IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第621話】
アリーシャ達が作戦を開始した同時刻、場所は貨物倉庫。
無数に入り乱れた貨物コンテナや列車の合間を潜り抜ける一同。
「ここに亡国機業への手掛かりがあるのか」
そんな一夏の問いに誰も答えない、闇に紛れ、見つからないように全員が駆けていく。
無数の貨物倉庫の中から探すしかない状況――とここで先頭のラウラが足を止めた。
「待て。 幾らなんでもおかしい……静かすぎる、もう潜入してかなり歩いて来てる筈なのに警備員すらいない……」
「ラウラの言う通りだ。 潜入して貨物倉庫周囲は裳抜けの殻。 普通なら巡回ぐらいはするはずだ、泥棒が入るやもしれないのに」
確かにそうだ、こういった貨物倉庫には様々な貨物が有り、常駐警備員がいないと――ラウラ、エレンの二人は何かを感じ取ったのか直ぐ様二人はISを展開したその時だった。
その閃光が目印となったのか、光線が貨物コンテナをぶち破って迫る。
「ヒルトはやらせないから!」
美春が瞬時展開――装甲を纏うとその一撃からヒルトを守った。
「きゃぅっ……!」
苦悶の声を上げた美春に、一夏は叫ぶ。
「美春!! ヒルト、簪、シャル、俺達も展開するぞ!!」
潜入中に大声で高らかに叫ぶ一夏、其処で完全に位置がバレ、目の前の倉庫から無数の光の粒子が尾を引いて突き進む。
バレた以上どうしようもなく、全員ISを纏った瞬間だった、倉庫が吹き飛び、コンクリート片や鉄骨等が襲い掛かる。
爆発の影響で体勢を崩す一同――だがヒルトは何とかコンクリート片だけでもと思い迎撃、鉄骨はエレンの頭上を抜け、貨物列車に当たった。
それと同時に真っ直ぐと突っ込んでくる一機の機影――。
「……『サイレント・ゼフィルス』!!」
突撃する機影はサイレント・ゼフィルスだった、電光石火の強襲に、体勢を崩された皆は――。
「ぬるい……!」
銃剣のついたロング・ライフルで一夏の前に居た簪とシャルは切り払われ、更に瞬時加速によって一夏に詰め寄った。
「私の狙いは貴様だ、織斑一夏!」
加速の乗った体当たりで弾き飛ばされた一夏だが、姿勢制御を行って立て直すとマドカと同じタイミングで瞬時加速に入った。
「ふん、少しは成長しているようだな」
「お陰様でな!」
剣戟をかわすマドカ、そして二機は京都の上空を走り抜けていく。
「チィッ……市街地戦に……!?」
それだけは避けたかったヒルト、だがその前にふわりと躍り出る影があった。
「にゃーん。 せっかくの『黒騎士』の御披露目を邪魔させないよ☆」
場違いな陽気な声が響く、背後に燃える倉庫が目の前の篠ノ之束を明るく照らす。
「……黒騎士だと!?」
ヒルトの言葉を聞くより速く、束は――。
「きらきら☆ぽーん♪」
ステッキを手のひらで回し、ラウラと簪に向けたその時だった。
周囲に居たラウラ、シャル、簪の機体は地面に這いつくばる。
「なっ!?」
「う、動けない」
「これ、は……重力!?」
「ラウラ! シャル! 簪!?」
ヒルトが助けようと動く前に上空から新たに三機の機影が現れた。
「……何だ、こいつは!?」
「これ……あの時の機体!?」
「この赤い機体は……あの時俺を狙った奴か!?」
目の前に現れた三機――鈴音との戦いの時に現れた無人機と先月現れた無人機、そして――紅い機体は俺を狙ってきた無人機だった。
刹那――三機は重力波を逃れたヒルト、エレン、美春の三機に襲い掛かる。
突如始まった戦闘、爆発が辺りを彩り、動けなくなった三人に近付く篠ノ之束。
「にひっ。 束さんの最新作、空間圧作用兵器試作八号こと《玉座の謁見(キングス・フィールド)》は如何かな? ちょっとだけ出力高めでお送りするよん♪」
にまにま笑顔の束はゆっくりと近付く――その時だった。
「やらせるかよぉ!!」
