IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第619話】
ヒルト達全員一同が旅館で合流し、大部屋に集まっていた。
部屋の中心にはオータム、猿轡が外され、口汚く罵り声をあげる――だがそれよりも専用機持ち大半が気になるのがヒルトにちょっかいを出しているアリーシャの存在だろう。
「誰よ、この女ぁ!?」
我慢できず、鈴音は叫んだ――と、一夏がぽかんとしながら。
「え? は?」
等とわからない様子でオータムに指差し「オータム、だろ?」と答えるが美冬が「織斑くん、黙ってて」と冷たくあしらう。
「ひでぇ……」
そんな一夏を他所に指を指されたオータムは――。
「様をつけろよ、デコ野郎!」
捕虜にされてるという立場を理解できずに言うものだから有坂陽人がオータムの前に屈み、ニコニコ笑いながら平手打ちした。
部屋中に響き渡る乾いた音、激しく揺らされた頭部――陽人は笑顔で言った。
「煩いよ、お前」
普段気さくな有坂陽人が異様な怒りを露にしていた、こんな姿、美冬は見たこともないしセシリアやシャル、鈴音にラウラも驚きを隠せなかった。
一方で有坂真理亜は自身の身を抱く様にしてオータムを見ないようにしていた――と。
「確か……オータムって言ったな、お前?」
「……ッ。 だったら何だよ、ァアッ!?」
「お前、八月の頭辺り、何をしていた?」
「……あ? けっ、つまんねぇ事聞いてんじゃねぇよタコ助!!」
オータムの言葉に笑顔のままだった陽人だがまた大広間に乾いた音が響いた。
「もう一度訊く。 八月の頭辺り、何処で何をしていた?」
「……チッ。 八月の頭っていやぁちょうどアメリカに居たなぁ。 上からの命令で、そこのクソガキの母親、【有坂真理亜】の暗殺、その為に地元マフィアやギャングに金を渡してたが――結局、暗殺じゃなく襲撃に変わって肝心の女が殺せなかったんだがな」
オータムの言葉を静かに訊く親父――八月の襲撃にオータムが関わっているのは俺も以前この女から訊いた。
唇を噛み締める美冬、美春も冷めた目付きで見下ろしていた一方でナギ。
『このオバサン何だか凄くムカつくのですよぉ(*`θ´*) 嫌悪なのですよぉ!凸(`皿´#)』
以前アラクネのコアだった残留意識が残っているのだろう……。
「クククッ……あの時は暗殺できなかったが、周りのボディーガードが死ぬときの断末魔は覚えてるぜ? 『ま、ママァ……し、死にたくないよ、ママ……。 ま、まま……ま……』ってバカみたいな声でさぁ! アヒャヒャヒャヒャッ!!」
思い出し笑いをするオータム――室内に居た大半の人間が嫌悪感を示し、当時の事を思い出し真理亜は静かに涙した。
「……つまり、お前がその八月の襲撃の首謀者だな?」
「けっ、そう言ってるだろ? お前も脳ミソお花畑かよ?」
「……かもな、それよりも……。 オータムとやら、俺の顔に見覚えはねぇか?」
「あ? …………?」
陽人にそう言われ、まじまじとオータムは陽人の顔を見た。
そして気付く――。
「…………まさか、てめえ有坂陽人!?」
「ご明察、ようやっと対面できたな……オータムさん?」
一気に顔面蒼白になるオータム、今まで気付いてすらいなかったのかと思うとこいつは本当に馬鹿なんだなと改めて哀れむ。
「まあ俺の事は良いさ。 ――だがな、俺には許せないことが何個かあるんだよ、オータムとやら」
努めて穏やかに、笑顔で話す陽人だがピリピリと室内全体を支配する殺気に、千冬、アリーシャ、真耶、楯無、ラウラ、エレンは言い様のしれない恐怖を感じていた。
「一つは――俺の家族を傷付ける奴だな。 ……そういやお前、前に学園の文化祭に侵入して暴れたんだっけ?」
「あ、あ……あぁ……」
オータムも敏感に感じ始める、当てられた殺気で声が掠れ、まともに返事が出来なかった。
「んで、何でもうちの息子をIS使ってぼこぼこにしたんだっけ? 違ったか? まあそれが一つ。 んで……俺が許せないことの一番の内容――それはな」
堪えず笑顔だった陽人の表情が一変、悪鬼羅刹の如く表情が変わり、言葉にもし殺傷能力があればオータムは死んでいたかもしれない――それほど冷徹な声で告げた。
「真理亜を泣かせる奴だ。 誰であろうと、俺が愛する真理亜を泣かせる様な奴には容赦しねぇんだ。 ……今は捕虜だが、必要な情報が引き出せない場合、これから俺達の話を少しでも邪魔すれば……わかってるな?」
「…………」
殺気は消え、悪鬼羅刹の様な表情も一瞬だった陽人――オータムから離れると、真理亜の側に寄り添っていた。
オータムは自身さっきの事はまるで白昼夢の様に感じていた――そして、今まで黙っていたアリーシャが場の空気を変えるためかヒルトにくっつきながら態とらしく一年生を見やる。
