IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第614話】
ヒルトが未来達の元に向かってた頃、観光スポットの一角では人だかりが出来ていた。
「キャーッ! 織斑くーん!」
「サインちょうだい!」
「わあっ! 握手、握手!」
「やった! サインもらっちゃった♪」
街の一角、織斑一夏と織斑一課として行動していた簪は群がる一般人観光客にサインをしていた。
「なあ簪、俺って有名人なのか?」
「……そうなんじゃ、ない?」
「ふーん。 あ、押さないでください、ちゃんと一人一人にサインしますから!」
すらすらと自前のサインペンでサインを書いていく一夏を、簪は冷めた目で見て思う。
(有名人なのかって言う人が自前のサインペン常備してるものなの? それに書き慣れてる……)
サラサラ書き上げる織斑一夏の名前、だが簪が見てもあまり上手く書けてない、というかたまに織斑って漢字が間違えている。
はあっと小さくため息し、この無自覚なスター気取りを置いて帰りたくなる簪だった。
「あっ、コッチコッチ!」
「やっと来たわね、ヒルト!」
「……あ、あまり待たせるな」
手を挙げて未来が此方だと存在感をアピール、鈴音は僅かに目尻を吊り上げていたが俺が見えたら表情も柔らかくなった。
そして箒、落ち着かなさそうに視線がさ迷っていた。
「悪い、あんまり走っても危ないからな。 ……んで、何で鴨川なんだ?」
そう、集まった場所は鴨川だった。
厳密に言えば鴨川の河原、カップル河原と言われる場所で観光客カップルや学生カップル等が溢れ返っている。
「フフン、京都といえば鴨川に決まってるじゃん」
無い胸を張る鈴音、それを聞いた箒も頷く。
「そ、そうだな。 私としては二条城でも良かった気がするが、鴨川も悪くない」
頷く度に弾む二つの巨峰は有る胸だった、未来も同じ様に――。
「そうだね、ここは四条通に近いから人も多いし、鴨川納涼床の時期なら四条通から三条通までずらって並んでるから休憩にはもってこいだけど。 今の時期なら鴨川を眺めるだけでも情緒あると思わない?」
納涼床の説明をする未来、その胸も存在感があり、鈴音の対比が可哀想になる。
「じゃあ其処らのベンチで話でもするか?」
「ふふん、良いわよ」
「私も問題ない」
「うん。 ……手近な座る場所、探そっ?」
こうして少し四人で話ながら座る場所を求めて鴨川の河川敷を歩く俺達。
「しかし……さっきの箒の話はびっくりしたな、キス未遂の奴」
その話題に箒は顔が赤くなる、俺が見てる箒の顔はいつも怒っていたからこれは新鮮だった。
「あっ、それはアタシも思った! もうアタシはあいつの事なんて何も思ってないから良いけど流石に驚いたわよ」
「だね、普段見てる織斑君からは想像できないし、というか……やっぱり普段のヒルトに対する態度見てたら――同性の方がって思っちゃうから」
鈴音、未来と続けた所で箒が――。
「……場の雰囲気に流されそうになっただけだと思う、今の私が客観的に見ても。 現にあいつは次の日なに食わぬ顔だったのだしな」
「ん~、そこは彼奴らしいというかなんというか――まあ結論は俺もわからんが」
話してる内に座れる場所があったため其処に腰掛けた一同。
11月という季節柄、風が吹き抜ける鴨川の外で会話よりも本来なら何処かで食事しながらの方が良いような――そう思うが可能な限り彼女達の要望を聞いてあげたいとも俺は思った。
「あ……何の気なしに座ったけど、下にハンカチ敷かなくていいか? ――あ、ハンカチ一枚しかない……」
取り出したハンカチが一枚しかない俺に、皆は首を振る
「いや、ヒルト。 心遣いだけで私は大丈夫だ」
――と箒が言い、続いて鈴音。
「あたしも大丈夫。 ありがとね、ヒルト」
そして最後に未来がしめる。
「私も大丈夫だよ、これぐらいなら気にしないしね」
等というものだからハンカチを仕舞う俺――目の前の鴨川の流れるせせらぎの音、カップルの甘い会話が聞こえてくる。
「ヒロくん大好きだよ?」
「僕もだよ、亜紀ちゃん……君が大好きだ」
「私の方がもっと好きなの!」
――等と目の前で繰り広げられるのだから堪ったものではない。
暫くして歩いて去っていくが――やはりカップルだらけで其処らかしこから甘い会話が聞こえてきた。
それを払拭するように未来が話を振る。
「そ、そう言えば箒ちゃんと鈴って、秋に落ち葉で何か焼いたりした?」
「え? …………」
「そ、それは……。 …………」
顔を青ざめる二人、何かあったのだろうかと思っていると――。
「……む、昔の話だが聞いてもらえるだろうか?」
「え? 勿論だよ。 ね、ヒルト?」
「ああ、構わないぞ」
「そ、そうか……では――」
そう言って箒は語り始めた。
幼少期の出来事、神社境内の掃除がてらに落ち葉を集めていた所、一夏が薩摩芋を持ってきて焼き芋を作ろうという。
保護者のいない環境下での火の取り扱いに箒は反対したものの、やはり好意を抱いている男子のお願いを断り続けて嫌われたくないという心情からか渋々焼き芋を作るのだが――。
「何か火力が足りないなあ、落ち葉もっと入れようぜ!」
箒が止めるも一夏は強行、火力は確かに上がったのだがぼや騒ぎにまで発展、消防車が来る事態に。
勿論焼き芋はおじゃん、更に織斑先生に怒られ、親にも怒られたという苦い経験をしたらしい。
