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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第611話】

 直に京都に着くアナウンスが社内に流れ、車内の投影ディスプレイには各国の言葉で案内されていた。

 日本語が世界共通語になった今でも不馴れな人の為の措置ともいえる。

 アナウンスを聞き、各人が荷物の準備をしだす。

 そんな中――。


「ん? あれ?」


 何かを探し始めた一夏だ、直に京都に着くというのに何をしてるのやら。


「一夏、もう着くんだから探し物なら後にしろ」

「や、直ぐ済むから」


 そのまま荷物を漁る一夏に、小さく溜め息を吐く俺――と。


「あったあった!」


 そう言って一夏が高々に掲げたのは年季の入ったアナログカメラだった。

 携帯電話にすら高画質デジタルカメラが搭載され、更に機能も追加されている高機能カメラがある時代を逆行するかの様なアナログカメラだった。

 古いのが悪いとは思わないが、到着間近に探すような物には見えなかった。

 ――と、鈴音がそのカメラを見て。


「あんた、それまだ持ってたんだね」

「ん? 当たり前だろ鈴? これは俺と千冬姉の絆みたいなものだから」

「そういえばそうだったわね。 でも探すなら到着間近じゃなくちゃんとその前に探しなさい」

「良いじゃん、あったんだからさ」


 悪気もなくそう告げる一夏、しかし今カメラ持つってのも不自然だ――今回の京都の為だとしても、思い出云々の記録を残すのならこれ迄に持ってただろうし。


「まああったならいいが、忘れ物とか変に皆おもうから余裕を持って今度から探してくれ」

「わかってるわかってるって、あんまり小さいことに拘ってたら女々しい奴だって思われるぜ、ヒルト?」


 ……一々何か言わないといられないのだろうか?

 何にしても俺は荷物を肩に担ぐと鈴音が――。


「ヒルト、実はアタシ、美味しいジェラート屋さん知ってるんだ。 良かったら一緒に行かない?」

「え?」

「ちょっと待ってくださいまし! ヒルトさんを独占されては困りますわ!」


 そう言ってセシリアが遮る、俺の腕を取るとそのまま腕を回した。


「ヒルトさん、ジェラート屋も宜しいのですがわたくし、京都は初めてですの。 エスコートしてくださいまし」


 そう言ってセシリアは俺の腕に胸を押し当ててくる――柔らかな感触は制服越しにも伝わってくる。

 鈴音も対抗意識を燃やしたのか――。


「ジェラート屋さん、美味しいわよ? 前に中学の時に食べたことあるんだけど凄く美味しかったわよ。 一緒にいくわよね?」


 鈴音は指を絡ませるように手を繋ぐ――恋人繋ぎだ、小さく華奢な指は鈴音を意識させるには十分だった。


「む……こほん! ヒルト、京都には様々な老舗の店がある。 これ迄の無礼を兼ねて、一度どうだろうか?」


 箒だ――腕組みし、重たそうに乗っかる二つの巨峰が見事に主張していた。


「あっ、僕もネットで調べたけど美味しい和菓子屋さん見つけたんだ。 どうかな?」


 そう言って背中に凭れて、身体を預けてくるシャル――てか通路でなにしてんだか、俺。


「ならばヒルト、私は敢えて京都の駐屯地を案内してもらいたい。 規模が何れ程のものかを調べたい」


 何か視察とかけ離れてる気がしてきた――。


「こら、ヒルトくんが困ってるでしょ? 直に着くから大人しくしてなさい」


 楯無がぴしゃりと言う――とりあえず落ち着いた面々。


「じゃあヒルトくん、お姉さんと京都名所巡りしましょう」


 しれっとそう言う楯無に反応したのは――。


「お姉ちゃん狡い。 ヒルトくん、着物体験コーナー……興味、ない?」


 簪だ――だが簪だけじゃなく今度は。


「皆狡いよ! お兄ちゃんは美冬と一緒に行動するんだから」

「えー? 美春だってヒルトと一緒がいい! ヒルト! 私はヒルトとなら何処でも行くよっ!」

「君、私もセシリア同様京都は初めてなのだ、出来れば案内していただきたい」


 美冬、美春、エレンと各々が主張してくる――そんな様子を見た母さんは未来にソッと耳打ちしていた。


「あらあらぁ……未来ちゃん、ライバルいっぱいよぉ?」

「わ、わかってますよ……」

「うふふ、でももしかしたら本妻の余裕なのかしらぁ?」

「ほ、本妻って――もう、真理亜お母さんってば!」


 等とやり取りが続いていた中、一夏がぽんっと手を叩いた。


「何か見たことある光景だと思ったらウーパールーパーだな!」

「「はいっ?」」


 一同とんちんかんな事を言い出した一夏に視線が向く。


「いやほら、やっぱし皆こうして騒いでるからさ、ウーパールーパーだなぁって」


 話がわからなかった俺達全員――織斑先生がこめかみを押さえつつ頭を叩いた。


「馬鹿者、意味がわからんだろ織斑」

「いや、だって千冬姉――」

「いいから黙って座ってろ馬鹿者」

「……ひでぇ」


 そんな一夏を他所に、車内アナウンスで京都到着が告げられた。

 皆荷物を持って降り始める中、ダリルが俺の肩を叩く。


「織斑一夏がモテてると思ったんだがな、お前の方がモテてるようだな」

「ははは……、否定はしませんよ」

「けっ、エロガキが」


 そう言ってわざとボストンバッグで背中を押したダリル、そんな二人の些細なやり取りを、フォルテは複雑そうに見ていた。

 新幹線から下車し、ホームを歩いて階段を下りていく一同、行き交う人々が口々に「あれってIS学園の生徒だ」とか「あっ、あれが織斑一夏君!?」等とちょっとした騒ぎになっている。

