IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第642話】
前書き
おひさな更新
日付が変わり深夜未明、ヒルトとにゃん次郎がぐっすり眠る中、襖が静かに開き先ずは一人目の侵入者が現れる。
「へへっ、いつもは一緒に寝れないけど今日は寝ちゃうもんね」
有坂美春、ニコニコ笑顔で侵入してきた。
にゃん次郎はそれに気付き、瞼を開くが見知った顔だったのでそのまま眠りに――。
美春がヒルトの掛け布団に手を掛け、もぞもぞと潜り込もうとした時だった、新たな侵入者が現れたのは……。
「お、お兄ちゃん……寝てる、よね? お、お邪魔しますっ」
何と有坂美冬が入ってきた、美春的に同じことを考えていたのかと思っていると直ぐ様二人は鉢合わせする。
「……え?」
「……えと?」
もぞもぞしていた美春と侵入してきた美冬の二人はぱちくりと瞬かせた。
「ちょ、ちょっと……何で美春がお兄ちゃんの――」
「え、えっと……一緒に寝ようかなって、あはは……」
「や、美春がお兄ちゃんと一緒に寝たら不味いでしょ……!」
「じ、じゃあ美冬は何でヒルトの部屋に?」
「…………」
美冬は言えなかった、まさか妹から夜這いに来たなどと――そうしてる内にまた襖が開く控え目な音が聞こえてくる。
「……ヒルトはぐっすり眠ってる筈だ。 私が睡眠薬を用意したし、万が一眠ってなかったとしてもこの『今夜はぐっすり薬三号』で深く眠らせ……『貴方もあの子も今宵は絶倫淫乱薬七号』で一晩中……。 くふっ、クフフッ」
侵入者三人目はラウラだった。
非常に危ない考えなのだがラウラは気づいていなく、既に性欲に支配されて目が座っていた。
しかし、既に来ていた先客二人に敢えなく見つかる――日頃の疲れからかヒルトは完全に気づくことなく寝息をたてていた。
「ラウラ……何そんな怪しそうな薬を持ってるの……!?」
「あ、怪しくなどないぞ義妹達よ!」
「義妹じゃないよ!」
ヒルトが寝ているのにギャーギャー騒ぐ三人、にゃん次郎はそんな声が煩いのか耳をはたっと落として聞こえないようにくるまる。
側で騒いでるのに起きないヒルト、昼間に泣いた事や風呂場での精神的疲労で深い眠りに――そしてまた侵入者が二人。
「な、何でセシリアもヒルトの部屋に――」
「し、シャルロットさんこそ……! わ、わたくしはヒルトさんが一人寂しくないかと思って――」
「ぼ、僕だってそうだよ。 最近ヒルト落ち込んでたし――あっ」
狭い部屋で更に二人増え、五人に――美春、美冬、ラウラは入ってきたセシリアとシャルロットの二人と目が合う。
沈黙が訪れる――寝息をたてるヒルトを囲むように座る三人と対面する二人。
「な、何故皆様が――」
「こ、此方の台詞だよ! み、みみみんなしてお兄ちゃんの部屋によ、よば、夜這いなんて……」
美冬自身夜這いに来たのは事実、そして美春やラウラにシャルロット、セシリアと来ている――皆が皆、今日勝負に来たのだと思って出た言葉だった。
誰かが口を開こうとした時だった、更なる侵入者が現れたのは――。
「ぬ、脱け出すの大変だったけど――。 ね、寝てるよね、ヒル――」
現れたのは鈴音だった、そして部屋にいる五人を見てピシッと固まる。
「な、ななななんであんたたち――むぐっ!?」
「シィーッ! シィーッ!! ヒルトが起きちゃうから……!」
慌てて口を塞いだのはシャルロットだった、モゴモゴする鈴音――皆が皆夜這いに来たのだと思うと美冬は複雑な想いにかられる。
特にラウラ何か媚薬らしき物まで持ってきてるのだから油断も隙もない。
ヒルトを入れて七人居る部屋に、更に人が――。
「あー、こほんこほん。 夜分遅くにすまないヒルト、少し相談が――」
わざとらしく咳払いし、部屋に入ってきたのは箒だった。
普通に考えれば寝静まった時間なのに男の部屋を訪ねる箒の頭のネジは確実に一本抜けているだろう。
いや、ここにいる全員ネジが緩んでる可能性がなきにしもあらず――。
その一方で簪はというと、布団を被って深夜アニメを視聴していた。
「気のせいかな……乗り遅れた、気がする」
何に乗り遅れたかは定かではないが、最終回の深夜アニメが始まり、簪は釘付けになった。
一方のエレン・エメラルドことE.Eはというと……。
「ねえねえエメラルドさん、何でそんなにおっぱい大きいの?」
「わ、わからない。 ……た、ただご飯を食べてトレーニングしていただけなのだが……」
「ただトレーニングしただけでそんなにおっきなおっぱいは犯罪だよ~? ほいっ」
「ひゃうっ!? ……さ、触るのはダメだ……! ひゃっ!?」
