?」
美樹は気になっていたので助けに船とばかりに後ろを振り向く。
特になにも変わったことがないと思われた。
(あ、あれ?)
変わった事がひとつあった、ハムスターがケージから出ていたのだ。
「ハムスターが逃げてるわ」
美樹が麻美に話しかける。
「いえ……それが……それがね」
麻美はかけそばの汁を少し飲む。
「なによ、焦らさないでよ」
苛立ち気味に美樹が麻美に詰め寄る。
「40年も待たせやがって」
美樹が今度こそ逃がさないとばかりに後ろを向く。
「ほんと、久しぶりだな」
美樹の視線の先にはハムスターがこちらを向きながらしゃべる姿があった。
そいつが窓際から飛び降りて床を走り出す、そして2人のテーブルに乗って来た。
「よっと」
格好をつけたいのかかけそばの汁が残っている器の淵にチョコンと乗る、体がフラフラとしていて今にも落ちそうだ。
「押すなよ絶対に押すなよ」
そう言われると押してみたくなるのが人情だ。
麻美はハムスターの背中を押してやった。
「ポチャン」
「ぎゃー熱い熱い殺す気か!」
ハムスターが器から飛び出る。
「大袈裟ねぇ、もう熱くないよ?」
麻美が呆れたように話しかける。
「訴えてやる!」
ハムスターは怒り心頭なようだ。
「あなた使い魔よね?話してくれる色々と」
使い魔ハムスターの話では2人を殺すためにユーノスロードスターごとこの世界に引き釣りこんだとの事だった、その時に後ろの軽自動車も巻き込んだ。
どうでも良い軽自動車の家族はすぐに来たが肝心の2人が待てど暮らせど来ない、2人が来るまで40年も持ったというのだ。
「店の人も巻き込んだの?」
美樹が聞く。
「違う違う、あいつらに命令されたんだ、俺は店番だ、あんたらの姿を見たら知らせるように言われてただけだ」
美樹はアゴに手を当て考える。
(えっと……つまり3人家族がそば屋に居た時はこの人達はいなかったってことよね、店主とハムスターだけが40年待ってたってことかな?)
他にも色々と聞きたい矛盾点などがあったが白人の男に遮られた。
「ペラペラと使い魔の分際で」
白人の男だ。
「ひねり潰すぞ」
黒人だ。
「遊んであげる」
女だ。
次は店主だろうと思い美樹と麻美が店主を見る、しかし店主は困ったような顔をするだけだった。
「麻美、店から出るわよ」
「お金払わないと」
美樹と麻美はお金を払わずに店を出る、ハムスターも着いてくる。
2人と1匹に続き客の3人も出てくる。
「魔王卑弥呼、いくらお前でも四天王3人を相手に勝ち目はないぞ!」
白人が残酷な笑みを浮かべて話す。
「四天王!!」
美樹が驚き叫ぶ。
(そうか……なるほど……山の空間を変えるような強力な魔力も四天王3人が協力すればあり得る……しかし」
これほどの魔力であれば必ず気付くはずだ、しかし現実はハムスターに教えてもらうまで魔力を感じなかったのだ。
「ふふふ、なぜ魔力を感じなかったのか不思議そうね」
女が楽しそうに説明を始める。
「教えて上げる、私が魔力の気配を消し去り、後の2人が空間を作り広げたのよ」
「悪魔の仕業と知られずに隙を見つけて葬り去る計画だったけどハムスターが裏切るとは思わなかったわ、もう魔力の気配を消す必要がないわね、私は帰るわ」
そう言って走り出し崖から飛び降りた、死ぬ気ではない、恐らく元の空間へ戻ったのだろう。
「勝手な真似をしやがって!」
白人が怒っている。
(1人減って助かったわ)
美樹は内心喜んだ。
「2人で充分だ、なんなら俺一人でも良いんだぞ?」
黒人が自身タップリに白人を見下しながら話す。
「そうか、分かった」
白人はそう答えて崖の方へ歩き出す、この男は計画に想定外が生じて成功確率が減るのを極端に嫌うのだ。
「おいおい冗談を真に受けるなよ」
黒人が叫ぶが遅かった、白人は崖から飛び降りていた。
麻美が嬉しそうに美樹に話しかける。
「なんか不戦勝って感じじゃない?」
「そんな感じね」
美樹が黒人を睨みながら答える。
「僕も加わるよ!」
店から店主が出てきた、果たしてどちらに加わるのか。
「タッタッタッ」と美樹達の方へと走って来た。
「僕も加えて下さい」
「よぉ仲良くな」
ハムスターが店主に話しかけている。
自身に満ちあふれていた黒人だが崖を意識するようになっていた、そして空間が歪んで来る。
黒人が崖に向かって走り出し、そして崖から飛び降りた。
「ブーン」
ユーノスロードスターのエンジン音がする、軽快に山道を下る。
運転席には佐々麻美
助手席には織田美樹
そして佐々麻美の肩には使い魔ハムスター。
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