 そんな喧騒の中、一夏が――。


「おお。 ここで集合写真撮ったら凄い良さそうだな」


 一夏のそんな何気無く漏らした一言に、織斑先生が賛同した。


「たまにはまともな事を言うな織斑。 記念に一枚撮っておくとしよう」

「たまにはって……俺はいつでもまともな事を言ってるぜ、千冬姉」

「……馬鹿者、織斑先生だと何度言えばわかる」

「良いじゃん千冬姉。 じゃあ一枚、集合して撮ろうぜ!」


 行き交う駅構内での撮影――手早く済ませるために一同整列、何故か俺が真ん中に。


「じゃあ、撮りますよ――って、俺写らねえじゃん。 どうしたもんかな……」


 いや別に織斑は写らなくていいと言う心の声が聞こえた気がした――と。


「んじゃ、代わりに俺が撮ってやるよ」


 そう言ってアナログカメラを取り上げたのは何と親父だった。

 流石に皆が驚きを隠せなかった、織斑先生も山田先生も驚いている。


「有坂さん、何故此処に? というか学園警備は――」

「ん? 悪いが母さんを一人にする方が不味いんでな。 まあいいだろ、ほれほれ、さっさと並べ並べ織斑君」


 そう言って一夏を並ばせる――だが一夏は当然と謂わんばかりに隣に来て肩に腕を回してきた。

 俺自身仲がいい相手なら構わないのだが、一夏のゲイ疑惑が未だに晴れてない俺には迷惑でしかなかった。

 だがあまり時間をかけていては迷惑が掛かると思い、我慢する。


「じゃあ撮るぞー! 1+1は? 答えは2だ」


 ニカッと親父がシャッターを切ると音が駅構内に響いた。

 ネガに焼き付けられた全体写真――この時の俺は何も知らなかった、二人も学園側から裏切り者が出ることに――。


「うっし、じゃあ織斑君、返すぜ」


 そう言って一夏に手渡した親父――何で来たのかを聞きたい俺だったがまたしても一夏に邪魔される。


「それじゃあ気合い入れていこうぜ、皆!」


 何の気合いだよと思っていると楯無さんが割って入った。


「一夏くん、気合い入れてるところ悪いんだけど今は京都を漫遊してて?」

「え?」

「これから私と有坂先生……後、着いてきた有坂陽人さんの三人で自衛隊の方々と挨拶に行こうと思ってるの。 織斑先生と山田先生のお二人は今回の作戦に協力してもらう方と接触。 だから貴方たちには暫くの間時間を潰してもらわないといけないのよ」

