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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第635話】

 修学旅行当日、場所は学園正門。


「それじゃあ楯無さん、虚さん。 行ってきます」

「えぇ、リフレッシュしてきなさい♪」

「本音、ヒルトくんに迷惑かけちゃダメよ」

「ひひっ、大丈夫大丈夫だよ~」


 ヒルトと本音の二人は見送りの生徒会メンバーに言ってからバスへと歩き出す。

 正門近くに停められた四台のバス、一学年全員の為に用意された。


「えへへ、ひーくんの隣の席だよ~♪」

「それって新幹線の話だろ? バスは違うから」

「ぶー。 ……にひひ、でもひーくんに愛されてるからいいのだ~♪」

「はは……」


 腕に抱き着く本音、それをバス内から見る無数の視線。

 ヒルト等が乗り込む前に呟く言葉がバスを駆け巡る――「本番は京都」――と。

 その言葉でヒルトを狙う面々はどうやって出し抜こうかを思案する中、未来は困ったように笑っていた。

 バスに乗車する二人、本音は後ろの席へ――ヒルトが前の席に座る。


「有坂、気分はどうだ?」


 そう声を掛けてきたのは織斑千冬だった、新幹線の座席は止められなかったもののバスの席だけは何とかヒルトを隣に座らせる事ができた。

 これもひとえに争いが起きない為の措置――だが、千冬はどうにもヒルトを見ると以前見た生々しい夢の内容を思い出してしまう。


「気分は……悪くないですよ」

「そ、そうか」


 会話が止まる――バスは動き出し、一路東京駅へと向かう。

 バス内がガヤガヤ賑わう中、一夏は複雑な表情で千冬の隣のヒルトを見ていた。


(何で千冬姉の隣がヒルトなんだよ。 そこは普通山田先生だろ、んでヒルトは俺の隣で自慢のギャグを披露してやろうと思ってたのに)


 そんな一夏の思いは露知らず、ヒルトも流石に会話が無いのは困るので話し掛けた。


「織斑先生?」

「……!? な、なんだ?」


 珍しく狼狽する千冬に首を傾げたヒルト、それはさておき聞きたい事があった。


「成樹の件はどうなってます? 身柄とか……」

「その点は問題ない。 君の父親が護衛しているのでな、変な研究機関等は追い払ってるそうだが各企業からやって来る人間は一応通してるそうだ」

「企業……?」

「ああ、織斑は他企業の武器を使って宣伝が出来ないのは白式がパススロットを全て使ってるからだ。 お前に話が来ないのはやはり実力を懐疑的に思うものも居るからだろう。 そこに来て三人目だ、企業連は広告塔として狙っているのだ。 自社製品を売り込む為にな」

「…………」


 結局は成樹も広告塔としか見てないのか……そう思うヒルトは話題をかえる。

 臨海線を走るバス、渋滞に填まることなく進んでいく。


「……その、アーリィさんの事は……」

「……有坂、すまないな。 全ては私の責任だ、あいつが亡国機業へと降ったのも、あいつとの再戦を受けなかったのもな」

「……いえ、事情があるんでしょ?」

「そう、だな……。 ……あの馬鹿が誘拐されたのは知っているな?」

「一夏の事ですか? 随分前にその話をしてた記憶はありますね」


 腕組みし、足を組み換える千冬――真っ直ぐヒルトを見据えて告げた。

「あいつが誘拐されたと知ったときは私も取り乱したものだ。 あいつは私の唯一の家族だからな」


 そう告げる千冬――亡国機業のマドカとの関係も気になるがヒルトは黙って聞くことにした。


「詳しい内容は省くが、私が力を手にした事が原因であいつを危ない目に合わせた――そう思うと私は二度とISを乗ろうとは思わなくなった。 ……本来であれば学生であるお前たちに事態の収拾等させたくないのだがな、すまない」