三人の合間に割って入ったヒルト――束はちらっと横目で見るとヒルト用に用意した《ハーミット》が粉々に粉砕されていてコアが露出していた。
「ふーん、やるじゃん。 銀髪」
「……一体何が目的だ」
「さて、ね――そぉれっ♪」
ステッキ振った一瞬、強烈な重力がヒルトにのし掛かる――。
「にゃははっ♪ 油断してるからそうなるんだよ、銀髪♪」
「…………」
押さえ付けてくる重力――だがヒルトは膝を折らない、折れない。
「膝を折らないだけでもすごいねー、銀髪♪ ――だけど、コアはもらっていくよん♪ 元々私のだし♪」
言ってから近付く束――その手がヒルトに触れかけたその時だった、ヒルトが束の手首をつかむ。
「……捕まえたぜ、篠ノ之束」
「ふーん? 無理しちゃって……さあっ!!」
その場で足払いする束――だがヒルトは怯まない、それどころか意地でも束を逃さないと手首を掴み続ける。
「クッ……離せ、銀髪!!」
「……離したらどうなる?」
「さあ、ね……。 どうなると思う、ちーちゃん!」
束が振り向いた先に居たのは織斑千冬だった、その手には刀が握られている。
「有坂。 悪いがこいつと決着を着けるのは私だ」
「…………」
手首を離した一瞬だった、束に襲い掛かる千冬――剣撃はコンテナに刀傷をつけていき、束は軽やかな身のこなしで避けていく。
「有坂、ここは私に任せて織斑を追え!! これ以上――京都を火の海にさせるな!」
「……了解!!」
未だ戦い続ける美春やエレンを残すのは気にかかるが、一夏一人で手に追える相手じゃないことも分かっていた。
玉座の謁見から抜け出したヒルトは燃え上がる古都京都の上空へと飛んでいく。
一方で本部である旅館の大広間では突如襲撃してきたスコールと交戦状態になっていた真耶、楯無の二人――。
ぶち破られた大広間は無惨な姿を現していて、既に従業員宿泊客は有坂真理亜の手によって避難させられていた。
そして――。
「返してもらうわよ、オータムを」
「させません!!」
真耶の四枚のシールドが射出――動きに合わせるように楯無は空中の水蒸気を集めて水の弾丸を放つ――そんな時だった。
「境界解除《バーンダーリィ・リリース》、『覚醒《アラウザル》』!!」
周囲のスコールを除いた楯無及び真耶のISが強制解除された――驚きに目を見開く真耶、楯無は直ぐに周囲を見渡すが誰もいなかった。
オータムの奪還に成功したスコール――今はただその場から速く離れるだけだった。
そして――有坂陽人は旅館の遥か上空で戦っていた、相手はカーマイン。
「あぎゃっ! やっと戦えるぜ……楽しもうぜ、有坂陽人ォォォッ!」
「何が楽しむだ!! 京都の街が燃えてるのに――お前らは!!」
「わりぃが、俺様は亡国機業の人間じゃねぇんでな!!」
「何だと!?」
交差する二機の機影、互いに射撃は行わず、接近戦だけの死闘――回転する鋸刃が黒夜叉の装甲に触れると激しく火花を散らせ、黒夜叉の刃がユーバーファレン・フリューゲルに当たればシールド・エネルギーを削る。
そんな二機の眼下の繁華街、燃え上がる京都の街並み、パニックに陥った人々によって消防車の消化活動、更に救急車による負傷者の搬送に支障を来していた。
予め配置していた自衛隊員だけではどうにもならなく、警察官も動員してなお混沌としていた。
泣き叫び、怒号が飛び交い、我先にと逃げ惑う人々――。
上空を旋回する輸送ヘリに待機していた原田晶一尉も悩んでいた。
下の自衛隊員達に任せるか、それとも自分達も――そんな時だった、二機の機影が前方を横切るのを見たのは。
「二人とも、出撃する!!」
「「はい!」」
ヘリから飛び降りた三人は直ぐ様打鉄を身に纏い、二機に近付く。
「このおっ!」
二機の機影の内一機は一夏だった、瞬時加速が切れた瞬間を狙って仕掛けるが容易く捌かれる。
「そろそろ終わりにしてやる」