「え、えーと?」


 状況が飲み込めない一夏に、溜め息混じりで楯無さんは言った。


「とにかく、君は京都漫遊行きなさい。 そのカメラで写真、撮って来なさい」

「はい、わかりました……」

「うん、じゃあ簪ちゃん。 織斑一課としての同行、よろしくね♪」


 ウインクする楯無に、簪は複雑そうに頷くと一夏は。


「じゃあ簪、行こうぜ!」

「……わかっ、たけど……手、握らなくていい……」

「え? なんだって? ……ほらほら、行こうぜ!」


 相変わらずの難聴、一夏は簪を連れて京都の街中に消えていく。


「んじゃ、オレ達も行こうぜフォルテ」

「了解っス! じゃあ皆、また後でっス!」


 手を振るフォルテ、ダリルは一瞬俺に視線を送るが何事もなかった様にフォルテを連れて街中に消えていった。


「ヒルトくんも後で連絡するから、今は漫遊してきなさい」

「てかさっき車内で一緒に京都を~~とか言ってたのはどうしたんですか?」

「…………や、ヤキモチ妬いただけよ。 対抗しただけ!」


 ちょっと剥れて視線を逸らした楯無さんが妙に可愛い――そんな様子を見た母さんも口許に手を当てて笑っていた。


「とにかく! 今はゆっくり見てきなさい、会長命令よ!」

「……わかりました。 じゃあ行ってきます、楯無さん」

「ええ、行ってらっしゃい」


 ヒラヒラと手を振る楯無さんは親父と母さんを連れて人混みの中に消えていった。

 織斑先生も山田先生も既に居なく、残された俺達。


「ではヒルトさん、京都を案内してくださいまし」

「あーっ! だからヒルトはアタシとジェラート屋さんに行くんだから!」

「な、何を言うか! これまでの私の非礼を詫びるために私と一緒に行くのだ!」

「むう! 美春だってヒルトと一緒がいいの!」


 駅前で言い争う姿はやはり目立ち、何事かと足を止めて野次馬がちらほら――と。


「皆ちょっと落ち着いて? さっきのトランプでやったみたいにグループ作って行動しよ? 僕たち皆が単独行動したら色々弊害がありそうだし、ね?」


 シャルがそういうと納得したのか頷く言い争い組。


「じゃあちょうど九人居るから、3・3・3で良いんじゃないかな? 簪には悪いけど、織斑一課じゃどうしようもないし……」


 未来がそう言うと一夏に連れ去られた簪を哀れむ一同――と、鈴音が箒を見て口を開いた。


「そういや箒。 アンタは一夏の事、もういいの?」

「……正直に言うとわからないのだ。 ……四月からずっと共に居た、勿論いい雰囲気の時もあったし、き、き、キスされかけた事も……」

「「ええっ!!??」」


 エレンと美春を覗いた一同全員が驚く――朴念人、唐変木オブ唐変木、ゲイ、ホモと様々な印象だった一夏が箒にキス未遂をしていたのだから。


「……織斑さんは、男の人に興味があるのだと思っていましたのに」

「……まあアイツの普段のヒルトへの行動見てたら流石のアタシだって向こう側の人間だって思ったぐらいなのに」

「うん……。 ぼ、僕が男装していた時も一夏って毎回一緒に着替えだのトイレだのってしつこかったから……」

「アイツが男好きなのは構わないが私の嫁にはちょっかいを出してほしいとは思わないな」

「ハハッ……ちょっと驚いちゃったけど……一応織斑君も女の子に興味があったのかな?」

「えー? そもそも女の子に興味があったなら織斑君って既に誰かと関係持ってそうじゃないみぃちゃん?」


 各々が一夏の事を言う中、美春とエレンは――。


「男と男同士……? 付き合うのって、男女間だけじゃないんだ? ……でも織斑一夏にヒルトは渡さないけど」

「ふむ、やはり報道されてる内容とは違うな。 わかってはいたが」


 ――と言っている、とりあえず箒は軽く咳払いすると続けた。


「こほん! ……簡単に言えば私自身もよくわからなくなったというわけだ。 暫く距離を離して気持ちを見つめてみたいと思っている」


 そう言った箒に俺も――。


「うん、良いんじゃないか箒? 男は一夏だけじゃないし、というか世界の半分は男なんだから一夏じゃなきゃダメって事はないだろ?」


 そんなヒルトの言葉を聞いた一同の全員がヒルトじゃなきゃダメだと思ったのは皆の心の話。


「まあとりあえず、三人で組んでくれないか? 流石に京都駅で学園制服着てたら目立つし」


 事実、さっきの階段同様野次馬が集まり、許可なくケータイのカメラで俺達を撮っていた。

 大半の女子は「織斑一夏ってどこ?」だの「いないじゃん、織斑一夏」って言ってる中で男性はレベルの高い女子達を撮っている。

 ぶっちゃけ気に入らないから早く離れたいという気持ちが大きかった。


「じゃあ、僕は美冬と美春の三人で組もうかな」

「良いね、シャルと美春と私の三人か♪」

「わかった! でも美春はなにが良いのかわからないからシャル、美冬、よろしく!」


 ――と、シャル、美冬に美春の三人が組み。


「じゃあ……私は箒ちゃんと鈴の三人で組もっか」

「う、うむ、異論は特にないぞ」

「ふふん、一応幼なじみ関連で繋がってるわね」


 確かに幼なじみだ、違いは俺の幼なじみか一夏の幼なじみかということだ。

 ……とはいえあの一夏がファーストだのセカンドだの数字でカウントしなかったらましなんだが。


「ではわたくしはラウラさんとエレンさんですわね」

「そういう事になるな。 セシリア、エレン、よろしく頼む」

「私もだ、不馴れゆえに迷惑をかけるやもしれないがよろしくお願いします」


 セシリア、ラウラ、エレンと組まれる――のだが鈴音とラウラの二人は明らかに胸囲の格差社会に挟まれている。

 特にラウラとエレン――身長はエレンが高く、更に胸囲はラウラを遥かに上回っているのだから――思うところもあるだろう。


「それじゃあ僕達皆、観光スポットの相談してから出発するから、ヒルトは先に行ってて。 後でメールするから」

「ああ。 美冬も美春もシャルに迷惑かけるなよ?」

「むぅーっ、迷惑かけないよ、お兄ちゃんのバカバカ!」

「そうだそうだ! 美春だけが迷惑かけるんだから!」


 それはそれでアウトな気がするが――美冬があっかんべーとする中、俺は見送られ、人混みの中へと入っていく。


「……本当に後を着けるんスか?」

「あぁ、せっかくだしな」


 先に行った筈のダリル&フォルテ、後ろめたい気持ちがあるもフォルテはダリルに付き合い、ダリルの方はボストンバックを抱えて移動を始めた。

 ボストンバックの中身は――偽装されてるが分解された狙撃銃が入っていた。 
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