 話の内容が変わったが気にせずヒルトは首を振る。


「構わないですよ、戦うのは嫌いですけど……出来るだけの力を持って動かないのはもっと嫌ですからね」

「……そうだな」


 ヒルトの言葉に表情に陰りが落ちた千冬――まずったかなとヒルトは思っていると不意に頭を撫でられた。


「気にする必要はない、ヒルト。 ……さて、東京駅まではもうすぐだな」

「そうですね」


 気付くと既に都心部を走っていた、東京タワーが見え隠れしている。

 そうこうとしている内にバスは東京駅へと到着、全生徒が下車し、東京駅に集まったIS学園生徒を見て周りが騒然となる。


「あ、あれってIS学園!?」

「うおっ!? マジだ!? てかレベルたけぇなぁ……」

「お、織斑一夏は!? 織斑一夏君はどこ!?」

「あっ、降りてきた! キャーッ!! 織斑くーん!!」


 黄色い声援が巻き起こり、一夏はそれに合わせて手を振る。


「わー……おりむーって本当に人気だね~、ひーくん?」


 下車早々ヒルトの腕に抱き着く本音、ヒルトも特に払うことなく一夏を見ながら。


「まあこれまでニュースで散々報道されてきてるしな」

「そうだね~。 SNSでも今めちゃくちゃ呟かれてるよ~」


 そう言って端末から投影ディスプレイが浮かび上がる、其処には東京駅にIS学園生徒現れるだの一夏なう等書かれていた。

 時折フラッシュも見える中、東京駅周辺で取材していたテレビ局員もカメラを連れてくる始末。


「織斑くーん、イブニングニュースです! 何か一言お願いします!」

「え? えーっと……日本の安全は俺が守るッ!!」

「「キャーッ!?!?」」


 律儀に応じる一夏、言葉を聞き失神する女性たち、千冬は頭を抱えると――。


「馬鹿者、時間が迫っているのだから無駄な事はするな」

「い、いててっ!? ち、千冬姉痛いって!」


 耳を引っ張り連行される一夏、それに合わせて皆が移動を開始、それを撮る中継カメラ。

 プライバシーは無いのかよと思っていると中継カメラが俺に気付き、ディレクターらしき人がアナウンサーに耳打ちしてマイクを向けてきた。


「有坂君、織斑一夏君と対比され落ちこぼれと世間では思われてますが心境はどうなのでしょうか?」

「は?」

「IS委員会が君を代表候補生に選出したとの報道がありましたが、時期尚早なのではという声も上がっています。 有坂君はどう思って――」

「申し訳ありません、学生への取材は学園へ通してからにしてください。 さあヒルトくん、出発時間が迫ってますから行きますよ」


 真耶が間に入り、取材を強制的に止めさせるのだが――。


「有坂君! せめて一言! 一言だけでもお願いします!」


 そんなアナウンサーの声に顔だけ向けて告げた言葉。


「一言」

「はい?」


 一瞬目が点になるテレビ局員達――。


「一言だけでもお願いしますって言ったから『一言』って言ったんですよ? じゃあ失礼します」

「にひひ、じゃあね~」


 そのまま真耶に連れられ、ヒルトと本音は皆と同様に東京駅へと消えていく。


「あれが有坂ヒルトか、やっぱ落ちこぼれだな。 一言だけでもって言って『一言』言うって、頭が馬鹿だな! よし! 今日の特集は対比となる織斑一夏と有坂ヒルトでいくぞー!」