「い、いきなりヒルトにくっついて――な、何なのよ、あの女ぁ!」
再度吼える鈴音、空気が戻った事にアリーシャは小さく唇の端を吊り上げる。
「何って、何だかこの子、いい匂いがするのサ シャイニィも何だかお気に入りなのサ」
「にゃぅにゃぅ」
ヒルトの頭を猫パンチしているシャイニィは鳴き声を上げた――と、空気が戻った事に安堵しつつ、千冬はアリーシャをたしなめる。
「おい、態とらしい真似はやめろ」
「ふふん、久しぶりサね。 ブリュンヒルデ。 良いじゃないサ、華の二十代、若い男子をからかいたいものなのサ♪」
言いながら離れるアリーシャ、シャイニィだけはヒルトの肩に乗り、猫パンチを続けていた――理由は云わずも、にゃん次郎と呼ばれたことだろう。
そんなにゃん次郎の猫パンチを防ぎつつ、頭に乗せるとにゃん次郎は落ちないように必死にヒルトの頭にしがみついていた。
そんな猫の一挙一様に胸がキュンキュンする女の子達、ヒルトに言い様に遊ばれてるその仕草が非常に可愛かった。
「ほれほれ」
「にゃっ、にゃぅにゃぅっ」
空いた手でシャイニィと戯れるその姿に、自分も――そう思っていた矢先、千冬が咳払いした。
「こほん! 有坂も場を乱すな。 今は離反したダリル及びフォルテに注意を割かないといけないときだろう」
その言葉に場はまた緊張感に包まれた、ヒルト、アリーシャの報告で此方側から二人の離反者が出たことは痛かった――否、ダリルは仕方ないとしてもまさかギリシャ代表候補であるフォルテまで離反するとは流石に千冬も読めなかった。
そんな中、アリーシャは――。
「あー、一応自己紹介から入ってもいいのサ?」
「……好きにしろ」
許可を取り付けるとアリーシャは自己紹介を始めた。
「私の名はアリーシャ。 『嵐(テンペスタ)』のアーリィと言えば、一応知ってくれているのサ?」
名前を聞き、一様に第二回モンド・グロッソの覇者を思い出させない訳がない、だが――当時の風貌とは明らかに違っていて欧州組は気付くのが遅れてしまった。
「貴女が『テンペスタ』の……あの、失礼ですがその腕と目は……?」
聞きづらそうな事をセシリアが代表して尋ねると、アリーシャは何でもない様に答えた。
「ああ、これは『テンペスタⅡ』の起動実験でチョイとやらかしてね。 生憎不在なのサ」
あまりに重い内容を何でもなく話すアリーシャだったが、聞いたセシリアを含めて押し黙り、またも沈黙が大広間を支配した。
「チッ! いい加減オータム様を解放しや――ぐえっ!?」
オータムの身体がくの字に折れる、みぞおちにめり込む陽人の蹴りの一撃は重く、オータムは痛みに喘ぐ。
千冬は何事もなかったように話を進める。
「さて、此方の戦力はマイナス二。 だが向こうもマイナス一。 プラス面ではアーリィが加わり此方は一だが向こうにも此方から抜けた分のマイナスがプラスに転じたのを忘れるな、自衛隊の協力はあれど、油断すれば言い様に翻弄されるからな」
千冬の言葉に一様に気合いを入れた一年、だがアリーシャだけはキセルをぷらぷらさせて弄んでいた。
そんな時だった、大広間の障子が開いたのは。
「失礼します。 遅れて申し訳ない。 原田晶一尉以下二名、ただいま出頭致しました」
そう言って入って来たのは先程オータムを無力化させた人達だった。
事情を知らない一年は誰だろうと噂する中、千冬に促され入る原田晶と部下の二人。
「ご苦労、それで原田一尉、潜伏先は絞られただろうか?」
「ハッ! 斥候からの情報によると潜伏先はこの二点に絞られました。 一点は京都有数の市内のホテル。 そしてもう一点は京都市外にある貨物倉庫です。 市内のホテルですが、此方は偽名で一般客を装い、宿泊していて物資は貨物倉庫――鉄道を利用したものだと思います」
「へ? 何で鉄道なんだ? 空港の倉庫の方が――」
そんな一夏の問いに答えたのは楯無だった。
「京都から一番近い伊丹空港でも離れているのよ、鉄道の貨物倉庫ならここからも離れてないし、架空の企業名で物資運搬させたのでしょう」
確かに空論でならと思うが近くが伊丹空港だ、離れすぎている。
まだ貨物倉庫の方が利便性が高いのも頷けた。
「では、我々は部隊を二つに分ける。 アーリィ率いる部隊はホテルで幹部クラスの確保、一般客に危害を加えないように気をつけていただきたい。 メンバーだが有坂美冬、飯山未来、篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコット、以上がホテル組だ。 周辺封鎖は自衛隊のEOS部隊が行う」
その言葉に一同頷く――そして原田晶一尉も直ぐ様EOS部隊の現場移動を通信機で伝えて命じた。