ぷにっとエレンの胸を何度もつつくクラスメイトにエレンも羞恥心を感じ、抗議しつつも顔を赤くしていた。
場所は戻ってとりあえずヒルトを囲むように座る一同。
その様子はさながら何かの宗教で、ヒルトを生け贄に捧げて何かを召喚する怪しい集団にしか見えなかった――これで浴衣じゃなくローブ等を着ていたら言い訳できなかっただろう。
「な、何で皆してお兄ちゃんの部屋に……?」
小声で話す美冬に、先に美春から答える。
「私はヒルトと添い寝!」
「む? 添い寝は義妹とはいえ私が許さないぞ。 私は夫婦として閨を共にするのが自然体――」
「ラウラさん、ヒルトさんと貴女は夫婦関係ではありませんわよ!」
ラウラの言葉に反応したセシリア、声を荒げるもヒルトは目覚めない。
「セシリア、静かにしないとヒルト起きちゃうから……。 ぼ、僕は最近ヒルトが元気ないから元気つけようかなって……」
「こんな夜更けにヒルトをどう元気にさせるのよ、シャルロット……」
ジトーッとシャルロットを見る鈴音だが、ここにいる大半は夜這いが目的の為、事実が露呈すれば全員アウトになるのは言うまでもなかった。
身体を丸めて寝ていたにゃん次郎も女子の騒ぎに目が覚め、暗闇の中怪しく瞳を輝かせていた。
「わ、私は内密な相談をしに来ただけだ。 故に正当性はある、うむ」
正座して腕組みし、頷く箒。
だがそもそも、深夜に相談を持ち掛けるのは非常に迷惑な行為だとこの時点では気付いていない。
「いや、普通夜中に相談とか常識的に考えてありえないでしょ」
「な、なんだと……ッ」
鈴音の容赦ないツッコミに眼光鋭く睨み、ギリギリと歯を噛み締める箒に対して鈴音は特別気にすることなく髪をかきあげて靡かせる。
この中の誰一人としてろくな大義名分もなく、ヒルトの部屋に押し掛けたのだ――夜這いが大義名分になるかは個々によるが。
「と、とにかく! 皆大した用事じゃないなら部屋に戻ってよ! お兄ちゃんの身の安全は美冬が守るんだから!」
「ズルい! 私だってヒルトを守る!」
「ええぃっ! 内密な相談を先に私がするのだ!」
「お待ちくださいまし! わたくしは優先権を行使しますわ!」
「何言ってんのよセシリア! 何の優先権なのよッ!!」
「み、皆、騒いだらヒルトが起きちゃうから……ッ!」
「うむ、これ以上騒がれても――あっ!?」
一同が言い合い、何かの拍子にラウラが持ってきた『今夜はぐっすり薬三号』の瓶が手元から滑り落ち――中身が室内に溢れる。
蓋が開いていたのだ、何故開いていたのか――ラウラは咄嗟にこの場に居る者達全員を眠らせようと企んだからだ。
液体は畳にシミを作り、臭いが一気に室内に充満するやヒルトを取り囲む形になってその場に居た全員が深い眠りにつくことになる。
ヒルトと夜を共にするという行い自体は全員叶えた形だが、ヒルトと添い寝が出来たのは誰かというと――。
「……にゃふ……」
騒ぎの最中にヒルトの布団の中に潜り込んだにゃん次郎の一人勝ちという結末に終わった。
そんな騒ぎがあったとは知らず、明朝ヒルトの意識はゆっくり覚醒の兆しを見せていた。
「ん、ふわぁ……。 何か臭い……?」
まだ微かに残る今夜はぐっすり薬三号の臭い――だがヒルトを二度寝に導くほどの効力はなかった。
今日の朝ごはんは何かな――そう考え、手を支えにして起きようとすると不意に柔らかな感触が手のひらいっぱいに広がる。
「………………」
もにゅもにゅと揉む――ついでといわんばかりに左手にも広がる柔らかな感触も揉むと、弾力のある柔らかなモノを揉んでいる事に気づいたヒルト。
右を見るとシャルが浴衣をはだけさせて眠っている。
そこでヒルトの頭に疑問符が浮かぶ――恐る恐る左を見ると箒が胸元を激しく露出させ、レースのついたブラがはだけて見えていた。
よくよく気付くと足元にはセシリアや美春がヒルトの足を挟むように抱いて寝て、美冬に至っては股間近くに頭がある。
円上に寝ていた者達の寝相がこうさせたのだろう――そして鈴音、ラウラの両名は寝返りを打ったその瞬間ヒルトの顔面に踵落としをめり込ませる。
皆深い眠りにつく中での目覚めのキツい一発――誰彼構わずに手を出して関係を結んだヒルトの自業自得が生んだ結末なのかもしれない。
めり込んだ踵落としの痛さに完全に目が覚めたヒルト。
もぞもぞと布団の中からあくびをしながらにゃん次郎は出てくると顔を押さえるヒルトを見てこう思った。
(この人、朝から何で顔を押さえてるのかしら?)
後書き
京都編はまだ続きますぞ
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