マドカはそう告げると、ビットが周囲を取り囲み、一夏の接近を阻む。
「見せてやろう、貴様に私が新たに手にした力を!!」
サイレント・ゼフィルスのカラーが徐々に漆黒へと染まっていく――そして叫ぶ一夏。
「まさか、セカンド・シフトか!?」
変化していくフォルム、溢れ出る威圧感――。
「ふ、はは! 力が溢れてくる! これが、私のための力か! あはは! あははははっ!」
禍々しい鎧を思わせる『黒騎士』のフォルム。
まるで殺意と敵意を具現化したかのように刺々しい。
そしてビットは巨大化して粒子変換、再構築されると対になる二基のランサー・ビットへと変貌を遂げた。
構えていたライフル、スターブレイカーも大型のバスター・ソードへと変貌する。
刃から禍々しいダークパープルのエネルギーを迸らせ、纏うと試し切りとばかりに一夏に振るわれた。
「くっ!」
雪片弐型で受け止めた一夏――其処へ原田晶率いる打鉄三機が介入する。
「援護する! 包囲するぞ!」
「「了解です!」」
「チィッ!」
一夏を押し切り、打鉄三機と交戦に入るマドカ、ランサー・ビットによる包囲攻撃に打鉄は翻弄されるも原田晶は肉薄した。
振るわれる一撃――嘲笑を浮かべたマドカは叫ぶ。
「名乗りをあげさせてもらおう。 織斑マドカと、『黒騎士』の初陣を貴様等で飾らせてもらう!!」
「黒騎士……!?」
「ふんっ!」
質量に押し切られた原田晶――距離が離された瞬間、一夏への追撃にランサー・ビットから螺旋状に収束したエネルギー弾を無差別に放つ。
「そう易々とやられるかよ! 霞衣!!」
左腕からエネルギー無効化シールドを張る一夏だが、外れた弾は市街地に着弾、民家は炎に包まれた。
そこら中にあがる黒煙と炎――燃え上がる京都の街並み、つい数時間前まではいつもの日常があり、人々の生活があった。
「ヤベェヤベェヤベェ! 火の手に囲まれちまうぞ、信二!?」
「わ、分かってるって! クッ……たっくん、こっちだ!!」
京都には修学旅行で来ていた学生や海外からの観光客が当たり前の様に観光していた街並み――。
「イヤァ! 誰かぁ!! 助けて!? 助けてよぉ!!」
「だ、大丈夫ですか!? ま、待っててください――僕が……! く……ぅあああああっ!!」
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
「よ、良かった……。 京都駅の方は無事ですから、そちらへ避難してください!」
だがそれら全てが、面影すらなかった。
「ママァーッ! ママァーッ!!」
泣き叫ぶ子供――行方が分からなくなった母親を探し、京都の街をさ迷う――。
けたたましく鳴り響くサイレン、消化活動を行う自警団――上空で繰り広げられるテロリストと白の機体、そして近くのヘリはテロリストによって撃墜された。
「クッ……このままでは市街地に落ちる!?」
「隙ありだ! 墜ちろ!!」
背を見せた一瞬だった――原田晶の乗った打鉄は切り裂かれ、墜ちていく――それに動揺した他の二人もランサー・ビットの餌食となり、また地表へと墜ちていく。
そんな時だった、夜空を飛ぶ新たな漆黒の機影――分離した一機が離れた隊員一人を抱き抱え、近くに降ろし、漆黒の機影は二人を何とかキャッチ、だがその衝撃で原田晶と隊員一人は肩を脱臼し、そのまま気絶した。
墜落したヘリは最後の意地を見せ、何とか広い公園へと胴体から着地、ローターはブロック塀に突き刺さり、何とか生きていたパイロットも折れた足を引き摺って脱出した。
「京都が……くっ!?」
二人を助けた漆黒の機体は、二人をベンチに寝かせるとそのまま上空へと出た。
そして場所は貨物倉庫へと戻る、千冬と束の戦いは唐突に終わりを告げた。
「やーめたっ☆」
手にしたステッキを捨てる束、千冬も手を止めた。
「こんな舞台じゃあ勿体ないよ。 私とちーちゃんの対決に、全然相応しくないね」
