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GS美神他小ネタ18菌

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ラブかゆ

 
前書き
当時、読んだだけで体がカユくなるようなラブラブなのを書け、とお題が出て書いたものときおくしています。 

 

 どうしてこうなちゃったんだろう……
「いいんですね?」
 今、私の上には、精悍な彼が、いえ、精悍にならざるを得なかった彼が、バスローブだけ羽織った私を、優しい瞳で見つめてる。
「私がいいっって言ってるんだから、これでいいのよっ!」
 私、こんなになってもまだ強がり言ってる。本当は彼に抱き締められたいのに、耳元で甘い言葉を囁いて欲しいのに、口から出るのは、こんな憎まれ口ばかり。
「昔から、ずっと好きでした」
 そう、彼は昔から、ずっと私だけを見ていたはずだった。あの時、少しだけ私の元を離れて、まるで別人のようになって帰って来たあの時までは。
「そんなの、言わなくてもバレバレなのっ、あんたは私以外の女じゃダメなのよっ」
 強がっていても、だんだん言葉が弱くなって行く。そして私自信も弱くなっていた、いくら霊力が上がっても、何マイト強くなっても、彼の前ではどんどん弱くなって行ってた。
 ふわさっ
「いい香りだ。俺、この髪の香りで人生変わっちまったんですね」
 彼が覆い被さって、風呂上りの私の髪の香りを肺一杯に吸い込む。初めて出会った時の事を思い出しながら。そう、その調子よ、あなたは私だけのモノ、余計な事は思い出さなくていいのよ。
「そうね、でも私も変えられちゃったんだから、ちゃんとセキニン取りなさいよっ(ポッ)」
 私のバカ、声まで震わせて赤くなって、まだ何もしていない彼にこんな言い方して。いつから私はこんな交渉下手になったの? ダメッ! このままじゃバレちゃうっ、私の方が彼を好きで好きで仕方ないって事が。
「いいですよ、元からそのつもりでしたし」
 視線をそらし、顔を背けていた私の髪を優しく撫で、ゆっくりと顔を近付けて来る。
「あっ!」
 何て目で見るの? そんな目で見られたら、どんな女でも…… でもそこで私も気付いてしまった。彼が私を通り越し、遠い彼方にいる誰かを見ている事を。
 チュッ
 まるで小鳥のような唇と唇が触れ合うだけのキス、彼と私の初めてのキス、たったそれだけで私の瞼から暖かい雫が伝って落ちた。何がそんなに悲しいの? 彼が私を見ていないから? それとも。
「そんなに優しい顔で笑ってくれるなんて、初めてですよ」
 私が笑ってる? そう、私の体は喜んでいる、これから彼に抱かれ、彼の物になり、彼を独占できる事を。
「バカねっ、あんたのキスが下手すぎて笑ってるのよっ」
 私じゃない私が、勝手に強がって喋ってくれる、もう彼にはバレてるって言うのに。でもそうしてくれなかったら、私は泣きながら彼にしがみ付いて、全部告白してしまったに違いない。
「大好きですよ。こんな時は、関東じゃあ「愛してる」ですか?」
 もう言葉なんてどっちでも良かった、はにかんだ彼は私を見て言ってくれた。その時、体の中を暖かい感情が駆け巡り、バカな私は本当に泣き始めてしまった。
「うっ、バカッ、ううっ、ひっく」
 まだ何も始まってないのに、何も終わってないのに、私の涙は止まらなかった。今まで塗り固めていた別の私を溶かすように、今まで着込んでいた心の鎧を脱がせるように。
「泣かないで下さいよ、まるで俺が意地悪したみたいじゃないですか」
 そう、彼は意地悪だった、私をこんなにも弱くしておいて、他の女にまで優しくするなんて、もう許さない、絶対許さないんだから。
「そうよっ、あ、あんたが、ヒック、泣かせたんでしょ、グスッ、もう一生許さないんだからぁっ」
 ほんの少しだけ正直になった私は、彼にしがみ付いて泣いている、もう少し、後少し正直になれれば、彼に「好きだ」と言えるかも知れない。
「すみません、いつも迷惑ばかりかけて、だから俺、あなたと一緒でないとだめなんです」
 そこで私の背筋を恐怖に似た何かが下って行った、彼は弱い私を愛してくれたのでは無く、いつも気丈で何者にも屈しない、強い私だけを必要としているのではないかと思って。
「私と一緒? それは強い私? いつもあんたを守ってる強い女じゃないとだめなの?」
 もう手の震えを隠す事もできず、きっと物凄く情けない表情で彼の答えを待つ私、ここで見捨てられたら、私はもう立ち直れない。
「いいえ、これからはずっと、俺があなたを守りますよ」
 プツンッ
 その一言で何かが弾けたような気がした。それは今まで自分を覆っていた鎧の紐が切れた音なのか、自分の体を繋ぎ止めていたワイヤーが切れた音なのか、まるで体がバラバラになって行くような感じがした。
「怖いっ」
 その時は何故か、本当に怖いと思った、心も体も一つになり、交じり合うには必要な儀式だったとも知らずに。
「え?」
 自然体で生きる彼には、理解できない感情だったのだろう、家族と呼べる人がいなくなってからは、何者にも自分自身を晒さず、一人で生きて来た女には、好きな男にさえ全てを知られるのが、とても恐ろしかった。
「私、一人になるのが怖いっ、あんたに嫌われるのが怖いっ! 離さないでっ! もっと強く抱き締めてっ!」
 ついに告白まがいのセリフを口走ってしまった私、そこには、いつものように冷静に交渉のカードを切る自分は無く、駄々っ子のように泣いて甘える私がいた。
「ええ、もう離しませんから」
 その時、彼の逞しい腕に抱かれながら私はこう思っていた。もう逃げられない、そして、この腕の中以外で、一人では生きて行けないのだと……


 さて、このヒロインは誰だ? 
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