「――という事があったのだ……。 あの時の千冬さんの怒りも忘れられないがやはり親に怒られたのが堪えた……」
「……てか子供だけで火を扱うのがアウトだな。 一夏はバカだと思ってたがやっぱりバカだな」
そう俺が言い、鈴音小さく頷いて箒に――。
「一夏はバカなのよ。 アタシも箒と同じ様な事があったわよ。 焼き芋じゃなくて焼き栗だけどさぁ」
鈴音が話始める、小学校の高学年の頃にやっていた清掃ボランティアで落ちていた毬栗を見つけた一夏が――。
「これ、焼いて食べようぜ!」
いくら高学年でも教師が居ない所で火を扱うのは良くない。
という事で鈴音以外の生徒は皆反対したとか――鈴音が賛成したのはやっぱり当時一夏の事が好きだったからのと焼き栗を食べたい欲求に負けたからだとか。
「一夏、せめて火を消す水用意しないと――」
「いいって、ちゃんと見てるんだしさ」
「……わかった」
惚れた弱味という奴だろうか、不安はあったものの鈴音は頷き一夏は落ち葉を燃やすのだが此処でさっきの箒の時と同様に――。
「何か火力が足りないなあ、落ち葉もっと入れようぜ!」
その後、案の定ぼや騒ぎとなり場は騒然、勿論焼き栗はアウト、早とちりした生徒が消防設備にある警報ボタンを押し、学校全体がパニックになり消防車が来る事態に。
その後教師からきつく説教され、織斑先生にも怒られ、鈴音に至っては両親二人からも怒られる始末。
「――って訳よ……。 もう二度とやらないわよ、焚き火なんて……」
昔を思い出したのか鈴音の表情は暗い。
今の鈴音の話だが俺達が通う小学校の全校集会で話題になった、子供だけで火を扱う事は決して無いように――と。
花火する子はいたが流石に焚き火なんて思うやつはいなかった。
軽く鈴音の頭を撫でると、僅かに表情が和らぐ。
「……わかった事はもう一夏と火遊びしたらダメって事だな、二人は」
「そう、だな」
「絶対にやんないわよ……二度とね」
「うん、多分今やっても同じことしそうだもん」
そんな事を話されてるとは露知らず、サイン攻めにあってる一夏は暢気にくしゃみをする始末。
「……せっかく集まったのに話だけってのもあれだな。 鴨川バックにこれで撮るか?」
そう言って携帯を見せると一同は――。
「良いじゃん、鴨川のせせらぎを聞きながらアタシ達を撮ろうなんて」
「む、ぅ……良いだろう」
「私も良いよ? 後でメールで送ってね?」
そうと決まった所で撮ろうとするが、ついさっきシャル達の着物姿を撮ったという事もあり、何か一つアクセントが欲しいと思ってしまった。
「三人とも、ちょっと待っててくれるか?」
「え? 良いけど……どうしたのよ、ヒルト?」
「あ、ちょいトイレ行きたくなっただけだ」
「あ……そ、そうなんだ。 なら早く行ってきなさいよ」
三人置いていくのも気にはなるが、俺は一路商店街へ。
あまり時間を掛けては色々不味い為、近くの店を見て回る――何かアクセントとして良いものがあればと探して回ると帽子とアクセサリーを売っている小物店を見つけた。
帽子はニット帽やテンガロン、キャスケット帽等様々な物があり、アクセサリーはまさしく土産物、剣を象った物や小さなパワーストーンの付いたペンダント等様々な物があった。
「……鈴音も箒も二人とも帽子はベレー帽だな、未来も色違いで良いだろう。 後はアクセサリーだが……」
赤と白のブレスレットと銀のブローチに小さな水晶のイヤリング、それらを選ぶと俺は購入した――諭吉さん二枚飛んでいったが、仕方ないだろう。
生徒会から幾らか貰ってはいるが、視察費だからこういった私用に使うわけにはいかなかった。
タブや値札等は店で切ってもらい、俺は小走りで戻る――。
「ヒルト、遅かったけど大丈夫?」
「あんた、身体冷えたとかじゃないの?」
「む? ならあまり無理はしない方が良いだろう。 写真を撮ったら何か暖かいものを飲むといい」
三人とも心配したのか声をかけてくれた、買ったものを後ろに隠してる俺は軽く笑顔を見せる。
「ん? 大丈夫だ。 ……それよりもさ、携帯で撮るのに制服姿だとアクセントがちょっと足りないかなって思ってさ。 ……ジャーン! ベレー帽色違い&アクセサリーでワンポイントもいいかなって思ってな」
赤のベレー帽を箒に被せ、赤と白のブレスレットを手渡し、鈴音には黒のベレー帽を被せ、銀のブローチを渡し、最後の未来には白のベレー帽を斜めに被せ、水晶のイヤリングを渡した。
突然のプレゼントに戸惑い、嬉しさからか笑顔が溢れる。
「あ、そ、その……」
「え、えっと……あ、ありが、とう」
「う……ま、まさかプレゼント貰えるなんて思ってなかったから……嬉しい……」
「うん、これならアクセントとして悪くないだろ? ほら、着けて撮ろうぜ?」
俺がそう言うと各々アクセサリーを着ける――と。
「そ、その、ヒルト。 お金の方は大丈夫なのか?」
「そ、そうよ。 代表候補生になったっていっても支給されるのってまだでしょ?」
「わ、悪いからお金払――」
「ん、気にするなって。 高いものとかじゃないしな。 それよりも並んで並んで! タイマーで撮るからさ!」
強引に話題を止め、携帯カメラをタイマーセットにして俺達は鴨川をバックに並んで写真を撮った。
写った写真は俺以外皆はにかむような笑顔で俺に寄り添い、俺はそれにちょっと照れたような笑顔で写っていた。
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