「だからといってはいそうですかと、逃がすと思うのか?」
「ん? んーん。 全然思わないけど、ちーちゃんが教え子を見捨てるとも思わないなぁ」
突如、地面に倒れたラウラ達と未だに交戦を続けるエレン達に向かって指鉄砲を向けた。
「ばーん☆」――そうやって撃つ真似をしたその時だった、交戦していた無人機は自爆、諸に爆発に巻き込まれた美春とエレン。
そしてラウラ達は凄まじい衝撃に襲われ、吹き飛ばされた。
「束。 お前……!」
「フフっ……ついでに――ホイッと☆」
更に指を鳴らす――遥か上空、成層圏から飛来してくる無数の機影。
「……まさかあれは!?」
「さてさてぇ、今度こそちーちゃんも暮桜を使わざるを得ないんじゃないかにゃ~? じゃあね~☆」
更に指を鳴らすと、煙と爆発が束を覆い、晴れたらその姿は消えていた。
「…………ッ」
奥歯を噛み締める千冬は流星の様に落ちてくる無数の機影を見ることしか出来なかった――そして京都上空一〇〇〇〇メートル。
「やはり無人機か」
「……あの時と同じだね」
ウィステリア・ミスト、シャルトルーズ二人の目の前に迫るのは無数の無人機。
其処から言葉はいらなかった――ウィステリア、シャルトルーズ共に交戦に入る。
「君たちを京都に降下させるわけには行かないんだよね!!」
シャルトルーズが構えたライフルから放たれる粒子エネルギー弾と実弾によって無人機の装甲に当たり、溶解していく。
一方でウィステリア――構えた展開装甲が組み込まれた大剣《デュランダル》の一振りで纏めて三機を薙ぎ払う。
質量差で吹き飛ばされた無人機に対して追い討ちの様に肩部ミサイルポッドから連射、直撃と共に爆ぜた。
「腕は落ちてないみたいだね、ウィステリア!」
「フッ……所詮無人機だからな。 ……だが、少々数が多いようだ」
ウィステリアが望遠機能で見た先には更に無数の機影が居た、その内の一機が京都の街へと降下――シャルトルーズが追おうとするが。
「待つんだシャルトルーズ、あの一機を追うよりも此方を止めなければ」
「で、でも!」
「……忘れたかシャルトルーズ。 何のために私がラファール・リヴァイヴ展に私が使用した機体をコア搭載のまま展示したのか――を!」
『!?!?!?』
迫り来る無人機を切り伏せるウィステリア――シャルトルーズも降下した一機が気にはなるが、この場を放置する訳にもいかなかった。
京都へと降下していく一機――降りた地点に居たのは稼働時間が限界に近付いていたEOS部隊が居るエリアだった。
「な、なんだ!? こいつも空で戦ってる亡国機業のISなのか!?」
「隊長、どうしますか!?」
「……ッ。 そこの所属不明のIS、止まれ!」
その言葉にEOS部隊は一斉にライフルの銃口を向ける――だが答えない、答えられない。
自衛隊は専守防衛――撃たれるまで撃てない、そして――バイザーが怪しく光を放ち、EOS部隊に近づく無人機。
「それ以上動くと撃つぞ!」
「隊長! このままじゃ――」
「まだだ! 此方から撃つわけには――」
一瞬だった、肉薄したその瞬間には、隊長のEOSが巨大な拳に吹き飛ばされ、ブロック塀に叩き付けられていたのだ。
「う、撃て撃て撃てェェェッ!!」
一人の自衛隊員の言葉で周囲から一斉に撃たれる無人機。
シールドバリアーに阻まれ、有効打を与えられなかった。
其処からはあっという間だった、EOS部隊は壊滅、意識が途切れそうな隊員の一人が見た先には――若い青年が立っていた。
「に……げ、ろ……」
それだけを言うと隊員の意識は途切れる、危険な状態だった――だが無人機は既に狙いをその青年に変えていた。
「……なんだ……この、機体……?」
近付いてくる機体――被っていた幅広いハットが落ち、後ずさる青年は笹川成樹だった。
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