「残りのメンバーだが、有坂ヒルト、有坂美春、エレン・エメラルド、織斑一夏、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ、更識簪で貨物倉庫への潜入だ。 そして原田一尉率いる自衛隊IS部隊は輸送ヘリにて状況に応じて各潜入組の援護と不足の事態による対処をお願いしたい。 本来であれば子供達に潜入等させたくないのだが、表立って自衛隊が潜入するわけにはいかないのでな、留意してもらいたい」
その言葉に頷く一同――最後は。
「更識楯無、山田先生、有坂先生、有坂陽人及び私はここ本部にて待機、何かあったときの増援及びこいつの奪還が予想される」
そう言ってオータムに指差す千冬、だが有坂陽人の一撃に未だに苦しく喘いでいた。
「作戦開始時刻はホテル組及び倉庫組共々一九〇〇だ、では解散!」
その言葉が合図となり、まだ時間がある生徒は今のうちに食事を済ませることにした。
同時刻、スコール・ミューゼルは連絡を取っていた。
『やっぱー、すこーりゅん、どったの~?』
電話相手は篠ノ之束だった、戦力が足りないスコールは篠ノ之束に頼るしかなかった。
事の経緯を話すスコール……暫く沈黙した後、束は――。
『了解なのだよすこーりゅん。 ……って言っても、あんまり期待はダメなのさ、すこーりゅん♪』
「……感謝します、篠ノ之博士」
『別に感謝しなくていいよん~。 んじゃね~♪』
あっさりと了承した篠ノ之束に驚きつつも、打算的に考え始めたスコール。
上手くすれば篠ノ之束が出した増援のISも手に入るかもしれない――だが先ずはオータムの救出が先決だった。
京都某所――電話を切った篠ノ之束は呟く。
「私が何かしなくてもさぁ。 うぃっちー達が何かしそうだと思わない、くーちゃん?」
「束様……。 私には解りかねます……」
「あははっ☆ そうだよねぇ☆ 先の事がわかったら皆苦労はしないのさっ☆」
そんな二人のやり取りから場所は変わり、あるホテルの一室に集められたイルミナーティ幹部面々。
「さて、予定通りならば亡国機業の居るホテルへの強襲が19時に行われ、同時刻に倉庫への潜入が行われるだろう。 其処でカーマイン、シルバー両名はスコール・ミューゼルのオータム奪還をサポート。 だが気取られないようにするのが先決だ。 カーマインには有坂陽人の相手もしてもらう、いいな?」
「あぎゃぎゃ、俺様に任せな」
「…………」
スコールの援護に不服そうなシルバー、シャルトルーズも何故援護するのか不思議そうにウィステリアを見ていた。
「スレート、君にお願いするのは街への被害があったときの一般人の救助及び必要であれば緊急車両の手配、後は可能な限りメディアの排除をお願いしたい」
「えぇ、任せてくださいウィステリア様」
掛けていた眼鏡をクロスで拭くスレート――そして。
「私とシャルトルーズは上空で待機しよう。 どうも篠ノ之束の動きが気になる、その対処を我々が行う」
その言葉に頷く一同、シャルトルーズも同様に頷いた。
「さて、後は……ラファール・リヴァイヴ展か。 フフッ」
ウィステリア・ミストが用意した漆黒のラファール・リヴァイヴにはISコアが備わっている。
無論誰かが触れれば起動が出来る状態だ――それが吉と出るか凶と出るかはウィステリアにもわからない。
だが、廻り始めた運命の歯車は止まらない。
そう、ウィステリアはこの結果が必ず世界の行く末に繋がる一石だと信じて投じた――。
「事件があったからやってるかわからなかったけど。 ……どうやらやってる様だね、ラファール・リヴァイヴ展」
イベント会場に訪れた笹川成樹、さっき速報で流れた銃撃爆破事件だが場所がイベント会場から離れていたのが幸いしたのかもしれない。
会場に入ると其処には様々なラファール・リヴァイヴが並べられていて、その様々なカスタマイズされた機体が来場者を待っていた。
その中でも一際目立つのがイベント会場中央に鎮座した漆黒のラファール・リヴァイヴ――流線形の装甲はまるでスポーツカーの様に洗練されていた。
だがこの機体――成樹は初めてみた、展示されてるラファール・リヴァイヴは各国のカスタマイズやキャノンボール仕様等必ず雑誌に取り上げられた事があるのにこの機体だけは見たことがなかった。
触れる事はかなわないが、何故か心引かれる成樹――。
「……他のも見てみよう」
そう呟き、成樹は他のラファール・リヴァイヴを見に行くのだった、残された漆黒のラファール・リヴァイヴは静かに鎮座し、新たな搭乗者を待つ――。
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