 マスメディアとは知らぬ所で情報をねじ曲げ、それを真実として報道する。

 イブニングニュース――後に番組は打ち切りとなるのは言うまでもなかった。

 駅のホームで待つ女子一同、時間潰しに話をしたり、携帯をいじったりと思い思いに過ごす中本音のテンションは高かった。


「ね、ね、ひーくん♪ 駅弁、何買う~?」

「ん? あるもので構わないよ。 てかここで食べ過ぎたら旅館で食べられなくなるぞ?」

「にひひ、大丈夫~。 何でか知らないけど、全部ここに行っちゃうから~」


 そう言って豊満な乳房を組んだ腕で持ち上げる本音、胸が無い組の視線が突き刺さるも本音は何処吹く風と謂わんばかりに駅弁を選び始めた。


「わー! 富山のますのすしが売ってる~! 買わなきゃ~」


 ますのすし――わりと最近では駅弁フェアとかのイベントで様々なスーパー等でも見受けられる。

 ますのすしを購入した本音は大事そうにそれを抱き締める。

 と、足下に何かが触れたヒルトは視線を落とすと其処にはシャイニィ――又の名をにゃん次郎が其処にいた。


「あれ? 何で着いてきてるんだ?」

「わぁ……白猫さんだ~」

「おーい、一夏」


 ヒルトは一夏を呼ぶ、だが新幹線乗る前の乗客からサインに応じていたのか気付かなかった。


「……今さら帰すわけにもいかないしな。 ほら、俺のバッグの中で大人しくしてろよ?」

「にゃっ」


 バッグのファスナーを開き、にゃん次郎をバッグに入れると酸素が行き渡る様に少し口をあける。

 其処から頭だけを出すにゃん次郎――それはさておき、本音は片時もヒルトから離れず、その様子を見た一部からは――。


「むうぅ……本当だったらエミリアがあそこにいたのにぃ!」

「ヒルトの隣は私の……」

「…………はぁ……なかなかヒルトくんと隣になれない……」

「本音、いいなぁ……。 でもでも、私だって……! お寿司でヒルトくんの気を引けば!」


 等と言っている――だがそれよりも危機感を抱いてるのは専用機持ち達だった。

 特に胸が無い組の鈴音とラウラ。


(ヒルトのバカッ! 胸が小さくても気にしないって言ってたのに! あんなにでれでれしちゃって!!)

(ッ! 胸の差が決定的な差になってしまうのか……! だ、だが……私は抱かれたから、少なくとも私の胸はヒルトの好みだと思いたい、そう願いたい……!)


 そんな突き刺さる視線に居心地の悪いヒルトは早く新幹線来ないかなと思っているとアナウンスが流れ、暫くすると新幹線がやって来た。

 その頃にはサインを終えていた一夏が――。


「お、新幹線が来たな。 それじゃあ乗るか」


 そんな言葉が聞こえる、周りの乗客も並んで乗車準備を始める。


「やっぱ織斑一夏くんはイケメンよね~。 テレビインタビューでスッゴく爽やかだったし!」

「うんうん! でも有坂ヒルトくんもイケメンよ、ほら?」

「えー? 幾らイケメンでも落ちこぼれで将来性無いならパスよパス! それに比べて織斑一夏くんは将来の代表! はぁ……彼になら抱かれたいわ~」

「あんた彼氏居るじゃん」

「それはそれ、これはこれよ!」


 そんな会話が聞こえる中で乗車する一年生生徒たち。

 乗車すると予め決められた席に着席する生徒、ヒルトも窓側の席に座りその隣に本音が座る。


「よし、全員乗ったな?」

「せんせーい、織斑くんがまだサイン責めにあってます」


 誰が言ったかわからないが窓から見てるとまたサインに応じていた一夏、千冬はこめかみに怒りマークを出しながら下車、首根っこを掴んで無理やり乗車させた。


「この馬鹿者が、何故サイン何かに応じていた!」

「え……いやだってあいつらサイン欲しいって言ったから」

「だからといってむやみやたらに応じるな、馬鹿者……。 さっさと席に座れ。 これで全員乗ったな?」


 はーいと女子生徒の声が車内に響く、千冬も頷くと発車ベルが鳴り、新幹線が加速していく。

 真耶の隣に座った千冬もとりあえず肩の荷が降りた――新幹線は一路京都へと向かう。 
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