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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第636話】

 京都へ向かう一向、車内でも思い思いに過ごし始める一同。


「まっすのすし♪ まっすのすし♪ 食べっておっいしいまっすのすし♪」


 早速買ったばかりのますのすしを広げ始めた本音、ヒルトも少し早いが僅かに空腹を覚え、バッグからおにぎりを取り出す――その時にシャイニィに僅かに手を舐められ、びくっと小さく身震いした。


「あれー? ひーくんは駅弁買わなかったの~?」

「ん、向こうに着いたら食事にもありつけるし、車中で小腹空くかもって思ったらおにぎりでいいかなって」

「そっか~。 じゃあじゃあ、私が持ってきたおやつやおつまみ、食べて良いからね~」


 そう言って鞄からお菓子やつまみを取り出す本音、定番のうめぇ棒からポテチ、柿のたねやピーナッツ、さきいか等がずらりと出された。


「ははっ、なら後でいただくよ」

「うん♪ にひひ、まっすのすし~♪」


 ゴムを取り外してますのすしを食べ始めた本音、匂いに気付いたのかシャイニィが頭だけを出してにいにいと鳴き声を上げた。

 二人のやり取りを見ている一向――。


「お兄ちゃんってば、のほほんさんに甘いんだから」

「そうだそうだ、たまには私にも甘えさせろーっ」


 美冬と美春二人して抗議する、勿論普段から甘えているのだがもっと甘えたいと思うのが妹心。

 とはいえ美冬は双子なのだから本来であれば兄に恋慕の気持ちを抱くのは禁忌なのだが――。


「…………」

「どうしたんだ箒? ヒルト何か見て」

「……何でもない」


 腕組みし、ムスッと不機嫌そうに窓から外を眺める箒。


「変な奴だな……。 てか箒は弁当食べないのか?」

「ん……食べたいのならば好きにしろ、一夏」

「おぉ、サンキューな箒! 実はますのすしって興味があって――いてえっ!」


 ますのすしの止めゴムを外すや、反対側のゴムに引っ張られた竹が一夏の手の甲を激しく叩く。

 痛みで手を振る一夏を他所にどうしてもヒルトから目が離せなかった箒、ヒルトと本音の二人は食事しながら楽しそうに談義していた。

 これまで行ってきたヒルトへの無礼な態度、幾ら謝っても許されない程の暴言と暴力を振るってきたのだ。

 芽生えそうな気持ちを押し殺す箒、一夏への想いが燻る中で新たに芽生えそうなヒルトへの想い、僅かに瞳が紅く染まる。

 だけどそれはほんの一瞬の出来事だった――ますのすしを食べる一夏は気付くことすらなかった。

 一方で鞄から頭だけを出すシャイニィもといにゃん次郎。

 匂うますのすしに小さく鳴き声を鳴らした、ヒルトは気付くと鞄を抱える。


「どうした、にゃん次郎?」

「へぇ~、その子にゃん次郎って言うんだね~」

「にゃぅ……」


 小さく鳴くにゃん次郎、本音が食べてるますのすしが気になるのかずっと凝視していた。


「どうした? ますのすし食べたいのか?」

「うにゃん♪」

「にひひ、いいよ~♪」


 紙容器の受け皿に食べやすいように盛り付ける本音、バッグから出るとますのすしに口をつけて食べ始めたにゃん次郎。


「にゃぅにゃぅ♪」

「気に入った?」

「にゃっ!」


 頭を撫でる本音に嬉しそうに目を細めるにゃん次郎。

 ヒルト達が静岡を通り過ぎる頃、地球の反対側にあるフランスのパリにあるデュノア社特設アリーナ。


 夜も深まる深夜、煌々と輝くアリーナ内部で新型機の起動テストを行っていた。

 ランダムに現れる標的を撃ち抜くエネルギー弾と実弾、更に離れた位置にある標的を纏めて撃ち抜く散弾。

 機体を動かす度に靡くブロンドヘアー、目尻吊り上げ、ただただ標的を射抜く。


「そこまでだ、シャルリーヌ」


 一通り撃ち抜かれたヒル、フィールドに散らばる空薬莢、銃口から白煙を吹き、シャルリーヌと呼ばれた女性はアリーナ上部に設置された特設室に視線が移る。


「まだだよ、まだ稼働できる!」

「いや、テストは終了だシャルリーヌ。 もう時間も遅い」

「…………」


 ショットガン、ライフル共に高く放り投げるとそれらは空中で四散、纏っていた機体も粒子片となって消えていく。

 まだ物足りないといった表情のシャルリーヌ――だが、特設室に居るデュノア社社長アルベール・デュノアが告げた。


「やっと形となった《コスモス》だ、それに稼働時間が増えれば増えるだけ機種転向に支障を来す」

「…………」


 コスモスの搭乗者として指名されているのはシャルロット・デュノア――自分じゃなく、愛人の娘である女を選んだのだ。

 奥歯を噛み締めるシャルリーヌ、目尻を吊り上げたままシャルリーヌは告げた。


「社長、お願いがあります。 あの女にコスモスを渡す前に模擬戦を行いたいのです」

「何故だ?」

「コスモスに相応しいのはこの僕、シャルリーヌ・デュノアだからです。 会社の決定とはいえ、僕は愛人の娘にこの機体が相応しいとは思えない。 僕が、僕こそがコスモスの搭乗に相応しいからです。 それを模擬戦で証明する機会を与えてほしいのです、社長」

「……良いだろう。 私としては稼働データが優秀な方が良いのでな」

「ありがとうございます、社長」


 一礼し、アリーナを出るシャルリーヌ――通路に鳴り響く靴音と共に浮かべる笑み。


「僕こそがコスモスに相応しいと証明してあげるよ。 ――【シャルロット姉さん】……!」


 同じ頃、イギリス内で建造されているブルー・ティアーズ三号機【ダイヴ・トゥ・ブルー】、白式同様パススロットを犠牲にして一次移行で単一仕様を可能にした機体。

 その隣にあった奪われた二号機のハンガーを見る一人の女性。

 現イギリス代表『マチルダ・フェネット』が苦々しく空いたハンガーを見つめていた。

 奪われた二号機サイレント・ゼフィルス――行方はわかっているのに上層部の秘匿体質によって奪還指令が出ない事にイライラしていた。

 だがそれよりも三号機、こいつまで奪われては国の威信に関わる。


「ここの警備、あれからどうなってる?」

「え? はあ……警備員二人ほど増員されましたが?」

「たったそれだけか? ……全く、これじゃあ奪ってくれって言ってる様じゃないか」


 上層部のお気楽体質に怪訝な表情を浮かべたマチルダ、もう一度上層部に掛け合うために整備室を後にする。


「……ここに三号機が」


 潜入に不向きなメイド服姿、明らかに場違いなチェルシー・ブランケットが状況をドローンを通して見ていた。

 既に警備員の見回り時間や三号機のある整備室、配電室等全体の見取り図を頭に叩き込んでいたチェルシーは三号機の所在の確認をするだけだった。

 小型のドローンを操作する、途中職員が見えたら隠れ、先へと進む。

 そして――目的の三号機の所在を確認した所で操作を止めた。

 ドローンは粒子片となって散り、チェルシーは小さく頷くと買い物へと戻る為に人混みの中へと消えていった。 
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